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 入れた物が消失する壷、十中八九魔道具だ。だが、何故査定時に判明しなかったのか。


 魔道具の鑑定というものは対象に魔力を流し込んで反応を窺うものが主流である。大抵の魔道具は魔力を流すと反応を示す。これを素人がいきなり魔力を流すと、例えば兵器の魔道具だと起動までしてしまい大惨事を引き起こす。査定人はそこをうまく見極めて、起動しない程度の微弱な魔力を流す事ができるらしい。


 この壷は例外だ。物を中に入れなければ反応しない。魔力をいくら流しても反応しなかったため、ガラクタと評価されたのだろう。


 そう決定づけたネクロは次の行動に移る。もう体の痛みなんぞに構っていられない。なんでも消失させられる魔道具、さぞ高く売れるだろう。高く売るには高名な査定人に頼み、鑑定書を書いてもらう必要がある。


 いつか自分も魔道具を発見して一攫千金を、と目論んでいたネクロはかつてから査定人に目処を付けていた。獲らぬ狸の皮算用である。


 壷を担いで宿を出る。その際に女将がなにやら叫んでいたが知るものか。もうすぐ大金が手に入ってこんな安宿引き払うのだ。


 


 市場街の路地にある流行らない古本屋、そこに査定人はいる。正確には査定人兼古本屋の店主だ。


 その店に入るとカビの臭いが鼻につく。品揃えも雑多で、子供向けの絵本から魔術の専門書、果ては本型の魔道具まで取り扱っている。


 オーナーが読みたい本を片っ端から取り寄せて、飽きたら売るという形式なので、古本屋としては客の入りはほぼ無いが、その培われた知識量と恵まれた魔術の腕で片手間にやっている査定業は、顧客に貴族がいるほどである。


「すまない、この壷を査定してもらえないかな?一応魔道具なんだ」


 そう言ってネクロがカウンターに載せたバカでかい小汚い壷に、眉をひそめながら店主は無言で壷を眺めている。その無言の時間の間、ネクロは店主を眺めていた。


 手入れされていない、ボサボサと無造作にのばされた黒髪、分厚いグラスで隠れているが、隙間から見える目は釣り目がちで美しい。ダボダボのローブから見える鎖骨とスレンダーな体のラインは非常に好みだ。


(整えればすっげぇ美人だよなぁ)


 そんな不純な想いを抱えたネクロへ店主からの質問が、


「魔力を通しても反応がない、だけど内部に魔力が渦巻いているのは判る。…これの起動方法は?」


 手もかざさずに魔力を操作した腕前や、組合の査定人では判らなかった内部の魔力まで感じた彼女にさすが、と思いながらネクロは答える。


「これは中に入れた物を消滅させられる魔道具なんだ。中に何か入れてみれば判るよ」


「ふむ」


 店主は足元にあったごみ箱の中身をドサドサと入れていく。音からして紙ごみのようだ。


「なるほど、確かに入れたごみが見当たらないね」


 若干声を弾ませながら店主は壷の中身を覗いている。


「ライト」


 指先から出した光の球は壷の中へ吸い込まれ、中身を照らす事無く消失した。


「ほぉほぉ、魔力も消滅させるか。これは興味深いな!」


 独り言でどんどんテンションが上がっていく店主を、逆にネクロは冷めた目で見ていた。


「んで、その壷はいくらで売れそうなんだ?」


「ちょっと黙っていてくれ!まだまだ実験したいことがある!…ええい、もうごみが無い。すまない、外のごみ捨て場からごみを持ってきてくれ!」


「え、嫌だよ!なんで僕が!?」


「探求の為だ!いいから早く何でもいいからこの中に入れる物を!」


「いや、壷をごみ捨て場まで持っていけばいいじゃん…」


「あっ…」


 再び沈黙が支配した店内、ネクロはこの査定人に頼った事を後悔していた。


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