1限目。
理科室には真面目な女子がもう揃ってる。
とは言っても、俺たちだって男子の中じゃ早いほうだ。
ぶっちゃけ、俺と工藤は多くの教師の間では優等生と呼ばれる部類のほうだ。特に工藤は文武両道、校外模試でも成績優秀なのでこいつのノートは常に貸し出し予約で埋まってる。俺はコピーしてもらうだけだけど。
「きりーつ」
時間ピッタリに井上が入ってきた。小奇麗な白衣にぴっちりと七三に分けた髪型がトレードマークの理科教師は、いわゆる学者然としたイメージではなくサラリーマン的なイメージがある。
「はい、おはよう。では、先週の続きから。」
簡潔な挨拶の後、授業が始まる。
井上の授業は面白みが少なく静かだけど、テストに出るポイントが簡潔にまとめられていてノートをほとんど取らない俺にもわかりやすい。いわく
「テストってのは、憶えてもらいたいことを憶えているかの確認だから」
とか。
おかげで授業はテストに出るところがまとめられていて、まじめにノートを取ればそれなりの点数は取れる。ただし黒板に書かない「ちょっとしたポイント」が点数の差となってくる。そのポイントを抜き出すのが工藤はうまいのだ。
「サッカーの読み合いに比べりゃ楽だよ」
そう言うけど、俺だってそれはやってる。
ただ、こいつはそれがものすごく上手い。
人の心を読むというか、見透かすというか。
あまり口には出さないけど、神経がかなり細かいので相手の細かなしぐさから心情を読み取ってしまう。友人付き合いにはそれが気遣いとなって現れるし、授業では教師の意図を読むことに応用できるらしい、
もちろん、そんな奴だからもてる。
工藤へのラブレターを渡されたことも何度あった事か。
恥ずかしいと言って俺に渡すのは良いけど、それを渡す俺だって恥ずかしい。
「わかってやれよ」
と工藤は言うけど、わかるのとそれを許容するのはまた違う話だ。
毎朝校門で一緒になる大谷だって、工藤狙いの一人だ。
比較的鈍い俺ですらわかるのに、いつまでも行動しない。
毎朝俺と一緒にいたら誤解されそうな感じがするけど、
「アンタだからいいのよ。楽だし。」
と訳の分からない評価をされる。
そう、楽。
俺の評価はどんな人にもこれで定まってる。
一緒にいて、楽。
特にとんがったところもなく、主張も薄い俺はそんな存在らしく、工藤や大谷にもそんなところが評価されてるらしい。俺にはそんな良さがさっぱりわからないのだが、
「それが良いんだよ」
と返されてしまう。訳が分からない。
気安く話かけてくる相手だって、こっちはドギマギする人も含まれている。つまりこっちは楽じゃないのに
「何でか、楽なんだよね」
と言われる。本当に、訳が分からない。
そんなこんなを考えてるうちに、1限が終わる。
工藤に今日もコピーを頼んどかないと。