1話目 人生の転換期
高校3年の冬、最後の望みであった会社から内定通知ではなく不合格の通知が学校に届く。
彼はガックリと肩を落として職員室から出て行き学校を後にした。
2年の冬から就職活動をしていたのだが、結局一つも内定を手に入れることは出来なかった。
バイト先へ向かい、店長に面接の結果を説明する。
店長はバイトの継続を許可してくれて、週5日のフルタイムでバイトが出来るようになった。
これで家賃と食事はなんとかなる。
これは仕事が見つかるまでの繋ぎだと自分に言い聞かせて、彼はバイトを続ける事にした……。
彼の親は幼い頃に他界し、親戚の家で厄介になる。
その家は世間体と親の保険金を目当てに彼を引き取ったのだが、彼は頑なに親の保険金を使う事を拒み、出来る範囲で新聞配達などのアルバイトなどで親戚に生活費を支払っていた。
だが、保険金目当てにしていた親戚。
当てが外れた事により育てるというには厳しく、躾と評して暴力を振るう事もあった。
彼は遠くの高校を受験し、見事合格する事に成功する。
そして、ようやく親戚の家を出て学校の寮に入ると、親戚の家を逃げるかのように出ていく事が出来た。
暫くは学校の寮で生活していたが、親が残した保険金で部屋を買う。
誰にも縛られることのない生活を送ることが出来ると思いきや、何をするにも保護者が必要という世の中。
バイトをしようにも保護者欄に何も書かれていない事で嫌煙嫌厭されてしまう事が多く、中々バイト先が決まることはなかった。
同級生のツテを使い、なんとかバイトをする事ができた高校時代。
就職に至っては、親がいないという理由で不合格を叩き付けられてしまう始末。
今回、不合格通知を送ってきた会社に問い合わせをしたところ、似たような台詞が返ってきた。
手応えはあったのに、そういう理由で不合格とは世の中世知辛いものである。
多分、面接を受けた全ての会社が似たような理由で不採用だったのだろう……。
学校を卒業し、バイト生活を3年ほど続けている……と、彼は店長から事務所に呼ばれる。
もしかしたら、正社員で雇ってくれるのではないかと少し期待をしたのだが、現実はそうではなかった。
店長から呼ばれた理由……それは、経営難により店を閉めるとの話であり、最初は何の冗談だと思ったのだが、ここ数ヶ月間バイトが辞めても雇っていなかったことから、この話は本当のことだと理解し、数年間続けた仕事を失うことになるのだった。
店は今月いっぱいで閉店と言われ、次の仕事を探さなければならないが、店長には雇ってくれた恩がある。
だから最終日まで確りと働きたいと言ったのだが、店は家族で回し極限まで出費を抑える必要があると言われ、本日付で仕事を辞めることとなったのだ。
店長は本当に申し訳ないと言っていたが、ギリギリまで雇ってくれた事に感謝が一杯で、お礼を言って店長と別れを告げた。
その日の帰り道、肩を落としながら帰宅している途中、宝くじ売り場の前を通りかかる。
前後賞あわせて10億円と、大々的に看板が出ているのだが、今まで購入した宝くじは全て外れているのを思い出し購入するのを止める。
しかし、宝くじの横に書かれている看板に目が止まる。
それは、自分の好きな数字をマーカするナンバーくじだ。
よく、テレビでCMをやっており、キャリーオーバ10億円と大々的に書かれていた。
彼は一口だけそれを購入して帰ることにし、カウンターに置かれている紙を手にして番号の書かれた場所を塗り潰す。
番号は親が事故死した西暦と月を選び、息子の幸せを願っているならこの番号で当ててくれと思いながらアパートへ帰っていった。
家に戻り、部屋の中で大の字に寝転がって考えていても何も案が浮かぶ事はなく、今日は眠ることにして翌日から新しい仕事を探すことにした。
翌日、朝早くに目を覚ましハローワークへ向かう。ハローワークでは、自分が希望とする年収を記載する面があり、最低でもこれくらいはという金額を記載して受付に渡す。そして、パソコンを前にしてどのような仕事があるのか探していると、画面の上にどのくらい時間が経過しているのかが出てきて次の人に明け渡すよう文章が流れ出てくる。
これでどうやって仕事を探せと言うのだろうか……。
そんな事を思いつつ彼は次の人に席を渡し、掲示板に書かれている資格講習に目を向ける。
手に職を付けることは次に繋がると思い、眺めているのだが……講習料を取られるのは納得が出来ない。
仕事がないから探しにきているというのに、余計な出費は抑えないといけない。いくら親が残した保険金があるからと言っても、いつかは尽きてしまうものである。
しかも、生きていくには生活費という物がかかってしまう。
足りない分はそこから引き落として生活していたのだった。
結局、ハローワークで仕事が見つからないまま彼は帰ることにした。
そんな生活が数日続くのだが、一向に仕事が決まることはなかった。
帰り道、コンビニに置いてあるフリーペーパーを手に取る。
適当に何か飲み物を購入しようと雑誌コーナー前を通りかかると、ナンバーくじの雑誌が目に入る。
どうせ外れているだろうと思いながらその雑誌を手に取り、自分が購入した回が載っているか確認する。
だが、その回はまだ雑誌に載っているわけではなく先月までの分が載っているものであり、彼は棚に雑誌を戻し、飲み物を買い物籠に入れてレジへと向かう。
コンビニから出て暫く歩いていると、この間購入した宝くじ売り場の前を通りかかる。確か番号紹介をしてくれるはずだと思い、受付のおばちゃんに照合をお願いする。
すると、おばちゃんの顔が一瞬で変わる。
何が起きたのかと思い、彼は首を傾げる。
くじ売り場のおばちゃんは再び彼の照合をする。
すると、おばちゃんは驚いた顔をして彼の方に向き直り、まさかの言葉を投げかける。
「お、おめでとうございます!! 当選しております!」
くじ売り場のランプが点灯して、おばちゃんがマイクの音を消し小声で言う。
「まさか当たっているなんてっ!」
唐突の出来事に戸惑い、言われている意味を理解ができない。
「へ?」
「早くこれを持って銀行へ行きなさい! ここの銀行で換金してくれるから」
そう言って彼が渡したくじを、震えている手で返す。ついでに銀行の場所を記した地図もくれる。
「ど、どう言う事?」
「だから! 当選しているのよ! ここでは10万以上は換金できないから銀行へ行って換金してきなさい!」
「ぎ、銀行? あ、当たった? な、何等が……」
「高額当選したら金額を言ってはならない事になっているの! それで察しなさいっ! これは高額当選している人にしか渡さない物だという事よ。早く銀行へ行った方が良いわよ」
その言葉に彼の頭の中は真っ白になり、自分の身に何が起きているのか理解することが出来なかったが、正気に戻ったときは銀行の別室で、当選者のパンフレットを受け取って説明を受けていたのだった。
金額は二週間ほどで振り込まれるとのことで、当選した証明書を貰い銀行をあとにする。
あり得ないことが起きた場合、人は混乱してしまうということを初めて理解するのであった。
二週間が経ち、銀行へ向かい通帳記入をすると、見たことのない額が振り込まれており、彼の手は震えてしまう。
そして何をするわけでもなく数万円だけ引き落とし、銀行をあとにした彼。
取り敢えず部屋に帰って、これからのことを考えることにしたのだった。
彼こと、桜木祐介の人生はどのようになってしまうのだろうか……。
この時、世界の歯車が彼を中心に動き出したとは誰もする由はないのであった……。