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「仮説が一つ立てられるな」
壷から出てきたゴーレムは、マニの指示で地べたに座っている。当初、ネクロがノリノリでゴーレムに命令を下したが全て無視され、マニが命令したらすんなりと聞きいれた。
「なるほど、魔力を注いだ者の言う事を聞くんだな」
マニは思案顔で納得していたが、ネクロは「僕の魔道具なのに…」と苦虫を噛み潰した顔しかできなかった。
「これはゴーレムを作る魔道具、かもしれない」
「へぇ、いい魔道具だね。いくら位になる?」
ネクロの脳内では、故郷で畑や家畜小屋の番をしていた土くれで出来たゴーレムが思い浮かんでいる。あれらのゴーレムは重宝されていたはずだ。
「まだ仮説だから。注いだ人によって結果は変わるかもしれない。…それにゴーレムなんて材料があれば5歳児でも作れし。もしこの壷がゴーレム製造機だとしたら、安いよ?」
「うっ…」
ゴーレムは地面やそこらの岩に陣を描き、魔力を込めるだけで出来てしまう。込める魔力も子供が無理せずに出せる量なので、同年代の少ない田舎の子供たちは、ゴーレムで遊ぶのが一般的ですらある。わざわざ魔道具を使う必要もない。
「まぁ、好事家は買うか、それに生ごみや木も材料にできるというのも珍しさから金になるかもね。形も綺麗な人型をして見栄えが良い。だが耐久力が取り柄のゴーレムでは、実用的ではないね。」
ネクロはゴーレムを見上げる。確かに故郷で見たゴーレムは全て土から生えてきたような、腕の付いた山と形容すべき姿だった。力仕事に使われていた岩で出来たゴーレムも似たり寄ったりだ。
「だが、所詮はゴーレム製造機、だとすると金貨1枚いくか…?うん、頑張っても3枚が限度だなぁ」
ネクロの上がっていた頭は項垂れた。
「ま、まぁまだ仮説だから、ネクロが魔力を込めたら別の結果が出るかもしれないじゃないか!」
ネクロの落ち込み様に、マニもフォローを入れるが気は晴れなかった。
マニ主導で改めて実験は続く。今回はゴーレムもごみを入れているため、見る見るごみの山は減っていっている。
「ネクロ、私は大変な事に気付いてしまったよ」
「唐突になんだ。家の鍵でも掛け忘れたか?」
ネクロは未だ不機嫌である。
「私の魔力量が全く減っていないんだよ」
「は…?」
「このゴーレムを作って何分たった?」
ゴーレムは魔力で動き、その身体を維持している。常に魔力が注がれていないと途端に崩れてしまう。消費量自体は子供でも半日は維持できる微量ではあるのだが、全く減っていないというのは通常あり得ない。
「つまり、このゴーレムは独立している、ということ?」
「うん、しかも見てよ」
マニの目線を辿ると、せっせとごみを壷に詰め込んでいるゴーレムがいる。
「よく働いているな」
「うん、よく働いてくれてるね」
「…んで?」
ごみを壷に入れるように命令されたのだ、ゴーレムがそれに従うのは当たり前じゃないかとマニを見ても、マニの表情は険しい。
「ネクロ、君はゴーレムを使った事が無いだろう?」
「まぁ、確かに無いね。うちは小規模な農地しか無かったし、遊び相手に困ったこともない」
「ゴーレムはこんなに働かない」
「例えば、ゴーレムはごみを壷に入れろと命令されたら、壷に入れた時点で命令が切れるんだよ。戻ってくる事は無い。戻ってきてもらうには、『ごみを壺に入れた後、戻ってこい』と命令しなきゃいけない。そういう点がゴーレムが低評価である原因だね。ましてや溢したごみをわざわざ拾って壷まで持っていくなんて思考の柔軟性は無いんだ」
「え…」
そういえばとネクロも思い出す。ゴーレムを家畜小屋の番をさせていた農家も、「こいつらは馬鹿だから、これ位しかできねぇんだ」と言っていた事を。
「ネクロ、この壷を金貨100枚で私に売らないかな?」