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「かはっ、はぁはぁはぁ…」
重い足取りで遺跡の奥へ進んでゆく。
僕は冒険者、魔物と戦い日々の糧を得て暮らしている。
中には商人の護衛や採取だけで日々を送る同業者もいるが、やはり冒険者と名乗るからには華々しく魔物と戦って、前人未到のダンジョンの攻略に精を出したい。
ただ、実力も経験も足りない僕にはそんな生活は夢でしかない。今だってこうしてトレジャーハントの真似事で死ぬ直前だ。
冒険者組合所に貼ってあった遺跡の調査の依頼、すでに荒らされた遺跡だが盗賊や魔物が住み着いていないかを調査する簡単なお仕事。ついでにお宝があったら持って帰っていいよという美味い話だったが、すでに荒らされた遺跡だ、宝なんてあるわけがなく、ゴブリンの巣と化していた遺跡を発破薬で強引に進んで、焦って点火した発破薬でゴブリンもろとも粉々になりかけた。
「発破薬を買い込んでなかったら今頃奴等の餌だったな」
ヘヘヘと自嘲するも爆音で耳もいかれて骨も何本逝ったか判らない。こうして歩けているだけ奇跡かもしれない。
仲間がいれば回復もしてもらえたかもしれない。助けを呼びに走ってもらえたのかもしれない。だけど僕は独りだ。
「そんな簡単に声なんて掛けられるかよ」
単なる農家の4男坊、なんの特技もない僕がパーティーに誘われるはずもなく、パーティーを結成できるはずもなく、毎日安宿に泊まってその日暮らし、街の近くでゴブリン相手にがむしゃらに剣を振る日々。そんな日々もここの宝でおさらばと思ってこの依頼を受けたが。
最奥に着いた僕が目にしたのは空っぽの棺と壺だけであった。
「ちくしょう、完全に赤字依頼じゃないか…」
この怪我の治療費とここまでに消費した発破薬等の経費を考えると全身の力が抜ける。発破薬を買い込むためになけなしの貯金をはたいたのだ。
「…この壺だけでも金にならないかな」
僕はなるべく綺麗な形を保っている壺を担いで組合へ帰った。
「調査ご苦労、報酬の500B、壺の買い取りは拒否だ」
「え、美品だし、一応は古代魔法文明時代の遺跡から産出した一品だぞ。1個当たり1Sにはなるはずだ」
500Bとは銅貨500枚、1Sは銀貨1枚。銅貨1000枚で銀貨1枚、今泊まっている宿屋は1泊300Bだ。
「その年代の壺は市場に多く出回っている。出回りすぎて余っているくらいだ。特権階級が使っていた装飾壺ならともかく、お前が持ってきたソレは単なる薬草壺だ。魔道具の可能性も疑ったが、その反応もなかった。単なる保存用の壺、なんの価値もない」
「そんな…」
魔道具、現在では作ることが出来ない謎の技術で出来た道具たち。一生火が消えないランプから一夜で修復する剣と多岐にわたった道具があり、共通してどれも高い。一攫千金を目論む冒険者が常に探し求めるものだ。
僕はなにも悪くない査定担当者のおっさんを涙目で睨みつつ、重い思いしながら宿に帰るしかなかった。