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このは

作者: しゃお

ぼんやりとしたお祭りのような、あるいはただの商店街のような、そんな非現実的な景色の合間から不似合いな人工的な機械音が鳴り響く。非現実的なそれをさらに彼方へと突き放すように機械音が大きくなる。やがてそれがアラームの音であるのに気づき、と同時に、非現実的な景色が自分の作り出した虚像であることを認識しほっとした。


頭が重い。鉛が入ってるのではないかと思うほどだ。


口には昨日のビールの味が残っている。喉を通る分にはおいしかったのだが、口に残っている苦味はもう2度とビールを口にしたくないと思わせるほどの代物だ。

昨晩は以前のバイト先の同事に誘われ、特に行きたいわけでもなかったが断る理由もないし、なんせこの暑い時期に屋外でキンキンに冷えたビールを飲めるというキッカケのためだけに行ったものだ。

結論から言うと、酔っぱらった1人の先輩が自分の現状に散々口出しし、何がしたいんだとか、これからどうするつもりだとか、息苦しい愚問を投げかけてきてすこぶる気分が悪くなった。


寝返りをうった。重心は頭の中の鉛だ。


これからどうするのか?何がしたいのか?正確な回答がこの頭の中に存在していたら、平日の夜に急遽誘われたビアガーデンには行っていなかっただろう。

学業を終えてから半年がだった。周囲の同級生たちは昨晩の自分の無の時間を、残業の時間にでも当てていたのだろう。時間をお金に換えるという面で、そちらのほうが幾分賢明な判断である。


自分はいわゆるフリーターだ。フリーターといっても全力である。「全力でフリーターやってます」これが最近の飲みの席での自虐ネタなのだが、聞き手はバツの悪そうな表情を浮かべて失笑するだけだ。つまらないとわかっていても、こうでも言って明るく振る舞っておかないと今の自分を取り巻く闇に心もろとも包まれ、”無”になってしまうのではないかと思うのだ。

望みどおりの生活を手に入れ、朝が来るたびに喜びを感じ、眠りにつく前は期待感に胸が膨らみ、といった人間が同じ世に存在し同じ空気を吸っているのならば、自分は目隠しをされたって手脚を縛られたって、その背中から伸びる糸を噛み締めて引きづられることを望む。


世の中を諷刺すればするほど性を認識する。性を認識すればするほど、世間で孤立する。この仕組みに変革をもたらそうと思った時に幕末の武士たちは矛先をどこに向け、どこで血を流すことを望むのだろうか。


あれこれと考えを巡らせ布団の中から時計の針に視線を移す。木曜日の午前11時08分。

今日のスケジュールは夕方の5時からバイトがある。それだけだ。仰向けの状態からさらに背筋を反らせ窓から逆さまの空を覗く。意識して空を見たのがとても久しぶりのことのように思えた。空は毎日無意識のうちに目にするものなのに、今回は意識してみてしまったからであろうか、違和感を感じた。


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