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5話目 彼女と本屋

 彼女の名前はミランダ。

 年齢は18歳と、桜木よりも若かった。

 別に桜木から年齢を聞いたわけではない。

 ミランダから年齢を言ってきたのだ。相手を信頼させるために言ってきたのかどうかは判らないが、少しだけ安心する事ができ、桜木はホッとするのだった。


 この町の名は『サンマルク』と言う名の町で、数里離れた場所に王都があるという事を教えてくれた。

 この世界は王制らしく、この付近で統制しているのは『オルガンティア』と名の国だそうだ。


 町の外には魔物もいるという話を聞いたのだが、これについては知っているフリをしなければならなかった。何故ならド田舎からやってきたという設定であるからだ。だが、魔物の身体にはコアという物があるらしく、それを利用してエネルギーを作り出しているらしい。どうやってエネルギーに変えるかは、判らないのだが……。


 他にも魔法などの話も聞かされるのだが、全て眉唾にしか聞こえず、顔を引き攣らせて苦笑いをする。


「でも、君が住んでいた場所にも魔法を使用できる人はいたでしょ?」


「い、いや、ほ、本当に田舎で……明かりは薪を使用していたほどですから……アハハ……」


 ポリポリと頬を掻きながら答えると、彼女は「薪を使用している村なんて今時あるの? 本当に……」少し疑問に満ちた目で桜木を見たが、直ぐにそれを止めて話を続けてくれた。そして彼女は最大の疑問を桜木に投げかける……。


「で、田舎からやってきた君は……銅貨や銀貨も持っていないで、どこに住むというの?」


 そうである。桜木は田舎からやってきたと言っている。そして、この世界の通貨も持っていないし、コアすら知らなかった。彼女はこれが聞きたくて最後まで茶番に付き合ってくれたのだろう。


「町に廃屋があったので……そこに住もうかと……駄目ですかね?」


 桜木の言葉に難しい顔をするミランダ。小さい声で「廃屋?」と疑問の声を出した。


「え、えぇ……。廃屋だったのでそこに暮らそうかと……」


「廃屋ねぇ……この町に廃屋なんてあったかしら……」


「え?」


「私はこの町で育ったけど、そんな廃屋なんて聞いたことがないわ。本当に廃屋なんてあるの?」


「え、えぇ……ありますよ。も、もし信じてもらえないなら一緒に行ってみますか?」


「そうね、私が知らないことがあるなんて信じられないわ。そこまで案内してくれる?」


 全く信用をしていない目で桜木を見て、カウンターから出てきて案内してくれと言う。失敗したかと思いつつも、案内をしなければならない状態になったため、ミランダを連れてギルドを後にした。


 歩きながらミランダは町について説明をしてくれる。それは助かるのだが、廃屋については信用していない。


「ミランダ、もし廃屋だったらそこに住んでも問題ないの?」


「本当に廃屋だったら問題はないわ。だけど私はそんな建物を知らない」


「ミランダが知らないだけと言うことは……」


「あり得ない。私は町の情報が詰まっているギルドに務めているのよ? そしてこの町で育ったプライドがあるの。私が知らないはずがないわ!」


 少し怒気を含んだ声でミランダは言うが、確かにあそこは廃屋であり、誰も住んではいなかったのは確かである。暫く歩いてミランダに廃屋がある場所へ連れて行くと、ミランダは驚いた顔をするのだった。


「ほ、本当に廃屋が……ある……」


 指を指し、口をパクパクしながらミランダは言う。そんなに不思議な出来事なのだろうか。首を傾げ廃屋に目をやる。


「本当に在ったでしょ?」


「ここら辺はあまり来なかったけど……ここは空き地だったはずよ……いつの間に……いえ、この様子だと何十年もここに在ったかのような……」


 ミランダの記憶ではここは空き地だったらしい。だが、目の前には数十年前から在ったような建物がある。


「さっきの話だと……廃屋だったら住んでも構わないんだよね?」


「え? えぇ……。そうね……問題ないわ……でも……私の知らないことがあるなんて……」


 ミランダは納得が出来ないと言ったような表情をしており、桜木は苦笑いをするしかなかった。

 それから家の外観を見たミランダは、中も確認したいと言う。断ると怪しまれると思い、彼等は中へと入っていく。


「結構……建物の中は劣化が進んでいるようね……」


「そうなんですよ。家を直すところから始めないといけませんね」


「そうね……」


 怪しんでいるような顔をしながらミランダは中を確認しているようで、色々と触ったりしながら室内を見ているのだが、特に不審な点は見当たらなかった。ただ一カ所を除いて……。


 その怪しい場所には近づけたくはないのだが、そういう訳にはいかない。どうにかしてクローゼットの在る部屋に近づけないようにしなければ……。


「み、ミランダ……こ、この家……」


「え? なに?」


「え、えっと……この家を改築してお店とかにするのは問題ないのかな……」


 とっさに出た言葉だが、ミランダは動きを止めて何か考える。


「別に問題ないわ。だけど何を販売するのかしら?」


「あ、い、いや……まだ何をするかは決めていないけど……」


「ふ~ん……。特に問題なさそうね。だけど、改築するには随分と大変そうだけど……大丈夫? 貴方……」


「そ、そうですね……ですが、折角ここにやってきたんですから何かしらやりたいと思います。それに、色々と勉強してきたんで、それが生かせると思いますし……」


「そう、何かあったら相談くらいはのれると思うから……」


「あ、ありがとうございます……」


「じゃあ、私はこれで帰るけど、無理をしては駄目だからね。そうなる前に相談しなさいよ」


 そう言ってミランダは家から出て行き、大きく息を吐く。

 先ずは住む場所を手に入れた事はラッキーだと思わなければならないが、この先どうやって生活費を稼ぐかということになるだろう。取り敢えず戸締まりをして、自分の部屋へと戻り色々考えることにた。


 クローゼットを潜り、自分の部屋へ戻ると、台所へ向かい水を1杯だけ飲む。突然起きた出来事に対して色々と頭の中を整理する必要があり、心を落ち着かせなければならないからだ。


 そして、棚に仕舞ってあったノートを取り出し、状況を殴り書きする。頭の中がこんがらがっており、文字にして状況の整理を行うと、一冊の本に辿り着く。それは伊藤さんと遊んだとき、帰りに立ち寄った古本屋で購入した本。


 確か、女の子が「本物だよ」と言っていたので、購入してから数日後、その本を読んで書いてある魔方陣をクローゼットの中に興味本位で書いてみたのだ。しかし、特に何かが起きたというわけでもなく、やはり眉唾物だと思い、そのまま放って置いた……。確か本棚に仕舞ったと思いながら、本棚に置かれている本を指さししながら探しす。やはり、本棚に仕舞われており、本棚から本を取り出す。すると、あの世界で書かれていた文字と、向こうで使われている言語が書かれており、この本に書かれている物が本当である可能性が出てきた。


「ま、マジかよ……。確かにあっちで見た文字にそっくりだ……」


 購入した時は真面目に読んでいなかったが、向こうの世界を体験した今なら真剣に読める。そう思い、時間をかけて本を読んでいくと、向こうの世界のことが事細かく書かれているではないか。いや、前に読んだときも同じ事が書かれていたのだが、嘘だと信じ込んでいたため、本を真剣に読んではいなかった。ただそれだけの話……。


「ミランダが言ったことは本当だったのか……」


 魔法や魔物についても書かれており、ミランダが言っていた話と辻褄が合ってしまう。暫くの間、何も考えることが出来ずに本を眺め、誰かに相談した方が良いのでは無いかと思うのだが……相談できる相手がいないことから、インターネットの質問サイトに投稿してみることにした。


 すると、一番最初に質問に答えてくれた言葉は「病院に行け」だった。病院に行けばこの答えがわかるのならば行くが、これは本当に起きている出来事なので行っても意味がない。だが、「本屋に行って、確認をしたら?」と書かれているのがあり、その通りだと思い、慌てて購入した古本屋へと車を走らせる。


 数十分後に古本屋があった場所に到着する。店の電気は点いており彼は急いで中へ入る。すると、以前入ったときと同じ感覚がして、桜木は一瞬だけ立ち眩みをしてしまう。


「な、なんだ……一体……」


『あれ? またここに訪れるなんて……随分珍しい人がいるのですね。今日はどのような物をお探しですか?それとも本を売りに来られたのですか?』


 声がした方を見ると、再びあの時の女の子が立っており、その雰囲気というか、目の奥に吸い込まれそうな瞳で見つめられ、桜木は恐怖を感じて後退る。


『あの本はどうでした? お楽しみ頂けましたか?』


「あ、あの本?」


 彼女が言うあの本とは、魔方陣が書かれた本だろう。そして、桜木を別の世界へと誘った本……。


『如何なさいましたか? お客様……』


 顔は笑っているように見えるが、目が笑っているようには見えない。正直、恐怖を感じてしまう。


「あ、あの本は一体……」


『前にも言いましたが、あの本は本物ですよ。それをどうするのかは貴方が決めることです。刺激が欲しいのではないのですか?暇な時間を潰したいのではないのですか?』


「し、刺激……?」


 古本屋に入って、店員かと思われる少女に恐れを抱いている。一体何が起きているのかさっぱり判らない。


『貴方は彼女に優しい言葉をかけることができず、そのような自分を変えたがっていた。そんな貴方のために、私があの本を用意してあげたんですよ……』


「お、お前は……一体……」


『そんな事は別にどうだって良いでしょ? そんな事を確認するために貴方は再びこの店に入ることができたのですか?』


 この子は一体……何を言っているのだろう。彼は立っていることができず、腰を抜かしてしまう。小学生くらいの少女に気圧されている……。


「ハァハァ……こ、この店は一体……」


 気を抜いたら意識を失ってしまう。そう感じ、気をしっかり保つため、必死でこの圧迫感に耐える。しかし、何かに押さえつけられているような感覚があり、それ以上動くことができなかった。


『よく頑張っていますね……。ご褒美にこの本を売ってあげましょう。きっと役立つと思いますよ』


 どこから取り出したのか判らないが、少女の手には三冊の本があり、それを桜木に渡す。先ほどのような圧迫感は消え、穏やかな空気が辺りを包み込んでおり、身体を動かすことができ本を受け取った。


『お代は三冊で1万円になりますよ。税金は前回同様サービスさせて頂きます。あ、どれも本物ですから安心して下さいね』


 少女は優しい笑顔で言うと、桜木は一瞬だけ気を抜いてしまい、気が付いたときには自宅の布団の上で寝転がっており、枕元には少女から受け取った本が置いてあるのだった。


 何が起きたのかさっぱり理解することができず、財布の中身を確認すると、しっかりと代金を支払ったらしく1万円がなくなっており、購入したのだと悟る。身体には嫌な汗が纏わり付いており、その汗を流すためと、気分を変えるためにシャワーを浴びることにした。


 それから暫くして少女から売って貰った本を手に取りタイトルを確認する。タイトルは『読めば誰でも使える魔導書』『読めば誰でもできる錬金術』『読めば誰でも剣豪になれる剣術指南書』の三冊で、どれも胡散臭い代物である……が、以前購入した本のことを考えると多分、本物なのだろうとは思う。しかし、今は読む気になれなかった。


 翌日、再び古本屋へと足を運ぶのだが、店があった場所は空き地となっており、桜木は何かに化かされた気分を味わうのだった……。

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