昼、工藤に電話。繋がらず。
すっかり忘れていたけど、工藤から昨日、着信があった。
それに気がついたのは、もうそろそろ昼休みという時間だ。
朝、目覚まし代わりのスマホに手を伸ばした時、着信一件だったことを今更思い出していた。
工藤からの電話は珍しい。
あいつも連絡不精なところがあって、会った時に「そういえば・・・」と藩士をされることが多い。たまに遅すぎて手遅れな場合もあるけど。
そんな工藤から電話があり、しかも今日は休んでる。
流石にこれを無視するわけにはいかず、昼休みになってすぐ職員室に行く。
最近の流れで携帯電話やスマホの持ち込みは許されているが、その利用は原則先生の監視下という制限がかけられている。メールやSNSならまだしも、電話はこそこそするのは難しい。
授業後と昼食とで騒然としている職員室で、担任の太田を探す。
「おお、みっきー。どうした?」
後ろから間延びした声がかかる。
社会科教師でもある担任の太田は、大きな世界地図を持ってちょうど帰ってきたところだった。彼の授業は延長が多いが、たとえ話を用いながら地図を多用するため、わかりやすいだけでなく面白い。基本ノートを書かない自分ですら、面白くて結構な量を書きとめるぐらいだ。
そんなスタイルは昼休みという貴重な休憩時間の前でも変わることは無かったらしい。
「昨日工藤から電話があって出られなかったのでかけたいんですけど。」
「おお、了解。その辺で電話しとけ」
太田は喫煙室の前あたりを指差した。
超ヘビースモーカーでもある太田は、生徒の話を聞くときはたいていこの前が指定席だ。自分はボチボチと中でタバコを吸いつつ、その合間に生徒の話を聞く。聞いて吸って考えて答えを伝え、また聞いて吸って考えて、を繰り返す。おかげで喫煙室との分煙がなし崩しになると嫌煙派の先生からは怒られるらしいのだが、こんなキャラクターなので許してもらえているらしい。
なにより、そんな行為が繰り返されるほど太田には相談が持ちかけられる。なので嫌煙派の先生もあまり咎めることができないらしい。
「タバコ、やめられればいいんだけどな。全面的に俺が悪い。」
開き直りもせずそういうから、余計たちが悪い。
それが俺や工藤、大谷や美生谷の担任だったりする。
それはさておき、許可も出たので電話をする。
何度か電話をしてみたが、通話口からは
「おかけになった電話番号は、現在電波の届かない場所にあるか、電源が入っておりません」
というメッセージが返ってくるのみ。
俺は仕方なく、「昨日、電話した?」と短いメールを送ることにした。
この時点で、昼休みは残り十分。
何処で見ていたのか、それを見かねて数学の女教師がメロンパンをくれたのでありがたく頂戴する。弁当は夜ご飯だな、こりゃ。