105話 力の確認
結局、ゴルデはすっかりびびってしまい、戦うことを放棄してしまった。
そりゃあ、いきなりレーザーぶっぱなしたら、誰だってビビるわね。
そんなゴルデだが、今は半泣きになりながら、オルタナティウスを持ってきた布でがんじがらめにして封印している。必死だ。
「メインのゴルデが脱落しちゃったね。これからどうする?帰る?」
「いや、せっかくマモノコイコイの効果が残っておるのだ。効果が切れるまで、魔物討伐で訓練兼小銭稼ぎをするのも悪くあるまい。ほら、早速来たぞ」
ザッドハークに言われて見れば、何かがこちらに向けて走ってきていた。
それは、私よりデカイ猪だった。いや、デカイだけじゃない。牙だけじゃなく、頭に牛みたいな角まで生えてる!
「あれは?」
「ボアバイソンだ。猪と牛の特徴をあわせ持った魔物だ。猪突猛進を絵に描いたような魔物で、カオリと気が合いそうだ」
「説明ありがとう。ぶっ殺すわよ」
強かにザッドハークに脛殺しを放っていると、ズイッと巨大な影が横から現れた。
それは村長だった。村長は獰猛な眼差しでボアバイソンを見据えていた。
「ここは儂に任せてくださいじゃ。儂の成長を見せてあげますじゃ」
自信満々にポージングを決めながらそう言う村長だが、正直そこまで見たい訳じゃない。イケメンや華やかな少女ならともかく、爺の……それもムキムキマッチョな野郎の戦いを見て、どうしろというのか?誰特ってやつだ。
が、せっかくやる気を出しているのに、それに水を差すのも不憫だな。
「あ、うん。頑張って」
「ぜったい興味ありませんじゃろ?!」
村長が悲痛な叫びを上げている隙にボアバイソンが距離を詰めていた。
その鋭い牙と角で突き殺してやらんとばかりに猛然と攻めてくる。
身構えていた村長は、そのボアバイソンの突進を真っ向から受け止めた。鋭いボアバイソンの角を掴んで踏ん張っている。
「ブオオオ!?」
まさか止められるとは思ってなかったのか、ボアバイソンが困惑混じりの鳴き声を上げた。
「フハァ!こんな豚程度の突進など、結果がコミットした儂の敵ではありませぬ!」
鼻息荒く叫ぶ村長。
村長は角を掴む手に更なる力を入れ、徐々にボアバイソンを押さえ込んでいった。
うーん………見た目変わっただけであって、かなり強くなってるみたいだね。まあ、あんだけゴリマッチョになりゃ当然か。
せっかく頑張っているようだし、応援でもしとこうかな。
「がんばれー。がんばれー………………そういや、村長って名前なんだっけ?」
「今さら?!」
村長がボアバイソンを押さえつけながら愕然とした表情で叫んだ。
いつもいつも『村長』って、呼んでたから名前しらねーや。それに良く考えれば、もう村長じゃないしね。
「カオリよ。村長の名はムラオーサだ」
「ムラオーサ(笑)?村長になるために生まれてきたような名前だね。まあ、もう村長じゃないし、自業自得だけど」
「戦っている最中に心を抉ってくるのはやめてくだされぇぇぇ?!」
「ブギぃ?!」
村長ことムラオーサが涙を流しながらボアバイソンを地面へと叩き伏せた。
ボアバイソンは打ち所が悪かったのか、短い悲鳴を上げた後はピクリとも動かなくなった。
「ハァハァ………ど、どうですじゃ、生まれ変わった儂の力は!これなら──」
「あっ。また、何か来たよ?」
「ホウ。あれはゴブリンだな」
「興味ないにも程があるじゃてぇぇ!?」
次にやって来たのは二匹のゴブリンだった。
ゴブリンは右手に箸を、左手に小皿を持って、涎を垂らしながら走ってきていた。
いや、これ完全に焼き肉喰いにきてるでしょう。やっぱマモノコイコイって、スタミナ○だよね?
「フム……ゴブリンが二匹か。次は誰が行く?」
「あっ、じゃあ、イシヅカで」
「ワシ?!」
突然の指名にイシヅカが目を見開いた。
なんだ、自分は関係ないと思っていたのか?
「当然でしょう?何かあった時のために、あんたの力を知っておきたいし」
「い、イヤ………それは当然ダガ、せ、セメテ相手を変えてクレヌカ?さ、流石二同種族を倒すノハ気ガ引けルというカ………」
ボソボソと甘えたことを口にするイシヅカ。
私はそんなイシヅカに近付くと、その無駄に出たぽっこりお腹の贅肉を掴んだ。
「イダッ?!な、ナニを………」
「何を甘えたことガタガタぬかしとんじゃあ?!だからこそやろ!!かつての仲間だった同じ種族を倒せてこそ、初めてウチらに仲間入りするんやろうが!それとも何か?表面だけ仲間入りして、隙あらばウチらの背後から奇襲をかけようってのか、テメェ!!」
「ヒィィ?!」
「完全にギャングカーズテロ組織の新人に対する通過儀礼みたいになってるわよ、あんた………」
無駄にポヨンポヨンしてさわり心地のよい贅肉を堪能していると、復帰したゴルデが呆れたように言ってきた。
その手には、蛹のように毛布やらをグルグル巻きにされたオルタナティウスがあった。厳重に封印し過ぎじゃね?
「復帰したんだ、ゴルデ。じゃあ、ゴルデがやる?」
「冗談」
真顔で答えられた。よっぽどオルタナティウスを振りたくないようだ。
「じゃあ、イシヅカにやらせるよ。なぁに、一回やっちまえば慣れる慣れる。人間だって人間同士で争うなんて日常茶飯事さ。ゴブリン同士で争ったって何の問題もないさ。なぁ?」
「だから、完全に犯罪に誘うときの口説き文句じゃない?コイツ、本当に裏世界のボスとかになりそうよ………」
「人間怖イ………」
ゴルデもイシヅカも怯えたような目で私を見ていた。解せぬ。
「取り敢えず行ってきな。じゃなきゃ、首輪爆発させるよ」
「?!?!イッテきます!!」
最後の説得により、イシヅカは快くゴブリン達へと向かって行った。
私はそんなイシヅカの背中を見送りながら、収納空間からあるものを取り出した。
そして、目的のものを取ると、イシヅカへと向けて放り投げた。
「イシヅカ!」
「?」
イシヅカは振り替えると、私が投げたものをキャッチした。
「コレは………?」
「素手じゃきついだろうからね。餞別さ」
イシヅカは感動したような表情となり、そのまま手にした武器へと目を向けた。
【呪怨剣:カース・オブ・カース】
「何が餞別だァァァ?!アノ、タダただ呪われた剣ジャねぇぇカァァァ?!」
イシヅカが敬語も忘れ、慌てて掴んでいるカース・オブ・カースを地面へ投げようとした………が、剣はまるで手に接着したかのように離れなかった。
「は、離れナイ?!ナンデ………」
『コンゴトモヨロシク………』
「ナンカ聞こエタぁぁ?!」
「?」
何言ってんだ、アイツ?
しかし、イシヅカは剣をブンブン振り回してはしゃいでいる。
どうやら喜んでいるようだ。メル婆からこっそりもらった甲斐があったね。
「あんた………あれ………」
背後でゴルデがジト目で私を見ていた。
「ハッ?!ピュ……ピュフーフー!」
「下手な口笛で誤魔化そうとすな?!あのババア、早速約束破ったわね!オルタナティウスの件といい、絶対にぶちのめしてやる!!」
ゴルデが顔を真っ赤にしながら地団駄踏んでいた。
多分無駄だよ。暫く臨時休業して、温泉旅行に行くって言ってたから。
私は気を取り直すと、イシヅカに向かって叫んだ。
「さあ、その剣でやっちまいな!呪われている以外は、斬れ味のいい剣らしいから!」
「その呪わレテルのが問題ナンダよ!?」
『オレサマオマエマルカジリ………』
「またなんか聞コエタァァ?!」
「訳わかんねぇことほざいてないで、とっとといけや!!首と胴を泣き別れさせたろか!?」
「ち、チクショウ!ヤッテやるよぅぅゥウ!!」
イシヅカが涙を流しながら、カース・オブ・カースを手にゴブリン達へと駆けていく。
そんな鬼気迫る表情で迫ってくるイシヅカに、涎を垂らして暢気にしてたゴブリン達が目を剥く。
「タリヤァァアア!!」
イシヅカが気合いの声と共に剣を一閃すると、ゴブリン達の首が飛んだ。
首は地面へと落ち、ゴロゴロと転がり、やがて止まった。
「ハァハァ………ヤッタぞ。ヤッテやったぞ!これでイインだろ!?」
イシヅカが荒い息を吐きながら私へと振り返った。
「お………………おう」
「引いてんジャねぇぇぇぇヨ?!」
頬をひくつかせて返事をする私に、イシヅカが天を見上げながら叫んだ。
「ナンデ引いてンノ?!殺れッテ命令したノハあんたダロウが?!」
「いや、したけど………やるにもやりようってあるでしょう?その………同族の首飛ばすのは、流石に引くわー………」
「どうスリャよかったンダヨ!チクショウがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『コンゴトモヨロシク………』
「うるセェェェよぉォォ!!」
「?」
あいつ、誰に向かって喋ってるんだ?
イシヅカが誰かに向かって叫んでいるのを不思議そうに見ていると、ザッドハークが更なる魔物の襲来を知らせてきた。
「カオリ。更に来たぞ」
「マジ?じゃあ、次は私にやらせて」
「汝がか?面倒臭がりな汝にしては珍しいな」
「うっさい。ちょっと試したいことがあるのよ」
そう言って前に出ると、私は自身の右手に意識を集中させる。すると、右手の先から紫色のオーラが立ち昇る。そのオーラはみるみる伸びていき、やがて剣の形となった。
それを見たザッドハークやゴルデ達が目を丸くする。
「ちょ………な、何よ、それ?」
「フフン!驚いた?こいつは嫉妬念武装。嫉妬の念を武器の形にすることができる、私の新技よ!」
フフンっと、どや顔で辺りを見回す。
昨日の夜、部屋で自分のステータスを色々確認してたら、魔王化の影響によるせいか、いくつかの新スキルが増えてたのよね。
これもその内の一つで、嫉妬の念を様々な武器の形にすることができるらしい。
部屋で早速試してみて※クッションを一つ駄目にしてしまったが、なかなかに使い勝手の良さそうなスキルであった。
※後日、宿の方にクッションは弁償しました。
そんな訳で、その威力を試してみたかったのよね。
私は見せつけるように手から伸びる紫色の刀身を掲げた。
そんな光景を、ゴルデはなんとも言えぬ表情で見ていた。
「あんたは………………いや、もういいわ」
「何故、途中で諦めた?」
「察してよ………。それより、そんな技を覚えちゃったら、剣助の出番がなくなるんじゃないの?」
「あー………」
そういえばそうだね。
ぶっちゃけ、剣助要らなくなったな。
腰から下げると重いし、ガチャガチャしていて持ちにくいし………売るかな?
というか、あいつ未だに見つからないんだよね。どこいった?
そんなことを考えていると、タッタッタッと軽快な足音が聞こえてきた。どうやら、さっきザッドハークが見つけた魔物が接近してきたようだ。
私は気持ちを切り替え、臨戦態勢をとった。
「しゃあ!早速このスキルの威力、試させてもらうわ!ザッドハークとハンナは、なんかあった時のサポート頼むわ!」
「フム、よかろう」
『了解しました』
サポートをザッドハーク達にお願いし、私は迫りくる魔物へと備えた。
「さあ、来いや!私の剣で三枚に下ろしてやる!」
やる気満々で剣を構える私の視界に、徐々に距離を詰めてくる魔物の姿が入ってきた。
さあ、やるぞ!………そう思ったのだが、その魔物を見た瞬間、これまでの戦意が一転し、困惑と戸惑いで頭が一瞬真っ白になった。
なぜならば、その魔物は、あまりにも珍妙な姿形をしていたのだ。
大きさは子牛程で、四本の狼のような鋭い爪が生えた足が生えている。
そこまではいい。だが、、肝心の胴体部分なのだが………………鮭だった。
何を言っているか分からないだろうが、鮭なのだ。
油の乗った立派な鮭に、狼の足が生えた珍妙な生物が、高速でこちらに向かってきていた。
「えっ………ちょ?!な、何よ、あの珍妙な生物は?!」
我に返って叫ぶと、ザッドハークが珍妙な生物を見ながら低く唸った。
「ムッ?あれはサーモンウルフか。鮭と狼の特徴をあわせ持った魔物だ」
「なんでその2つを合わせた?!」
どう進化すればそうなんだ?!
絶対、神様の設計ミスだろう?!もしくは余ったパーツを繋げて造った悪ふざけな生物だろう!?
そんな私の困惑を嘲笑うように、サーモンウルフは甲高い鳴き声を上げながら距離を更に詰めてきた。
「シャケェェェェェェ!!」
「なんて分かりやすい鳴き声だよ!」
くそっ!私の時だけなんでこんな変な生物がくるんだ!気合いが削がれるわ!
………でも、見た目からしてそんな強そうじゃないし、試し斬りにはもってこいかもね。
私は深呼吸して気合いを入れ直すと、手から伸びる剣を構え、サーモンウルフ目掛けて一気に駆けた。
「ムッ?!カオリよ!ま───」
「やることは変わりないわ!なんなら魚なら捌き慣れてるから、三枚に下ろして明日の朝食にしたるわ!」
ザッドハークが何か言っていたようだが、気にすることなくサーモンウルフへと迫る。
ウルフと言うからには、ギロギロウルフと攻撃方法はさして変わらないだろう。なら、飛び付いてきたところを回避し、着地した無防備なところを一気に攻め混んでやる!
頭の中でそんな戦闘シュミレートをしていると、サーモンウルフの背後に何かが現れた。
それはハンナがよく使うような立体魔方陣であり、それが宙に三つほど現れたのだ。
「………えっ?」
「シャケェェェェェェ!」
サーモンウルフが叫ぶと同時に、魔方陣から水の槍が射出された。
高速で迫る三本の槍。それは寸分狂うことなく、私目掛けて飛んできた。
「ウ、ウオオオオ?!」
咄嗟にのけ反り、ブリッジの姿勢となって回避する。三本の槍は、私の鼻先を掠め、先ほどまで上半身があったところを飛んでいき、やがて後方の地面へと刺さって消えた。
「はぁ………はぁ………はぁ………」
ブリッジの態勢のまま、槍が刺さった場所を唖然と眺めていると、ザッドハークの叫び声が聞こえてきた。
「カオリよ、注意せよ!サーモンウルフはその見かけによらず、様々な魔法を駆使する技巧派だ!下手に正面から行けば、魔法の餌食となるぞ!」
「それを早く言ええぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「シャケェェェェェェ!」
「ひっ?!」
態勢を立て直しながら叫ぶ私の視界に、6つの魔方陣を展開させるサーモンウルフの姿が入ってきた………。
『おもしろい!』『続きが読みたい!』などと思ってくださった方は、よろしければ評価とブックマークをお願いします!
作者の何よりの励みになります!