表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/155

93話 絶望へのカウントダウン

こちらのミスで、別の作品の話を上げてしまいました。誠に申し訳ありません。

こちらが新しい話になります。

「うっ……」


 やがてくるであろう衝撃に備えていたが、一向に何もおこらなかった。


 ミロクさんの何だかヤバい攻撃……あれが私にも来ると思ってたんだけど?


 意を決っし、瞑っていた目を開くと……。


 目の前には見慣れた彼の背中が見えた。


「ハンス?!」


 慌てて呼び掛ければ、彼は顔だけ動かして私へと振り向いた。


「や、やあ……ローズ。大丈夫かい……?」


 そう言って微笑むハンス。


 だが、声が妙に震えている。


 まさか?!


 よくよく見れば、ミロクさんの手がハンスの股間に深々とめり込んでいた。


 ああ……なんてことなの?!ハンスは私を庇ってミロクさんの攻撃を受けてしまったのだわ!?


 庇ったつもりが庇われるなんて?!


 あまりの惨状にわなわなと震えるしかない私。


 すると、ハンスの股間を貫くミロクさんが優しげに微笑んだ。


「愛するものを身を呈して庇う……見事でしたよハンス様」


 その言葉は、心の底からハンスを称賛したものだった。


 だけど……。


「故に……とどめはしっかりと刺させていただきます」


「えっ?」


 ミロクさんが続いて放った言葉が理解できなかった。


 とどめ……?とどめって……嘘……!?


 言葉の意味を理解した時には遅かった。


「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


「唆鬼愉芭洲流快楽絶頂拳さきゅばすりゅうぜつちょうけん:奥義『極楽昇天』……終極!『逝通手羅射慰いってらっしゃい』」


 ハンスの股間を貫くミロクさんの手が、グイッとひねられた。


 瞬間……。


「ンハァァァァァァァァァァァァァ……あっ」


 ハンスが何とも言えない悲鳴を上げながら、その身体を大きく跳ねさせた。


 ハンスは海老反りでビクビクと跳ねた後、急激に静かになり、そのまま仰向けに倒れてしまった。


「ハンスゥゥゥ!!」


 慌てて倒れ付すハンスへと駆け寄り、その手を握った。


 虚空を見つめるハンスの表情はこの世の全てを悟った賢者のようであり、更にはどこか満足そうな雰囲気すらあった。


「ああ……ハンス!しっかりしてハンス!」


「ロー……ズ……無事……かい?」


 私が語りかけると、ハンスが弱々しく答えた。


 けど、表情は虚ろで弱々しい。

 今にも永遠の眠りにつきそうである。


「ああ……ハンス…こんなになってまで私の心配なんて……。私より、あなたの方が……」


 ハンスの手を握ると、自然と目から涙が零れ落ちた。その涙は虚ろな表情のハンスの頬へと落ちて濡らす。


 そんな悲しみにうちひしがれる私の耳に、甲高い笑い声が聞こえた。


「うひゃひゃひゃひゃ!サイッコー!めちゃくちゃサイッコー!予定とは違ったけどハンスくんの無様な姿が見れてサイッコー!ぶひゃひゃひゃひゃ!」


「「「「ジェラハハハハハハ!!」」」」


 カオリと黒づくめ達だ。

 彼女らはハンスを指差しながら、耳障りな笑い声を上げていた。


「うひゃひゃひゃひゃ!!よくやったわミロク!」


「お褒めにあずかり光栄です」 


「「「ミロク!ミロク!ミロク!ミロク!」」」


 ミロクさんが恭しくカオリへと頭を下げる。

 そんなミロクを黒づくめ達が称える。


 それを見ていると怒りが込み上げてきた。


 なんで……なんでこんな酷いことをして笑っていられるの?なんで平気で人を傷付けられるの?

 なんでハンスが……私達がこんな目に会わなければならないの?


 私達はただ……お互いが好きだった……。


 それだけなのに、なんで……?


 なんでこんな酷いことをするの?


 多くの疑問が湧いてくるが、それに答えてくれる者はいない。怒りが湧いてくるが、力が無い故にどうすることもできない。


 恨めしい。何もできない自分が恨めしく、悔しく、情けない。


 力があれば……強い意思があれば……彼を……愛するハンスを守ってあげられるのに……。


 ハンスの手を握りながら嘆いていると、カオリが私達を見ながらとんでもないことを言い出した。


「ブヒャヒャヒャヒャ!!さぁぁぁて!中々楽しませてもらったけど、これはこれ。それじゃあ、ハンスくんを拘束して兄貴の園へ連れてきましょうか」


「?!」


 私は戦慄した。


 これだけハンスくんに酷いことをしておいて、まだ責めたりないと?

 なんなの!?このカオリって女の子は一体なんなのよ!?なんでそこまで残酷になれるの?!


 このカオリって娘は悪魔よ!人の皮を被った悪魔よ!現に、彼女はまるで悪魔のような笑みを見せているもの!


「させないわよ!!」


 そんな悪魔的笑顔のカオリの背後から、ゴルデさんが斬り込んだ。


 しかし、なんとカオリは背後を振り返ることなく、手にした剣でゴルデさんの剣を軽々と受け止めた。


「ビヒャヒャヒャヒャ!なんだい、まだやるのかい?ゴルデさんよぅぅぅ?」


「当たり前よ!あんたよくもハンス君を……あんな純粋そうな男の子を!!」


「純粋?ビヒャヒャヒャヒャ!笑えるわね!純粋なんてただ無知な者を綺麗に繕って言っただけじゃない!純粋とは、現実を何も知らぬ愚か者の称号!私はその無知な者に現実の厳しさを教えてあげただけよ!大人の現実をね!感謝こそされ、非難される覚えはないわね!」


「このぉ……!」


 ゴルデさんが更に苛烈に剣を振るうが、カオリはそれらをいとも容易く捌いていく。


 しだいにゴルデさんの表情に焦りが見えはじめた。


「くっ?!馬鹿な!?カオリが規格外なのは知ってるけど、ここまで高度な剣技を使えるなんて!?」


「ビヒャヒャヒャヒャ!驚いた?私は驚いているわ!だって身体が勝手に動いてるんだもん!なんかアスモデウスに身体が引っ張られる感じ?」


「乗っ取られかけてるから!?悪いこと言わないから早くその剣手放しなさいぃぃぃ!!」


 ゴルデさんが叫びながら剣を振るう。


 すると、ゴルデさんと打ち合うカオリの背後から、二つの人影が飛び出した。


「貴様ぁぁぁ!よくも儂の弟子を!!」


「ローズの恋人によくも!許さないよ!」


 親方さんと女将さんだ!

 二人が駆けつけて来てくれた!


 親方さん達は鬼のような形相で武器を振るう。


 しかし、その二人の後ろからはモサシ達が追ってきていた。

 どうやら二人はモサシ達との戦いを一時中断し、カオリに狙いを定めたようだ。


 直ぐにモサシ達が追い付いてくるであろうが、一時とは言えカオリはゴルデさん・親方さん・女将さんの三人を相手どることになった。


 3対1。これは圧倒的だ!


 頭のカオリを倒してしまえば敵側の指揮は一気に下がるだろう。


 そうなれば勝機はある!


 私は各々の武器を振るうゴルデさん達を祈る気持ちで見ていた。


「「「覚悟!!」」」


 ゴルデさんの剣が…親方さんの鎚が…女将さんの鞭がカオリへと迫る。


 これは決まった!!


 そう確信を得た。


 ……だが、この時に私は気づくべきだった。


 カオリが三人を相手どる絶望的状況に関わらず、その悪魔的笑みを崩さなかったことに……。


「ギヒヒヒヒ!かかったね?さあ、その力を解放しな!『妬めアスモデウス!』」


 カオリが剣を構えながら叫んだ。


 すると、カオリが持つ剣が紫色の怪しい光を放った。そして、次の瞬間には剣から薄紫色の煙がブワッと吹き出し、ゴルデさん達を包み込んでしまった。


「なに?!こ……れ……は……ぐっ?!」


 バタリ。


 すると、煙に包まれたゴルデさんが倒れてしまった。


「なっ?!嬢ちゃん?!くっ!毒か……ぐふっ!」


「ドリック!?ぐっ?!ちく……しょう……身体が重……い?足が……」


 親方さんや女将さん達までもが次々と倒れ、その場にはカオリだけが堂々と立っていた。


 ゴルデさん達は倒れて動けないようだが、それでも意識はハッキリとあるらしく、悔しげにカオリを睨んでいた。


「ビヒャヒャヒャヒャ!!どう?アスモデウスの『妬みの霧』は?良く効くでしょう?」


 カオリが勝ち誇ったように声を上げる。


「ね、妬みの……霧?なによそれ?!カオリ……あなた私達に一体何をしたの?!」


 声を荒げて叫ぶゴルデさん。

 そんなゴルデさんに、カオリが得意気に笑った。


「フフ……この『私、アスモデウスの妬み霧とは、その名の通り嫉妬を具現化した力!それは他者の足を引っ張る霧であり、その効果は吸い込んだ者の首から下の身体機能を麻痺させ、動きを封じることができるのです!しかも痛覚などはそのままなので痛めつけ放題!更には解毒などによる解除は不可能!更に更に!所有者の嫉妬の力が強ければ強い程にその効果はより強く!より長く!その威力を増す!この所有者は素晴らしい!これ程、嫉妬に狂った者は初めてだ!今の私ならば、あの憎っくき神をも屈服させることができるでしょお!!おっと……少々前にですぎました。失礼』アスモデウスは……あれ?私なんか喋ってた?」


「カオリィィィ!早くその剣ポイッしなさい!乗っ取られてる!もう結構手遅れなとこまできてるからぁぁぁ!!」


 な、なんかカオリの声が二重に聞こえたような気がするんだけど気のせいかな?


 いや!今はそんなことを気にしてる場合じゃない!どうしよう!ゴルデさんや女将さん達が動けなくなるなんて……。


 そ、そうだ!あのシルビさんっ魔法使いの人は!


『クハハハ!シルビは下した!これで私が銀髪魔法使い代表だ!私こそが銀髪最強にして唯一無二の存在だ!』


「くっ……ちくしょうが……」


 声がした先を見れば、シルビさんはカオリの副官によって足蹴にされていた。


 お互いボロボロの服装なんで、かなりの激戦だったみたいだけど……。


『クハハハ!さあ!あとは勝者の特権だ!このメル婆のとこで手に入れた永久髪染め薬『エターナルブリーチ(ピンク)』でその髪をピンクに染めてやんよ!』


「や、やめろぉぉぉ!?私のアイデンティティを汚すなぁぁぁぁ!」


『へへっ!何がアイデンティティだ。今日から銀髪魔法使いの特権は私だけのもんだ!お前はこれからピンク髪の痛々しい姿の魔法使いになりな!おまけにメル婆のとこで買った『呪われた魔法少女用戦闘服(妖精メイドタイプ:対象年齢12歳)』をつけてやるよ!これで痛々しさが倍増だぜ?二十歳過ぎた女が、少女用のサイズがピチピチの魔法少女服を着てるなんて見ものだぜ!』


「やめろぉぉぉぉぉぉぉおおおお!」


 あっちはあっちでかなり殺伐とした状況となっていた。


 シルビさんに助けは求めれない。

 ならば他の人に……と思って周りを見て絶望しました。


 なんと、既に他の冒険者の人達は全滅していたのです……。


 どうやら先程のカオリが放った霧に多くの冒険者が巻き込まれたようです……。

 そして戦力が減った冒険者を黒づくめや駆けつけたモサシ達が一網打尽にしたと……。


 ああ……もうダメだよ……ハンス。


「総統!ご無事ですか?!」


 モサシの声が聞こえた。

 カオリの方を向けば、モサシ達がカオリへと跪いていた。


「総統……申し訳ありませぬ。あやつら中々の腕前でして止めきることができませんでしたじゃ…」


「申し開きの言葉もありませぬ……」


 そう言って親方さん達を止めきれなかったことを謝罪するモサシ達。

 カオリはそんなモサシ達を見ながらニヤリと笑った。


「なんだい?何を謝る必要がある?お前達は私の見せ場をつくってくれたのだろう?ならば、誉めることはあっても責める必要などあるまいに」


「「?!……そ、総統?!」」


「立て。お前達二人はこれから成長していく我が組織に必要不可欠な存在。そんな二人がこんな些末なことでいちいち頭を下げるな。無論、ここにいる一人一人がそうであるがな」


 そう言って周りを見るカオリ。


 その言葉を聞いたモサシ達や黒づくめは、感動したように潤んだ瞳でカオリを見ていた。


 中にはあまりの感激に咽び泣く者達もいた。


「そ、総統閣下!改めて貴女様に忠誠を!」


「この剣、この身は総統閣下のために!!」


「「「我ら一同総統閣下に永遠の忠誠を!」」」


「「「総統閣下万歳!総統閣下万歳!」」」


「「「不時者解放戦線に栄光あれ!!」」」


 激しい熱狂が場を支配した。


 モサシ達も黒づくめ達も心の底からカオリを称えていた。

 カオリは大仰な身振りで手を広げ、黒づくめ達の声援に応える。


 その様子は一種の宗教画のようで、こんな状況だというのに何故か目を奪われてしまった。


 その時……熱狂の渦の中心にいるカオリと目があった。


 彼女は私に向け、悪魔的な笑みを見せた。


 瞬間、私の全身を寒気が襲った。


「ヒヒヒ……さて……それじゃあメインイベントといきましょうか?思わぬゲストも入ったことだし、せっかくなんでゲストも含めてイベント開催といきましょうか?」


「ゲストも含めてとは?」


 モサシが不思議そうに聞くと、カオリはニンマリと笑いながら親方さん達を見た。


「まず、男性陣は予定通り『兄貴の園』へ連れて行き、プレイ内容を『兄貴達による師弟コンビの突貫穴堀り工事!これで皆穴兄弟♪』に変更よ」


「「「イカれてるがイカしてるぜ総統!」」」


「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ?!」


 黒づくめ達が歓声を上げ、親方さんが怒声を放った。


「んで女子は……『店長いけません!女店主と女店員の禁断の百合百合花園スペシャル』プレイでいこう」


「「「ヒャッホウウウ!総統愛してます!」」」


「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!?」


 黒づくめ達のボルテージが上がり、女将さんが怒声を放った。


「ゴルデは…………M字開脚で木にでも固定して『カモンベイベー』って看板を首にでもかけておくか」


「「「放置プレイ!ゲスイがイカしてるぜ!」」」


「カオリィィィィィィィィィ!?」


 黒づくめ達が口笛をかき鳴らし、ゴルデさんが吠えた。


「他の冒険者は……ミロクにあげる」


「感謝感激感無量」


「「「お、犯されるぅぅぅぅぅ!?」」」


 ミロクさんが感謝を述べ、冒険者達が絶望の表情で絶叫を上げた。


 そんな怒号を上げる親方さん達を、カオリは楽しげに見下ろしていました。


「ヒヒヒ!さあ、みんな祭りよ!今宵は存分にリア充共をなぶり殺しにしてやりましょう!」


「「「ウオオオオオ!!」」」


 黒づくめ達が腕を振り上げ熱狂する。


 黒づくめ達は怒声を上げる親方さんと女将さんをどこからか持ってきた十字架に磔にし、それをワッショイワッショイと担いでいる。


 冒険者達も次々と捕まり、親方さんと同じように磔にされる。


 ゴルデさんがM字開脚に固定され、シルビさんが痛々しい魔法少女姿となっている。


 ブロズさんは何か端っこで悶えてる。


 怒号と熱狂が渦巻くその光景を、私は呆然と眺めていた。


 あまりにも非現実的過ぎる光景に思考が追い付かない。


 なんなの……これは?ここは地獄なの?


 もうどうしていいか分からず、ただただ呆然とするしかない。


 頭がボヤーとしてうまく働かず、何故ここに自分がいるのかも分からなくなり、意識が曖昧とする。


 私は……。


 そんな時、不意に手に微かな感触を感じた。

 見れば、ハンスが弱々しくも私の手を握っていた。


「ハンス!」


 急速に意識が覚醒する。


 慌てて彼に語りかければ、ハンスは目を開けて弱々しくも確かな口調で語り出した。


「ローズ……今のうちに僕を置いて早く逃げるんだ……」


「?!……そんなことできるわけがないわ!あなたを置いていくなんて?!」


「いや……置いていくんだ……。あいつらの一番の目的は僕だ。僕を置いていけば奴等の目を引けるはず……。その隙に全力で逃げるんだ……」


「嫌よ!そんなの!?」


 彼の案を全力で否定した。


 彼を置いて逃げることなど私にできるはずがない!


 彼はそんな私を聞き分けの無い子供を見るような目で見ながら苦笑した。


「お願いだ……。僕の言うことを聞いてくれ……」


「嫌よ!逃げるなら、あなたも一緒に!!」


「こんな状態の僕じゃ……足手まといになるさ」


 そう言って彼は自分の股間を見た。

 そこには大きなシミが広がっていた。


「情けない話……さっきのミロクさんの一撃で足腰が立たないんだ。だから僕を置いていってくれ。君のお荷物にはなりたくないんだ……」


「ハンス……」


 私を安心させるように微笑むハンス。

 そして私のに握っていた手を離すと、彼は真剣な表情となった。


「行ってくれ……ローズ。君だけでも助かってくれ」


「そんな……ハンス……」


「ゲヒャヒャヒャヒャ!!なんだい?お別れの挨拶でもしてるのかなぁぁ?」


 耳障りな笑い声がする。

 見れば、カオリがニヤニヤと嫌らしい笑みをしながらゆっくりと近付いて来ていた。


「ヒャヒャヒャ!愛し合う恋人同士の最後の別れってか?いいねぇいいねぇ!なんとも感動的過ぎてヘドが出そうだよ!!ああ、全く忌々しい!何が愛だ恋だ!見ていて腹立だしいよ!そうだよね、お前ら?」


「「「ジェラシィィィィィイ!!」」」


 カオリの言葉に黒づくめ達が賛同の声を上げる。

 辺りを見れば、いつの間にか私達は完全に包囲されていた。


「ギヒヒヒヒ!もう逃げ場はないよ。さあ、観念して兄貴に身を委ねな。なぁに……天井のシミを数えている間に終わるだろうさ」


「くっ……そんな……」


 ニタリと嫌らしい笑みを浮かべるカオリに、私達を嘲笑う黒づくめ達。


 私とハンスは絶望のドン底に落とされた。


 カオリの顔や態度に怒りを覚えるも、なんの力もない私にはどうするもこともできない……。


 私にはできるのは、神様に助けを願うことだけだった。


 ああ……神様……。

 もし、あなた様がおわすならば、どうかハンスだけでもお助けください……。

 私の身はどうなろうと構いません。ですからどうか…ハンスを…私の愛する人をお助けください。


 そう願いながら私はハンスの手を握った。

 すると、ハンスも手を握り返してきた。


「ハンス……」


 ハンスを見れば、彼は私をジッと見つめてきた。

 弱々しくも、どこか強い意思を感じる瞳で。


「ローズ……これが最後かもしれないから君に伝えたいことがあるんだ……」


「なぁに、ハンス?」


 そう問うと、ハンスは恥ずかしそうに微笑んだ。


 そして……。


「僕は……君が大好きだ。君を愛している」


 愛の告白。


 ハンスから語られた何の飾りもない、ただ愛を告げる言葉。


 その言葉に私の胸は高鳴る。


 こんな時だというのにどうしようもなく嬉しくて仕方がない。


 だって好きな人から告白が嬉しくない訳がない。


 私は暫しその愛の告白を心の中で反芻し、ぐっと噛み締めた。


 それから、ジッと私の返事を待っているハンスへと微笑みかけた。


「ハンス……私も大好き。愛してる」


 飾りのない言葉に私も飾りなく応えた。


 ただ、飾りはなくとも嘘偽りが一切無い愛の言葉を。


 すると、ハンスは顔を赤らめながら満面の笑みを見せた。


「ローズ……ありがとう。最高に嬉しいよ」


 ああ……ハンス……。

 私はそのあなたの笑顔が大好き。

 お日さまのように温かく、そよ風のように優しいその笑顔に私は惹かれたのよ……。


「私もよ……ハンス。今日は私にとって最良の日よ」


「ローズ……」


「ハンス……」


 互い名を囁き合う。


 私達二人は自然と顔を寄せ合ったた。


 そして……私達の唇が重なった。


 


 


 


 

 その瞬間、辺りが光に包まれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ