一章 竜への挑戦 1節 絶望と希望 6
「どうすんだこれ。」
先ほどまでのページを読み終わったと後、ダンはそういう。
「まぁ、初回サービスだからね。これぐらいあげればしばらくはどうにかなるでしょ。」
「ちなみに、この力ってどれくらい使われたの。」
「最初から最後まで。オウターで物語をだして、熱魔法で塗りつぶし改変する。ゼロの黄金パターンになるね。」
「それってたいていのことはなんとかなるんじゃね。」
「ダン。たしかにこの力は理不尽な力だけど。」
アレクは笑う。その笑みはどうやって悪戯するかを考える子供のような純粋な顔だ。周りなど気にしないやりたいからやる。そう思わせる顔だ。
「理不尽には理不尽でかえせばいいんだよ。あれなら対策はいっぱいある。ロックの時もそうやってたしね。」
「そういえば物語の改変とかは文字が見えなくなったが。」
「あれは、ゼロが作者として書いたからね。作者は読み手を選べるのさ。」
「つまりこの先も先が見えない展開が見られるのか。それは。…」
「面白いでしょ。でもまぁ今回はこれで終わりだね。後は消化試合みたいなもんだし。」
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あれから五年たった。予知王のところでは早期の竜の出現で抑止力が動いたことになりお咎め(暗殺強襲)はなかった。
「よう、準備はできたのか。」
「あぁ、というかここまできて準備も何もないだろ。」
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二度目の竜に会ってからの五年間、俺はあの時のことをアッシュに全て話した。
「そいつは…、なんていうか…。まぁ内容はわかった。」
納得はできないが、ゼロを見れば嘘を言ってないことがわかる。
「それでこれからどうするんだ。」
「今までどおりに訓練して、追加で魔法の使い方を訓練する。」
「魔法についてはもうマスターしたんじゃないのか。」
「覚えただけだ。知識だけじゃ実践では役にたたない。」
「まぁそういうもんか。」
「とりあえず、今までどおり頼むぜ。」
「今までどおりで…いいのか。」
驚いた顔でアッシュはゼロに尋ねる。確かに助けられるのを無視して、殺しに加担しようとしたが。まぁそれは決定事項であり。むしろ今回においては自分が救ってみせるという調子づいた結果だ。…よく考えるとあのときは物語のアレクと一緒の状態だったかも知れない。つまりアッシュには罪はない。ついでにいうとロックという始祖の話のせいでどうでもよくなったというのが。感想である。
「あのときは感情任せに動いてたからな。自業自得のところもあるし。それ以上のことが起きたんだ。冷静に考えてみればうらみはあるが許されるレベルだよ。」
「うらんではいるのか。」
アッシュは笑う。
「あたりまでだ。あれを全て飲み込んで許せるとかどこの聖者だ。あのことについては抑止力としてアッシュに会うたびにチクチクついていくから覚悟するんだな。」
「へいへい、せいぜいゼロ様の役にたつように頑張りますよ。」
「様付けとか気持ち悪いな。」
「てめぇ、ちょっと力つけたからって調子乗ってるんじゃないか。」
アッシュから殺気がでている。
「それくらいのことをしたと感じてるんだよ。少なくとも俺はな。」
「…。ちっ。」
どうやらいつもの調子に戻ったみたいだ。俺は訓練場に向かっていく。
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こうして俺の五年間は終了した。五年も魔法の使い方を修練したおかげである程度は使い勝手の良くすることができた。
「さてそろそろいくか。やることはわかってるな。」
「あぁわかってる、まずは国の兵士が戦うからその状況を見ること。」
「これはお前が強すぎるからだ。恐らく一撃で殺せると思うが。そうなると兵士が相手がどれくらい強かったのかわからない。そうなると噂が噂を呼び、召喚を魔法を使って利益を啜ろうとするものがでてくるかもしれない。」
「よってある程度の被害がでてからだな。ブレスが一発、いや二発目の方が威力がわかってるからそっちの方がいいな。」
「わかったそれで俺がすることはないのか。」
「いいんか、人がしぬことになるぞ。」
「必要だともしょうがないとも思っていない。けどな。」
「けど。」
「お願いしたんだから、お前らからもなんかお返ししろよとふと思っただけさ。」
「…変わったなお前、絶望に泣いてた時が懐かしい。」
「まぁ少しは大人になったってことだよ。」
「そんなんじゃ、俺のような悪い大人になるぞ。」
「悪い大人と十年間一緒にいたんだ。性格が移っただけだ。」
「はは、違いねぇ。」
椅子から立ち上がる。
「さて、終わらせにいくか。」
…、戦場は阿鼻叫喚としていた。どんな攻撃をしてもきいてるそぶりも見せない竜。しかし相手の攻撃では食らっただけで重傷、あるいは死亡する。弓や魔法で大量に攻撃している後衛も、次第に近くなっている竜に怯え。逃げ出す者もいる。
「わかってはいたが酷いな。」
「本来はダメージを与えられる装備は持ってるはずなんだからな。ほら何個か効いてるのがあるだろ。」
竜を良く見てみると、確かに少し傷がついていたり。弓が残っているのがあるのがわかる。
「つまり。」
「練度不足だ。お前の半分ぐらい修練していれば変わっていただろうに。」
「まぁ、脅威判定を間違えたんだな。目の前に竜退治がいれば変わっていたかもしれんが。」
「そうはならなかった。」
まぁそれは可能性であって、この世界の話じゃない。
「さてそろそろ介入しようか。」
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「もう駄目だ。」
アレクは絶望していた、目の前の竜が強すぎる。竜なんて御伽噺の話だと思っていた。ホラ話で予言なんてあてにならなく。そのまま平穏な生活が続くと思っていた。だってそうだろ。竜退治に指名されたのは一回も俺たちに会うことがなく。竜がでてきたと言う話も一回しか聞かない。しかもそこは盗賊団に襲われていた。信じれる要素がないだろ。しかし結果は竜が現れ、威圧感で竦み、攻撃が効かず焦り
、そして竜の攻撃で恐怖する。もはや指揮系統はなくなり。逃げようにも足が動かず。ただ前を眺めているしかなかった。後衛は攻撃を続けるがダメージを受けているようには見えない。
「すぅーー。」
竜が息を吸い込むブレスを吐く気だあのブレスで最前線をほぼ壊滅させたブレスだ。
「あっ、ああ」
逃げたいが恐怖で体が動かない。なんで俺はまともに訓練しなかったのか。後悔しても。いまさら遅い。あぁもし神様がいるのならばこれからは本気で取り組みますのでこの窮地を救ってください。
…ブレスが吐き出される。
全てが一色に統一される。体も動かない。死を覚悟し恐怖で目を閉じた。…長い時間がたったと思う。いまだに痛みがこない。目を開けると炎の世界が広がっていた。他の兵士たちの影も見えるが。恐らく同じ状態なのだろう。炎が消えていく。もう誰もいない最前線。まぁこの場合、竜に一番近い位置に男が立っている。剣も鎧もつけていない。男は腕を上げるかと思うと。火の槍を竜向けて放つ。
「無理だ火じゃ竜に攻撃なんて効かない。。」
火の槍が竜に飛んでいく。
「ギャアアア。」
竜が叫ぶ同時に大きな音がする。竜の肩翼に槍を食らったようで肩翼の一部が溶けている。そう溶けている穴があいているんだ。男は竜に近づく。竜は爪で攻撃しようとするが。今度は腕が溶かされる。
「ギャアアアアアアア。」
先ほどよりも大きく叫ぶ。ここまでくると。本当にわけがわからなかった。そして男は竜の首を跳ね飛ばし。竜の行動が止まる。
「あー、聞こえるか兵士諸君。」
周りがあまりのことで呆然としているなか。祭服を着た男が話しかける。
「今ここにおられるかたが神から赤き竜の討伐を託された、ゼロだ。」
周りがざわめく。
「本当に予言の子はいたのか。」
「どうしてもっと早くこなかったんだ。」
さまざまな声があがる。
「あぁ、勘違いしてるから言うのだがな。」
祭服の男の説明が始まる。
「まず、神託は竜の退治だ別にてめえらの尻拭いをするためじゃねぇ。」
「なっ。」
「ふざけるな。」
さまざまな声が上がる。
「というかよ、てめぇらがこいつにあーだこーだ言える立場じゃねぇんだよ。」
「どうゆうことだ。」
「俺はこの国で司祭やってるアッシュっていうだけどよぉ。」
「教皇、アッシュだと。」
周りが静まり返る。教皇アッシュ。神の神託を受けられるただ一人の人物。たった一人で神殿にこもり、他との交流をたってるとも言われている。
「俺は国に十回…毎年一回、竜についての危険性と注意喚起したんだけどよぉ。返ってきた返事は、無駄なことだの余計なお世話だのだったよなぁ。」
「…それは。」
たしかに騎士団にも竜の危険性を伝える人はいたが誰も聞いてなかった。
「それに、俺が竜討伐用の資金申請にしたら。そんなものに金は回せんと無視したよなぁ。本来なら十年貯めた資金でまともな装備にできるはずだったんだが。」
「なっ、そんな話聞いてないぞ。」
「どうせ、横領とか使用できる金が減るからって権力者が渋ったんだろ。」
「…。」
「…でこっちは注意喚起と事前準備を言ったんだが…。それを無視し慢心し挙句、遅かっただと。」
祭服の男から殺気が放たれる。今まで出会ったどんな人よりも恐ろしい殺意。
「身の程をわきまえろ、小童。」
「ひぃ。」
「…、まぁつまりてめえらのうらみはお門違いだ。わかったか。」
殺気がきえる。いまだ恐怖で震えて動けない。脅威がさってから再度味わった事で、竜よりも恐ろしく感じる。
「でだ、目的を果たした竜退治のゼロは、今を持って神の世界に戻られる。元からこっちの人間ではないからな。」
「なっ。」
「それでは竜退治のゼロ。神の元へ戻りたまえ。」
その後祭服の男と何かを話して、男は消えた。後ろ姿からだったので祭服の男の表情はわからなかった。
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「これで、お願い終了だな。」
「わかってると思うが。お前ができるのがここまでであって。」
「これ以降で問題は起きればやり直し…だろ。」
「わかっているならいい。」
アッシュは頭をかく。
「あー、お前と過ごした十年はなかなか楽しかったぜ。」
「あぁ。」
「色々あったな。」
「あぁ。」
「あの時は『おい、アッシュ。』」
泣きそうなアッシュをみて話を遮る。
「なに黄昏てんだがしらねぇが。さっさと転移してくれ。」
「ったくてめぇは、せっかく感動の場面なんだからお涙頂戴にしとけよ。」
「どうせまたいつか会うんだろ。それにお涙頂戴は最初にやったはずだ。」
「最初って十年前じゃねぇか。」
「最近も香料かけすぎて涙目になっただろ。それによ。」
「それになんだよ。」
ゼロはアッシュに笑いかける。
「ハッピーエンドは最後に笑うものだろ。」
「はは、違いねぇ。」
アッシュも笑った。そうして俺は白い世界へと戻っていった。
一章 竜への挑戦 1節 絶望と希望 終
ここでいったん終了です。