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桃太郎 3  作者: 芳田文之介
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其の二


 かくも、酒次第では、そしりとほまれがあべこべになる、そんなおじいさんではありました。

 といって、おじいさんは、いくら悪酔いしたとしても、ついぞおばあさんに手を挙げたことはありません。

 それが、ある日のことです。

 あれは雨模様の、気がめいってしまうようなどんよりとした一日でした。

 朝まだきから降りしきる雨が山を濡らしていたので、おじいさんは、いつものように、柴刈りにいけません。

 そこでおじいさんは、やむなく、ひなびた屋敷で暇を持て余しながら、いつもなら慌ただしい日の暮れを、その日は、待ちかねるようにして過ごしていました。

「それにしても、暇でかなわんのう」 

 そうこうしているうちに、おじいさんは、やがて、無聊をかこつようになります。

 けれども、いくらそれをなぐさめるからといって、これはどうかと思うのです。

 なにぶん、お天道様はまだ中空高くのぼっているのです。だというのに、そんな時分から、おじいさんはもう一杯やりはじめたのですから……。

 それでなくても、ちょっと飲んだだけでも、たちどころに、へべれけになるおじいさん。

 それだけに、いやな予感しかしません――。



 あんのじょう、それが、あだになります。

 ちょっと口にしただけでも、すっかり人格が変わってしまうのに、そこにもってきて、ひねもす、ほしいままに酒を煽ったとしたら――おそらくは、いつもいじょうにへべれけになり、いつにもまして大暴れすることでしょう。その挙句、おばあさんは、より割をくう憂き目にあい、いっそうてんてこ舞いの忙しさになることでしょう。

 現に、その通りになります。いえ、それいじょうのおぞましい展開が待ち受けていたのです。

 よりによって、おじいさんは褒めこそすれ、けっして手を挙げてはならないおばあさんの、その頬を平手打ちするという、まさに度し難い蛮行をはたらいたのですから。

 これには、さしもの辛抱強さを誇るおばあさんも、ぷつん、と胸の感情の結び目がほどけてしまうのでした。



つづく



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