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ネクロにとっては初めて過ごす異性の家での夜である。
緊張しっぱなしのネクロと違ってマニは自然体で接し、なんらお楽しみイベントもなく食事も風呂も終わってしまった。
ネクロとてそんなに期待していたわけではないが、ここまで楽しみが無いとは思いもしなかった。
夜更け、小用で寝床から抜け出したネクロは廊下の先を見やる。この先には壷を置く部屋、更に先にはマニの部屋がある。
特に用はないがマニの部屋へ近づいていくが、部屋の前に何者かが立っている。
驚きと同時に構えるが、暗闇に目が慣れるとそれがフルプレートの騎士だと気付いた。
「置物?」
ネクロはそう呟くが、兜に何やらメモが挟まっているのが見える。恐る恐るそのメモを取って読む。
~ネクロへ、単刀直入に言うよ。この騎士は私が作ったゴーレムだ。
土くれと木材で出来た、簡単なゴーレムだがプレートアーマーを装備する事はできた。その気があるなら突破してみるといい。まぁ、勝てるならね。~
ネクロがメモを読み終わり、目線を目の前の騎士へ移すと同時に騎士も剣を抜く。
この暗闇の中でも爛々と輝くその刃は、いつでも切り殺せるぞと脅しているようだ。
「いや、そんな気、元からないから…」
ネクロが背を向けて歩き出すと騎士も剣を収め、主の警護へ戻ったのだった。
「おはよう、へたれめ」
「おはよう、自意識過剰女」
昨日実験を共にした仲だ。挨拶も気安い。
「ネクロなら嬉々として私のレオニダスに挑むかと思ったんだけどなぁ」
マニはいたずらを思いついた少年のような笑みでネクロを挑発するが、
「レオ…!?いや、いつの間にあんなゴーレム作ったんだよ」
寝起きのネクロには軽く流される。
「武具は家に元から有ったもの、前に貸しのカタに貰ったものさ。中身のゴーレムは土魔法で庭から適当に、な」
「土魔法…、そんなもん使えるなら昨日も使えば良かったのに」
昨日ごみ捨て場から帰ってくる際に、街行く人々から避けられ遠巻きに罵声を浴びせられた事を思い出し、マニの表情も渋くなる。
「寝る前に気付いたんだ。それに魔力から生まれた物質と普通の物質、生まれるゴーレムに違いがあるのかも立派な実験だろう?」
カンラカンラと笑うマニに半ば呆れながら、ネクロは朝食を摂った。
「で、そっちは何か思いついたかな?」
マニがフォークの先に刺したゆで卵をネクロへ向けながら質問する。その行儀作法に眉を顰めながらネクロは答えた。
「宿の荷物を引き払いたいな」
「大荷物はごめんだぞ」
「小物が少々、ゴーレムに荷物持ちさせたいから後でで良い。後は…、生物を入れたらどうなるんだろう」
食堂を沈黙が走る。
「それは、私も考えた。だがいくら魔物とはいえ、実験動物にするのはどうなのだろうかと、私の中のモラルが訴えるんだが」
マニはそんな己に嫌気がさすという表情でサラダを平らげていく。
「僕の故郷じゃゴブリンに畑を荒らされたら、捕まえたゴブリンをいたぶって晒して、その死体をゴブリン除けにしたり、つがいを見つけたら片方を殺して、ミンチにした死体をもう片方に無理くり詰め込んで巣へ投げ込んだり、ゴブリンの死体で獣の捌き方を教わったりしたもんだけどなぁ」
「どこの蛮族だ…」
マニは皿の上のソーセージをネクロの皿へ移していく。そのソーセージを食べてネクロは次の実験に思いを馳せるのであった。