103話 武器を借りるのも楽じゃない
道中なんだかんだありつつも、メル婆の店にたどり着いた。
いつもながらのボロい扉を開けて中へと入ると、カウンターの奥で椅子に座っているメル婆がいた。
「おいっすー、メル婆」
「ヒャヒャ?こりゃいらっしゃい。今日は随分と大所帯で来たのう」
私の後ろにいるゴルデ達を見て、メル婆がクシャリと笑った。相変わらずゴブリンみたいな顔だ。
「ムッ?ソヤツはゴブリンか?」
「違うよ、イシヅカ。ゴブリンに似て否なるものだよ」
ゴブリン顔のメル婆に、イシヅカがいち早く反応する。ゴブリンキングのイシヅカから見てもゴブリンらしい顔なようだ。これで肌が緑色だったら完璧だったろう。
「ヒャヒャ!相変わらず歯に衣着せぬもの言いじゃのう。というか、そのデカイやつこそゴブリンに見えるが?」
「うん。ゴブリンキングのイシヅカ。色々あってパシりとして採用したの。今は肌が緑っぽいオッサンで通してるから合わせてね」
「ヒャヒャ!相変わらず狂ってるのう!」
メル婆が心底おかしそうに笑いながら手を叩く。
相変わらず何が琴線に触れるのか分からない人だよねぇ……。
そんなことを考えていると、ゴルデがズイッと前に出た。そして、メル婆の前へと立ち塞がった。
「あなたが噂のメル婆さんとやらね?カオリに変なものを売っているという?」
「確かに儂がメル婆じゃ。しかし、いきなり変なものとは失礼じゃのう……。儂は可愛いカオリらに役立つものを売ってるだけじゃ。で、そう言うお主は誰じゃ?」
「失礼。私は先日からこの国で冒険者として活動させてもらってるゴルデよ」
「ゴルデ?……ああ!カオリが言うとった、金髪処女ビッチ(笑)じゃな!!」
「カオリ……ちょっとお話しようか?」
一瞬にしてゴルデのヘイトが私へと向かった。
その後、ゴルデから結構ガチめに怒られた。
ついでに、ハンナがシルビのことを『似非銀髪』と呼んでいたこともメル婆経由でバレ、尻に氷の礫をくらっていた。めちゃ痛そうだ。
……私が影で『キャラ迷子』と呼んでいたことがバレなくてよかった。マジで。
「……今度、変な呼び名したらシバくからね」
「二度と言いません。すいません」
今日三度目となる土下座を敢行し、ゴルデのヘイトを下げる。頭を下げて許してもらえるなら安いもんだぜ。だというのに、何故に人は頭を下げるのを嫌がるのだろうか?理解不能だ。
※プライドはとっくに捨ててるからです。
「ふう……。もう、いいわ。次から気を付けてね」
「へへー!!」
ゴルデの怒りが収まったようだ。チョロいぜ。
「で、次にそこのメル婆さんだけど?」
「儂かえ?」
私への怒りは収まったようだが、今度はゴルデのヘイトがメル婆へと向いてしまった。
剣呑な表情をするゴルデ。だが、対するメル婆はどこか楽しそうな表情をしていた。
メル婆……こういう危険な香りがするのが好きだからなぁ。本当にクレイジーな婆さんだぜ。
なんとも言えぬ空気の中、処女と老女が睨み合う。
先に動いたのはゴルデだった。
「さっきも言ったけど、カオリに変なものを売らないでくれる?ただでさえ変な奴なのに、益々変になって手に負えないのよ!」
「あれ?私、ディスられてる?」
「ヒャヒャ。儂はただ、求められたものを売っておるだけじゃ。確かに多少は危険なものがあるかもしれぬ。が、それをどう使うかは本人次第じゃ。ハサミだって正しく使えば役立つ道具じゃが、クレイジーな奴が使えばクレイジーになるだけじゃよ」
「ねえ、それって私がクレイジーってこと?」
「はあ?!だったら売る奴くらい選びなさいよ!そのせいで周りがどれだけ迷惑を被ったか分かるの?!カオリは馬鹿で単純で煽てに乗りやすいから、直ぐに調子に乗ってワケわかんないことを仕出かすのよ!そんな危ない娘に危険な道具を渡さないで!『混ぜるな危険』って言葉を知らないの!」
「私は酸性洗剤か何かか?」
「ヒャヒャ。何を言うとる?カオリは混ぜなくとも単品で既に危険じゃよ」
「「「「「「確かに!!」」」」」」
「なんで意気投合してるの?ガッチリ握手してるの?ザッドハーク達まで声揃えて同意してんなよ。後で覚えてろよ」
てか、ゴルデ達の言い合いというより、これただただ私を遠回しにディスってるだけじゃない?普段の鬱憤を晴らしてませんか?心当たりがあるだけにゴメンなさい。
結局、今後はメル婆のとこで買い物をする場合は、ゴルデがお目付け役で付いて来て、危険なものを選別するということで話はついた。
おかげで今後は、素敵な道具の入手が困難になりそうだ。トホホ……。
ついでに、この話合いをしてる間の私の発言権はなかった。
「それで、今日はカオリのことだけできたのかい?」
大人の話し合いが終わると、メル婆がお茶の準備をしながら尋ねてきた。
「いやいや違うよ。本題はこのゴルデに武器を貸してほしくて来たんだよ」
「武器の貸し出しじゃと?」
怪訝そうな顔をするメル婆にことの理由を説明する。話終えると、メル婆は合点がいったように頷いた。
「なるほど、そういうことかえ。ならばよいぞ、武器を貸し出してやろう」
「いいの?」
「本来は貸し出しはやっとらんが、孫みたいに可愛がってるカオリからの頼みじゃ。特別に貸してやるわい」
そう言ってメル婆は奥へと向かった。
「だってさ」
メル婆が去った後、フンッとどや顔でゴルデを見ると……。
「そもそもあんたのせいでしょ」
と、額に軽くチョップを食らった。
暫くすると、台車に様々な武器を山程乗せたメル婆が現れた。
軽々と台車を押しているが、あの量を乗せれば相当な重量のはず。年齢相応の枯れ木みたいな体格で、よく押せるなぁ。
「剣を使うと聞いたからの。それらを中心に持ってきたぞい。この中から適当に見てみい」
「助かるわ、ありがとう。触ってみても?」
「構わんぞい」
ゴルデはメル婆の許可を得ると、手前にある黒い鞘に収まった剣を手にした。
その剣の柄を握り、鞘からスッと引き抜けば、赤く怪しく輝く片刃の刀身が現れた。
刀身からはまるで血煙のような赤いオーラが漂っており、明かにただならね気配を放つ剣だった。
「……これは?」
「妖刀:ムサマラじゃな。伝説の鍛治師ムサマラが鍛えた一本で、岩を両断するほど切れ味は抜群じゃ。が、装備すると人を斬りたくて堪らない衝動に駆られてしまうそうじゃ」
ゴルデは刀を鞘に戻すと、スッと脇に置いた。
そして、次に青い鞘に納められた剣を手にした。
さっきと同じように剣を抜くと、青黒い両刃の刀身が露となった。
「……これは?」
「蛇竜剣ヨルムンガンドじゃ。嘘か本当か、世界を一周する程の巨大な蛇を内に封印したという剣じゃ。切れ味は抜群な上に特殊な魔法を使えるそうじゃ。が、装備すると次第に身体が鱗だらけになって、終いにはは蛇になってしまうらしいがのう」
ゴルデは再び剣を静かに置いた。
「……これは?」
次に取ったのは無骨な剣だった。
「羅将剣カンダタじゃな。切れ味もさることながら、自身と周囲にいる仲間の力を限界まで底上げする効果があるそうじゃ。ただし、仲間共々に段々と戦うこと以外に興味がない狂戦士になってしまうそうじゃ」
「……これは?」
次に取ったのは見るからに呪われてそうな剣だった。
「呪剣カースオブカースじゃ。ただただ呪われた剣じゃ」
「全部呪われてるじゃないの?!」
ゴルデはそう言って手にした剣を振り上げた。が、流石に売りものなので投げることはせず、丁寧に脇に置いた。
剣を置くと、ゴルデはメル婆に向き直った。
「なんで全部呪われてるのよ?!なんの嫌がらせ?!つか、最後のは呪いしかないじゃない?!」
目を見開いて叫ぶゴルデ。
しかし、メル婆の反応は至って涼しいものであった。
「仕方ないじゃろ。今ある剣はこれぐらいしかないのじゃよ」
「何で魔剣しかないの?!そっちのがおかしいでしょう?!私は普通のでいいの!フ・ツ・ウ・ノ!」
「ねえ。このヨルムンガンドをイシヅカに装備させたら戦力アップじゃない?」
「?!?!」
「カオリは黙ってなさい!!仮にも仲間になった奴を使い捨てにしようとするな?!それで、普通のはないの普通の?!」
「普通の剣は無いのう……。ただ、呪いがない武器でおすすめと言えば、この機動人型決戦用兵器バルグレムなんかどうじゃ?」
「名前からして危なかっしいから却下!!」
「ナニソレ、欲しい」
「あんたは黙ってなさい?!もう、普通のを出して!普通のぉーーー!!」
狭い店内にゴルデの悲痛な叫びが木霊した。
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