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109話 迫り来る脅威


─香達が騒いでいる同時刻・某所にて─

 

「♪~♪~♪♪~」

 

 可愛らしい歌声が辺りに響く。

 歌声の主は一人の少女だった。

 少女は機嫌良さげにスキップをしながら鼻歌を奏でていた。

 

 そんな少女の容姿は一風変わっていた。

 年齢は恐らく15か16頃。髪をツインテールにしているが、その髪の色が左右で違い、右がピンク、左は緑に染められていた。目は赤と青のオッドアイで、服装も赤・青・緑・ピンクと、様々な色合いが入り乱れる胸元が開いたゴシックドレスを着ており、全体的に色の大渋滞が起きているような印象を与える少女だった。

 

 そんな少女はこれまた虹色のハデなパラソルを片手に持ち、肩からかけた謎のマスコットが大量についたポシェットを揺らしながら、ルンルンとスキップをする。

 

 その様子は、これからデートの待ち合わせに向かう乙女のようであった。

 

 が、彼女の今歩いている場所を考えればあまりにもミスマッチであった。

 

 今、彼女がいる場所………そこはアンデル王国から程近い場所にある、森の中であった。

 しかも時間は深夜。既に夜の戸張は落ち、辺りは暗闇に支配されていた。唯一の光源である月明かりですらも森の木々に遮られ、辺り一帯は一寸先も見えないほどの暗闇に覆われていた。

 

 こんな夜更けに、しかも猛獣や魔物が跋扈する森の中を進む少女の姿は、あまりに異質であった。

 

 しかし、当の少女はこの闇の中を迷うことなく進んでいく。その足取りは確かであった。

 木々を避け、木の根を越え、先々の障害物を全て避け、その歩みを緩めることなく進んでいく。それは、あまりにも異常だ。その様子から、少女が暗闇の中でも全てが見通せているのは明らかであった。

 

 そんな少女が暢気に鼻歌を囁きながらスキップしていると、その歌声につられたのか一匹の魔物が少女の前に姿を現した。

 

 それは巨大な熊の魔物であった。

 魔物の名はロックベア。

 体長は約四メートル程で、その名の通り全身に岩のように頑強な装甲を身に纏った熊だ。

 

「グルル………」

 

 ロックベアが唸り声を上げ、少女を睨み付ける。

 口からは涎がダラダラと垂れており、少女を小腹の足しに食らう気満々である。

 

 そんなロックベアに睨み付けられる少女だが、彼女は自身の倍以上もあるロックベアを前にして恐れ、逃げ惑う………なんてことはなく、玩具を見つけた子供のように無邪気な笑み見せた。

 

「なになに?くまさん、アリスと遊びたいの?いいよ、アリスも暇で暇で誰かと遊びたかったんだ!」

 

 そう言ってアリスと名乗る少女はポシェットをゴソゴソと漁る。そうして取り出したのは、デフォルメされた熊のパペット人形であった。

 アリスはそれを手にはめると、ロックベアへと向けてパクパクと口を動かした。

 

「ガオ~くまさんだぞう!食べちゃうぞ!……なんてね!アハハ!お揃いだね!」

 

 心底面白そうにカラカラと笑うアリス。

 そんなアリスにロックベアは唸り声を上げた。

 知性の低いロックベアだが、自分が馬鹿にされたということは察したらしい。

 怒りの咆哮を上げながら、アリス目掛けて爪を振り下ろした。

 アリスはそれを「お~」などと暢気に見ていたが、爪が当たる直前にパペットを構えた。

 

 そして………。

 

「おっきくな~れ」

 

 グチャリ。

 

 辺りに肉を潰したような湿った音が響いた。

 

 それは、アリスがロックベアによって潰されたからではない。その逆………。

 

 アリスの手にはめた熊の人形が突如巨大化し、その大口に生えた牙でロックベアの上半身を噛み千切った音だった。

 

 グッチャグッチャゴクン。

 

 巨大な熊人形は口内のロックベアの上半身を咀嚼して飲み込むと、残された下半身も同じように食らう。そして全てを食らい終えると、元の人形へと戻っていった。

 

「はい、おしま~い!くまさん、ありがとね」

 

 アリスは熊人形を大事そうにポシェットにしまうと、何事もなかったかのように再びスキップをしながら歩みはじめた。

 

 そんな彼女へと、どこからともなく声がかけられれた。

 

『アリス様。お手数かけるようでしたら、私が先行し障害を取り除きますが?』

 

 アリスはそんな謎の声に特に気にすることもなく、スキップしながらこたえた。

 

「だめだよ~。それじゃあ、つまんない。アリスはね、いろんな子達とあそびたいの。だからね、そんなことしなくていいの。メッ!だよ?」

 

『畏まりました』

 

 声は恭しくアリスに従った。

 が、直ぐにアリスへと疑問を投げ掛けた。

 

『しかし、アリス様。本当によろしかったのですか?皆様になんの相談もなく、このような……』

 

「大丈夫だよ。みんな怖がって出てこないだけ。なら、アリスが行ってもいいはず。いいんだよ」

 

『しかし………普段からの独断専行に加え、今回は勝手に通信を傍受し、このような行動を……。流石に皆様方から顰蹙を買うのでは?』

 

 心配そうにする声に対し、アリスは心底おかしそうに笑った。

 

「アハハ!それこそ大丈夫だよ。アリスはね、みんな代わってあげてるだけ。みんなが怖がってるのをたおしちゃえば、皆がアリスを誉めてくれるよ。アリスはね、皆のために動いてるんだよ。だから、おこられる理由なんてないよ」

 

『ですが───』

 

 尚も心配そうに語りかけようとした声だが、次の瞬間には次の言葉を紡げなかった。

 なぜならば、立ち止まり真顔となったアリスから尋常ならざる殺気を放たれたからだ。

 

 空気が質量を得たように重くなり、ビリビリとした肌を焼くような感覚が辺りを襲う。

 木々からは眠っていた鳥や獣達が落ち、殺気に当てられそのまま永遠の眠りへとついてしまった。

 

 声の主も、殺気に当てられ声も出せずに震えていると、アリスが平坦な声で語った。

 

「あんまりうるさいと、処分しちゃうよ……セバスチャン。耳障りなことをぎゃーぎゃーさわがないで」

 

『ッ─────』

 

「それとも、アリスが負けるとでも思っているの?ねぇ?」

 

『ィ……ィェ………』

 

 声の主…セバスチャンが小さな………されど、確かな力を込めて否定する。

 

 すると、辺りから殺気が薄れていく。

 アリスは再び笑顔になると、再び歩みはじめた。

 

「分かったなら黙ってついておいで。さきをいそぐよ」

 

『………ハッ』

 

 セバスチャンが後をついてくるのを背中に満足気に感じながら、アリスは一人呟く。

 

「それに、こんなたのしい遊び相手を、誰かに譲るなんて考えられないよ。だから、アリスが一人で遊ぶんだ」

 

 アリスは木の枝の間から覗く月を見上げながら、恋する乙女のような表情で、まだ見ぬ遊び相手へと語りかけた。

 

「待っててね。ゆーしゃさま」

 

 

 

 

 

 その少女の姿をした者の名は、アリス=ワンダルド。悪逆童子と異名され、彼の魔王軍十三魔将の第二位に位置する災厄の悪魔である。

 

 

 

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