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114話 新しい舎弟ゲットだぜ!

本日二話目です。

 

 ミロクがアリスを引きずって真っ昼間の繁華街に向かったのを確認した後、再び黄金の渡り鳥亭に戻ると皆が集まってきていた。


『やったわね、カオリ。イェ~イ』


「やったわよ、アベッカ。イェ~イ」


 入店早々にアベッカが駆け寄ってきたので、互いに手を上げてハイタッチをする。


『首尾よくいったようね。流石はカオリだわ。アリスが赤子のように手も足も出ないでやんの』


「アベッカの情報におかげよ。初見だったら対処できなかったかもね。情報感謝よ」


 アベッカと互いを健闘しあいながら堅い握手を交わしていると、フッとあるものが目に入った。


「なんかペトラ………大分やつれたわね?」


 崩れ落ちるように椅子に座っているペトラが目に入った。空いた酒瓶を片手にしたペトラは心なしか顔がやつれており、全身もなんか真っ白になっていた。


『ああ。さっき計画について話したらああなったの』


「まだ話してなかったんだ」


 どうやアベッカによるペトラ魔王化計画の詳細について直前で色々と聞かされたことにより、ショックで燃え尽きたようだ。


 まあ、いきなりそんな計画を話されちゃ心の整理がつかんわな。しかも、知らないうちに自分が計画の要だったら尚更だわな。


『それに昨晩は不持者開放戦線のメンバーと朝方まで飲んでたから、そのせいもあるんじゃないの』


 昨夜はアベッカとの契約通り、ペトラを人質にとらせてもらった。まあ、人質と言っても不持者開放戦線のメンバーでペトラを囲って監視させながら酒盛りさせてたんだけど。


 ペトラもペトラで久方ぶりにアベッカから解放されて、大分羽を伸ばせたらしいし。


 といっても、やっぱ魔王計画でメンタルクラッシュされたんだろうが。


「聞いてねぇ………こんなの聞いてねぇ………」


 ペトラがうつむきながら、か細い声で呟く。


「……俺が魔王になるってなんだよ?そのために現魔王達が邪魔だから排除するってなんだよ?頭おかしいんじゃないか?」


 ブツブツと呟くペトラ。語尾の『アベッカ愛してる』を付け忘れる辺り大分参ってやがるな。


 そんな虚ろな表情のペトラへとアベッカが近付いていった。


『もう、シャキッとしなさいよ。これから魔王になるんでしょう?現実を受け止めてもっと覇気のある顔をしなさい』


 アベッカがそう言うと、ペトラは表情が一転して今にも泣き出しそうな顔となった。


「げ、現実ってなんだよ?!意味がわからねぇよ!俺が魔王になるなんで現実として受け止められる訳ねぇよ!夢なら覚めてくれ!悪い夢ヘブアッ?!」


 半ベソかきながら叫ぶペトラの横っ面を、アベッカが殴った。ベシッとかパチンとかの平手ではなく、全力のグーパンチでである。


『いつまでも甘えたこと言ってるんじゃないわよ!既に計画は動きだしたのよ!私達の与えた情報によってアリスは倒された!もう、あとには戻れないのよ!』


「私達って…俺は関係ないだろ!?俺は、ただ平穏に生きたいだけだ!そこそこ上の役職で、そこそこ幸せな人生をハブッ?!」


『甘えんなっ!何がそこそこよ!男ならでっかい夢を持ちなさい!もう、大きな夢へと私達は走り出した!私とあなたは一蓮托生!私が死ぬときはあなたが死ぬ時よ!もう、私達に戻る道は無い!選べる道があるとすれば、魔王になるか私と心中するかの二択!さあ、選びなさい!3・2・1………』


「実質一択じゃねぇぇぇかぁぁ!!ちくしょうが!魔王になってやらぁぁぁぁぁ!!なればいいんだろぉぉ!?」


 ヤケクソ気味に叫び、そのまま頭を抱え込んで踞るペトラ。こうして彼は強制ながらも、現魔王を下し、己が天下に立つための覇道を進むこととなった………。


「悪い女に捕まったばかりに………」


 そんなアベッカをゴルデ達が哀れみの視線で見ていた。


 違うよゴルデ。悪くはないの。ただ病んでるだけ。


 そんな哀れみの空気漂う中で、ゴブリンキングのイシヅカだけが何故か人一倍涙を流していた。

 涙やら鼻水やら涎を垂らし、ドン引くほどの泣き具合だ。


 そして、やがて感極まったかのように、項垂れるペトラへと駆け寄った。


「ワカル!わかりマスゾ、ペトラ殿!」


「えっ………?」


「儂も……悪い女に捕まったバかりニ人生が狂っテしまっタ!昨日は同族殺しマデやらされテ、もうあと戻りデキナクナッテしまっタ!今のあなたの気持ち、非常に分かりマスゾ!」


「う………うぅ……分かってくれてありがとぉぉぉぉぉぉ!!お前も悪い奴に捕まって大変なんだなぁぁぁぁ!」


 そう泣き叫びながら互いに抱き合うペトラとイシヅカ。同じような境遇故か二人の中に熱い友情が生まれたようだ。


 うん、それはいいんだけど………。


「慰めあってるところ悪いけど、ちょっと裏に逝こうかイシヅカ?誰が悪い女だって?」


『ペトラも来なさい。フフフ……どこの臓器を抜くかくらいは選ばせてあげる』


「「すんませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!」」


 

 ◇◇◇◇◇◇◇


 

 その日の夜………私達が夕食をとっていると、やたらツヤツヤした顔色のミロクが帰ってきた。


「随分楽しんできたようね?」


「それはもう。存分に全身全霊で……というご命令でしたから。それはもう、たっぷりどっぷりと」


 その時のことを思い出したのか、ホウと艶かしい息を吐きながら頬を赤らめるミロク。

 そんなミロクの横を見れば、彼女の腕に絡み付く奇抜な格好の少女がいた。


「お、おねぇさまぁ。わ、私、また疼いてきちゃいましたぁ……。ど、どこかで可愛がってくださいませんかぁ?」


 腰をくねらせながら、やたらめったらと艶かしい声で囁く少女こそ、あのアリスである。すっかり牙を抜かれたらしく、好戦的な様子は成りを潜め、すっかり立派な受けタイプの百合キャラと成り果てていた。


 これを見れば、ミロクがどれだけ張り切ったのか嫌でも分かってしまうなぁ。


「フフフ。お待ちなさい私の子猫ちゃん。今は勇者様と話してますから、それが終わったらゆっくり……とね?」


「は、はぁぁ~~~い!!」


 びっくりするくらい満面の笑みで返事をするアリス。そんな付き合い長くないけど、性格変わり過ぎじゃね?


「随分な躾をしたみたね………」


「お聞きになります?」


「精神衛生状に悪そうなんで私はパス」


『私はあとで聞かせてもらうわ。今後の参考になりそうだわ』


 なんの参考にするつもりかは知らないが、取り敢えずペトラは頑張れとエールを送っておこう。


「そうですか。残念ですが仕方ありません。ところでカオリ様。カオリ様も随分と趣味の良い椅子に座っておられますね?」


 ミロクがそう言いながらチラリと目線を下へと向けた。


 その視線の先………私とアベッカの尻の下には、四つん這いとなって椅子化してるイシヅカとペトラの姿があった。


「ああ、これ。何があったか聞く?」


「だいたい状況と本人達の表情から察したので大丈夫です」


 そう言って恭しく頭を下げるミロク。

 イシヅカ達もこれぐらいの察する力が欲しいもんだ。


「ちょっとイシヅカ。少し下がってきたわよ。もっと腕に力を入れなさいな。じゃないと……洗面器よ?」


「ひっヒィィ!か、かしこマリマシタぁぁ!!だから洗面器だけはオ許しヲヲ!!」


『ペトラも下がってきたわよ?またお仕置きが必要かしら?』


「ちゃ、ちゃんとしますから!だから、もう洗面器だけは……洗面器はやめてくださぃぃぃぃ!」


 イシヅカとペトラがガタガタと震えながら許しを乞う。


 こちらもこちらで躾の甲斐があったようだ。


「いったい洗面器で何したのよ………?」


 ゴルデが何とも言えない表情で疑問を口にするが、教える気はない。企業秘密ってやつで。


「まあ、それはいいでしょう。ところでミロク。それで、アリスは拷問……というか、調教の結果はどうなの?まあ、聞くまでもないと思うけど」


 流石に殺すのは忍びないから、せめて拷問まがいなことして心を折ってやろうとミロクに任せたが………。まあ、結果は見たまんまだろう。


「はい。たっぷりねっぷり快楽浸けにして私無しでは生きれない身体にしてやったので、私達を裏切る心配はないかと。ですよね?」


「はぃぃ。私にはお姉様がいればそれだけでいいですぅ。もう、魔王とか人間とかどうでもいいですぅ。だから、早く……早く私を抱いてくださいませぇ」


 股間を抑えながらモジモジするアリス。

 指示しておいてなんだけど、ドン引く程に性格変わってない?


「何すりゃこんなになるんだろう………?」


「そこは大きな愛と、多少のスパイス程度に施した媚薬が成せる技かと」


「多少に施したものが最大の原因では?」


「私が毎食後に服用しているものですので然程の効果はないはずです」


「媚薬は服用するもんじゃないはずだけど?」


 なんで栄養ドリンクでも飲むみたいに媚薬飲んでんだよ?頭おかしいの?


「ついでにこれがそれです」


 そう言って渡された瓶には………。



【超強力媚薬材『ゲンキハツジョー!ドロデロンC』※あまりにも強力です。原液のまま使用しないでください。必ず、十倍以上に薄め、用法容量を守ってご使用ください。】


 と、書かれていた。


 私は無言で瓶をミロクに返した。


「まあ、ほどほどにね」


「はい。分かりました」


 多分、この件は深くツッコンでは駄目なんだろう。

カオリ、シッテル。


「それと、これはプレゼント。そこの犬にでもつけあげな」


 そう言って私はあるものをミロクへと投げた。


「これは?」


「その犬に似合いそうでしょう?」


 私が渡したもの………それは首輪である。


「確かに似合いそうですね」


「早速着けてあげたら?」


 そう勧めると、ミロクは『そうですね』と言ってアリスの首へと首輪をはめた。


「はぁはぁ……お、お姉様からのプレゼントですか?嬉しいですぅ!」


 首輪をはめられたアリスは、嫌がるどころか嬉ション寸前の犬みたいに喜んでいた。


 こいつ、全く抵抗なく受け入れてたけど、頭大丈夫かしら?


 そんな脳内お花畑なアリスを見ていると、下にいるイシヅカが驚愕に満ちた声で呟いた。


「か、カオリ様……そ、ソレハ……まさか?」


「あっ。気付いた?」


「な、なんテことダ………」


 全てを悟ったように愕然とするイシヅカ。そんなイシヅカの様子に、浮かれていたアリスも流石に不穏なものを感じとったらしい。頭が冷めてきたのか、その瞳に理性と恐怖の感情が宿る。


「えっ………えっと、なに?なんも考えずにこの首輪はめたけど……何か問題あるの?」


「問題?いやいやないよ。むしろ、問題を解決するためのもんだよ」


「も、問題の解決って………?」


「簡単よ。あんたが私に逆らったり、問題を起こしたら、首輪の内側から刃が飛び出て首をスパッと切断するだけ。便利でしょう?」


「私、とんでもないもん着けられてたぁぁ?!」


 涙目で叫びながら自分の首輪に手をかけるアリスだが、それはやめた方が健全だぜい?


「無理に外そうとしても首と胴体が泣き別れになるだけだせ?ウヒヒヒ」


「なんて邪悪な笑み!?この悪魔が!!あぁぁ!なんか頭がボッーとしてたせいで、とんでもないことしちゃたよぉぉぉ?!」


 多分、媚薬のせいで頭がおかしくなってたんだろう。あんまりにも衝撃的事実に薬の効果が切れ、平静に戻ったアリスは、頭を抱えて踞ってしまった。


「心中察シますゾ、アリス様………」 


「うっさい!?というか、なんでゴブリンキングがここにいて人間の椅子になってんのよ?!もう、訳が分かんないだけど?!」


「そう怒鳴るなよアリスちゃん。イシヅカはこれからあんたの先輩になるんだから仲良くしなよ?ウヒヒヒ」


「ど、どういうことよ?!」


 恐怖で表情がひきつるアリス。

 そんなアリスに私は満面の笑みで答えてやった。


「察しが悪いねぇ?二人共………あたしの舎弟ってことだよ!!たっぷりこき使ってやるから覚悟しな!!まずは焼きそばパンでも買ってきな!!」


「ちっくしょうがぁぁぁぁぁ?!なんでこんなことにぃぃぃぃぃ?!」


「心中サッしますゾ。私も捕まっテしまったバカリにコンナ………」


 涙を流して叫びながらも、アリスは命だけは惜しいのか私が投げつけた小銭を手に焼きそばパンを求めて走り出した。


 クックックッ。これで新たな舎弟ゲットだぜ。

 これで更に私が楽になるし、魔王の幹部を倒したって箔がつくはずだから一石二鳥よ。


 というか、魔王軍を倒すって、初めて勇者らしい行動をした気がする。なんか気分いいわね。


 私はコップを手にし、心地よい充足感に包まれた気分で果実水を啜った。


 んー………勝利の※美酒。


 ※お酒ではありません。お酒は二十歳になってから。


 そこでフッと思った。


 しかし、ノリと勢いで言ったけど、この世界に焼きそばパンってあるのかな?

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