97話 悲しみ背負いし者達
更新が遅くなり申し訳ありません。
今年初めての投稿となります。遅くなりましたが、今年もどうか香を優しく見守ってあげてください。
「いくぞ!カオリ!」
『クハハ!来るがよい『ドゴォン!』オゴハパ?!』
いざ!カオリと決着をつけん……と思ったところで、突然爆発が起きてカオリが横薙ぎに吹き飛んだ。それはもう、派手に吹き飛びゴロゴロと転がる。
「「……えっ?」」
あまりにも唐突過ぎる事態に目が点となっていると、先程までカオリがいた場所に誰かが立っていた。
それは、ピンク色の髪をした女性であった。ピチピチの、明らかにサイズも丈も合っていないヒラヒラした桃色のメイド服?のようなものを身に纏い、片手には先端にデフォルメされた星がついたピンク色のステッキを持っている。なんとも痛々しい格好である。
うん……確か、ゴルデさんの仲間のシルビさんだっけ。カオリの仲間に強制的に魔法少女(仮)にされた。
そんな急に現れた彼女だが、身体中から怒りのオーラを溢れさせ、般若のような恐ろしい表情でカオリを睨み付けていた。
『痛ぁ?!急に何を……って、あんたはシルビ?!なんであんたが……』
「なんでも糞もあるか!!このドサンピンがぁ!」
カオリの言葉を、シルビさんがドスの効いた叫びで遮った。
『ドサ……?えっと……あのー……シルビさーん?なんか喋り方変わって……』
「あ"あ"ん?なんじゃあ?!なんぞ文句あんのかゴラァ?!」
『いえ、ないっス』
眉間に眉を寄せ、異常なまでの強い眼力でカオリを睨むシルビ。そんな彼女の迫力に負け、カオリは背筋を伸ばした。
「オォン?だったら最初からほざいてくんなやぁ……このボケが!」
トントンとステッキで肩を叩きながら、シルビさんがゆっくりとカオリへと近付いていく。
その迫力は凄まじく、第三者の僕達ですら背筋を伸ばした。
「だいたいよぅ……何を自分が被害者ぶっとるんやワレぇ……」
『えっと……あの……シルビさん?』
ズンズンと迫ってくるシルビさんに、カオリがズリズリと後退る。そんなカオリに、シルビさんが手にしたステッキを向けた。
「ワシをこんな姿にしおってからにぃぃ!!絶対に許さんからのぉぉぉ!!」
『いや、それハンナ……?!』
「貴様も同罪じゃあ!!喰らえ殲滅氷爆砲!!」
『ジョエエエエ?!』
ステッキの先から凄まじい勢いで氷の嵐が吹き荒れる。嵐はカオリへと命中し、その肉体を急速に氷らせていった。
『ちょ?!冷たっ!?痛っ?!えっ?ちょ……シルビさんってこんな強かった?!』
「おどれらが着せた、この服の効果で魔力が大幅に上がったようじゃ!上級攻撃魔法が使いたい放題じゃわ!!とは言え……全く嬉しくないがのぉぉ!氷塊流星!」
シルビさんがステッキを掲げる。すると、上空に巨大な氷塊が現れた。その氷塊はカオリに狙いをつけると、まるで隕石のように降り注いだ。
『痛だぁぁぁ?!ちょ?!ちょい待て?!めっちゃ痛いから!?ちょいタン……』
「……待つわけないでしょ?」
カオリの背後から、暗く、ドスの効いた声が響く。カオリが恐る恐ると振り向けば、そこには剣を持ったゴルデさんが佇んでいた。いつの間にか拘束を解いて来てくれたようだが……その顔は能面のように無表情で、何とも言えぬ威圧感を放っていた。
『あ、あの……ゴルデ?』
「カオリさぁー……随分好き勝手やってくれたよねー……」
抑揚の無い声だった。その人の魂を凍りつかせるようた冷たい声に、カオリが顔をひきつらせた。
『あ、あの?ねぇゴルデ……さーん?』
「ねぇ、カオリ?あんたがいくら恩人でもさ……流石に……ドタマにくる訳よおおお!!」
これまでの静かな喋り方が一変。ゴルデさんは、まるで烈火の如き怒りをあらわにしながら吠えると、手にした剣を高速で振るった。
「閃光斬!!」
キラリと閃光が迸る。何が起きたか分からず、カオリは一瞬キョトンとしていた。が、遅れてその肉体から血渋きが飛んだ。
『痛だぁぁ?!ちょ?!ゴルデ痛いって?!洒落になら……』
「洒落にならんことしてんのあんただろうが!今日という今日は、とことんしばいたらぁぁ!」
「ゴルデェェェ!儂にもやらせぇぇぇ!!氷結流星群!」
『グギャアアアア?!』
ゴルデさんが更に斬りつけ、シルビさんが氷塊の雨を降らした。刻まれ、氷塊で袋叩きにされたカオリの悲鳴が辺りに木霊する。
自業自得とはいえ……なんとも惨い。
というか、僕達の出番は?
そんな一方的にカオリがやられる光景を唖然と見ていると、ズリズリと音がした。見れば、ブロズさんが僕達の足元でうつ伏せに倒れている。どうやら、ここまで這いずってきたようだ。
「ブ、ブロズさん?!大丈夫ですか?」
「大丈夫……ではないわね……。ミロクの技が効いてて、足腰立たないし……」
そう言って顔を上げるブロズさんの顔は真っ赤であった。熱があるとかではない。妙に色っぽく汗ばんだ、上気した赤さだ。
あー……確か、発情する技をくらったんだっけか。それは足腰立たなくなるのも無理ない。
あと、あんまりブロズさんを見ないでおこう。隣にいるローズが怖い顔で睨んでるから。
「あの……あまり無理しない方が……」
顔を背けながらそう声をかけると、ブロズさんは強い口調で言い放った。
「いや、あの糞……じゃなく、カオリがボコられるとこを見させて。それを見なきゃ、やってられないからさ……」
どうやらカオリがボコボコにされるところを拝みたいようだ。カオリ……恨み買いすぎだろ……。
「しかし、ゴルデ達……流石に地が出たようね。まあ、あんな目に合えば仕方ないけど……」
「えっ、地?あの……地って一体……?」
ボソリと呟かれた内容が妙に気になり、ブロズさんに聞いてみた。ブロズさんは少し考えた後『別にいいか』と言って、地の意味を教えてくれた。
「酔った勢いで前に話してたんだけど、ゴルデ達って地元にいた時はかなりヤンチャだったみたいなの。毎日喧嘩三昧で、生傷が耐えない日々を過ごしてたって。相手が男だろうと何だろうと形振り構わず襲いかかる狂暴さから、『金夜叉』『銀夜叉』って呼ばれる程に恐れられてたって」
「えっ?」
「で、そんな様子だから全然彼氏とかできないわけ。だけど、そんな彼女らを置いて、周りは彼氏をつくって結婚していく。流石にこれはまずいと焦った彼女らは、田舎から出る時に心機一転し、今のキャラに変えて落ち着いていたみたいだけど……。完全にキレて昔に戻ってるみたい……」
「は、はぁ……」
ブロズさんの説明に僕は苦笑するしかなかった。つまるところ、あれがゴルデさん達の本性であり、これまでは猫被っていたと…………ウン。女って怖い。
鬼のような形相でカオリをボコるゴルデさん達を何とも言えない気持ちで見ていると、カオリがその豪腕をもってゴルデさん達を振り払った。
「「キャ?!」」
『ゴオラァ!?調子のんなや?!ハァ……ハァ……好き放題ボコりやがって!?お前ら、いい加減にしや「「オラァァ!!」」ゴゲハァ?!』
ブロズさん達を振り払って態勢を整えたカオリだが、再び前のめりに倒れた。何事かと思えば、その背後には武器を手にした親方達がいた。
どうやら拘束を解かれた親方達が、背後から奇襲をかけたようだ。
「この腐れ外道がぁぁ!よくもやってくれたな!この恨み……倍返しにしちゃる!!」
「倍返しなんて甘い!私やローズが受けた屈辱……万倍変返しにしたる!!」
「確かにそうじゃ!なら久々にあれをやるぞ!」
「了解!しっかり合わせな!」
「「喰らえ!合技!疾風迅雷!!」」
怒気をあらわに親方達が武器を振るう。親方の鎚からは雷が。女将さんの鞭からは風が巻き起こり、それらが一つになってカオリへと襲いかかった。
『阿保ベアベアべし安部ぶあ?!』
電撃に焼かれ、風に切り刻まれたカオリが絶叫を上げる。なんとも悲惨な状況ではあるが、同情する気にはなれなかった。まあ、当然か。あれだけ好き放題暴れたんだから、報いは受けるべきだろう。
それは、みんなも同じ気持ちだったようだ。痺れて動けないカオリに、親方……それにゴルデさん達が容赦なく追撃をかけた。
「カオリィィィ!好き放題してくれた借り!今日はとことん返させてもらうわよぉぉぉ!」
「どりゃぁぁぁぁ!高等魔法の大盤振る舞いじゃあああ!遠慮せず喰らえぇぇぇ!!」
「なぁぁにぃぃが師弟コンビの突貫工事だ!テメェのケツを突貫して掘ってやらぁぁぁ!!」
「百合だ?花園だ?テメェを殺して棺桶にたっぷりと百合を添えてやんよぉぉぉ!!」
『ギャアアアアアアアアア?!』
ゴルデさんが斬り、シルビさんが凍らせ、親方が叩き、女将さんが刻む。怒りと鬱憤が貯まっていた四人の怒涛の攻めに、カオリは為す術なく袋叩きにされていた。
暫くボコボコにされていたカオリだが、唐突にその全身が急激に発光した。
『ウオオ!奥義『漫画によくある闘気全開っぽいオーラを全身から出して、周り全てを吹き飛ばす表現のアレ』アタックゥゥゥ!!』
「「「「ウワッ?!」」」」
カッとカオリの全身が光輝いたかと思えば、カオリを中心に爆風が巻き起こり、親方達は吹き飛ばされてしまった。やがて爆風が収まると、片膝をついて荒い息を吐くカオリの姿があった。
『ハァ……ハァ……漫画見てる時は何て手の抜いた表現なんだ……って、鼻で笑ってたけど、成る程。実際使うと凄い楽だ……』
よく分からないことを呟くカオリ。やがて彼女は息を整え終わると立ち上がり、ギロリと僕らを睨んだ。
『えぇい!もう勘弁ならねぇ!正直、勇者として『え~?これはちょっと……』と躊躇われる技があったが、使ってやる!テメェら覚悟しろよ!』
「勇者がどうとか今更でしょ!!勇者らしさなんて元々皆無じゃない!」
『うるせぇぇ!気にしてること声高に叫ぶな!!』
ゴルデさんに怒鳴りながら、カオリは何らかのスキルを発動させた。すると、カオリを中心に黒い闇が広がる。あっという間に辺り一帯が闇に包まれ、僕達は黒いドーム状の世界へと閉じ込められた。その瞬間、僕らの身体が立っていられない程に重くなる。更には頭痛やら目眩がし、まともに思考ができなくなってきた。隣を見れば、ローズも額に脂汗をびっしりとかき、苦悶の表情で片膝をついていた。
「こ、これ……は?」
『ヒャヒャヒャ!早速効いたようね!これぞ、魔王の力!その名を【嫉妬世界】!!』
「ジェ、嫉妬世界……だと?」
苦し気に呟くと、カオリはニンマリと愉悦に満ちた笑みを見せた。
『ヒャヒャヒャ!どうだ魔王の力の真髄【嫉妬世界】は!身体が重いだろ?当然さ!ここは、リア充であればあるほどに、その力を奪われる妬みの世界!持つ者と、持たざる者の立場が逆転する反転世界なり!しかも、奪った力はそのまま全て私のものとなり、より強くなる!つまり、この世界で私は神ゴブッ?!』
余裕綽々と語っていたカオリが殴られ吹き飛んだ。殴ったのは……ゴルデさんだった。
「別になんともないわよ!」
『えっ?なんで?』
殴られた頬を押さえ、素で驚くカオリ。そんなカオリに更なる追撃がかかった。
「「「こちらも何ともないぞ!!」」」
ハンナさんや親方達だった。彼女らは全くなんの影響もないようで、先程と変わらぬ機敏な動きでカオリを袋叩きにしはじめた。
『えっ?ちょ?!痛だ?!な、なんで……って、そうだ!よく考えれば、ゴルデ達も大してリア充じゃなかったわ!』
動けるゴルデさん達に戸惑っていたカオリだが、直ぐにその理由に思い至ったようで、反射的にその理由を叫んだ。すると、ゴルデさん達の表情が憤怒に染まる。
「誰が年齢=彼氏いない歴の喪女だ?!ぶっ殺すわよ!」
「女らしさの欠片もないチンピラ魔女っ娘だと?!はっ倒すぞ!?」
「鍛冶に没頭し過ぎて、嫁に逃げられた甲斐性なしで悪かったな!!」
「どうせわたしゃ、男を見る目がなく、散々男共に貢いだ挙げ句に借金だけ押し付けられて逃げられたボンクラ女ですよ!!」
『ギャアアアアアアアアア!?そこまで言ってないいいいいい?!』
聞いていて、いたたまれない気持ちになることを叫びながら、武器を振るうゴルデさん達。その目の端には、何かキラリと光るものが見える。
親方達も、色々と悲しみを背負っていたのだな。あんまり人前でイチャイチャするのは自粛しよう。
そう考えていると、カオリの身体が再び光だした。
『ウオオ!奥義『漫画によある以下略』アタックゥゥゥ!!』
「「「「ウワッ?!」」」」
再びカオリを中心に爆風が巻き起こり、親方達が吹き飛ばされる。
『ハァハァ……ど畜生が?!いい加減にしろよ!散々袋にしやがって!?つか、悲しみ背負っている奴多過ぎだろ!バランスおかしくね?!』
そう叫ぶカオリ。
うん。よく考えれば、この場でリア充というものに該当するのは僕達だけだった。
なんとなく親方達に申し訳ない気持ちになっていると、カオリが再び構えをとった。
『えぇい!おまえ達が同じ悲しみを背負っている者であろうと、この世界では私と格が違うわ!見よ!あの糞リア充共から奪いとった力が私の元に集ってきたわ!』
見れば、僕達の体から光の粒子が溢れだし、それがカオリへと集まっていた。そして、カオリはその光を当然のように口から吸収していく。
「ぐっ……力が……?!」
光が出ていくたびに体から力が失われていく?!逆に、光を吸収していくカオリの肉体はどんどんと膨張していき、更に筋骨隆々となっていく。
これは……力を奪われているのか?!
『グハハハ!力がみなぎるぞ!リア充のむせ返るような甘さな力が全身に行き渡る!!どれ……早速力を試してみようか!喰らえ!えっと……※嫉妬パンチ!』
※ちょっと技名を考えるのがめんどくなって、非常にシンプルなものとなったようですがご容赦ください。
カオリは拳をギュッと握り込むと、その拳を勢いよく親方目掛けて振るった。
振るわれた拳は、凄まじい速さで親方へと向かっていく。そのあまりの速さに、親方は一切反応できていない!
親方!危ない!
……そう叫ぼうとしたが、全てが遅かった。
「グッ……ゴオオオオォォォォ!?」
爆風のような衝撃波と耳をつんざくような轟音が辺りに鳴り響くと同時に、親方の悲鳴が木霊した。
見れば、カオリの拳は親方の腹へと深々とめり込んでいた。
「お、親方ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
這い這いの体で親方へと手を伸ばしながら叫ぶも、親方に反応はない。ただ、ビクンビクンと痙攣を繰り返すだけだ。
「ド、ドリック!?」
「「「ドリックさん?!」」」
遅れて気付いたゴルデさん達が驚愕したように叫ぶ。あのカオリの速度に歴戦の冒険者達でも反応できなかったようだ。
カオリは痙攣する親方を拳にめり込ませたまま、頭上高く掲げた。それはまるで、狩取った獲物を見せびらかしているようだ。
『グハハハ!どうだ我が力は!純粋なる嫉妬エネルギーによる拳の味は!!さぞや美味であっただろう!』
親方を掲げながら高らかに叫ぶカオリ。そんなカオリの姿に僕は怒りが沸いてきた。
よくも……僕の師であり、恩人であり、父親のような人を……!!
「カオリィィィィ!親方を離せぇぇぇ!!」
力の限りに叫ぶ。僕の恩人を痛めつけた挙げ句、あんな玩具のように扱われるのが許せなかった。
すると、カオリはこちらを見てニンマリと笑うと、親方を僕へと向けて放り投げてきた。
「あっ?!お、親方!!」
僕は何とか体を動かして親方が地面にぶつかる寸前に受け止めた。腕の中の親方はグッタリとしており、意識を失っているようだ。
「くっ……親方……親方!しっかりしてください!」
必死に呼び掛けるも、親方はグッタリしたままだった。僕は親方を地面に横たえると、キッとカオリを睨んだ。
「カオリィィィィ!よくも親方を!絶対に許さないぞぉぉぉぉぉ!!親方が目を覚まさなかったら、お前を完膚なきまでに叩き潰してやる!」
怒りのままに残された闘気を発しながら叫ぶ。だが、カオリは平然とした様子でニマニマと笑うばかりだ。
そのにやけた顔に、更に腹が立つ!
「カオリ!何がおかしい!?何をヘラヘラと笑っている!!」
『んー?いや、だって……その親方さん。目を覚ましそうじゃん?』
「?!」
カオリに言われて見れば、親方の瞼が僅かにピクピクと動いていた。
「お、親方!」
慌ててそう呼び掛けると、親方の目が勢いよくカッと開いた。そして、ギョロリと僕へと瞳を向けてきた。
「よ、よかった!このまま意識を取り戻さないんじゃない────」
「ジェラシィィィィィィィィ!!」
「なっ?!」
目を覚ました親方に安堵の息をついた瞬間、親方が奇声を上げながら僕へと飛びかかってきた。
その余りにも唐突過ぎる事態に動けず硬直していると、横からローズが僕を勢いよく押してきた。
「危ないハンス!」
ローズに押されたことで真横へと倒れた僕は、親方の突撃を間一髪で回避することができた。
「ロ、ローズありがとう……。親方!一体どうしたんですか!?」
態勢を立て直してローズに礼を述べ、再び親方へと目をやった。
一体どうしたというのだ……と疑問に思った僕だったが、親方の様子を見て絶句した。
親方は口からダラダラと涎を垂らし、歯を剥いて僕を威嚇してきていた。更に充血させた目は限界まで見開かれ、知性を感じさせない……まるで狂暴な猛獣のようなギラリとした瞳で僕を睨んでいた。
明らかに正気じゃない……。
いつもとまるで違う親方の様子に困惑しつつ、親方の異変について考えてみた。
いや……考える必要もない!
「カオリ!親方に何をした!!」
ことの現況であろう面白そうに僕達を見るカオリをキッと睨めば、彼女は悪戯がバレた子供のように無邪気な笑みを見せた。
『グハハハ!バレちゃった?私が原因だって?』
「いいから答えろ!親方に何をしたんだ!」
『グククク……大したことじゃないわ。パンチをした際に、彼の中に大量の嫉妬エナジーをぶち込んでやったのよ』
「嫉妬エナジーだと?!」
意味が分からず顔をしかめていると、カオリは右の掌からどす黒く光る玉を浮かび上がらせた。
『これが嫉妬エナジーだよ。多くの人々の妬みと渇望を集約した究極の負のエネルギーさ。このエネルギーは私の力の源であるとともに、人の感情や思考に大きな影響を与えることもできるのさ。例えば……こんな風に!』
そう言って、カオリは勢いよく嫉妬エナジーの玉を放り投げた。投げた先にはゴルデさんがいて……。
「なっ?!な、なに……って、ギャアアア!!」
「ゴ、ゴルデさん?!」
「「ゴルデェェェ!!」」
嫉妬エナジーは、不意を突かれたゴルデさんにぶつかってしまった。すると、彼女はまるで電気にでも感電したように痙攣しだした。
彼女は暫しピクピクと痙攣していたが、やがて動きが収まって俯いてしまった。大丈夫か?と僕が声をかけようとした瞬間……ゴルデさんは俯かせていた顔を上げた。
顔を上げた彼女は、親方と同じように猛獣のような目で僕を睨んできた。
「ジェラシィィィィィィィィ!!」
「ゴ、ゴルデさん?!これは……?!」
奇声を上げるゴルデさんに困惑していると、背後でカオリが笑い声を上げていた。
『グハハハ!嫉妬エナジーを注入したことで嫉妬に狂う狂獣……嫉妬獣になっちまったのさ!』
「嫉妬獣だと?!なんだそれは!!」
『嫉妬獣はその名の通り嫉妬に狂った獣!理性や知性は一切なく、ただただ本能のままにリア充を狩り尽くすことしか頭にない狂獣さ!今のゴルデとドリックは、あんたらリア充をぶっ潰すことしか考えてないケダモノだよ!』
「「ジェラシィィィィ!!」」
カオリに賛同するように親方達が奇声を上げる。
「そんな……。お、親方!ゴルデさん!正気に戻ってください!」
奇声を上げ続ける親方達に必死に呼び掛けるも、二人は獲物を見るような目で僕達を睨みつけてくるだけであった。
『そらそら!もっといくよ!』
親方達に気をとられていると、カオリが再びどす黒い光の玉を複数浮かび上がらせた。そして、それをシルビさん達目掛けて放り投げた。
「なっ?!やめ……ジェラシィィィィ!」
「いやだ……ジェラシィィィィ!」
「そんな!ロー……ジェラシィィィィ!」
光の玉を受けたシルビさん達が次々と嫉妬獣化していく。そして、皆は僕達をグルッと取り囲んだ。
「そ、そんな……皆さん!正気に戻ってください!そんな負のエネルギーに負けないでください!」
ローズが必死に皆へ呼び掛けるも反応はない。いや、カオリだけが嘲るような笑い者を上げていた。
『グハハハ!無駄無駄無駄無駄無駄!嫉妬獣化したら、私がこの空間を解くまでは元には戻らないわ!さあ、仲間達の手でくたばりな!』
カオリの指示に従い、親方達がジリジリと囲いを狭めていく。
「くっ……親方!お願いです!正気に戻ってください!」
「Jerasiiiiii……」
くっ……駄目か。全く反応してくれない。
ドイツか、心なしかさっきより狂暴そうになってるような?目付きも悪くなってないかな?
そんなことを考えていると、カオリが腕組みしながらブツブツと何か呟いていた。
何を言ってるのかと、耳を澄ますと……。
『しかし……普通は完全に嫉妬獣化するまで結構時間がかかるんだけど、一瞬だったなぁ。やっぱ同じ悲しみを背負う者だけあって親和性が高いというか……リア充に思うところがあったんだろうなぁ……』
と、聞こえた。
「「「「Jerasiiiiii!!」」」」
「親方ぁぁぁぁぁぁ!?」
揃って同調するように叫ぶ皆の姿に驚愕するしかなかった。
親方!女将さん!ゴルデさん達!なんか色々我慢させてたようですんませんでした!!人前でイチャイチャしてゴメンなさい!謝ります!
だから正気に戻ってください!!
……無論、そんな願いが通じる訳もなく、親方達の包囲網はジリジリと狭まっていった……。
ご意見・ご感想をお待ちしております。