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115話 表の顔と裏の顔

「そもそも焼きそばパンって何よ?!」


 アベッカ達と食後のお茶を嗜んでいると、鬼気迫る表情のアリスが扉を勢いよく開けながら飛び込んできた。


「あっ。やっぱないんだ」


「ないもん注文すんな?!てか、さっきから首輪から不穏なアラーム音が鳴ってるんだけど?!これなんなのよ?!」


 確かに首輪からピコーンピコーンと危機感を煽る音が鳴っていた。


「あっ、それあれだ。命令を守らないと間もなく首を切断しますって警告音だね。説明書に書いてたわ」


「止めてぇぇぇぇ!?お願いだから止めてぇぇ!こんな無理難題ふっかけられた上に首切断なんて理不尽過ぎるぅぅぅ!?」


「はいはい。先程の命令解除………っと」


 そう言うと、首輪からのアラーム音が鳴りやんだ。が、代わりに首輪から無機質な電子音声?のようなものが流れてきた。


『解除命令を確認しました。命令を解除します。お疲れ様です。今回は首の切断13秒前でした。次回からは速やかな命令遂行または、解除をお願いします』


「あっ。結構ギリギリだったのね」


 首輪から親切なアナウンス音が流れるが、言ってることは随分と不穏だなぁ。


「死ぬとこだった!死ぬとこだったぁぁ………」


 アリスがヘナヘナとその場に力なく座り込んだ。


 そんなアリスへと、アベッカとハンナが冷たい視線を投げ掛けた。


『まったく。ひとがお茶してるところに飛び込んできた挙げ句、見苦しい姿を晒して。本当に悪魔なの?悪魔らしくもうちょっとシャキっとしなさいよ』


『まったくですね。お茶に埃が入ったじゃないですか。どうやらあなたには品性が随分と欠けているようですね』


「うっさいわ!?てか、あんたら何?!なんで人形とアンデッドが勇者とお茶してるの?!どういう関係?!」


 アベッカとハンナを見たアリスが目を見開く。


 ほう。アベッカはともかく、ハンナをアンデッドと見破るか。まあ、病的に青白いしな。気づく奴は気づくか。


『私ですか?私はハンナ。死者の王たるリッチにして、カオリの友人です。つまり、私もあなたの主人ということ。さあ、頭を下げて足をお舐めなさいな』


「どうゆう理屈?!誰が舐めるか?!」


『主人の友人は、それまた主人って奴よ。察しの悪い女ね。ついでに、私はアベッカ。カオリの友人にして、あなたの情報を売った情報提供者よ。ざまぁww』


「おまえかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」


 瞬間、アリスが凄まじい形相でアベッカへと飛び掛かろうとした。


「ステイステイ。首、飛ぶよ?」


 しかし、私が待てをかけると、ピタリと動きを止めた。


 頭に血は昇ってはいるが、首輪のことはしっかりと意識しているらしい。ギリギリと歯を食い縛りながら悔しげにアベッカを睨むアリス。そんなアリスをアベッカが指差した。


『アラアラ?さっそく犬としての自覚が芽生えたようね。ほら、お手しなさい。お手』


「グルルルルル!!」


 口端から血を流しながら、睨み殺さんとばかりの眼力でアベッカを見るアリス。流石はアベッカだ。煽りがすごい。見習いたい。


「まあまあアベッカ。そのくらいにしてやりな。これからはコイツも私のパシりになる訳だし、仲良くしてやって」


「パシりって何よ?!パシりって!?」


「奴隷って意味だよwww」


「チクショウがぁぁぁぁぁ!!」


『あらあら。カオリの煽りは凄いわね。見習いたいわ』


 ガンガンと床を叩きながら泣き叫ぶアリス。

 ククク………これからたっぷり使ってやるから覚悟しなぁ。私を※侮辱した罪は重いわよぅ?


 ※なお、この侮辱情報はアベッカによる捏造のため、アリスに思い当たる節はありません。


「さて……取り敢えず、これで約束通りアリスの首を貰った訳だし、本格的にあなたを信頼してもいいようねアベッカ」


 そうアベッカに言うと、彼女は意外そうに目を見開く。


『あら?まだ信頼してなかったの?』


「半々ってとこだったかな。でも、これであなたの覚悟は伝わったわ。私も全力を尽くす。これから二人で協力して魔王を引き摺り下ろしてやりましょう」


『ありがとうカオリ。私も全力を尽くすわ。そしてペトラを魔王にし、盛大な結婚式を行うわ。あっ、友人代表のスピーチとかお願いできる?』


「無論」


 ガッチリとアベッカと握手を交わし、互いの覚悟を確かめ合う。すると、横から邪魔者が乱入してきた。


「いや、ちょっと待って?!凄い聞き捨てならないことが聞こえたんだけど?!魔王を引き摺り下ろすって何?!ペトラを魔王にって、ペトラって確か勇者の情報を掴んだ暗部の奴よね?!この国に配属されたっていう……な、何がどうなってるのよ?!」


 アリスだ。彼女は大きく目を見開き、混乱したように叫ぶ。


「あっ。聞こえちゃった?まっ、いっか。首輪の力で口外しないようにするし。そうよ。実はペトラとその彼女であるアベッカこそがあんたの情報を提供した張本人よ」


「はっ………?」


 唖然とするアリスを他所に、今回のことの顛末を話してやるか。


 


 

 という訳で、コンコンと丁寧に説明したんだけど、その反応がおもしろかった。

  話している最中、アリスは顔を赤くしたり青くしたりしていたが……やがて最終的には真っ白になったまま動かなくなった。


 まじウケる。


「そんな………結婚の条件をクリアするだけのために、私がこんな………」


 ブツブツと呟きながら燃え尽きたように椅子に座り込むアリス。心なしか、なんか老けて白髪が増えた気がする。


 ざまぁ。


『光栄に思いなさい。私の野望の礎となれるのよ?咽び泣いて喜ぶがいいわ』


「流石にもうやめてあげたら?反論する余裕もないみたい」


 本当は心にも思ってないが、一応は止める素振りを入れた方が印象がよくなると思うからやっておこう。


 そんな、アベッカの煽りにアリスは一切反応しない。というか、最早聞こえてなさそうだ。意識が遠い世界に旅立ったようなので暫くは使い物にならなさそうだわ。


「さてさて。取り敢えずアリスは倒したけど、この後はどうするの?」


『まず、アリスが倒されたことを報告させるわ。よろしくねペトラ。上手く報告してよ?』


 アベッカが椅子にしてるペトラへとそう語りかける。が、当のペトラは頭を抱えていた。


「本当にやりやがった………。どうすんだよ、これ?もう本当に後戻りできねぇよ………。なんでこんなことに………」


 こちらもこちらで現実逃避中のようだ。


「それ………使いもんになるの?」


 ペトラを指差しながらアベッカに問うと、彼女は呆れたようにため息をついた。


『ハァ、仕方ないわね。あとで調整しておくわ。あとのことはまたこっちで手配しておくから、それまではゆっくり休んでて。じゃあ、私達は報告のために一旦別れるわね』


 アベッカはそう言うとペトラからヒョイと下りる。そして踞るペトラの首根っこを掴むと、ズルズルと引きずっていった。


 あの人形の細腕のどこにあんな力があるのだろうか?


『じゃあ、またね』


 バイバイと手を振って店を出ていくアベッカに、私も手を振り返す。彼女の姿が見えなくなったところでフウと一息ついた。


「私達にできることはないし、あとはアベッカに任せましょうか。あー……しかし、全部うまくいってよかったわー」


 んーっと、腕を伸ばしていると、近くにいたゴルデが何とも言えないような表情で私を見ているのが目に入った。


「どしたの?『こいつ頭大丈夫か?』って、顔してるけど?」


「説明ありがとう。まさにその通りよ」


 どうやら私は※サトリの能力を得たようだ。エッヘン!


 ※心の声を読む妖怪。


「なんでドヤ顔してるかしらないけど、真面目な話、カオリは今後はどうすんのよ?」


「どうすんのって………アベッカの指示待ち?」


「あんた、それでいいの?」


 ゴルデが呆れたように溜息をついた。


「いいってどういうこと?」


「そのままの意味よ。随分とアベッカのことを信頼してるみたいだけど、本当にそれでいいのかってこと。任せっぱなしじゃなく、自分でも少しは考えた方がいいわよ」


「私だって考えてるわよ。今は思いつかないだけで」


「考えてるようで考えてないわよね、それ?私が言ってるのは任せっぱなしにしたせいで、あんたがとんでもない窮地に追い込まれたらどうするのかってことよ」


 窮地?


「どゆこと?」


「だから!アベッカがあんたにとんでもない無理難題をふっかけたり、土壇場で裏切るなんて可能性もあるかもしれないわ。そんな最悪の事態を想定し、ただ黙って従うんじゃなく、自分でも何か対応策なり逃げ道なりを考えておけってことよ。ここまで言わないと分かんないの?」


 ゴルデが叫んだ後、疲れたように深く息を吐いた。


「まあ、あんたがどうしようと勝手だけど、少しは自分で考えることもしなさい。色々と経験してきた人生の先輩として言うけど、生きてる上で盲目的に従っているだけじゃいつか痛い目にあうわよ?それが必要な時もあるけども、最低限は自分でも道を切り開けるように色々と考えておいた方が得策よ?私はそうしてきたわ」


 諭すようにそう説明してくれるゴルデ。

 私は目から鱗が出る思いだった。


「その結果が年齢=彼氏いない歴=処女歴なんて。説得力皆無www」


「ちょっと表出ようか?」


 

 ◇◇◇◇


 

「………という訳でして、アリス様は勇者によって倒されました」


 とある裏路地において、ペトラが手のひらサイズの光る水晶玉に語りかけていた。


 その水晶玉は連絡用の通信水晶であり、ペトラはそれを使って上司に報告をおこなっていた。


 水晶から驚愕にみちた声が響く。


『えっ?ちょっと待って。状況が把握できないんだけど?もう一回言って?』


 水晶の向こう側にいる人物は普段は厳かな喋り方をするペトラの上司であった。が、あまりの情報の内容に驚き過ぎて素が出てしまっているようだ。


 ペトラはそんな上司の醜態を社会人的対応でスルーしつつ、再度報告した。


「はい。アリス様が単身でアンデル王国に乗り込んで勇者へと挑んだ結果、返り討ちにあいました」


 そう報告すると暫しの間があった。

 やがて、溜息と共に上司が呟く。


『すまん。理解はしたが理解したくない』


「心中察します」


 上司の気持ちをペトラは痛く感じとった。


『つまり……どこからか勇者の情報を得たアリス様が独断専行で襲撃をかけ、結果として敗北した訳だな?』


「はい。私がアリス様の来訪を感じ、駆けつけた時にはもう………」


 暗い声でペトラがそう言うと、水晶からは『そうか………』という呟きが返ってきた。


『アリス様の独断専行は昔からのことであったが、これまではそれでも多大な戦果を上げていた。それだけの実力があった。だが、今回は相手が悪かったようだな………』


「はい」


 ペトラは万感の想いを込めて頷いた。

 そのあと、ペトラは恐る恐ると上司へと尋ねた。


「ところで、今回の件で私への罰などは………?」


『罰?なんの罰だ?』


「いえ………アリス様が目の前でむざむざ倒されるのを私は黙って見ていました。その件に関し、何らかの罰はないのかと………」


 暫し沈黙した後、水晶からは上司からのやや疲れ気味の声で答えが返ってきた。


『アリス様でさえ敵わぬ相手だ。お前が手助けしたところでどうにもならなかっただろう。今回のことは仕方なかった。むしろ、こうして速やかな報告をくれたことを誉めるべきであろう。ご苦労であった』


 上司からの労いの声にペトラは強い罪悪感を感じた。が、背中に感じる気配からその罪悪感を振り払った。


「ありがとうございます。今後の方針としてはどうしましょうか?」


『ウム………。取り敢えず、この件は私から早急に上に報告しておく。それから指示を下す。それまでは、引き続き勇者の監視にあたってくれ』


「畏まりました」


『あまり無理はするな。健闘を祈る』


 その言葉を最後に通信は切れ、水晶から光が失われた。ペトラはホッと息をつく………間もなく、先ほどの上司への報告の時よりも緊張した面持ちで背後を振り向いた。


「こ、これでいいかな?アベッカ愛してる」


『上出来よ。マイダーリン』


 ペトラの背後にいたアベッカが満足そうに肉切り包丁を振りながら頷いた。


『フフフ。これで計画への第一歩を踏み出したわけね。これからが楽しみだわ……。ねぇあなたもそうでしょう?』


「ハイ、タノシミデス。アベッカ愛シテル」


 そう問いかけられれば、ペトラは肯定するしかなかった。しなければDEAD OR HAKUSEIだから。


 そんな機械的に頷ずくペトラを満足気に見つつ、アベッカはフッと呟く。


『さて。この後は誰をカオリにぶつけようかしら?カオリなら誰でも倒せそうだし、いっそ計画を早めるために何人か纏めてくるように仕向けようかしら?』


「はっ?」


 アベッカの唐突な案にペトラがギョッとすると、彼女はおかしそうに笑った。 


『どうしたの、カオリが心配?彼女なら強いから大丈夫よ。アリスさえ倒したんだから、それ以下の奴が何人纏めて来たって返り討ちにできるわ。それに………』


 アベッカは夜空を見上げながら無機質な声で告げた。


『たとえカオリが殺られたところで、そこまでの女だったってことよ。何より、カオリが死んだところで私達に損失はないから問題ないわ』


 そう言ってクスクスと笑うアベッカ。

 ペトラは魔王や勇者などより、よっぽど彼女の方が心底恐ろしいと感じた。

 

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