午後。続き。
振り向いた彼女は、落とした消しゴムを拾いながらちらりとこっちのほうを見る。
もちろん、視線の先にいるのは俺じゃない。
隣でノートを黙々ととっている工藤だ。
美生谷というちょっと珍しい名字の彼女は、どちらかというと可愛らしい女子だ。
いつも仲良し三人組で固まって行動している。
いわゆる女の子らしい女の子的な。
女の子らしいという時点でお決まりのように、女子の中では好き嫌いもわかれる。
そんな中で大谷とは仲が良く、たまにつるんで行動してる。
「友達の一人だよ?」
と大谷はさらりと言うけれど、交友関係が広いあいつにしてみればそんなものだろう。
しかしもう少し世界が狭い美生谷にとっては大切な友達の一人なのだろう。
美生谷とちょっと話をしたときに、そんな事を聞いたことがある。
そんな彼女が、最近工藤の事をちらちらと見るようになった。
最初はそうでもなかったが、ここ数日は頻繁に視線を感じる。
というか、行動があからさまでわかりやすすぎる。
大谷の想い人。
美生谷の想い人。
そして、人付き合いの良いやつほど空気を読む能力に優れている。
そういう事か、と大谷(弟)の言葉の意味がぼんやりとわかったような気がする。
そしてそれがすごく面倒なことになりそうな確信があった。
そう、こういう嫌な予感はまず当たる。
それがラブレターを沢山受け取った(もらった、ではない)俺ならではの判断だ。
そうなると、放課後はとっとと帰るに限る。
その時、俺は今朝の担任の言葉をすっかり忘れていた。