工藤の事。
だからどうした?と言われそうだが、俺は誰とでも話をする。
というか、馴れ馴れしく話しかけられる。
朝の連中や大谷(弟)のような強面や工藤のような変わり者、グランドを駆けずり回ってる部活動の奴ら、はては教師や用務員まで俺の事を「みっきー」と呼ぶ。
そんな中、話す機会が少ないのがこの美生谷だ。
とは言っても彼女がそもそも話をしているのはほとんどが仲良し連中とだけなので、そんなものなのだろう。
「ね、工藤君今日休みだよね?」
「ああ、みたいだね。」
知らないことを言葉に含ませたつもりだったのだが、美生谷の質問は続く。
「やっぱり身体のどこか、悪いの?」
そう、工藤の無遅刻無欠席が「ほぼ」なのは、身体にかかえた爆弾が理由だ
。
中学生当時サッカー部だった工藤は豊富な運動量とボールタッチのうまさ、抜群の決定力でまさしくエースだった。
ただし成長期真っ盛りの過激な運動量は負担も大きく、ある日試合中にひっくり返ったのち、二度とピッチに戻ることは無かった。
重度の椎間板ヘルニア。
医者からサッカーはおろか全ての運動を禁じられた工藤は、そのまま入院をし、その後退院してからサッカー部を退部した。顧問からはずいぶん引き留められたようだが、事情が事情なので引き止めきれなかったらしい。
当時こいつにサッカー部に引きづりこまれていた俺もぼちぼちと部活を休むようになり、そのまま今に至る、と。
「最近は病院にも通ってなかったみたいだけどね」
「そう・・・」
昨日も普通に体育祭の決起集会に参加していたし、体の不調は考えにくい。
もちろん馬鹿じゃないので人並みに風邪もひくが、40度近くの熱が出ても学校に来るはた迷惑な奴なので、それが理由とも考えにくい。
遠距離通学しているので交通機関とも考えたが、しばらく休みがちになるという宣言を聞くとそれも違う。
結局、俺には何もわからない。
「ね、メールしてみたら?」
美生谷が珍しく食い下がってくる。
とはいえ、俺はまず人にメールをしない。
向こうから来る分には受けるが、用事があれば直接話すし、工藤なら何かあればメールをよこしてくるはずだ。それが来ていない。
「後でしてみるよ」
「そう・・・」
曖昧な返事に納得はしていなかったようだけど、美生谷もそれで治めてくれたようだ。
そんな光景を、大谷がちらちらとみている。
予定調和的な状況の中、今日も授業が始まる。