翌日の朝。
今日もこのややきつい長い坂を、サンドイッチを相棒にのんびりと歩く。
いつものように平穏な朝。
多少心に引っかかるトゲはあっても、この時間だけは平和なものだ。
そう、本来なら。
学校と下宿のちょうど真ん中あたり、交差点で見慣れた制服の集団が目に入る。
「おはよ」
「「おはよーっす」」
軽く挨拶した俺に、集団からも挨拶が返ってくる。
「先輩、今日もサンドイッチすか?」
「うん、でもあげないよ?」
そんな目的じゃないことは分かっていつつも、テンプレート的な言葉を交わす。
「先輩、ちょっと時間いいすか?」
「いいけど、歩きながらね」
「できればこっそり話したいんですけど」
「だめ。遅刻しちゃうから。」
というわけで、強面の後輩たちに囲まれながら学校に行くことになる。
俺の周りには、いろんな人間がいる。
いたって普通(と思う)の人種な俺だけど、その周りには個性的な人間が多い。大谷や工藤もちょっと変わってる口だけど、大谷(弟)やこいつらのような強面の連中もなぜか寄ってくる。まぁ、こいつらは昔部活で後輩だったからってのもあるんだろうけど。
「先輩、昨日大谷と話してましたよね」
ぐるりと四方を囲まれた中で話が始まる。
「姉貴?弟?」
「弟っす」
おまえら見てただろ。
昨日感じた視線を思い出し、俺はその言葉を口に出しそうになる。
「あんまり話、してほしくないんですよね。」
「なんで?」
「色々っす」
サンドイッチから垂れそうになったマヨネーズをすすりつつ、考える。
大谷(弟)とこいつらは、仲が悪い。
ぶっちゃけ我を張ってるだけで、実は仲良くなれる相手柄だと思うのだけど、此奴らが一方的に反目している感じだ。
俺はどっちにも嫌な感じはないけど、事あるごとにこんな感じで話しかけるなアプローチをされてくる。
「考えとくよ」
「そろそろ、マジで。」
どん。
急に立ち止まった俺に、取り囲んでたやつの一人がぶつかってきた。
「それ、脅迫?」
「いや、そんなことは無いっすけど」
「んじゃ、そろそろこの囲い解いてくれる?学校ついたから」
俺は校門が大きく見えてきた前のほうに目をやる。
「マジで、今決めて欲しいっす」
繰り返し口にするこいつに、俺は言った。
「大谷に捕捉されたから、どいてほしいんだよね」
その校門の横、俺に気付いた大谷がいつものように手をぶんぶん振っている。囲まれてるのによくわかったな。
チッという舌打ちの音とともにゆるゆると囲みが解かれる。
「何度もお願いするの、面倒なんすよ。マジで。」
・・・。
囲いから出た後、俺はこいつに振り向いた。
「学校、来いよ。」
そいつらはそこで立ち止まったまま、学校のほうに来ようとしない。
「考えときます」
俺はもう振り向かずに、学校のほうに歩き始めた。