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100話 戦いの終わり……愛は示された!

「ありがとうバレンタイタン」


 地上に下ろしてもらった後、ローズがバレンタイタンに礼を言う。バレンタイタンはニッコリと微笑むと、スッーとその姿が徐々に薄くなっていき、やがて完全に消えてしまった。役目を終えたことで、元の世界に帰ったようだ。


 更に、手にしていた血夜胡麗刀チョコレートウが光の粒子となって消える。僕達の姿もいつの間にかいつもの服装となっていた。


『よくやりましたねハンス……ローズ。よくぞ愛を示し、魔王を打ち倒しました。神々を代表し、礼を述べます』


 アフロディア様の慈愛に満ちた声が天から響く。僕達は天へと向けて頭を下げた。


「こちらこそありがとうございます。おかげでローズを守ることができました」


「私もハンスとの愛を守ることができました。本当にありがとうございます」


 二人で心の底から感謝を伝えると、ニョウトウ様が穏やかな声で語りかけてきた。


『我々はただ力を貸しただけに過ぎない。お互いを守れたのは互いを想い合う深い愛があってのこと。後は各製菓メーカーの企業努力によるもの。誇るならば己の愛と、人々の笑顔と美味しさのために奮闘する製菓メーカーを誇るがよい』


「ニョウトウ様……」


『それではさらばだ。汝らの愛と製菓メーカーの更なる発展を祈っている……』


 そう言うと、神様達の気配はフッと消えた。


 なんで最後をニョウトウ様が締めたかは分からないが……まあ、いいか。


 僕達は神様達が去ったのを確認し、背後を振り返った。


 視線を向けた先……そこには元の人間の姿となったカオリが仁王立ちしていた。バレンタイタンに潰されたにも関わらず、何とか無事だったようだ。


 とは言え、ダメージは相当だったらしい。魔王化は解けているし、その姿は見るも無残なもであった。


 着ていた軍服はボロボロだし、身体中も埃や傷だらけで見ているだけで痛々しい。ただ、そのは眼光鋭く僕達を睨み付けてはいる。


 が、足が震えており、指でつつくだけで倒れてしまいそうだ。


 恐らく、立っているのもやっとであろう。それに睨んではいるが、戦意は感じない。戦う気はなさそうだ。


 とは言え、油断はできないか……。


 僕達は気を引き締めつつカオリと正面から対峙した。


 そんなカオリは僕達を睨み付けながら、片側の口角を上げて歪んだ笑みを見せた。


「まずは……おめでとうと言って……おこうかし……ら。ひとまず、あなた達『愛』の勝ちよ……」


「いらないな。思いの込もってない称賛なんてね。馬鹿にしているだけだ……」


「クク……手厳しいな……」


 面白いおかしそうに笑うカオリ。そんなカオリへとローズが険しい表情で叫んだ。


「そんなことより、なんでこんなことをしたの!?なんで私達にあんな酷いことを!それにみんなを……」


 悲痛な思いが込められたローズの叫びに、カオリは薄ら寒くなる笑みを見せた。


「くく……言っただろう?ただ、目の前でイチャつくリア充共が憎かった。だから、めちゃくちゃにしてやろうと思った。それだけよ…………」


「それだけ?!そんな理由で───」


「そんな理由だとっ!?」


 ローズの言葉を遮り、カオリが鬼のような形相で叫んだ。


「そんな理由?!ハッ!貴様らのような互いに愛し合う者がいる恵まれた輩に、我らの気持ちなど分かるまい!!


 目の前で無駄にイチャイチャされる苦痛が!!


 恋人がいないだけで鼻で笑われる悔しさが!!


 だからモテないんだよ……などと上から目線で根拠もなく言われる怒りが!!


 三十過ぎて結婚してないと理由だけで周囲から腫れ物を扱うようにされるか、とことん見下されるしかない情けなさが!


 映画やら漫喫に行って、空いてる席がカップルシートしかなく、仕方なく座って周りから嘲りの目で見られる屈辱が!!


 毎年毎年バレンタインだのクリスマスだののイベントがある度に、心に穴が空いたように感じる虚しさが!!


 年齢を重ねる程に感じる焦りが……憎悪が……。


 そんな気持ちが貴様らには分かるまい!!」


 カオリは憎悪の込もった目で睨みながら叫ぶ。その言葉の一つ一つに並々ならぬ思いが込められていた……。


「だ、だったら、彼氏なり彼女をつくって───」


「はい、出ましたー!!恋人いるやつがよく言うやつ『恋人つくれば』。ハッ!!だったら苦労しねぇぇよ!んなもんはなぁ!!モテるやつ!要領いいやつ!話が得意だったり、特技があったりと、自分に自信があり、異性に馴れている……そんな余裕のある奴が言えることだ!!今までそういった悩みとは無縁だった輩だからこそほざける戯れ言よ!!私達のようなモテない・要領悪い・話ベタ・特技無し!etc……とにかく、自分に自信が持てない!そんな奴らはどうすればいいってのよ!!どうやって恋人をつくればいいの?!出会いって何!?ググれば出てくるの?!運命ってどこに落ちてんのよ!?ファッキンデステニィー!!」


 カオリは血を吐く勢いで叫んだ。その叫びにはカオリの悲痛なる想いが込められており、聞いているこちらの心が痛む程であった。


 そんなカオリは叫び終えると、荒い息を吐きながらグラリとよろめいた。


  が、なんとか堪え倒れはしなかった。


 あれだけダメージを受けているのに叫んだら、そりゃあよろめくよな。そもそも、もう、色々と限界が近いようだし……。


 カオリはフラフラと揺れて今にも倒れそうだ。しかし、ギラギラと憎悪に満ちた瞳で僕達を睨みながら、ニタリと笑った。


「ふっ……もう……限界のようだ。今回は私の負けだった……。しかし、覚えておくがいい……。この世にモテぬ者がいる限り、嫉妬の炎は決して消えぬ。必ず第2、第3の私が現れ、貴様らリア充共を滅ぼすであろう……」


 カオリは『ヒヒヒ……』と、邪悪な笑い声をあげた。


 背筋が寒くなるような笑い声と、邪悪な迫力に気圧される。


 だが……僕達はそんな迫力を押し退け、堂々とカオリへと対峙した。そして、二人で想いの丈を叫んだ。


「何度だって来るがいい!逃げないし、何より僕達の愛は絶対に負けないぞ!」


「愛は何よりも強く、何ものにも汚されない純粋なる人々の強い想い!何度だってそれを示してみせます!」


「愛こそ絶対不滅の力!人々の無限の原動力!愛は、嫉妬なんかに決して屈したりはしない!!」


「私達の愛と絆は嫉妬や憎悪なんかに負けないわ!どんな障害だって乗り越えて見せる!」


 そう叫んだ後、二人揃ってカオリをビシッと指差した。


「「そしてカオリ!いつかお前の中の嫉妬を振り払い、そんな愛の素晴らしさに目覚めさせてやる!!」」


 僕達の宣言にカオリは一瞬目を丸くする。しかし、直ぐに不敵な笑みを見せた。


「くくく……戯れ言もそこまでいけば大したものよ……。おもしろい……貴様らの愛の力とやら……。それが本当に世界に通じるのか……地獄の……底から……見定……め……させて……もら…………」


 カオリの目から光がフッと消えた。


 彼女は不敵な笑みを携え、仁王立ちのままで意識を失った。その身がボロボロであろうと決して倒れぬ不屈の精神を体現した姿は、敵ながら畏敬の念を抱かせるほどであった……。


「カオリ……」


 憎い敵ではあったが、己の信念を貫き通そうとする強い意思は、素直に凄いと思った……。


 もし、出会いが違っていれば、友人になれただろう。


 そんな風に考えていると、ローズがカオリを見ながら呟いた。


「彼女はきっと誰よりも愛が深かったんだと思う……」


「愛が深い?」


「そう……。彼女は人一倍愛が深いが故に、愛が失われる悲しみ、怒り、恐怖も人一倍感じてしまっていた。更に渇望しても手に入らぬ愛に絶望してしまったのよ……。その結果、あんな風に狂い、愛を否定する獣へと成り果てたのよ……」


 ローズの説明に一瞬戸惑ったが、不思議と納得できた。


 確かにそうなんだろう。カオリという女は愛が深かったのかもしれない。じゃなければ、仲間達が散った時にあんな悲しそうな涙を流すことはなかっただろう。


 彼女は愛を否定した。だが、彼女の中には捨てきれぬ僅かな愛が存在していたのだろう……。


「カオリ……。彼女もまた、愛の悲劇によって生まれた被害者だったのだろう……」


「そうね……。まあ、だからと言って許すかどうかは別だけど」


「だね……」


 そこはやはり話が違うだろうね。

 あと、カオリを見るローズの目が怖い……。


 僕はそんなローズの肩をとると、僕の方へと向けた。


「ハンス?」


 不思議そうな表情で僕を見るローズ。僕はそんなローズに向け、真剣な表情で口を開いた。


「ローズ。こんなとこで言うのはあれだけど、気持ちを抑えられないから言わせてくれ」


 そう言うと、ローズは一瞬驚いたように目を丸くした。

 が、直ぐに真剣な表情で頷いた。


 僕は深く息を吸った後、覚悟を決めて告白した。


「改めて言わせてくれ。僕は君が好きだ!君の優しい微笑みが好きだ!時折、見せるお茶目なところも好きだ!君の全てが好きだ!愛してる!僕はまだ職人見習いで頼りないところもあるが……こんな僕でよければ付き合ってくれ!!」


 一斉一代の愛の告白……ローズは黙ってそれを聞いていた。


 暫し無表情で沈黙していたローズだったが、不意にその顔に笑みが浮かぶ…………そして。


「私もハンスが好き!愛してる!」


 そう言って僕へと抱きついてきた。


 僕とローズは暫し互いに強く抱き締め合った後、互いに顔を寄せ合い………………。


 


 


 


 


 


 ◇◇◇◇



 その日、アンデル王国の衛兵詰所には様々な異常が報告されていた。黒づくめの集団が現れただの、軍服の女が暴れてるだの、その黒づくめの妙な集団が通りを占拠しただのと……。


 極めつけは魔王らしき存在が現れた…という話も上がってきていた。


 衛兵達はこれらの報告を調査すべく、通報のあった件の通りに向かい……なぜか全員がボロボロの姿で倒れており、病院送りになったという。


 なんとか意識があった、コントみたいに黒焦げになった衛兵から話を聞いたが『チョコ飛んできた。チョコ怖い』と呟くだけで、結局何があったのかは分からなかったという……。


 ただ、少し遅れて現場にたどり着いた他の衛兵の報告によると、通りは瓦礫と山となっていたという。その瓦礫の中からボロボロの金髪の女性・痛々しい服装のピンク色の髪の女性・銅褐色の髪の女性・エルフ・ドワーフ・その他数名の冒険者達が発見された。事情を聞こうと試みたが、皆が一様に『カオリ殺す』と呟き、並々ならぬ殺意をみなぎらせているため、事情聴取は困難だった。


 また、現場から離れた『黄金の渡り鳥亭』なる食堂において、軍服の女と黒づくめの集団が店を借りきった反省会なる飲み会をしていたというが、あまりにも雰囲気が異様だったために衛兵達は近づけなかった、または幾人かの衛兵が同調してしまった困難…………というか、諦めて逃げたらしい。


 その日、黄金の渡り鳥亭からは夜遅くまで『次こそは!』『ジェラシィィィ!』などといった、楽しげな奇声が上がり続けていた…………。

 

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