プロローグ:異世界に召喚された?!
はじめましてアブ・とろです。
完全に趣味で書いた作品です。
たどたどしい文章ですが、よろしければ読んで下さい。
どうも、初めまして。
突然ですが、私の名前は愛原香。今年で17歳になった高校2年生です。
趣味は読書。小説から漫画まで色々と読みます。最近は特にネット小説を読み漁っていて、ついつい夜更かししてしまい寝不足気味です。特技はこれといってなく、敢えて言うならば多少の小物作りといった、どこにでもいるようなインドア派の女子高生です。
さて、そんな普通の私ですが、現在普通ではないことに巻き込まれています。
というのも………………。
「おぉ!!よくぞ我が願いに応えてくれました!!勇者様よ!!」
と、私の目の前で王冠を被り、豪華な服を着たふくよかなおじさんが、感激したような顔で大袈裟に叫んでいるのです。
別に願われてもいないし、答えた覚えもないのに、見知らぬ人にそう叫ばれて非常に戸惑っています。
周りを見れば、妙なローブを纏ったおじさんや、鎧を着たおじさん。それに豪奢な服を着たおじさん達などが同じように感激の声を上げています。
何だこのおじさん率?この場には、おじさんしかいないの?おじさんのゲシュタルト崩壊でも起こす気なの?
てか、おじさん臭っ!ムワッとする。換気してよ誰か!
後、勇者ってなんですか?勇者ってあのファンタジーの?頭おかしいんですか?おじさん方は揃って厨二病を未だに患っていらっしゃるんでしょうか?
というか………あなた方は誰で此処は何処ですか?
こんな西洋風の宮殿みたいな場所も、こんな王様や鎧姿のコスプレしたおじさん方に囲まれるようなシチュエーションやイベントにも巻き込まれた覚えはないんだけど?
確か………放課後の教室で帰り準備をしていて………そしたら足下が光って………そしたら見知らぬ中世ヨーロッパ風の宮殿の広場にいて。勇者と呼ばれ………。
………………………………………まさか、『異世界転位』とか………?
いやぁ、ないない。流石にそれはないでしょう?いくら私がサブカルチャー好きで、最近は異世界ものの小説を良く読んでいたからってそれは………。
多分、知らないうちにテレビのドッキリとかに巻き込まれたのかな?
きっと………ハハハ。
「よくぞこの世界。『エデルシネア』においで下さいました!異世界の勇者様よ!!」
「カメラどこだぁぁぁ?!」
「ゆ、勇者様?!」
「ドッキリか?イタズラか?それとも、人間〇ニタリングかぁぁぁ!?じゃなきゃ、こんなの普通にあり得ないでしょぅぅぅぅ!?!プロデューサーと仕掛け人を出せぇぇ!!」
こんな事が現実に起こる訳がない!!こんなのは、いたいけな女子高生を捕まえたテレビ番組の収録に決まっている!!きっと何処かでカメラマンが、にやついた顔でカメラを回している筈だぁ!!
「ゆ、勇者様が錯乱なされたぁぁ?!」
「し、召喚の副作用か?ともかく、勇者様をお止めしろ!!」
「ハッ!勇者様、失礼しま……………痛っ!脛痛っ!!」
「何をやって………………脛イッタァァ!!」
「気をつけろ!!勇者様が執拗に脛を狙ってくる………………脛痛っ!!」
「宰相様?!駄目だ!!近付くな!刺股だ!刺股で押さえるんだ!!」
「ゆ、勇者様を刺股で?!い、いや………仕方ありません………勇者様!!失礼…………痛っ!?目がぁぁぁ?!」
「何を…………イタッ?!目に何か入った?!」
「つ、唾だ!唾を的確に目に飛ばしてきている!!勇者なんやの前に、女性としてどうかと思うが意外と技巧派だぞ勇者様は!!遠近共に対応する技を持ってなさる!」
「騎士団長!感心して………目がぁぁぁ?!脛がぁぁぁ!?」
「王様ぁぁぁぁ?!」
「だ、誰か!?止めるんだぁぁぁぁ!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「落ち着かれましたかな?」
私の目の前で、右目に盛大な青痣をつくった自称王様が、息を切らせながらへたり込んでいた。
王様………と呼ばれるにはボロボロだし、最早威厳も何もあったものではない。
原因は私だが。
ちょっと興奮し過ぎて記憶が飛んでしまっているが、どうやらハイになった私は、周りのおじさん達と派手な大立回りの乱闘をしたらしい。
目の前の自称王様も、その乱闘の被害にあったというわけだ。
私がやったこととはいえ、何とも可哀想なことである。
「まぁ………少しは………」
私も暴れたおかげか、大分冷静にはなれた。
暴れ回って疲れたせいで、平静を取り戻せたらしい。
とはいえ私は今、床に大の字にうつ伏せに寝せられ、両手足や身体のあちこちを刺股を持ったボロボロの兵士さん方に押さえられており、乙女としてはあるまじき姿を晒していた。
一見すれば、完全な婦女暴行の事件現場である。
まぁ、混乱して暴れてしまったので、仕方はない措置なんだろうけどね………。
まさか、学校で見たことはある刺股を、こうやって自分に使われるとは………人生何が起きるか分かったものじゃないな。
しかし、よっぽど派手に暴れたのか、自称兵士のおじさん達は警戒心を顕に私を見ている。
とてもじゃないが華の女子高生を見るような顔じゃない。獰猛な野生の肉食獣を見る時の顔だ。一体、記憶が飛んでいる間に私は何をしたのだろうか?
そんな疑問を浮かべてる間にも、自称王様は身なりを少し整えると、今度は凛とした雰囲気で自己紹介をしてきた。
「それなら大丈夫じゃろう。では………今一度申します。ようこそエデルシネアへ。ここはエデルシネアにある国『アンデル』。そして儂はアンデルの国王アンデール=ナンデール=ネルネール=アンデル15世じゃ。勇者様よ」
「その設定まだ生きてたの?いい加減諦めて、ネタバレしなさいよ?異世界なんてあるわけないでしょ?カメラはどこよ?後、名前ダサいし長いわよ?」
いくら冷静になったからと言って、この状況をありのままに受け入れる気は毛頭ない。厨二病でもあるまいし、異世界転位とか信じる訳がないでしょう………。
というより、この状況にもなってネタバレしてこないとは………昨今のテレビ業界にしては随分と図太い神経をしているようだ。プロデューサーが大物なのかもしれない。
んっ?目の前の自称王様が項垂れている。流石にネタバレの流れになったのかしら?
「なんで信じてくれんのじゃ………。ネダバレってなんじゃ?カメラってなんじゃ?名前がダサい?儂の名前ってダサかったの………………?」
「へ、陛下ぁぁぁぁ?!」
私の言葉がショックだったらしい。自称王様は床に四つん這いになりながらシクシクと泣き出してしまった。
それに周りのおじさん達も慌てだした。
おいおい兵士のおじさん。叫ぶのは構いませんが唾は飛ばさないでください。
おじさんの『唾』・『汗』・『痰』といったら世界三大汚液なんだからね。そんなの飛んできたらショックで……………ってヤダァ!唾が………いや、これ痰だ!痰飛ばしてきやがった!?信じられない!女子高生に痰飛ばしてくるなんて信じられない!オプションでもそんなのないわ!!
………………別にそういった事はした事はないけど。
………本当よ?
「ゆ、勇者様………………どうしたら我々の言葉を信じてくれるのでしょうか?」
自称宰相と申すおじさんが、恐る恐るといった様子で横から声を掛けてきた。
どうでもいいが、もう落ち着いたんだから、そんなに怖がんなくてもいいんじゃなかろうか?
「いや、どうしたらって………逆にどうして信じてもらえると思ってるの?大体勇者?私が?はっ。ふざけないでくれます?そんなの厨二ネタの悪ふざけは小学生相手にやってくださいよ!」
いくら未成年の女子高生とはいえこれは馬鹿にし過ぎである。
昔からテレビでこういったドッキリを見て育ってきた私達世代に、こんな事をやったところで素直に信じる訳がないでしょうが。
こんなの信じるのはよっぽどピュアか、よっぽど馬鹿か、ただ単にノリがいい輩である。
残念ながら、私はどれもあてはまらないのだ。
「ぐっ…………ぜ、全否定とは。一体如何すれば我々の言を信じて貰えるのか…………」
自称王様と同じように項垂れる自称宰相さん。
う、うーん…………少し可哀想になってきたかな?ちょっとだけはのって上げた方がいいのかな?
あまりの落ち込みように少しは騙されて、テレビの視聴率に貢献した方がいいのかと、若干の罪悪感が芽生え始めた…………その時。
「父上!勇者様の召喚に成功したそうですね!!」
広間にある無駄にデカイ扉が開き、その奥から1人の男が背後に複数の兵士を引き連れて歩いてきた。
身長は180前後の高身長。サラッとした長い金髪にサファイアのような青眼。非常に整った優しげな顔立ちに、服の上からでも分かる鍛え抜かれた肉体。
そこには、まごうことなきイケメン。それも、特級にして王子様風のイケメンさんが爽やか笑みと共に現れたのだ。
「お、おぉ…………息子よ…………はて?お前は今は公務の為に隣国に行っていたのでは…………?」
するとイケメンに見惚れている私の横から、例のふくよかな自称王様がそんな事を言ってきた。
えっ?息子?あなたの?似てないけど?
あらヤダッ!!遺伝子が仕事を放棄してる!投げ出してる!!
でもグッジョブ遺伝子!あなた方の怠慢を今は許します。
突然変異万歳です。
「そんなものは終わらせてきました!勇者様が召喚されると知って、いてもたってもいられず直ぐに交渉を終わらせて参りました!だからといって、手は抜いておりませんのでご心配なく」
なんと!イケメンなだけでなく仕事もできると?!すごいです!最高の優良物件です!!
これは唾をつけなきゃならんのでは?
「ほぅ、流石は儂の息子じゃ。確かにお主は昔から勇者様の伝記や物語が好きじゃったからのぅ」
何ですと?勇者が…………好き?『儂の息子』は聞き流すとして、勇者が好き………ですと?
「はい!是非にとも今の世を救って下さる勇者様をお会いしたく、勝手ながら参じました…………が、何故に父上や宰相方はボロボロで項垂れているのでしょうか?それに………そこで兵士8人掛かりで取り押さえられている少女は一体………?」
イケメンさんが戸惑った表情で辺りを見回し、最後に私へと視線を合わせてきた。
わ…………わわわ!?正面から見たら本当にイケメンだ!ヤバい!これはヤバい!モデルや俳優なんて目じゃないわ!!その戸惑った顔もご馳走様です!!
「う、うむ…………実はその少女こそが召喚した勇者様なのじゃ…………」
「えっ…………?えぇぇ?!ゆ、勇者様?!な、なんで勇者様が拘束されて!?」
自称王様の言葉にイケメンさんが驚愕の表情で叫ぶ。だけど、その驚愕の表情や叫びにもどこか気品を感じずにはいれない。
イケメンは何をしてもイケメンと言うけど、どうやら事実らしい。
やがてイケメンさんは驚愕から怒りの表情となり、私を拘束する兵士達を睨んだ。
「そ、そこの兵士達よ!直ぐに拘束を解くのだ!勇者様にそのような無礼許されぬぞ!父上も何故に黙って見ておられるか!!」
お、おぉ…………イケメンさんが私のために憤慨してくれている。す、凄く嬉しいんだけど?!な、なんかこのシチュエーション………捕らわれの姫を助ける王子様みたいでいいわ。
実際に捕らわれている……というか、拘束されてるし。
するとイケメンさんがズンズンと歩いて私の方へと近づいてくるじゃありませんか!
「このケテイールが今助けます!勇者様!」
きゃー!!な、なんかドキドキする!は、早く助けて王子様ー!なーんちゃって!で、でも悪くない…………悪くないわよ!さぁ!早…………。
「危険です王子!!勇者様は今、錯乱しております!」
イケメンが間近にくる寸前、横から1人の兵士がイケメンさんの前に立ちはだかったじゃありませんか。
くっそー!邪魔しないでよおじさん…………って、さっき私に痰をかけた兵士のおじさん?!痰だけでなく、私の恋路まで邪魔して吐き捨てる気?!よし、その喧嘩買ったわよ。
「どけ!邪魔だ!」
「なりません!脛を蹴られますぞ!」
「す、脛?」
行く手を阻む兵士さんがそう叫ぶと、戸惑うイケメンさんの前で兵士さんが屈み、裾を捲ってその脛をイケメンさんに見せた。
うわぁ…………脛毛濃…………何であんな気色悪いもんを見せるのか…………。
ほら!イケメンさんも顔をしかめてるじゃないの!
「毛が……………濃いな……………」
あっ。このイケメンさんと私、フィーリングバッチリだわ。すいません嫁にして下さい。
「違います!毛じゃなくて肌を見て下さい!」
「いや…………毛が邪魔でよく見えない…………いや、抜かなくてよいからな?そんな抜いてまで…………いや、毛をそのまま飛ばすな。ここは玉座だぞ?毛で汚すな………あぁ………うむ。肌が真っ赤になってるな………うむ」
兵士さんがブチブチと脛毛を抜いて、真っ赤になった肌をイケメンさんに見せているが、あれって普通に失礼じゃないのかな?すんごい気色悪いもん見せて…………イケメンさんも若干呆れて…………。
うわぁ?!毛が!脛毛がパラパラと飛んできたぁ?!あのオッサン絶対許さねぇ!!
「はい…………実は先程、勇者様が暴れて我々全員の脛を執拗に蹴りまくって…………。どうやら、召喚されたショックで錯乱してしまわれた様子でして。ですので今は危険です。現に、全員が立つのもやっとで……………」
「ゆ、勇者様が…………か?」
唖然とした表情で私を見るイケメンさん。
あー………なんか、そんな事やったかも?アハハハ………。あれ………イケメンさん引いてますかね?
「ま、まさか…………父上にも?」
「うむ…………儂も両足の脛を蹴られてのぅ。しかも、正確に同じ箇所を蹴り続けらてのぅ。足に真っ赤な丸い跡が付いたわい。もう、足がガクガクじゃ…………」
と、白い脛毛だらけの足を見せる自称王様。
すると、その場にいた他の方々も一様に脛毛だらけの足を見せだす始末。
全員が裾捲って脛毛を見せるって誰得だよ!この光景?!
「皆も?!お、王に…………まで?」
更に唖然とするイケメンさん。
あっれー?不味くない?イケメンさんの私への好感度が急激に下がってないでしょうか?
別におじさん達に嫌われようが恐れられようが構わないけど、イケメンに嫌われるのだけは絶対に避けたい!
乙女として絶対に避けたい!
こ、これ以上好感度を下げることは…………。
「しかも、何度ここが異世界で、あなたが勇者じゃと言っても聞いてくれなくてのぅ。まして、『勇者なんかじゃない!ふざけるな!』と怒鳴られる始末…………もしかしたら本当に勇者じゃないのかもしれんのぅ…………」
ちょっといじけたように言ってくる自称王様。
いや、あんた。さっき名前がダサいって言ったの気にしてるよね?根に持ってるよね?この性悪じじいが!!止め刺しにきやがった!
私がちょっとイケメンさんに見惚れていたのを察知しやがった!!
後で脛に穴開けてやる!
「な、なんですって!?そ、それは真ですか?勇者様?!」
イケメンさんが愕然とした表情で私を見てきた。
その顔は、あらゆる期待や希望が砕かれたかのように絶望に染まっていた。
よっぽど勇者とやらに憧れがあったらしい。
そんな憧れの勇者が、勇者であることを全否定する…………彼からすれば、期待を大きく裏切られた気分だろう。
ならば…………そんなイケメンさんに対する答えはただ1つだけ…………。
「いえ。私、勇者ですが?」
これ以上イケメンさんに対する好感度を下げる訳にはいかないのです!!
それならば、ドッキリでもなんでも勇者とやらを演じてやろうじゃありませんか!!
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