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「金貨100枚か…」
「あぁ、私はこの壷を隅々まで実験してみたい!こんなに興味深い魔道具は初めてだよ!」
マニの瞳は輝いている。ネクロの顔を覗きこむようにしているその仕草は、女性にあまり免疫のないネクロには効果抜群だ。
「いや、うーん、ちょっと考えさせて」
ネクロは考える。金貨100枚、倹約しながら生活すれば10年は暮らせる。冒険者を辞めて農地を買って田舎に引っ込むのもいいだろう。
だが、この魔道具で出来たゴーレム、使い方次第で金貨100枚なんかすぐに稼げるんじゃないか?こんな賢いゴーレムだ。むしろゴーレムに稼いでもらえば倹約せずとも暮らせそうだ。
いや、この女から使用料を徴収すればもっと良い生活ができるな。
長い赤貧生活で培った、ネクロの打算的思考が冴えわたる。
「売る気はないね」
「う、そうか…。いや当然か、こんな珍しい魔道具…」
「だけど実験する権利なら売ろう。1回10Bでどうだ?」
「なんと!あぁそれで構わない!契約成立だな」
マニの輝く笑顔に少々ネクロも心が痛む。
「そういえばネクロは今どこに住んでいるんだ?」
「『故郷の母』だ。」
「…あの安宿か。この魔道具を置いておくには、少々、いやかなり心配だな」
「まぁ、壁も薄いし女将も勝手に入ってくるしなぁ」
それどころか、他の客まで勝手に入ってくる事もあるがそこは黙っておく。
「ふむ、うちに住まないか?部屋なら余っているよ」
「なっ!?」
マニのような美人と一つ屋根の下、ネクロにとっては魅惑の提案であるがマニも親切で言ったわけではない。ネクロが女性に免疫がないことは既に見抜いている。そして己がそれなりに異性を魅了する事ができる容姿なのも自覚済みなのだ。
実験の利用権を買う事になったのは予想外だったが、思ったより安価であった。だが、マニの頭の中にはネクロにも伝えていない仮説がグルグルと渦巻いている。それら全てを試していたらマニの資産も目減りしていく一方だろう。
ネクロを自宅に住まわせ、実験しやすくすると共に家賃等で払った実験費を回収する。自分の腕なら、もしネクロが劣情に身を任せ襲いかかって来たとしても、返り討ちにすることは容易い。不意を突かれて最後まですることになったとしても、慰謝料代わりにこの壷をいただけば良い。
ネクロには断る理由が無かったのでその提案を受け入れる。ごみで出来たゴーレムは匂うので壷へ突っ込ませ、壷が起動状態で光りだしたのでマニが「おぉ、予想取りだ!」等と騒いだが、己の体から香り立つ匂いに沈黙し、2人はマニの家へ帰ったのであった。