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94話 愛の力


 辺りが突然光に包まれた。

 

 いや、違う。

 正確には、僕達に向かって天から光が降り注いでいたのだ。

 

 それはあまりにも不自然な現象だった。

 何せ、空の雲の切れ目から、僕達にだけ向けて暖かな一条の光が降り注いでいるのだ。

 

 なんとも神秘的な光景である。

 

 だけど、これは……この光は一体?

 

 あまりにも不自然すぎる現象に僕とローズが戸惑い、唖然と空を見上げていると、光が差し込む天から声が響いた。

 

『祝福を。我が愛し子に祝福を与えん』

 

 そう声が響くと同時に、僕達の身体が白く輝き出した。

 

「こ、これは?!」

 

「な、何?!」

 

「な、なんだ?!この光は?!」


「「ジェラアアアア?!」」

 

 突然の現象に困惑する僕達やカオリ達。

 

 特にカオリ達に至っては反応は劇的だった。

 僕達はそれ程ではないが、カオリ達にとっては凄まじく眩しいらしく、絶叫を上げながら両手で目を覆っているほどだ。

 

 カオリなど、目を抑えながらゴロゴロと転がっているし……。

 

 とは言え、僕達も輝く自分の身体に困惑は隠せなかった。こんな不可思議な現象は初めてなので当然だろう。

 

 そんな困惑する僕達だったが、不意に理解した。

 

 いや、理解させられたのだ。

 

 この光が何なのか……僕達の身に何が起きているのか……。

 

 何より……今、この光を降らしいる者が誰なのかを。

 

 ああ……これは……この光は……。

 

 全てを理解した瞬間、僕達の身体が一際大きく輝いた。

 

「グアア?!な、なんだこの光は?!何が起きているんだ?!」

 

 カオリが目を抑えながら戸惑いの声で叫ぶ。

 

 そんなカオリの叫びが響くなか、段々と輝き収まっていき、やがて僕達の姿が顕となった。

 

「くっ……?!一体何が…………って、なんだ……その姿は?」

 

 光の中から現れた僕達の姿を見たカオリは、唖然とした表情となっていた。

 

 いや、カオリだけではない。周囲にいた黒づくめ達も、磔にされた親方や冒険者達も、困惑した表情で僕達二人を見ていた。

 

 無理もない。今の僕達の姿は先程までと全然違っているのだ。事情を知らなければ困惑もするだろう。

 

 今の僕は、先程までの普通の服装とうって代わり、全身に純白の鎧を身に纏っていた。

 力強いデザインをした純白の鎧は淡く光り輝いており、並々ならぬ神聖さを醸し出している。

 

 片やローズの方は、美しい純白のドレスを身に纏っていた。キラキラと光沢を放つドレスは神秘的であり、動く度にまるで妖精のように、美しい光の粒子を周囲へと降り撒いている。

 

 元々ローズはとても綺麗であっが、このドレスを着ることでその魅力はより増している。

 まるで聖女のような雰囲気を醸し出すローズに、僕はついつい見惚れてしまう。

 

「ローズ……綺麗だよ……」

 

「もう……ハンスったら……」

 

 顔を赤らめながら僕を見つめるローズ。

 僕とローズは互いにジッと見つめ合っていたが、そこに雑音が響いてきた。

 

「き、貴様ら!?なんだ?!なんだその姿は?!一体何が起きたんだ?!」

 

 カオリだ。

 カオリは僕達を指差しながら、口から唾を飛ばしながら叫んでいた。

 

 僕はそんなカオリをキッと睨んだ。

 

「これは、愛の神様の加護によって与えられた装備だ」

 

「あ、愛の神ぃぃぃ~~~??」

 

 カオリが理解できないといった風な表情をしている。が、無理もない。突然こんなことを言われても、意味が分からないだろう。

 

 僕達だって説明がなければ理解できなかった。

 あの光に包まれた瞬間……僕達は確かに聞いた。

 

 愛を司る神様の声を。

 

 嘘かと思うだろうが、本当だ。あの光が差し込む雲の切れ間から、確かに僕達は神の存在を感じた。

 

 偉大にして慈愛に満ちた大いなる存在を。

 

 その愛を司る神様……名をアフロディア様と名乗る神様は言った。愛し合う僕達がピンチなのを見過ごせないので力を貸そう……と。

 

 そしてアフロディア様はご自身の力の一部を加護とし、無力な僕達に授けてくれたのだ。

 

 おかげで全身に力がみなぎって回復できたし、ローズを守れるだけの力を得ることができた。

 ついでに、この鎧やドレスも、アフロディア様のお力を具現化したものなのだ。

 

 そんなアフロディア様との会話は、時間にすればほんの一瞬であった。が、不思議と僕達は全てを瞬時に理解することができた。

 

 アフロディア様の存在を。

 

 力の使い方を。

 

 愛の素晴らしを。

 

 僕達はこの一瞬で、深く知ることができたのだ。

 

 おそらく、神様の何らかの力によるものなのだろう。この時間のない緊急時に配慮してもらい、とても有難い気持ちだ。

 

 だが、それを知らぬカオリ達は困惑することしかできないだろう。これは、実際に触れあったものにしか分からないことだろうから。

 

 そんな困惑するカオリに、隣にいたローズがズイッと前に出て説明した。

 

「信じられないかもしれませんが本当です。先程、光に包まれた瞬間、私達は確かに愛を司る神様の声を聞きました……『汝らの美しき愛を守る為に力を授けん』と。そして私とハンスは愛の神様の加護を得ました」

 

「はあ~~~~??」

 

 カオリが更に困惑したように表情を歪ませる。

 

 説明をしても信じがたい……そんな感じだ。

 

 カオリはまるで詐欺師でも見るような目で僕達を見ていた。

 

「一体何を言っているんだい、あんたらは?恐怖で頭がおかしくなったのかい?まあ、いい。その早着替えがなんなのか知らないけど、ただの見かけ倒しだろう。あんたら……やっちまいな!」

 

「「「ジェラシイイイイイ!!」」」

 

 カオリが右手を振り下ろす。すると、周囲にいた黒づくめ達が一斉に襲いかかってきた。

 

 僕とローズはそんな黒づくめ達を睨みつつ、互い手を握り合った。

 

「ローズ!いくよ!」

 

「ええ!ハンス!」

 

 そう呼び掛け合うと、互いにグッと強く手を握る。すると、それに呼応するように僕達の身体が激しく発光し始めた。

 

 そして……。

 

「「ハアアアア!!」」

 

 力が溜まったところで、僕達は黒づくめ達目掛け、真っ直ぐに跳んだ。

 

 なんの工夫もない、ただの突撃である。

 だが、その速さは尋常ではない。まるで閃光のような速さで瞬時に黒づくめ達へと突っ込んでいく。

 

 そんな閃光のような速さで突撃する僕達に、黒づくめ達は一切反応できなかった。

 

「「「ジェ?ジェラシイイイイイ!?」」」

 

 彼らは成す術なく、僕達の突撃によって絶叫を上げながら四方八方へと吹き飛んでいった。

 

「な、なんだと?!」

 

 カオリが驚愕に叫ぶ。

 

 先程まで何の力も持たず、抵抗らしい抵抗もできなかった弱者である僕達の攻撃に、心底驚いているようだ。

 

 ただ、ミロクさんだけは危機感を感じていたのか、直ぐ様僕達から距離をとっていた。が、それはそれで好都合!

 

 ミロクさんが離れ、驚いているカオリ達の隙を僕達は逃さなかった。

 

「ローズ!いくよ!」

 

「はいっ!ハンス!」

 

 カオリが驚きに硬直している隙に、僕達は黒づくめ達が集まっている一帯へと着地する。

 そして、着地すると同時に、僕はローズの両手をしっかり握ると、そのままグルグルとローズを振り回した。

 

 振り回されてるローズは、回転の力を利用して周囲にいる黒づくめ達へと蹴り技を放っていく。

 

 一見乱暴に見えるが、これこそがアフロディア様より教えて頂いた直伝の技……。

 

「「愛の秘技が一つ!羅武大風ラブタイフーン!!」」


「「「ジェラシイイイイイ!?!?」」」

 

 猛威を振るう大風の如き僕達の回転技に、周囲の黒づくめ達が次々と薙ぎ倒されていった。

 

「なっ?!お、お前達ぃぃぃ?!」

 

 我に返ったカオリだが……遅すぎる!

 

 僕達は更に勢いつけ、次々と黒づくめ達を薙ぎ払っていった。

 

「おのれ!調子にのるでない!!」

 

 そんな僕達に、カオリの脇にいたドンブルダーが叫びながら水晶を放ってきた。

 

 炎や雷を纏った無数の水晶が、僕達目掛けて飛来する。

 

 だが……。

 

「「はあ!!」」

 

 僕達はそれら全てを紙一重で回避する。

 

「な、なんじゃと?!な、ならばこれはどうじゃ?!」

 

 全てを回転した僕達に驚愕するドンブルダーだったが、流石は歴戦の強者だけあって対応が早かった。

 

 バババッとドンブルダーが手を動かすと、水晶がそれに呼応して動き出した。そして、四方八方……更には上空からも、僕達を取り囲むような形で水晶が配置された。

 

「前後左右上空からの同時攻撃じゃ!かわせるもんならかわしてみよ!!」

 

 ドンブルダーが両手を振り下ろすと、それに呼応して四方八方から水晶が高速で迫ってきた。

 

 全方位からの同時攻撃……普通なら回避不能だろう。

 

 だが!!

 

「「ハッ!」」

 

 僕達は互い手を取り合いながら、飛んでくる無数の水晶を紙一重で回避していった。

 

 そして、更に……。

 

「「ハッ!ハッ!ハアアアア!!」」

 

 時に素早く……時に急停止したりと、僕達は緩急をつけた様々な動きをもって水晶を回避する。

 

 そんな、まるでダンスでも踊るかのように息の合った動きで水晶をかわす僕達の姿に、ドンブルダーは目を剥いた。

 

「な、なんじゃと?!こ、こんな馬鹿な?!儂の飛晶術による攻撃を悉くかわすじゃと?!しかも明らかに死角から迫る水晶も、まるで見えているかのようにかわしおる!い、一体何が起きておる?!」

 

 自慢の水晶による攻撃が通用しないことに慌てふためくドンブルダー。そんな彼の隣では、剣豪のモサシが険しい顔つきで僕達を見ていた。

 

「ムムッ……あの、まるで攻撃を余地しているかのような動き……あれはもしや……」

 

「何か知っておるのか、モサシよ!」

 

「ウム……あの危険を事前に察知して回避するような動き……あれはもしや、伝説とされる危機察知術『愛最斗アイサイト』やもしれぬ……」

 

愛最斗アイサイトじゃと?!な、なんじゃそれは?!」

 

「それは……」

 

 愛最斗アイサイトとは!……かつて、人々の安全と安心と笑顔のために闘い続けた愛に溢れる伝説の武闘家、『スバル』が考案したとされる奥義である。特殊な方法で鍛えた視力により、360°あらゆる方位から迫る危機を察知し、これを寸前で回避することを可能とするという。

 尚、余談ではあるが、後に考案されて発明された、馬車に搭載する危険察知装置『アイサイト』の語源になったという……。

 

 引用─『世界奥義大全その3:著 ブドー=ダイスキー』より。

 

「というものだ……」

 

「なんじゃと?!何故そんな奥義をあんな若造が?!」

 

「昴は後年『己の奥義を極めんとする者は、他者へ深い愛情を持てし者だけなり』と口伝を遺していたそうだが……まさか」

 

「なんじゃ、その訳の分からぬ口伝は?!そんな理由で奥義を極められたら、たまったもんじゃないぞう?!」

 

 ドンブルダーが口から唾を飛ばしながら信じられないと叫ぶ。

 

 が、モサシの説明の通り、僕達が使っている技は愛最斗アイサイトだ。アフロディア様からの加護を得た時、同時に複数のスキルと、それを扱うための知識も与えてもらったのだ。これも、その一つである。

 

 無力だった僕達が、こんなに動けるようになるなんて……アフロディア様には本当に感謝しかない。

 

 次々と迫る水晶を避けながら、僕達はドンブルダーへと距離を詰めていった。

 

「ムッ!水晶を操る本体たるドンブルダー狙いか!だが、させんぞ!」

 

 距離を詰める僕達に気付いたモサシが、手にしたカタナを勢いよく振り抜いた。

 

「秘剣!鎌鼬!」

 

 モサシの振り抜いたカタナの先。、そこから三日月のような形をした斬撃が僕達向かって飛んできた。

 

 生ける伝説である剣豪モサシが放つ斬撃だ。その鋭い一撃は、岩すら易々と切り裂くであろう。

 

 だが、僕達はそんな斬撃に対し、正面から立ち向かった。

 

「「愛の奥義!羅武領域ラブフィールド!」」

 

 僕達が叫ぶと同時に、周囲に淡いピンク色をしたバリアのようなものが展開された。

 当然、モサシから放たれた斬撃がこのバリアに衝突するが……斬撃は跡形もなく霧散した。

 

「な、なんだと?!」

 

 モサシがあまりの驚きに目を見開いた。が、直ぐ険しい顔つきとなり、手にしたカタナを更に振るってきた。

 

「おのれ!舐めるなよ小僧共!これならばどうだ!秘剣!鎌嵐!!」

 

 モサシが目にも止まらぬ速度でカタナを振るうと、先程の斬撃が嵐のように降り注いできた。

 

 だが、いくら斬撃を放とうと、僕達の羅武領域ラブフィールドは小揺るぎもしなかった。

 

「な、なんだと?!こ、こんな馬鹿な?!わ、我の剣が通用せぬだと?!」

 

 斬撃を放ち続けるモサシだが、傷一つ付かない僕達の羅武領域ラブフィールドの頑強さに、焦りと困惑が入り雑じった表情となった。

 

「なぜだ?!何故斬れぬ?!我が剣が何故通用せぬ?!」

 

「無駄だ、モサシよ!このバリアは如何に剣豪である、あなたであろうと斬れぬ!」

 

「なにっ?!」

 

「何故ならば、このバリアは私達の愛の強さそのもの!」

 

「僕とローズ。僕達の互いの愛が深く、強い程にその強度を増す絆のバリア!」

 

「「即ち!誰にも砕けぬ!斬れぬ!無敵のバリア也!」」

 

 ローズと声を揃えて宣言する。

 

 モサシは一瞬キョトンとしていたが、段々と顔が赤くなり、やがて青筋が立ったかと思えば、そこから血を吹き出した。

 

「なぁぁぁにぃぃぃがぁぁぁ愛だぁぁぁ!ならば尚更負けられぬわぁぁぁ!!その愛とやら、叩っ斬ってやるぅぅわぁぁ!!」

 

 怒りの頂点に立ったモサシが、先程の倍以上の速度で斬撃を繰り出してきた。その威力も倍以上であり、モサシが本気であるのは明らかであった。

 

「モサシよ!手を貸すぞ!あんな戯れ言を吐かれて黙ってられんわぁぁぁ!!」

 

 モサシの隣にいたドンブルダーも眉間に青筋を浮かべながら、炎などを纏った水晶をぶつけてくる。

 

 激しい衝突音がバリアから響いてくる。が、それでも僕達のバリアには傷一つ、つかない。

 

「なぜだ?!何故我らの技が……」

 

「「無駄です!僕達の愛は絶対にして不屈!即ち、絶対にこのバリアが破られることはありません!」」

 

 ギュッとローズと手を握り合いながら、声を揃えた。

 

「「うぅぅぅおのれぇぇぇぇぇ!!イチャイチャしおって、このリア充共がぁぁぁぁ!!」」

 

 怨嗟の雄叫びを上げ、ドンブルダーとモサシは更なる力を込めて、ひたすら攻撃を繰り返す。だが、既に肉体の限界が近いようだ。モサシ達のこめかみに浮かぶ血管や口などの至るところからは、おびただしい量の血が噴き出している。

 

 あんな状態になっても、まだ攻撃し続けるなんて……凄まじい執念だ。

 

 だが……負ける訳にはいかない!

 

「ローズ!」

 

「ハンス!」

 

「「いくよ!羅武ラブ羅武ラブ羅武注入ラブチュウニュウ!」」

 

 ローズと心を一つにし、バリアへと更なる愛の力を込めた。すると、僕達のバリアが注がれた愛の強さに比例して急速に広がり、モサシ達へと迫っていった。

 

 そんな徐々にに迫る僕達のバリアを、モサシ達は血眼になった目で睨み付けていた。

 

「おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれぇぇぇぇぇぇ?!こんな馬鹿なことがあるかぁぁ!この我がリア充なんぞにぃぃぃ?!」

 

「あり得ぬあり得ぬあり得ぬあり得ぬあり得ぬあり得ぬあり得ぬあり得ぬあり得ぬあり得ぬあり得ぬぅぅぅぅ!!この儂が、イチャイチャしてるだけのバカップル如きに圧されるなど?!」

 

 成す術もなく、僕達のバリアに圧されるモサシ達が悔しげな声で叫ぶ。

 

 ……彼らにも譲れないものがあるのだろう。だが、僕達にだって絶対に譲れないものがある!このままバリアで押し潰す!

 

 そう思った時だった。圧されるモサシ達の背後に、カオリが降りたった。

 

「モサシ!ドンブルダー!もう少し堪えなさい!今、勇者の加護で力を与えるわ!受け取りなさい!│超怪力巨獣化ギガアニマックスパワー!」

 

 そう叫びながらモサシ達へと手を掲げるカオリ。

 すると、モサシ達の身体がみるみる変化した。

 

「「オオオオ!ち、力がみなぎる!」」

 

 メキメキと音を立てながら、モサシ達の身体が巨大化する。服を破り、筋肉があり得ない程に膨れ上がる。やがて、二人は全身から狂暴なまでの殺気を放つ人間凶器と変貌した。

 

「オオオオ!素晴らしい!これまで感じたことのない程の力が溢れますぞ!この力があれば、奴らなど一捻りです!」

 

「若さと力が溢れますぞおお!!感謝致しますぞ総統!この力は全て総統閣下のためにぃぃぃ!!」

 

 力を得たことに、恍惚とした表情で歓喜の叫びを上げるモサシ達。そんなモサシの背後にいるカオリは、僕達を指差しながらモサシ達へと指示をだした。

 

「さあ、いきなさいお前達!あの愛の神だとかと戯れ言をほざく馬鹿共に、我々持たざる者達のハングリー魂を見せてやりなさい!」

 

「「オオオオオオオ!総統閣下の命のままに!」」

 

 モサシ達は身体から蒸気を吹き出しながら、僕達のバリアへと更なる攻撃を開始した。

 モサシは強化した豪腕をもってカタナを振るい、ドンブルダーは両手に水晶を握ってバリアへと叩きつけてくる。

 

 ギンギンガンガンと轟音が鳴り響く。

 

 モサシ達の攻撃は正に怒涛の攻めと言えるものであり、一撃一撃に必殺の威力が込もっていた。

 そのあまりの攻めに、僕達のバリアがギシギシと軋みはじめた。更には細かな皹が入りはじめた。

 

 先程とは打って代わり、僕達の方が圧されだした。


「グハハハ!皹が入ったぞ!!お主らの愛の力とやらも大したことないな!!」

 

「偉大なる総統閣下のお力の前にはこの程度よ!このままバリアごと、貴様らを叩き潰してくれるわ!」

 

 バリアに皹が入ったことで、モサシ達は愉悦の表情を浮かべる。更なる力を込めてバリアを叩きつけてくるが……僕達に焦りはなかった。

 

「ローズ!」

 

「はい!ハンス!」

 

 互いに呼び掛け合うと、僕達は握り合っていた手を後ろへと引く。そして、その引いた手の先へと愛を……力を集中した。

 

 キンキンキンと甲高い音を鳴らしながら愛が収束していく。やがて僕達の手の内には、ピンク色に激しく光る愛のエネルギー体が現れていた。

 

「ムッ?なんだ、その妙な力を感じるものは?!貴様ら、何をする気だ?!」

 

 手の内に現れた愛のエネルギーにいち早く気付いたのはドンブルダーだった。

 賢者と呼ばれる魔法の第一人者だけあって、この愛のエネルギーが、ただならぬ気配を醸し出していることに気付いたらしい。

 

「モサシよ!あのエネルギーはただ事ではない!あれを好きにさせてはならぬぞい!!」

 

「おおっ!ならば、何かする前に叩き潰してくれるわ!」

 

 モサシとドンブルダーが渾身の力を込めてバリアを殴りつける。その度にバリアのひびが広がっていく。

 

 そして、遂にバリアがガラスの割れるような音を鳴らしながら、木っ端微塵に砕け散った。

 

「「貰ったああああ!!」」

 

 バリアが砕けたことに勝機を見いだしたのか、モサシ達は凶悪な笑みを称えながら、止めとばかりに拳とカタナを振り下ろしてきた。

 

 だが……もう遅い!

 

 僕とローズはモサシ達の攻撃が届くより早く、愛のエネルギーが込めらた手を勢いよく前へと突き出した。

 

「「僕・私達の愛の力の真髄をくらえ!愛の秘技!覇津飛威宴怒ハッピーエンド!」」

 

 突き出した拳からピンク色の愛のエネルギーが、ハート型となって勢いよく迸る。それは、凄まじいまでの破壊力を伴いモサシ達……ではなく、その背後にいるカオリへと向かった。

 

「「なっ?!」」

 

 自分達の脇を通り越していくエネルギーに、モサシ達が驚愕に目を見開く。

 

 そう……最初から僕達の狙いはカオリだ。

 

 この不毛な闘いを終わらせるためには、大元であるカオリを倒すのが一番良いと判断したのだ。

 そのため、わざとモサシ達の意識をバリア破壊へと集中させたのだ。

 

「なっ?!」

 

 迫るエネルギー体にカオリが焦りの表情を見せた。

 

 カオリ……ここでお前との不毛な闘いは終わりにする!!

 

 そうして、僕達の愛のエネルギーがカオリを貫いた……。


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