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6話目 ファミリーレストラン

 古本屋が無くなっているのを見て、桜木は暫く立ち尽くしていた。それから放心状態で家にへ帰り、狐に化かされたのかと思い、始めに購入した本を手に取り、本屋があった事は現実である事を再認識させられる。


 だが、本屋は既になくなっているので、これ以上探すことはできない。


 しかし、クローゼットの向こう側には、異世界が有り、現実離れした世界が広がっている。


 桜木は誰も知らない世界に行くことができ、まるで秘密基地を手に入れた気分となる。この、非現実的な出来事を楽しんでいる自分がいる事に気が付いてしまった。


 先ずは本を開き、文字の勉強を始めることにした。向こうの世界を楽しむには、言語を理解する必要がある。何か売るには文字を書く必要があるというのと、何かを購入するにも文字を読む事が必要になってしまうからである。


 初めは何が書かれているのか判らず苦労をするのだが、徐々に文字を暗記できたり理解する事ができたりするようになる。だが、それだけで一日を潰してしまうにはもったいない。なので、廃屋だった家の中をリフォームすることにした。


 まさか、この様な場所で資格が役に立つとは思ってもいなかったが、桜木はその力を遺憾なく発揮し、室内をキレイにしていく。外装は木造で古めかしい。そして弄ることはできない。しかし、室内に関しては、日本にある材料を使用し、リフォームを開始する。暑さや寒さを防ぐため、壁や天井に断熱材を敷き詰め、その上に石膏ボードを張り付けていく。もちろん、電気の配線も通して電気が使用できる状態へと変えていくのだが、その電気は、電工ドラムを自宅からクローゼットの中へ引っ張り、応急用の電源として、暫くの間これで電気を補うことにした。


 サンマルクの町にある家には、当たり前のように使っていた水道が有るわけでは無く、井戸から水を汲み上げて使用する方法となっている。ネットショッピングサイトの「天の川」で電動ポンプを発注することにした。


 一階はお店のようにするため、大幅な改築が必要である。しかし、一階まで電気を持って行くのは大変で、どうやって電気を通すかネットで調べていると、太陽光パネルに行き着く。密林で太陽光パネルを発注するのだが、これを一人でやるのはキツい。


 誰かにお願いをしたいが、携帯で電話帳を見ても親しい友人は誰もいない。一人でやるしかないと思いながら改装していると、ミランダが様子を窺いにやってきた。


「ユウスケ、食事はちゃんと……」


 玄関のドアを開けてミランダは固まる。その理由は今まで見たことのない物が置いてあるのと、柱などが切り取られており玄関を開けたらポッカリと空間が広がっているからである。


「な、なによ……これ……」


「あれ? ミランダ……いらっしゃい。どうしたの?」


 口を開けて立ち竦んでいるミランダに気が付いた桜木は声をかける。するとミランダは声を上げて桜木に詰め寄るのだった。


「ゆ、ユウスケ! こ、これは何なのよ!」


「これ?」


「この材料とかよ! 何なの! これは!」


「何なのと言われても……改築の最中だけど……」


 考えてみれば、こちらは中世ヨーロッパのような世界である。この様な素材などは有るはずは無いのだ。それを見られたと言うことは、言い逃れができないという事である。それに気が付いた。どうやって誤魔化そうかと必死に頭を働かせる。だが、その答えが出る事はなく……。


「あ、アハ……アハハ……。なんて説明すれば良いのかな……」


 その場しのぎに苦笑いしていたのだが、それでミランダが許してくれるはずがない。腰に装備していたサーベルのような武器を手に取り、桜木に向ける。


「ユウスケ、痛い思いをしたくなければ……全て吐きなさい!!」


「──はい……」


 まさかこの様な形で正体をバラさなければならないというのは……如何な物だろうか……。などと思いながら、適当な場所にミランダを座らせて説明をする……のだが、ミランダが信じてくれるはずはない。物凄く疑った目で睨み付ける。その瞳に対して桜木は苦笑いをするしかなかった。


「じゃあ、私をそこへ連れて行ってくれたら信じてあげる」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ……その格好であっちへ行くのか?」


「あら? この格好がおかしいというの?」


 ミランダの格好は中世ヨーロッパ風の服装。と言うことは、ドレス風のファッションであり、現代の格好とは全く異なるのだ。下着だって着用しているのかどうかも疑問に感じ、あちらに連れて行くのが危険なような気がする。


「連れて行ってくれないというなら、貴方を憲兵に突き出すまでね」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 連れて行くから!! 少しだけ待ってくれ!」


 ミランダは「早くそう言えば良いのに」と言ってサーベルを鞘に収める。ここの人達は乱暴だと思いながらクローゼットのある部屋へと案内し、彼等が住んでいる世界へ連れて行くと、ミランダは目を見開き声を上げて驚くのだった。


「な、何なの……この部屋は……」


「これが俺の家だよ。ここは地球という場所。日本という国で……まぁ、ミランダがいる世界とは別の世界だね。多分……」


「ほ、本当に……ユウスケは……」


「これで信じてもらえた?」


「い、いや! まだ外に出てないわ! クローゼットの向こうに別室があってそこに連れてきた可能性が有る!!」


 ミランダの話は苦しすぎる。ただ認めたくないだけにしか聞こえない。しかし、ミランダの服装では外に出るのは難しい。しかも武器を携帯しているし、そんな物が警察に見つかったら捕まってしまう。


「ミランダ、その格好では外に連れて行くことはできないよ」


「じ、じゃあ……ユウスケが言っていることは嘘で……」


「違うの! ミランダの服装と、その武器が原因なの!! そんな格好で町に出たら怪しまれると言うよりも捕まっちまうよ……ミランダの世界で言うなれば、憲兵に捕まってしまうんだよ」


「な、何で武器を装備してはいけないのよ!! 危ないじゃない!」


「俺の世界には魔物なんていないよ……。平和なの! 平和! 武器を持っているのは憲兵くらいだよ」


「そ、そうなの?」


「そう。だからその武器をここに置いて、着替えてくれないか……外に出たいんだろ? それに、ミランダは魔法が使える。違うか?」


「つ、使えるけど……攻撃をする魔法は使えないから……」


「ふ~ん……。でも武器は置いてくれる? 何か着られる物があるか探すから……」


「わ、わかった……」


 ミランダは少しだけ唇を尖らせ、納得ができないが、言うことを聞くしかないと思ったらしく、武器を外し床に置いた。季節的に涼しくなってきたのが幸いし、ミランダにシャツとトレーナー、それにジーパンを渡すと、クローゼットの向こう側に戻って着替え始める。桜木もこちら側で行動するための服に着替え、暫くの間ミランダを待っていると、恥ずかしそうにして戻ってくる。


「変じゃないかな……?」


「別に変じゃないよ。強いて言えば、髪型が古いけどね。それは仕方ないかな……じゃあ……」


 そう言ってミランダの足下を見ると、靴を履いたままで室内に入っていた。確かにあちらの世界では当たり前なのかも知れないが、こちらでは室内では靴を脱ぐのである。


「み、ミランダ……申し訳ないが……こっちの世界では室内で靴は履かないんだよ。悪いんだけど脱いでくれないか……」


「そ、そうなんだ……」


 ミランダはしおらしくなっており、顔を真っ赤にして慌てて靴を脱ぐ。履いていた靴を見ると、布でできたような靴を履いており足の裏が痛そうだと感じる。だが、女子用のスニーカーなど持っているはずもないのでどうしようもない。


「仕方ない、靴ぐらい買ってやるか……。ミランダ、外にいくよ」


「う、うん……」


 緊張した表情でミランダは、桜木の後ろを追いかけるようについてくる。玄関のドアを開けて外に出ると、まだ明るいのだが日が沈み始めており、ひんやりとした空気が辺りを包み込み始めて秋になったのだと感じさせる。


 ミランダは布の靴を履いて外に出ると、口を開け言葉が出ない状態になっていた。


「これが俺のいる世界だよ。ミランダがいる世界と全く違うでしょ?」


「こ、ここは何処なの……」


「ここは日本のxx県と言う場所だよ」


「に、日本……」


「そうだよ。それじゃあ……少しだけ町を彷徨いてみるかい?」


「え、えぇ……」


 呆然とした表情で頷くミランダだが、これが現実だと信じるにはまだ難しいらしく、頬を抓って現実を確認していた。何処の世界もやることは同じだと思いながら、桜木はミランダを見ており、自分も向こう側で同じ事をしていたのだろうと思うのだった。


「ミランダ、これに乗ってくれるか?」


「こ、これは……」


「車……いや、馬車みたいな物だよ。乗り物だ」


「そ、そうなんだ……確かに……ば、馬車のような作りになっているわね……」


 恐る恐るミランダは助手席に乗り込み、運転席に座る。シートベルトを締めてエンジンをかけようとするが、ミランダがベルトをしていないことに気が付き説明しようとしたのだが……説明しても、理解できないだろうと思い、桜木はベルトを締めてやることにした。


「よいしょっと……」


「ちょ、な、なにするのよ!」


 何も考えていなかったのは自分の方かも知れない。腕を伸ばしてベルトを掴もうとするのだが……ミランダの顔に自分の顔が近づけているだけに見える。


 慌ててベルトを掴んで装着させ、桜木は言い訳っぽく説明を始めてしまう。


「ち、違うんだ! これには理由があって……」


「最低……この様に縛り付けといて……何が理由よ! 変態!」


 キッと睨み付け、頬を叩くミランダ。突然のことで驚く桜木だが、ちゃんと説明をしなければならない。


「ち、違うんだ! 今付けた奴はシートベルトと言って、馬車がぶつかったりした時、身体を前に投げ出さないために装着する義務があるんだ」


「どーだか……そう言って私を襲うつもりだったんでしょ」


「そうじゃなく!! それを装着しないと憲兵に捕まっちゃうんだよ!! そして罰金を払う羽目になっちゃうんだ!」


「ふ~ん……」


 全く信じた様子はなく、ミランダは桜木を睨み付ける。

 桜木の頭のかは「もう、早く向こうの世界へ帰って欲しい」と願うばかりだった。


「で、馬車に乗せて私を何処へ連れて行くつもり? 怪しいところだったら許さないんだからね!」


「別に変なところへ連れて行くわけじゃない。まぁ、こっちがどんな場所か知りたいだろうと思っただけだよ。向こうでは色々と教えてもらったし……」


 そう言っても納得をした様子を見せないミランダ。深い溜め息を吐いてエンジンをかけて走り出す。すると、ミランダは馬がいないのに走り出した車に驚きベルトにしがみつくよう震えていた。


「この乗り物には馬はいないんだよ。機械でできているからね」


「き、キカイ?」


「そう。鉄や鋼、そういった物を組み合わせて作っているんだ。餌はガソリンって言うのかな?」


 笑いながら説明するが、ミランダの顔は引き攣ったままで周りをキョロキョロして落ち着きがない。


「怖い?」


「べ、別に怖くなんて……ない……」


 意地を張っているのが見て取れるミランダ。それを横目で見ながら笑いを我慢するのであった。


 暫く車を走らせ到着した先は、若者が集う洋服屋である。ミランダが着ている服は桜木が着ていた男物の服で、正直に言って女性らしい服装ではない。なのでミランダが着られる服を買いに来たというわけである。あと下着も……。


 先ほど後ろから見て判ったのだが、ミランダは下着を着用していないのだろう。男性なら理解ができると思うが、下着のラインが全く見えない。別に変態的に言っているわけではない。もう一度言う、変態ではない!! あの世界を見て感じたのは、中世ヨーロッパの町並みといった感じである。とは言っても、実際に中世ヨーロッパを見たことが有るわけでは無いのだが……。なので、本人に直接確認をするわけにはいかないから、女性店員を通じて下着を着用しているのか確認して貰おうと思ったのである。


 それに、ミランダは誰が見ても美人である。

 美しい人がトレーナーにジーパンと言った格好をしているのはどうも納得ができない。伊藤のようにと言っても、伊藤もそんなに服が有ったわけでは無さそうで、おめかししているといった雰囲気は一度だけである。その一度とは、初めて二人で出掛けたあの日のみ……。


 何かとあると、伊藤を思い出してしまうのは悪い癖だと思い、その事を振り払うかのよう首を横に振る。過去ではなく、今を考えることにした。恥ずかしい思いをして店員に説明すると、店員は察してくれてミランダに話しかける。


 店員の行動を見ていると、やはりミランダは下着を着用している様子はなく、慌てた感じで店員がサイズを測っていく。ミランダは何をされているのかさっぱり分からないといった様子で、なすがままに身体のサイズを測られており、桜木の方を見て助けを求めているかのように感じるが、これはミランダのためであるし、右も左もわからなかった自分に色々と教えてくれたお礼でもある。


「ミランダ、彼女が君の服を選んでくれるそうだ」


「べ、別に頼んでなんかない!」


「ミランダは俺に飲み物を奢ってくれただろ? これから色々するに辺り相談もしたい。だから俺からのお礼だと思って受け取ってくれよ」


 悪戯な笑みを浮かべながら桜木は言う。ミランダは言い返したそうな顔をしていたが、強引な店員に屈指たらしく、なすがままに着せ替えられていく。


「店員さん、お金のことは気にしないで良いから適当に見繕ってくれる? 店員さんの趣味に合わせるからさ」


『かしこまりました!』


 数人がかりでミランダを着せ替えていき、大量の服を選んでいく。紙袋の数はあっという間に6袋を超えてしまった。本当に容赦がない連中だと思いながら着せ替え人形になっているミランダを見ていた。


 店員による洋服のチョイスが終わり、ようやく解放されるミランダ。その姿はグッタリとしており、完全に疲れ切っている。時間的にもお腹が空く時間で、彼等はファミレスへと向かった。


 中に入るとウェイトレスが席へと案内してくれるのだが、皆がミランダをジロジロと見ていた。何故なら、先ほど購入した服を着ており、洋服屋に入る前とは全く異なった服装をしているからである。しかも、大金を持っていることが判ると、店員は大量に服を売りつけたいという意図がヒシヒシ伝わってきており、頼んでもいないのにミランダの髪型をセットなど、簡単な化粧まで施したのだ。


 元々美人であるミランダが、キレイな服装をして化粧までしたら、桜木が浮いてしまう。実際、ファミレスに入った今がその状態である。なんであんな美人にあのような男と一緒にいるのだといった目で皆が注目する。


 周囲の目を我慢して席に座ると、ミランダも脅えた様子で席に座る。


「ゆ、ユウスケ……」


「ん? どうした? ミランダ」


「こ、この様な服は……かなり値段がするのではないのか……」


 自分の服を見ながらミランダが言う。服を購入したときに貰ったレシートを見てみると、確かに素敵な数字が刻まれていた。だが、それに見余るミランダの姿。なので、その様な金額はたいした物ではないと思ってしまう。


「そ、それにこの生地は……王国の物が使用するほどの生地ではないのか?」


「いや、それは俺達の世界では当たり前に売られている物だよ。特別な物じゃない……あっ、注文良いですか?」


 口をあんぐりと開けながらミランダが見ているのだが、それを気にすることなく適当に注文してミランダを見る。


「ミランダ、判っていると思うけど……」


「な、何よ……」


「今日のことはみんなに内緒だよ?」


「な、何を馬鹿なことを言っているの! この様な話をしても誰も信じてくれるはずないでしょ! 馬鹿にされて終わりよ」


 ミランダはそう言って窓の外を見つめると、外は既に真っ暗になっているが、当たり前のように電灯がついていることに驚いていた。


「夜なのに……何でこんなに明るいのよ……」


「ん? あぁ、あれは電灯と言って、電気で明かりを灯しているんだ」


「デンキ?」


「簡単に言えば、雷かな? ちょっと違うけど、あの力を使用して明かりを灯しているんだよ」


「ま、まさか雷撃の魔法をその様に使用しているなんて……」


「ちょっと違うけど……まぁ良いか……」


 苦笑いをして答える。暫くすると、注文したものをウェイトレスが運んで来て、テーブルに並べる。並べられた料理を見てミランダは驚いた顔をする。


「適当につまんでよ。美味しいと思うけど……口に合うか判らない。感想を言ってくれると助かるかな……」


 と言っている間に、ミランダは食べ始めている。その食べ方は上品とはほど遠く、初めて食べる料理に感動しているようであった。


 最後にデザートを食べて彼等は店を後にするのだが、店から出るときミランダは「中々の味だったわ。シェフは王宮で料理でもしていたのかしら?」と、ウェイトレスに言う。桜木は慌ててミランダの腕を引っ張り店から出て行く。


 恥ずかしい……。


 家に戻り、ミランダに紙袋を持たせて帰るように言う。外はすっかりと真っ暗で、人影は少ない。できれば送っていった方が良いのだろうが、ミランダが拒む。


「も、貰えないよ!! この様な高級品……」


「口止め料だよ。今日のことは黙っていてくれ。それに、俺の正体もだ」


「だ、だけど……」


「頼むよ、ミランダ。俺はミランダがいる世界を楽しみたいんだ」


「う~……わ、判ったわ……。そう言っても誰も信じてはくれないだろうけど……」


 納得ができないといった表情そしてミランダは帰っていく。今日の作業を止め、風呂に入って翌日に備えることにした。

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