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96話 魔王の力

 

 カオリが蝙蝠の羽を羽ばたかせると、僕達目掛けて真っ直ぐ突っ込んできた。


 その捻れた角が僕達へと向けられる。


『石塚殺すぅぅぅ!!』


「イシヅカって誰だよ?!」


 カオリの咆哮にツッコミを入れながら紙一重で突撃を回避し、脇を通り過ぎる瞬間にカウンターを入れる。


「「投げ斬津手キッス!」」


 チュッと、投げキッスをカオリに向けて放つと、斬撃を伴うハート型をした小さな矢が発生する。その矢は、通り抜けざまのカオリの首筋へと真っ直ぐに向かうが……。


 バシリ!


 まるで背後が見えているかのように、蠍の尾で易々と弾かれてしまった。


「くっ!?」


『そんなのお見通しだよ!』


 カオリは嘲笑いながら着地。素早く僕達へと目標を定めると、その丸太のような豪腕を振るった。


『嫉子王百連爪!!』


 目にも止まらぬ速度で振るうカオリの爪先から、無数の斬撃が跳んでくる。

 それらは、地面や周囲の構造物を斬り刻みながら僕達へと迫る。


「くっ!いくよ!ローズ!」


「ええ!ハンス!」


 ローズと心を合わせ、愛最斗アイサイトを発動する。この奥義により、次々と迫る斬撃を回避していく。右へ左へ……順調に斬撃を回避していっていたが、不意にそこで影が差した。


『ヒヒッ!回避に気を取られ過ぎよ!素人共が!』


 影の正体はカオリだった。僕達が回避に気をとられた隙に、一気に距離を詰めて背後をとったようだ。


 不覚。僕達は加護によって力は得たが、圧倒的に戦闘の経験が少ない!そこを突かれた!


「しまっ……?!」


 背後を取られた動揺による一瞬の硬直。そんな隙をカオリは逃さなかった。


 カオリは鋭い牙が並んだ口を僕達に向けて大きく開くと、そこからブレスを吐いてきた。


『喰らえぃぃ!嫉妬咆ジェラシックブレス!』


 ドブのような色をした炎が、僕達目掛けて広範囲に放射される。咄嗟に羅武領域ラブフィールドを展開し、炎を防いだ。


 が……。


「う"?!く、臭っ?!」


「ゴホッゴホッ?!な、何これ?!お肉?いや、凄いニンニク臭い?!」


 カオリから吐かれたブレスは途方もなく臭かった。羅武領域ラブフィールドは攻撃は防ぐが、臭いまでは防げなかったようだ。バリアの中に、まるで焼き肉を食べた後のような、肉やらニンニクの入り雑じった独特の臭いが充満した。


『グハハハ!!どうだ!私のブレスの臭いは!威力もあるが、それ以上に焼き肉を食べた後のような臭いがするであろう?フハハハ!こんな臭いを嗅いだら、ロマンチックな雰囲気も台無しだろう!』


「くっ!!だが、こんな臭い、消し飛ばしてしまえば……」


『おっと残念。その臭いは尋常じゃないくらいに服や髪にこびりつく!最低でも、一週間は焼き肉臭いままだ!!』


 な……んだと……?


 僕達は慌てて服の臭いを嗅いだが……臭っ?!服や鎧に、すんごい臭いがこびりついている?!神様からの借り物になんてことを!?


 ローズもドレスの臭いを嗅ぎ、泣きそうな顔となっていた。


「なんてことをするんだ?!しかもなんかベタベタするし?!なんだこのベタベタは?!」


『ヒャヒャヒャ!いい様だ!そんな焼き肉臭い状態じゃ、イチャイチャするどころじゃないだろ!そのベタベタについては私にも分からないわ』


「こ、この外道!!というか、自分でもベタベタの理由分からないのかよ?!」


『なんとでも言いな!ヒャヒャヒャ……』


「あ、あの……でも、同じ女性として一応は一言。乙女として口臭が焼き肉臭いのは、どうかと思いますが……」


『気にしてること言うんじゃないよ!?』


 ローズの一言にカオリが激昂する。腰から生えた蠍の尾が、ローズ目掛けて振るわれた。


 臭いは入ってくるが、バリアを張っているので攻撃は大丈夫だろう。そう思っていたが、それは慢心だった。


 なんと、蠍の尾は易々と僕達のバリアを突き抜けてきたのだ。


「なっ?!ローーーーーズ?!」


 まさか、バリアが破られるなんて?!僕はカオリを甘く見すぎていたようだ。そう言えば、鑑定結果にリア充特攻効果があるとか書いてたが……まさか、これのことか?!


 慌ててローズを庇おうとしたが一歩遅かった。カオリの蠍の尾の先端がローズの首筋へと刺さった。


「うっ?!」


 ローズが苦悶の表情を浮かべる。僕はローズの首筋に刺さった尾を振り払おうと手刀を放つが、それが届く前にカオリは尾を引いた。


 首筋を抑えながら、グラリとバランスを崩すローズに慌てて駆け寄る。


「ローズ!大丈夫かローズ!?」


「うっ……あっ……あっ……」


 ローズの顔面は真っ青となっていた。身体もガクガクと震え、今にも倒れそうだ。


 この症状……蠍の尾……まさか毒か?!


「カオリ!ローズに何をした?!」


 ギッとカオリを睨むと、奴はニンマリと愉快そうに笑っていた。


『ヒャヒャヒャ!そいつは見てのお楽しみだね!』


「見てだと?!何を言っている?!ローズに何をした!?毒か!なんの毒を……」


「あっ!?ああ……?!」


 突如、ローズが激しく痙攣しだした。

 ガタガタと震えながら、自分の顔を抑えている。


 くっ!?しまった!?毒が回ったのか?!


 毒の対処をするには、どうすればいいのかと悩んでいると、ローズの顔に変化が起きた。具体的には、口の周りに何か青いものが生え始めたのだ。そして、それは次第に伸びていき、やがてモジャモジャとドワーフのような立派な口髭となった。


「なっ?!こ、これは?!」


 ローズの余りの変貌に混乱していると、カオリが笑いながら答えた。


『ヒャヒャヒャ!男性ホルモンだよ!即効性の男性ホルモンをたっぷり注入してやったのさ!これでその女も、今日からオネェの仲間入りさ!!』


「なっ?!」


 だ、男性ホルモンだと?!先ほど蠍の尾で注入したのは、それだと言うのか?!確かに、それなら髭が突然生えてきたのにも説明はつく。それに、心なしかローズの体つきもガッシリしているような?


 ソッとローズを見ると、彼女は自分の顔を両手で覆い隠した。


「やめて!見ないで!!」


 声まで野太くなっている?!


『ヒャヒャヒャ!いい感じのハスキーボイスになったじゃないか!!今のあんたなら好きになれそうだよ!!』


 ローズを嘲笑うカオリ。当のローズは自身のあまりの変貌にショックを受け、その場に踞ってシクシクと泣き出した。


 ローズを慰めようと近寄ろうとすると、彼女は身体を激しく揺すった。


「いや!来ないでハンス!あなたにこんな姿を見られたくないの!お願いだから来ないで!!」


「ローズ……」


 僕を拒絶するローズ。だが、その気持ちは痛いほどに分かる。焼き肉臭くなった上に、髭が生えたり、声が野太くなれば、乙女として恥ずかしいにも程があるだろう。まして、好きな人にそんな姿は見られたくないというのが乙女心だ。


 けど……。


 僕は踞るローズを、背中から抱きしめた。


「ハン……ス?」


「ローズ。僕はどんなに君が変わろうと、この君が好きだという気持ちは変わらない。絶対だ」


 強い想いを込めて宣言する。これは僕の本心からの気持ちだ。例えどんな姿になろとローズには変わらない。なら、僕の愛は変わらない!


「そんな…でも、今の私は髭モジャだし、焼き肉臭いし、体格良くなってるし、声もこんな野太いしで、女の子らしさがなくなってるのよ……」


 不安そうに僕を見るローズ。僕はそんなローズに優しく微笑みかけた。


「構わないさ。君がどんなに臭おうと、髭モジャになろと、声が野太くなろうと、しわくちゃになろうと、僕のこの愛はずっと変わらないよ!」


「!?……ハンス!」


 潤んだ目で僕の胸へと飛び込んでくるローズ。そんな彼女を僕は優しく受け止め……。


『イチャイチャしてんじゃねぇぇぇよ?!』


「「わっ?!」」


 抱き合おうとしている僕達の真上から、カオリが豪腕による手刀を振り下ろしてきた。それを間一髪で避け、二人で態勢を整えてからキッと睨んだ。


「くっ!いきなり何をするんだ!この卑怯者!」


「そうですよ!ちょっとは空気読んでくださいよ!」 


『うるせぇぇぇ!戦闘中にイチャイチャしてんじゃねぇぇぇよ?!いきなり甘い空気になるからビックリしたわ!!どんだけ頭ん中お花畑なんだよ?!糞っ、リア充の頭の緩さを舐めてたわ!!』


 荒く息を吐きながら、鋭い眼光で睨んでくるカオリ。その顔は、本気で驚いているようだった。

 

 いや、そんなこと言われてもな……僕達は普通にしているつもりなんだけど?


『エェイ!もう容赦せん!』


 カオリはそう言うと、大きく口を開いた。


「ちっ!また、あの口臭攻撃か?!あの臭いやつ!」


「きっとあの口臭攻撃よ!あの臭っさいの!あいつ絶対歯周病よ!」


 男性ホルモンを注入された恨みか……ローズの口がちょっと悪くなっている。まあ、気持ちは分からなくもない。


『テメェら絶対ぶっ殺す!!喰らえや嫉妬玉!!』


 カオリが吠えながら、その口から紫色の光弾を吐き出した。その光弾は、凄まじい速度で僕達へと向かってきた。


 先程のブレスとは違う?羅武領域ラブフィールドで防御……いや。それで先程痛い目にあったのだ。下手に受けるより、回避した方がいい!


 僕が視線で合図を送ると、ローズはコクリと頷いた。


 そして、光弾が間近まで迫った瞬間を狙い、真上へとジャンプして回避した。


 よし!上手く避けたぞ!


 そう思ったが、なんと光弾は軌道を変え、再び僕達へと向かってきた。


「ゆ、誘導弾か?!」


『そのとーーーり!!そいつは嫉妬の負のエネルギーを圧縮した塊!イチャイチャする甘いカップルを探知し、地獄の底まで追いかけ、爆破する妬みの猟犬!正に『リア充爆発しろ』を体現した必殺技!こいつからは逃げられねぇぇぜ!!木っ端微塵に吹き飛びな!ほら、更にプレゼントだ!』


 カオリは光弾の説明をすると、更に二つの光弾を吐き出した。計三つの光弾が僕達を追いかけてきた。


「くそっ!厄介なものを!?」


 悪態をつきながらローズと手を繋ぎながら駆ける。右へ左へ……時には上へと跳ねたりしてみたが、光弾は迷うことなく僕達を追ってきた。


「ハ、ハンス!あの光弾、しつこく追ってくるわよ!!」


「くっ……いっそ、迎撃する……んっ?」


 光弾を撃ち落とそうかと背後を振り向くと、光弾の一つが急速に上昇していった。それは、真っ直ぐに上へ上へと登っていく……。


 光弾が向かう先……見上げれぱ、そこには番らしき二羽のカラスが……。


「「カァ?」」


 カッ!!


 ズガァァァァァァァァン!!


 次の瞬間、辺り一帯が真っ白に光輝いたかと思えば、凄まじい轟音を伴う爆発が上空で起きた。それは、まるで太陽が弾け飛んだのかと錯覚するほどの大規模な爆発であった。その衝撃は地表にも伝わり、爆発の真下にあった建物はビリビリと震え、窓ガラスなどが割れていた。


「「…………」」


 上空を見上げる僕達は、そのあまりにもやり過ぎな破壊力にポカンと口を開けて唖然とするしかなかった。そんな僕らの耳に、カオリの小さな舌打ちが聞こえた。


『チッ!カラスの番に反応したか……』


 我に返った僕達は一目散に駆け出した。これまで以上の速度を出し、残り二つの光弾から必死に逃げ出した。


「な、なんだよあれ?!やり過ぎだろうが?!」


「しかもカラスに反応って……どんだけカップルを憎んでるのよ、あのライオンゴリラ?!」


 ローズの口が悪いが、気持ちは分かる。凄く分かる。まさか、鳥類にまで嫉妬を露にするなんて筋金入り過ぎる!


 というか、今のは上空で爆発したからいいものの、こんなん街中で爆発したらどれだけの被害が出るか分からないぞ!?


 そんな最悪な事態を想像する僕を他所に、カオリは再び口を開いた。


『オラ!更に追加だよ!!』


 更に二つの光弾を吐き出すカオリ。それを見て、僕は愕然とした……。


 あ、あいつ……また吐き出しやがったよ!?あんな破壊力の光弾をポンポンと吐き出せるなんて、正真正銘の化け物なのか?ま、まさか、無尽蔵に光弾を吐き出せるのか?!


『ゴホッ!ゲホッ?!やばっ!喉痛っ!これ出すと、扁桃腺がめっちゃ痛くなる……。後で、イソ○ンでうがいせんと……』


 よし!無尽蔵じゃないっぽい!!


 僕も扁桃腺が炎症したことがあるが、あれは辛い!つまり、あの光弾はこれ以上は易々と吐けないはずだ!


 とはいえ、この残り4つの光弾をどうするか…。

 下手に誘爆もさせられないし、何か無力化する手段は……。


 光弾の対処に悩んでいると、ローズが僕の肩をトントンと叩いてきた。


「ハンス。私に考えがあるの」


「考え?」


「うん。ただ……先に謝っておくね。ゴメン……ハンス」


 何を?……と言おうとした瞬間、僕の頬に痛みが走る。痛みの原因は、ローズが僕の頬を平手打ちしたからだった。


「ロー……ズ?」


「ハンスなんて大嫌い!」


 えっ……?


 ローズの突然過ぎる拒絶の言葉に、僕は唖然とするしかなかった。


 そんな頬を抑えながら唖然とする僕の後ろでは、光弾がピタリと動きを止めた。光弾は目標を見失ったかのように暫く辺りをウロウロとさ迷った後、急速に上昇していった。


 その光弾が向かった先。そこには、二羽の鴨がいて……。


「「グア?」」


 カッ!


 ズガァァァァァァァァン!!×4。


 再び上空で大爆発を起こした。しかも4発分の。


 大規模な爆発を起こす上空を唖然と見上げる僕に、ローズが抱きついてきた。


「ごめん!ハンス!痛かった?頬は大丈夫?」


「えっ?あ、あれ?ローズ?さっき僕のこと嫌いって……?」


「そんな訳ないでしょ!あの光弾はイチャイチャするカップルに反応するっていうなら、逆に喧嘩をしているような修羅場みたいな雰囲気なら追ってこないと考えたの。だから、辛かったけど演技をしてみたのよ」


「そ、そうだったのか……」


 ヤバい。本気で泣きそうだった。

 ここでローズに本気で嫌われてたら、本当に立ち直れないところだった。


 しかし、ローズの機転であの光弾を何の被害もなく無力化できた。鴨達には悪いことをしたが、街が無事だったのは本当によかったよ……。


 混乱から立ち直り安堵の息をついていると、カオリが憎々しげに僕達を睨んでいるのが見えた。


『糞が!ゴホッ!ゴホッ!演技などと姑息な手段を使いおって!』


「フン!女は演技をしてなんぼよ!」


 ローズ……それって、どういう……いや、今は深く考えないでおこう。ただ……女の子って怖い。


『開き直りよっゴホッ!ゲホッゴゲェ?!私の扁桃腺の犠牲をなんだと……ゴゲッゴッホ?!ちょ、タンマ!ゴホッのど飴か龍角散ない?喉ヤバ……ガゲホッ?!』


「「リュウカクサンってなに!!」」


 カオリがむせる。リュウカクサンが何か知らないが、敵である僕達に助けを求めてくる程だから、喉が相当ヤバいようだ。この様子なら、あの光弾はもう撃てまい。


 それに、むせている今がチャンスだ!


「ローズ!いくよ!」


「はい!ハンス!」


 僕達は再び互い手を握り合い、その手をカオリへと向けた。


「愛を示すため!」


「愛を貫くため!」


「「この手に愛の力を!!出でよ『慈愛剣アフロディア』!」」


 詠唱と共に、僕達の握り合う手の内に一本の光輝く剣が現れた。それは細身であるが鋭く、柄に薔薇などの華々の細工が施された芸術作品のような純白の剣……神の名を冠す聖なる剣『慈愛剣アフロディア』であった。


 慈愛剣アフロディアは、その名の通りアフロディア様の御力そのものが籠った剣である。これは愛する者同士で協力して使うことで、凄まじい力を発揮するという愛の剣。ただし、神に匹敵するその力は、下界では長時間は使えないという弱点もある。


 しかし、カオリがむせている今こそが決め時だ!


 そんな慈愛剣アフロディアが顕現すると、僕達は光に包まれる。すると、ローズの顔から髭がハラリと落ちていき、元の愛らしい顔つきとなった。更には鎧にこびりついた焼き肉の臭いも落ちていた。


 これは慈愛剣の効果の一つである、花王フラワーキングが働いたのだ。花王フラワーキングは、あらゆる穢れや状態異常を浄化する力であり、これによってローズの男性ホルモンや、焼き肉の臭いなどが浄化されたのだ。


 いつでも綺麗に美しく……ありがとう花王フラワーキング


「ハ、ハンス!私の顔が!」


「ああ、いつもの可愛いローズに戻っているよ。いつまでも見ていたいけど……まずはカオリだ」


 ローズが頷く。僕達はアフロディアをしっかりと握ると、むせるカオリへと駆け出した。


「「カオリ!覚悟!」」


『ちょ?!おま!?待っゲホッゴゲェ!?痰絡まった?!』


 喉を押さえるカオリ。あまりにも隙だらけだ。


「「問答無用!秘技!慈愛斬り!」」


 僕達は容赦なく斬りかかった。だが、そんな僕らに向けてカオリは大きく口を開いた。


 それを見た瞬間、僕は戦慄した。同時にやられたと思った。


 ま、まさか?!ここで、あの光弾を?!クソッ!むせていたのは演技か?!この回避不能の距離まで僕らを誘い込むための罠だ……


『ガァーーペッ!!』


 ビチャ。


 カオリの口から何かが吐き出され、僕らの顔にネトッとしたものがかかった。ネバネバとする白濁した粘液………………うん、痰だ。


「「………………」」


『あーー……痰吐いたら少しはスッキリした。でも、まだイガイガするな……』


 カオリはスッキリした顔で喉を撫でていた。


 僕らは剣の柄をこれでもかと握り絞めた。


「「…………せめて地面に吐けよ!!」」


 怒りのままに、二人で渾身の力で剣を振るった。


 幸い花王フラワーキングが痰を浄化してはくれたが、受けた精神的ダメージまでは拭えない。この怒りは……しっかりと受けてもらおうか!


『ウオ?!危なっ?!いきなり斬りかかるとか非常識か?!』


「人の顔に痰を吐きかける奴に常識云々言われたかないよ!!」


「オヤジかっての?!仮にも乙女なら、気を付けなさいよ!あなたがモテないのって、きっとそういうとこよ!」


『うるせぇ!分かってるよ!てか、ローズの口がどんどん悪くなるな?!刃物よりも、よっぽど私の心を抉ってくるわ?!』


 そう叫びながらカオリが僕達から距離を取る。そうして両腕を広げ、爪を構えた。その身から凄まじい闘気が溢れだす。


『もう、あれだ!遊びは終わりだ!ここからは本気の本気で貴様らを排除させてもらう!世界幾億人に及ぶ嫉妬の力……見せてくれる!』


 カオリの真剣にして、憎しみが籠った鋭い瞳が僕達を射抜く。


 ここにきて、本気を出してきたようだ。

 確かに、これまでは冗談のような攻撃が多過ぎていまいち真剣身に欠けたが、あの眼は本気のようだ。


 ならば……僕達もそれに応えるまで。


「僕達こそ、本気でいかせてもらう!」


「真剣な愛と書いて本気愛マジラブな私達の力……見せてやるわ!」


 アフロディアを構え、カオリと対峙する。


 緊張感に空気がピリつくなか……僕は本能的に悟った。


 決着は近い……と。

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