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路地裏のごみ捨て場。ごみ捨て場のような路地裏の、更にごみ捨て場である。腐臭が辺りに立ち込め、ここに居るだけでなんらかの病に罹りそうだ。
「さぁ、どんどん突っ込もうぞ!」
臭いでゲンナリとしているネクロと対照的に、店主はハツラツとしていた。
だがネクロも彼女の実験結果には興味があるので大人しく従う。
「うわ…」
手に持った元は何かだった木材が糸をひくと、思わず悲鳴が口から漏れ出る。
「どうしたどうした、そんなチンタラしていたら日が暮れるぞ!」
店主だけは異様に張り切って、手についた汁には目もくれず、どんどんと壷にごみを入れていく。
「(最初のテンションとはえらい違いだな)」
店を訪れた当初とのキャラの違いに苦笑いしながらネクロもごみを入れていった。
すでにごみを入れ続けて30分はたったか、ネクロも鼻が駄目になり辺りの腐臭が気にならなくなってきた。
「なぁ店主、そういえば名前を聞いてなかったが…」
「ん?そういえば言って無かったね。私はマニ、マニ・アブックだ」
さすがに店主、改めマニも30分もごみを入れ続けると頭が冷えるらしい。来店時のような落ち着いた声色で答えた。
「僕はネクロ、家名はない。で、今入れ続けているのは何の実験なんだ?」
「どれだけ入るのか、の実験だよ。マジックバッグのように限度があると思ったけど、この様子だと限度は無いか、もしくはかなり広いようだね」
マジックバッグとは、見た目は様々なバッグなのだが中に大量に物を入れる事ができる魔道具である。それなりに遺跡から見つける事ができ、市場にも出回るのだが商人を中心に需要が高く、総じて高額である。またマジックバッグでもランクがあり、中に入る量が多ければ多いほどランクは上がり、時折発見される中に入れた物の時が止まるバッグは、城が買える程の値段で取引された事がある。
「この壷は物を消す壷だろ?限度なんて無いんじゃないか?」
「それは判らない。消しているのか、貯め込んで取り出せない壷なのか、魔道具も時々失敗作なんじゃないか、これ、というような品はあるからね。」
魔道具と言えば全て高額で取引される夢のような道具と思っていたネクロには初耳の情報である。
「ちなみに今までで一番失敗作っぽかったのは?」
「んー…、履こうとすると謎のバリアが発生して履けないボロ靴は見たな。あれは意味不明だった。噂で聞いただけだが、王城には霊体化した皿が納められているらしい。霊体だから何も載せられない、見た目も普通の皿がふよふよ浮いているだけらしい。まぁ、魔道具といってもそんな物もあるのだ。この壷がどんな物かは、こうして確かめていくしかない」
そう言って最後の一息でマニがごみを投げ入れた途端、壷が光りだした。
「やぁ、どうやら限度がきたようだ。…いや、この反応は?魔力の反応があるな。」
「え、さっきまで反応がなかったのに?」
「あぁ、つまりこの壷は満杯に物を詰め込むのが起動条件だったって訳だな。離れた方がいい、今から起動させる」
「…爆発とかしないよね?」
なにせ魔道具は様々、過去には万の軍勢を焼き払った杖もあったそうだ。ネクロもいざ動き出した魔道具を目にすると怯んでしまう。
「…念の為バリアは張っておくよ。この辺一帯が吹き飛んでも耐える自信はある」
そう言ってマニが指を鳴らすと同時に、ネクロの周りにバリアが張られる。
「気を付けろよ」
ネクロにはそう言う事しかできないが、マニは手をひらひらと振ってそれに応え、壷に手をかざす。
マニがかざした手から出た魔力に反応し、壷からの光は更に強くなっていく。
「くるぞ…!」
マニは自身にもバリアを張り、ネクロは無駄ではあるが頭を腕でかばった。
光は収束し、やがて壷の中へ吸い込まれていく。その光が消えた時中から2mほどの人、いや人型の物が出てきた。
「ゴーレム…」
マニが呟いた単語にネクロも目を見張る。すらっと細身の身体は過去に見たゴーレムとは似ても似つかないが、それは紛れも無くごみで出来たゴーレムであった。