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輪廻(千文字小説)

作者: 小出元春




 また君はこんな所で泣いているのかい? あぁ、驚かせて悪かったね。毎日君が私の所に来てくれるから御礼がしたかったのだ。そしたら君が辛そうに泣いているじゃないか。悩みがあるなら話して御覧。


 ……成程、仕事が辛くて仕方ないのか。なら毎度提案するのだが、もう一度人生をやり直してみてはどうだろう? 丁度此処は厠だ。君が子供だった頃を思い出して御覧。この時計はずっとこれだったかい? そうだね、水色の枠に魚の絵が書いてあった。暦表の横には平仮名と片仮名が書いてある紙が張ってあっただろう。そうそう、そんな虎を模した生き物の絵が書いてあった。

 ああ、やっと笑ったね。そろそろ気分は落ち着いたかい? なら外に出てみよう。うむ、上手くいったようだ。懐かしい感じがする? それは匂いを強く感じるからだろう。家も十年程若返ったら生気も濃くなる。そんな不思議そうな顔をするでない。そこの鏡を見て御覧。君も当時のままだ。歳は十二、三といったところか。先程言ったであろう? 人生をやり直してみないか、と。


 ……今日は何年の何日かって? 確か台所に瓦版が置いてないかい。ふむ、キリストの指導者の帰幽の続報か。日付は二〇〇五年四月三日、日曜日。確か君は明日から中学生ではなかったかな?




 今朝私の所に来た時は笑っていたのに、厠の次は布団の中かい。今日は入学式だったのにまた君は泣いている。どうだ、天気も通学路も校舎も旧友も昔のままだったろう。だが、私には中々理解し辛いのだ。君が喜んでくれると思ってやったことなのに、それでも君は悲しい顔をしている。


 ……なに、赤子の頃からやり直したい? それは出来ないことはない……だが、また戻るのか。私は今からでも充分やり直せると思う。……そうか、君がそこまで言うなら願いを叶えよう。


 そしたらまた昔を思い出してみようか。この寝床の枠は、君が赤子の頃はもっと高いものだったね。それでも君は何度も寝床から出ようとしていた。それに君の周りには玩具が所狭しと置いてあった。すぐに飽きて、君の両親は大分苦労されていたな。天井も今よりずっと高く見えていたはずだ。隣には両親が眠っている。そう、ゆっくりと目を閉じて御覧。


 段々うとうとしてきたね。そろそろ私の言葉は理解出来なくなるだろう。これからまた苦しいことがあると思う。それでも優しい君は私の所に毎日来てくれるだろう。今回よりももっと成長した君に会えることを今から楽しみにしているよ。

寝る前に「目を開けたら小学校時代に戻ってないかな~」って妄想をよくします。

結局、自分が変わらないと何も変わらないんですよね。

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