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111話 悪魔達の取引


 少し時間は戻り、前日の黄金の渡り鳥亭にて。

 

◇◇◇◇◇◇

 

『私に提案があるの。話だけでも聞かない?』

 

 そう言って提案してきた内容を聞いた瞬間、『何言ってんだコイツ?』と私は失礼ながら思った。

 

 アベッカが提案してきた内容。

 それは………。

 

『私はペトラを魔王にしたいから、今の魔王や幹部が邪魔なの。だから、こっちで討伐しやすい舞台を整えるから、カオリの方でちょちょいと処分してくれない?』

 

 だった。

 

 誰が聞いても同じ感想を抱く内容であろう。

 

「何言ってだコイツ?」

 

『心の声が漏れてるわよ』

 

 思わず口から言葉が出てしまった。

 

「ごめんごめん。でも、誰だってそう思うでしょ?コイツ頭沸いてんのかって」


『さっきより口が悪くなってるわよ。でも、確かにそうよね』

 

 言っておいて自分でも自覚があるのか、アベッカは困ったように首を傾げた。

 

「いや、まあ、自覚があるならいいんだけど、なんで急にそんな話になった訳?愛ゆえに?」

 

『愛もあるけど、ママからの要望なのよ』

 

「ママからの要望?なんの?」

 

『結婚条件。相手は最低でも魔王って』

 

 ハードルたっけーな。

 

「いや、条件キツ過ぎない?魔王ってさ………」

 

『ママが過保護だから。それくらいの権威と力によるセキュリティがあるお家に嫁ぎなさいって』

 

「魔王がセ○ム扱い………」

 

 過保護というか、そのママさんが大分ぶっ飛んでいるような気がする。流石はアベッカの母なだけあるわ。

 

「流石にママの言葉は無視できないからね。どうにかこの条件をクリアしなきゃ、私達には心中しか未来はないの」

 

「そうかーバッドエンドしかないのか。………ところでパパさんは何か言ってなかったの?そもそも結婚に反対するとか?」

 

『うちではパパの発言力は限りなく0ね』

 

 多分、どこのご家庭でも同じだろう。我が家でも父の発言権は皆無であった。

 

「そうなんだー………。で、ペトラと結婚したいから彼を魔王にしたいって訳なのね。それには現魔王を排除したいと………」

 

『話が早くて助かるわ。魔王もそうだけど、魔王に従う幹部も邪魔だからこの際一掃しようかと。そして綺麗になったところで彼を魔王にし、幹部には私の息がかかった人員を配置する訳よ』

 

 つまり、実質アベッカが影の支配者となる訳ね。

 ペトラは飾りの王と……。哀れ。

 しかし、結婚するために魔王を排除しようとするとは、恐ろしい発想だ。ヤンデレの深淵を見た気がする。

 

「なんと言うか………闇が深い………」

 

『犠牲はいつの時代もつきものよ。それでどうかしら?私に協力してくれない?一緒に魔王を排除しましょう?』

 

 そう言って伺うような目を向けてくるアベッカだが、この話はちょっと………。

 

「いやぁ……。悪いけど、断るわ………」

 

『あら、どうして?あなたは楽して魔王達を倒せる。私は手を汚さずに魔王を排除できる。しかも、ペトラを魔王にしたら人間には手を出させないように躾ておくわよ?』

 

 心底不思議そうに首を傾げるアベッカ。

 魔王の楽々排除と、人間に手を出さないというのには引かれるが………当然の話だろ。

 

「いや、だってあまりにも話がうますぎるでしょう?出来すぎてる。そんなの、普通に考えりゃあ罠と思うわ。そもそもそんなことを突然言われてもねぇ……」

 

 いくら頭の悪い私だって、多少なりとも罠とかを疑うわ。現に、このアベッカは私の情報を流している訳だし、簡単に信じるなんてできないでしょう。

 

 もしかしたら、私を嵌める罠かもしれないし。

 

『もしかして、あなたの情報を流したことを根にもってる?それはごめんなさい。でも、必要なことだったのよ。あなたを売るのは本心じゃなかったわ 』

 

「必要って、何に必要なのよ?」

 

『信頼を得るためよ。そのためにも、あなたの出現情報は好都合だったのよ。勇者出現って情報は莫大な価値があるの。だって、そうでしょ?魔王の最大の宿敵の情報が欲しくない訳がないわ。この情報をいち早く伝えたことで、ペトラは魔族内に名を売れた上に、魔王からの絶対の信用を得たわ。今頃、上層部はペトラを有能にして忠実な部下だと評価しているでしょうね』

 

 クスクスと笑うアベッカ。

 その笑みには、どこか嘲りの感情が伺えた。

 それは、きっとここにはいない幹部とやらへの嘲りだろうな。

 

 ※ついでに、ペトラが持ち帰った本命のボッ○ノコについての情報は、一部の老齢または障害を持った者以外には重要視されず、特に評価されなかったと。

 

『だからこそ、今回の監視任務にも彼が選ばれたわ。コイツならやってくれるだろう、なんて信頼とともに送り込んだ。実際は、私があなたと接触しやすいように、そうなるように軽く誘導してあげたんだけど、思った以上に予定通りに動いてくれたわ』

 

 アベッカが恐ろしい。いや、マジで怖い。

 ヤンデレだヤンデレだと思っていたが、想像以上だ。己の愛を貫くため、マジでクーデターを起こす気や。クーデターならねヤンデターや。

 

 でも……それが本当ならね。

 

「いや、まあ、話は分かりたくないけど分かったわ。でも、やっぱ、その話を信じれる根拠がないのよね。あんたが適当なでまかせ言って、私の事を騙し討ちしようっていうんじゃないの?」

 

 いままでの話は全部嘘で、全ては魔王側による私を陥れる作戦という可能性は充分にある。むしろ、そちらを疑うわ。

 

 そう面と向かって言うと、彼女は特に気にした素振りもなく話を続けた。

 

『まあ、疑うのは当然ね。だからこその手土産を準備したのよ。あなたからの信頼を得るためのね』

 

「手土産?」

 

 そういえばさっきも言ってたな。手土産がこれから届くとかなんとか?

 

 もしや、信頼を得るための賄賂?つまりお金かな?いや、しかし、立場上貰ってもいいものなのか?というか、それも罠じゃ?いや、でも、それなりの額なら………。

 

 そんな事を考えていると、アベッカはとんでもない爆弾を投げ込んできた。

 

『手土産は端的に言えば、魔王軍幹部の首ね。これから十三魔将のNo.2のアリスってやつが、私がわざと流した勇者の情報に食いついて、ノコノコ姿を現すと思うから、油断してるところをやっちゃって』

 

「はっ………?」

 

 言ってる意味が分からず硬直する私を他所に、アベッカは話を続ける。

 

『本当は、No.1がよかったんだろうけど、彼を動かすだけの口実ができなかったのよね。その点、アリスはあっちこっちフラフラしてる自分勝手な奴だから誘導しやすかったわ。どう?No.2の首を渡すなら、結構な手土産になると思うけど?』

 

 コテンと首を傾げるアベッカ。

 いや、可愛くねぇよ。

 そこで私は我に返った。

 

「い、いや、ちょい待ち?!いきなり過ぎて話がついてかないんだけど?!No.2?アリス?いや、なんなんそれ?!」

 

『だから、魔王軍の十三魔将の一角にしてその第二位のやつよ。悪魔系の魔族で、魂を操る術に秀でているわ』

 

「いや、そいつの情報を聞きたいんじゃなくて……」

 

『あっ。もしかして、そいつを誘導したことで私達の身が危うくなると案じてる?なら、大丈夫よ。もともと独断専行する気のある奴だから、どっからか情報を聞きつけて勝手に来たみたいですーって、言っとくから』

 

「いや、そうじゃねーし?!」

 

 しっかり保険はかけてるんだなという思いは飲み込み、バンッと勢いよく机を叩いた。

 

「いや、いきなりもいきなりすぎでしょ?!何の前ブリもなく、その十三魔将だかが来るだなんて?!」

 

『まあ、正確には今は十二魔将ね。反逆とエロ本借りパクの罪で一人は失脚したし』

 

「何があった?!じゃなく、明日とか早すぎでしょ?!しかもNo.2って………いきなりラスボスに近い奴を寄越すって正気か?!」

 

『早ければ早いほど。獲物の価値が高ければ高いほど良いと思った気遣いの結果よ』

 

「そんな気遣い燃えるゴミに捨ててしまえ!?」

 

 ドヤ顔で親指を立てるアベッカに呆れていると、これまで黙っていたゴルデが前に出てきた。

 

「カオリの言う通りね」

 

『私の気遣いが燃えるゴミってこと?』

 

「そこじゃない。あなたが正気じゃないってことよ。さっきから大人しく聞いてれば、自分勝手にも程がある。それに話の信憑性もない。第一、本当に来るかどうかも分からないし、そもそもNo.2のアリスって奴が来るとして、そいつを討伐できる保証はない。というか、そいつとあんたが組んでカオリを騙し討ちしようっていうんじゃないでしょうね?」

 

 鋭い目付きでアベッカを睨みながら、ゴルデが私の言いたいことを言ってくれた。

 普通に考えりゃあ、そうでしょう。誰がこんな話を信じるかってんだ。

 私がウンウンと頷いていると、アベッカが剣呑な様子でゴルデを睨み返した。

 

『流石は糞ビッチ(仮)兼(笑)。変に深読みするのが得意なようね。残念だろうけど、私にそんな陰謀なんてないわよ』

 

「(仮)兼(笑)ってなによ?!」

 

「待って糞ビッチ(仮)兼(笑)。アベッカにも言い分があるなら聞いてあげましょう」

 

「あんた糞ビッチ(仮)兼(笑)って言いたいだけでしょう?!」

 

『まあまあ糞ビッチ(仮)兼(笑)。冷静に冷静にww』

 

「ハンナ……!?こいつ………」

 

「フム。まあ落ち着け糞ビッチ(仮)兼(笑)よ」

 

「そうじゃぞ。糞ビッチ(仮)兼(笑)」

 

「男共はまとめてオルタナティウスの錆にしてやる………」

 

「お、俺は関係ないだろ?!」

 

「わ、ワシもダろ?!」

 

「連帯責任」

 

「「「「?!」」」」

 

 オルタナティウスの封を解くゴルデに戦慄する男性陣をよそに、改めてアベッカへと視線を向けた。

 

「で、冗談はさて置いて、ゴルデの言う通りね。アベッカ……私はあんたを友人として信用したいけど、立場と状況から信用はできないわ。だから、この話にも乗れないわね」

 

 そうピシャリと断言すると、アベッカは肩を竦めた。

 

『我ながら信用がないわね、まあ、仕方ないわ。じゃあ、こうしましょう』

 

 アベッカはそう言うと、今も不持者開放戦線のメンバーに絡まれているペトラを指差した。

 

『アリスが倒されるまでペトラを人質に差し出すわ。これならどう?』

 

 その瞬間、私の中に戦慄が走った。

 

「なっ?!あ、あんた……三度の飯より大切なペトラを人質に出すっていうの?」

 

 コクリと頷いくアベッカ。その目は真剣そのものだった。

 

 私はそれを見て、これまでの判断を覆さねばならなかった。

 

「くっ………こやつ本気だ。本気で私達と手を組もうとしてる。じゃなきゃ、愛しい愛しいペトラを人質なんかに出すはずがないわ………」

 

 アベッカにとってペトラは大事な宝物。それこそ、肌身離さず身に付けておきたい程のアクセサリーに等しい。そのペトラを手離し、なおかつ私達に預けようとは………。

 

 アベッカの本気具合が伺える。これは一考の余地があるやもしれん。

 

「いや、騙されないでよ。こいつ、案外とペトラを見捨ててるわよ。さっきも磔にされても助けようとしなかったし」

 

 そんな意見がゴルデから出た。

 私とアベッカはやれやれと肩を竦めるしかなかった。

 

「な、なによその分かってないみたいな態度は?」

 

「その通り。分かってないわね。それとこれとは別よ。あれはアベッカにとっての愛情表現の一つ」

 

『そう。カオリは本気でペトラを殺さないことを私は分かっていた。なら、カオリの気が済むまでペトラをいたぶらせ、私はペトラが怯えた顔を観察する。凄く興奮したわ………』

 

「愛が深いね」

 

「深いのは愛じゃなく闇よ。あんたら色々と拗らせすぎて恋愛観念歪んでんじゃないの?」

 

 ゴルデがなんか言ってるが、恋人もいたことのない糞ビッチ(仮)兼(笑)の言葉など、何も響いちゃこないね。

 

 私はアベッカへと手を差し出した。

 

「ふん………分かったわアベッカ。あなたの本気、確かに受け取った。その話、乗らせてもらうわ」

 

『分かってくれたようで嬉しいわ。じゃあ、ペトラはアリスを倒すまであなたに預けるわね。一泊二日でいいかしら?』

 

「ちょい短い。二泊3日にして」

 

『オッケー。でも、少しでも遅れたら延滞金とるからね』

 

「厳しいわね。でも、それでいいわ」

 

 こうして契約は成された。アベッカと私が手を取り合い、互いに握手を交わした。

 

「いや、おかしくない?!なんで話に乗ってるのよ?!今のどこに乗る要素があったのよ?!」

 

 握手を交わす私達の間に、ゴルデがズイッと体を滑り込ませてきた。

 

「アベッカが大切なものをかけてくるのよ?この本気を受け止めない奴は、乙女じゃないわ」

 

「乙女って何よ?!だいたいペトラを人質にしたとして、本当に人質として機能するかも分からないじゃない?!簡単に切り捨てる可能性もあるわ!」

 

「そうなの?」

 

『ペトラが死んだら、世界中の生きとし生ける者達を殺して、私も死ぬわ』

 

「だって」

 

「だってじゃないわよ?!なんで簡単に信じてるのよ?!てか、発言が危ない?!」

 

「私はペトラに対するアベッカの愛を信じるわ。あのドン引きするくらいに病的かつ執着心のある、最早怨念といった方がいいようなおぞましき愛を……。というか、ペトラが死んだら世界がヤバイ」

 

『カオリ………』

 

「いや、なんか良い事言ったみたいな雰囲気だけど最高にとぼしめてるからね?!アベッカもなんでウルウルと………あーもう!勝手にして?!」

 

 匙を投げ、ドカリと不貞腐れたように椅子に座るゴルデ。

 

 まだ納得できないようだが、こればかりは私とアベッカの友情を信じてもらいたい。

 多分、彼女は嘘は言っていないはず。私の勘が告げている。


 私が握手の手を離すと、アベッカはゴソゴソと懐から茶封筒を出し、それを差し出してきた。

 

「これは?」

 

『可能な限り集めたアリスについての情報よ。性格から容姿。戦闘スタイルから好きな食べ物に至るまで、調べたことを全て記載してるわ。よければ参考にして』

 

 封筒を手にして中を改める。

 中にはぎっしりと文字の書かれた紙が十枚ほど入っていた。

 

 ほうほう……これは………。

 

「読めね」

 

 こっちの文字は未だ読めないんだよね。

 

『あら、文字読めないの?』

 

「うん。言葉はともかく文字はちょっと……。まあ、ハンナかザッドハークに読んでもらうわ」

 

『それがいいわね。はっきり言ってカオリとアリスじゃ間違いなくカオリの方が強いわ。カオリの殲滅力・狂暴性・能力。どれをとってもカオリの方が上よ。でも、相手はカオリより遥かに経験の多い悪魔。どんな不確定要素があるか分からないから、しっかりと読んでおいて』

 

 なんだろう。盛大にとぼしめられているような気がするのは私だけだろうか?

 ま、まあ、心配されてるみたいだし、別にいいか。

 

 なんとなく紙を数枚めくっていると、やたらと付箋のついたページが目に入った。

 

「?………これ、なんかやたらと付箋ついてるけど、重要なことでも書いてるの?」

 

 そう聞くとアベッカは『ああ、それ』と紙へと目をやった。


『これは特にカオリに知らすべきことを纏めたやつね』

 

「特に?どういう内容?」

 

『まあ………要約すると………』

 

 アベッカは一呼吸置いてから言った。

 

『あいつ、超リア充なの』

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[良い点] カオリとアベッカの友情は素晴らしいなぁ(洗脳済み) [一言] リア充死すべし慈悲はない
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