113話 捕虜を尋問するまでが一連の流れ
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「ほら起きな!」
バシャーン!!
「うわ?!ップ!?」
顔に水をかけられたことで急激に意識が覚醒する。何事かと辺りを見回せば、私に水をかけたと思わしき女がバケツを片手に眼前に立っていた。
「きさま………」
怒りのままに女をどうやって殺してやろうと思ったが、身体が動かない。今になって気付いたが、どうやら椅子に縛られて拘束されているようだ。
周りの様子から場所はどこかの食堂のようだが、ここは一体?というか、私はなぜこんなことに?
状況が分からず軽く混乱していると、女が私の耳元に顔を近付けてきた。そして………。
「色々あって混乱してるみたいね。なら、思いださせてあげようか?ショック療法って知ってる?強い衝撃を与えると記憶が戻る方法。もっかい脛に衝撃を与えてあげようか?」
「すね………?」
瞬間、脛に凄まじい痛みが走ったような気がした。
そうだ………私は確か………勇者を名乗る鎧野郎に謎の攻撃を脛に受けて………。
「あ………ああ?!」
思いだした?!私はあの凄まじい痛みに耐えかねて意識を失ったんだ!!だから捕まってこんなことに?!
というか、さっきの発言からしてまさか………。
私は背中に嫌な汗をかきつつ目の前の女を見上げた。女は私と目が合うと、ニンマリと笑いかけてきた。
「おはよ~さっきぶりねアリスちゃん。私よ私。私、ゆーしゃ香よ?」
「う、ウワアアアア?!」
こいつか?!こいつが勇者か!?兜被ってたから分からなかったが、こいつが勇者カオリってやつか?!ということは、さっきのエゲツない攻撃をしてきた張本人か?!
「まあまあ、そんな叫ばないで。ゆっくり話しましょうよ。お茶も準備してるし」
そう言ってカオリが指を鳴らす(正確に鳴ってない。ピッって指が擦れる程度の音)と、奥けら執事服を着たスケルトンがカップやティーポットを乗せた台を押しながら現れた。
そして、スケルトンは素早くも優雅な手つきでお茶の準備を終えると一礼して下がり、カオリの後ろへと控えた。そのさまは、一流の執事のようだ。
「う~ん。いい香り。正直、紅茶なんて自販機の午○ティーぐらいしか知らないけど、多分いいお茶」
「いや、なんで人間がアンデッ ドを使役してんのよ?!」
自然な流れだったけどあまりに不自然だよ?!この人間、まさかネクロマンサーか何かなの?!勇者なのに?!
そんな叫びを上げる私を横目に、カオリはホウとため息をついた。
「別に使役はしてないわよ。ただ、雇ってるのよ。牛乳と煮干しで」
「ゴメン。なに言ってるかわからないわ」
本当に心底コイツが何言ってるのか分からない。
「フン!まあ、いいわ。取り敢えず、せっかくスケルトン96号がお茶を入れてくれたのよ。冷めないうちに飲みなさいな」
「飲みなさいって………。こっちは腕を縛られてるのにどうやって………」
「あら、そうだったわね。じゃあ、スケルトンA・B。手伝ってあげなさいな」
『『アラホネサッサ~』』
カオスがそう指示を出すと、私の左右から2体のスケルトンが飛び出してきた。そして額に『A』と書かれたスケルトンが私の顔を押さえ、『B』と書かれたスケルトンが口元にカップを運んできた。
そして………。
「ちょっ?!何をやめ…ってアヂィィィ!?」
スケルトン達は嫌がる私の口へと、アツアツの紅茶を無理矢理に流し込んできた。
「やめアヅッ!?アツッ?!ちょ、ヤベデッ?!」
必死にもがくも、スケルトン達はかまわず紅茶を流し込み続けてきた。
そんな私達の様子をカオリは心底面白そうに眺めていた。
「ンッホッホッ!どうしたの、そんなに溢して!何か気に食わなかったぁん?」
「グボボッボ?!」
こいつ、悪魔か?!これまで生きててこんなに人の不幸を満面の笑みで眺めてくる奴を初めて見たよ!?
というか、さっきから身体がおかしい?!この私がスケルトンごときに抗えないなんて!そもそも拘束を解けない?上級悪魔たる私が縄をほどけないなんてありえない?!
恐らく何らかの仕掛けがあるわ。先程から妙な気だるさもあるし、この縄か、空間そのものに何か悪魔封じ的な魔術が作用しているようだわ………。
くっ………とことん悪魔対策をしてるなんて、本当に私が来ることは筒抜けだったみたい………。
私がギロリとカオリを睨めば、彼女は愉悦に満ちた笑みを見せた。
「フフフ。お茶は気に入ってくれたようね。それでどう?スケルトン96号の淹れたお茶と、あなたの自慢のセバスチャンが淹れたお茶。どっちが美味しいのかしら?」
「?!」
こいつ?!セバスチャンのことまで?!……まさか?!
「きさま!?セバスチャンをどうした!?」
セバスチャンは現状、唯一残された手札だった。
あの場で別れたのは不幸中の幸いだと思った。
もしかしたら私の危機に気付き、救援に来てくれるのではないかと期待していた。私ほどではないが奴も上級悪魔の一体。そこらの人間如きに遅れはとらないと思っていたわ。
………が、こいつの話振りからすればセバスチャンの存在はバレている。なら、既に捕まっているか、最悪殺されている可能性が高いわ!
くっ!セバスチャンはどうなったのよ………?
私が必死に聞くと、カオリは含みのある笑い声を上げた。
「フヒヒ………安心しなさいな。セバスチャンは無事よ無事。あなたと別れたところを直ぐに私の配下が捕まえて、今は別なところでもてなしているわ」
「もてなすですって?」
やはり捕まっていたようね………。
しかし、もてなす……か。どうせ普通のもてなしと違うだろう。恐らく、凄まじい拷問をされ……。
「そうよ。アンデル王国人気No.1男娼にして、イケメン・ショタ・初老なんでもイケる通称『ブラックホール』こと、フレディ=ビッグコック(34歳)と、その仲間のムキムキマッチョでゲイなオッサン集団が巣食う『超!兄貴の園』って店でしっかりVIPコースでもてなしてるわぁぁぁぁ!今頃いろいろ開発されてだろうねぇぇぇぇ!!」
「きさまぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
私のセバスチャンが想像の斜め上を行く仕打ちにあってやがったぁぁぁぁ!!
「ヒャヒャヒャ!あいつを渡した時、フレディ=ビッグコック(34歳)は凄く喜んでたわよ!躾甲斐がありそうな子だって!たっぷりねっぷり調教するって言ってたから、明日の今頃にはセバスチャンがセバスちゃんになってるかもね?ブヒャヒャヒャヒャ!」
「キサマキサマキサマァァァァ!!」
「あいつ。部屋に引き摺り込まれる前に、必死に叫んでたわよ?お嬢様!お嬢様!ってさ?まず、自分の尻の心配しろってーの。ブヒャヒャヒャヒャ!」
「ギザマァァァァ!?」
手を叩いて心底楽しげに笑うカオリの姿に怒りを覚えつつ、私は内心で凄まじい戦慄を感じた。
その他者の不幸を心底楽しむ姿は、まさに悪魔である。しかも、その底意地の悪さは私を遥かに越えている。悪魔だ………こいつは人の姿をした大悪魔に違いないわ!
戦慄の眼差しでカオリを見ていると、カオリが椅子からゆっくりと立ち上がった。
「さて……では私達もはじめましょうか。拷問をね……」
「拷………問だと?」
一瞬頭が真っ白になったが、直ぐ納得した。
敵を捕縛したのならば、拷問して情報を吐かせるのは自然な流れだ。私だってやる。
ならば、この状況でやらないのは逆におかしいだろ。カオリは私から何か情報を引き出したいようだ。魔将のNo.2である私ならば、貴重な内部情報を知っている。尋問しないということはなかろう。
だが………。
「ふ………ふふ。するなら好きにすればいいわよ」
「あら、随分強気ね?」
ニヤリと笑みを見せる私に、カオリが目を丸くする。
「さっきは不意を突かれたけど、くると分かっているならば覚悟はできる。これでもそれなりの修羅場を潜っているから、多少の痛みくらいじゃ怯まないわよ?何を知りたいか知らないけど、簡単に吐かせられると思わないことね!」
ハッキリとそう断言してやると、カオリはここにきてはじめて顔をしかめた。簡単にはいかないと分かり気分を悪くしたか?ざまぁだ!
それならば、多少は私の溜飲も下が………。
「いや、情報とかはいいや。こっちの情報提供者が引くぐらい情報量が凄くてね。魔王軍の内部事情はそっちから貰えるから」
「………へっ?」
何を言ってる意味が分からず唖然とする私を他所に、カオリが更に言葉を続ける。
「今回あんたが来るっていうのもそいつから聞いたしね。信じられないなら一つ聞いた情報を教えようか?例えば………あんたが風呂に入るときにまず一番目に洗うのは尻の………」
「ちょい待って?!えっ、いや、なんで知ってるの!?なんでなんで?!」
「情報提供者から聞いたから」
「いや、情報提供ってレベルじゃないわよね??!私、必ず一人でしかお風呂に入らないからそれを知ってる奴がいるわけな……」
「他にも、この太ももの根元の内側に、猫の顔した痣があるとか………」
「情報の内容が最早ストーカーレベルよ?!ちょっと待って?!なんで知ってるというか、何故知ってるの?!どうやって知った?!その協力者怖いんだけど?!」
戦慄するというか気持ち悪さで鳥肌が立つレベルの情報に恐怖しかない。情報提供者が誰かは知らないが、優秀というよりからかなりの異常者だと思う。
というか………。
「そんな異常過ぎる情報を得られるなら、私を尋問する必要ないよね?!それなのに何で拷問するのよ?!」
吹かしでないなら情報提供者の情報網はよっぽどだ。私なんて相手にすらならない。
なら、私からの情報なんて必要ないはずだ。だのに何故に拷問なんてする必要があるのか?
そんな疑問をぶつけると、カオリはキョトンとしたような顔となった。
「えっ?いや、特に理由はない」
「………はっ?」
言ってる意味が分からず頭が真っ白になった。
「いや、取り敢えずここに拘束して連れてきたけど、特にすることがないのよね。かと言って自由にする訳にもいかないし……。と、言うわけで、色々考えてみた結果、捕虜=拷問かなって?」
「………はっ?」
「まえ、ここらで心をへし折っておくのも手だよって、アベッ……情報提供者からも助言を頂いているし、そうしてみようかなってさ。まあ、思いつきだね思いつき」
「………はっ?」
「まあ、安心して。痛い系は私的にもNGだから、別な方向で攻めてみるからさ?」
そう言ってカオリは、頭が回らず未だ状況が飲み込めない私を他所に手をパチパチと鳴らした。
すると、奥の扉が開き、そこから純白の衣装を纏った女性が現れた。
「お呼びでしょうか?」
「じゃ、あとは任すわ。煮るなり焼くなり好きにしてね、ミロク」
カオリが許可を出すと、ミロクと呼ばれた女性は私を情欲で満ちた目で見ながら舌舐めずりをした。