帰宅時、捕まる。
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※ついに主人公の名字登場(やっと思いついた)
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「みっきー?」
下駄箱で靴を脱いでいると、こんな感じで呼び止められた。
名字が三木だから、みっきー。
なんて安易なネーミングだと思うが、今や正式名称の三木ではなくこっちのほうが多く使われる。というか、名前は知らないけどこの呼び方は知ってる人間のほうが多い。
「おう」
でも、たとえ気安い呼び方でもこんな風に気安く呼び止める人間は数えるほどしかいない。
そんな一人の大谷が、階段の途中から俺に声をかけてきた。
「今日部活は?」
「休み。」
俺は良く帰宅部に間違われるのだが、一応弱小運動部に所属している。
というのも、下宿生活をするに当たり学校に提出する理由が必要だったのだが、その中に「部活動」という項目があったためだ。遠いから、だけではだめらしい。
そんなわけで全校の部活で最も活動が少ない部員ゼロだった陸上部に所属している。
ちなみに部員ゼロでも存在が許されていたのは、顧問の趣味が陸上だからという個人的な理由だ。あと、グランドの端っこで他の部活動の邪魔にならずに活動できるし、真面目に活動していないので部費もほとんどいらないという点も大きいらしい。
そんな理由で部室さえもらえてないのだが。
で、部活動もこの顧問が走るのに付き合うだけ。
そんなわけで、顧問が忙しい日は必然的に自主的休みとなる。
「あーちゃん、今日もいないんだ」
「最近忙しいらしいからな」
あーちゃんとは顧問の事だ。
本名は忘れた。まぁ、俺もそんなもんだからそんなもんなんだろう。
「そんなことより、みっきーに相談があるんだけど」
と、ストレートな言葉が飛んできた。
こいつは珍しい。
大谷とは朝はほとんど一緒だが、それ以降は言葉を交わす日のほうが少ない。仲が悪いとかそんなんではなく、隣に工藤がいるからってのが一番の理由だろう。
そんな工藤は放課後も職員室に呼び出されてしまったので、こうやって一人でかえろうとしていたんだけど。
「いいけど、これから部活だろ?」
「サボるから。ちょっと待ってて。」
そういうと大谷は教室に駈け出して行った。
その思い切りの良さと割り切りが彼女の魅力なんだろうけど、サボるって普通に言うのか。
社会人になったらそんなノリで仕事もサボるんじゃないだろうか。
普通の人ぐらいの常識をわきまえているつもりの自分にとって、大谷の価値観は突き抜けてることが多い。
右か左か。
イエスかノーか。
やりたいかやりたくないか。
何にでもほぼ即答する彼女の生き方は、少し考え、即答できなかったら時間をかける俺にはとてもマネできない。
そんな彼女が、相談という言葉を口にした。
朝以外に声をかけるのも、相談という行為も珍しい。
とはいえ、相談を受けることは珍しい事じゃない。
学校内でそういうポジションにいるのが、俺だからだ。
ただし、俺に持ちかけられる「相談」は当事者よりこちらのほうが悩む部類のものが多い。だから、どちらかというと相談されるのは好きじゃない。
そんなことを思いながら、廊下の向こうから感じるいくつかの視線をあえて気づかないふりをする。
今日はホント、いろんなことが起きる。