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3話目 デート

 学生達と遊ぶようになってから暫くすると、一人の女子学生が緊張した表情で桜木に話しかけてきた。


「あ、あの……さ、桜木さん……少し……よ、よろしいですか?」


「ん? どうしたの? 伊藤さん」


 彼女はこの間のカラオケに来ていた子で、名前は伊藤睦美ちゃん。

 現在高校三年生で、近くの大学に進学する事が決まっているらしい。

 そのため、バイトのシフトを結構入れており、お金を稼ごうとしていた。

 大学生は何かとお金がかかるから仕方がないと言えば仕方がない。


「こ、今度の休みって……暇ですか?」


 暇かと言われても、バイトをしていない日はいつも暇である。そんな事を一瞬だけ考えると、伊藤がモジモジしていることに気が付き返答する。


「まぁ……暇だって言えば……暇だけど……」


「も、もし良ければ……遊びに行きませんか?」


「別に構わないけど……何処に?」


「さ、桜木さんは何処へ遊びに行きたいですか?」


 そう言われても、何処だって構わない。

 正直この町に引っ越して来たばかりでまだ一年も経ってはいないので、何処に何があるのか殆ど知らない。

 人をエスコートすら出来やしないのだ。


「伊藤さんは何処へ行きたいの? と言うか、他の人は何処かって決めてないの?」


 他にも行く人がいるのなら、その人達の意見も聞くべきである。

 そう思って桜木は聞いたのだが、伊藤は顔を赤くしてモジモジしていた。


「え? ちょ……ま、まさか……」


「ふ、二人……では……いけませんか……」


 彼女は恥ずかしそうに勇気を振り絞って誘ってくれたのだろう。

 緊張しているのがよくわかる。

 少しだけ考えてから了承することにした。


「えっと……恥ずかしい話なんだけど、この町へ引っ越してきてまだ一年も経ってないんだよ。だからこの町のことは全く判らない。少し遠いけど、都内の方へ行ってみる? それとも、アトラクションがある場所へでも行ってみる?そこなら調べれば直ぐに分かるし」


 了承したのは良いのだが、二人っきりというの慣れていないため桜木は目を泳がせ、困った声を出しながら言う。

 伊藤は小さく頷くのだが……どちらに頷いたのか判らず少しだけ顔を引き攣らせてしまった。


 そして当日を迎え、待ち合わせの場所へ車で向かうと、伊藤は可愛いワンピース姿で恥ずかしそうに待っており、本当に二人で遊ぶのだろうかと疑問に感じてしまう。

 誑かされているのではないのかと一瞬だけ頭を過ぎってしまった。

 伊藤の前に車を止めて窓を開けると、伊藤は気が付き車に近寄る。


「お、お待たせ……」


「きょ、今日はありがとうございます……」


「イヤイヤ……まだ何も始まっていないよ」


「そ、そうでした……ね」


 恥ずかしそうに笑って、車のドアを開けて助手席に座ると、桜木は車を走らせて町を後にするのだった。


 行く場所は提案しただけで確定していないため、質問をする。


「何処に行く?」


「ま、町はちょっと……知り合いに会ったら恥ずかしいので……」


「じゃあ、この間話していたアミューズメントパークに行こうか?」


「は、はい」


 かなり緊張しているようで、顔を赤くしてモジモジしている。こっちまで恥ずかしくなっちゃうと思いつつ、事故を起こさないように、安全運転を意識して車を走らせた。

 向かう場所は都心から離れたところにある遊園地、夏になるとプールもやっている場所であるが、その季節は終わっており、今はアトラクションのみとなっている。


 車で一時間も走らないところにあるし、それなりに楽しめるのではないかと思って、この遊園地を選んだのだ。この遊園地は、それなりに人はいるのだが、並んで待っても最大一時間ほどで乗り物に乗れる。だから飽きる事なく遊びつくせるし、喋るのは緊張してしまう。


 何種類かアトラクションに乗る。伊藤はそれなりに楽しんでくれているようで、同じ絶叫系の乗り物を乗りたがるのだが、数回乗っただけで気持ち悪くなってしまい、少しだけ休ませて欲しいとお願いすると、伊藤は笑って了承してくれた。


「い、伊藤さん、絶叫系が好きなんだね……」


 彼女が示す先には絶叫マシーンの数々。桜木は三半規管をやられてぐったりしていた。


「桜木さんは苦手だったんですか?」


 楽しそうな笑顔が眩しく感じる。


「そんな事はない筈なんだけどね……まさかこれほど三半規管が弱いとは思っていなかったよ」


 笑いながら言うと、伊藤さんも笑ってくれる。

 恥ずかしい話だが、こうやって女性と一緒にこの様な場所へやってくるのは初めてで、どうやって接して良いのか判らない。


「何か飲み物を買ってくるので、少しここにいてくれますか?」


「あぁ……ごめん。俺が買いに行かなきゃ……」


「そんな身体では無理ですよ」


 笑いながら伊藤さんは飲み物を買いに行く。

 さて、この後はどうすれば良いのか……。等と考えつつ伊藤を待つ桜木。

 思った以上に身体はダメージを受けており、あまり動きたい気分ではなかった。


 暫くして伊藤が桜木の分も飲み物を購入して戻ってくる。


「ゴメン、俺が払うよ」


「別に構いませんよ、桜木さんはフリーターなんですからそんなにお金は……」


 なんと言うことでしょう、高校生にお金の心配をさせてしまっている。全くもって恥ずかしい話である。


「い、いや、別にわざと定職に就いていないだけだから……」


「え? ど、どう言う事ですか?」


「あ、い、いや……そ、それは……」


 どのように説明して良いのか判らず、返答に少し困ってしまう。


「えっと……特にやりたい物がなくてね……だからやりたいことを探している……と言うわけで……」


 苦しい言い訳であるが、伊藤は「そうなんですか……」と言って納得をしてくれた。


「伊藤さんは卒業したら大学でしょ?」


「えっと……そ、それがですね……」


 ん? どうしたのだろうか……。伊藤の様子がおかしい事に桜木は気が付き、何か触れてはいけない物に触れてしまった気がしていた。


「じ、実はですね……卒業しても進学しないことになってしまったんです……」


 先程まで楽しげだった顔に、影が過ぎる。


「は、はい? だ、だって、推薦で大学……」


「そうだったんですが……その……実は父が借金を作って逃げてしまいまして……」


 やばい、地雷を踏んだようだ。

 そう思いながら伊藤が大学に行けなくなった話を暫く聞かされるのであった。


 その後、彼等は色々な乗り物に乗って遊ぶのだが、伊藤の話を聞いた後では……楽しいと言う気分ではなくなり、テンションはガタ落ちしてしまう。

 しかし、それを顔に出してはいけないと思いながら桜木は過ごしたのだった。

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