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プロローグ

プロローグなのでファンタジー要素皆無ですので悪しからず

第一章


プロローグ:最期の日常




 「あけましておめでとー!!」




 リビングで上がる俺と家族達の声。

 時刻は丁度0:00を回り、皆で年越しを祝った。

 年末になる毎に親戚一同が一か所に集まって何処かへ観光に行ったり皆で美味しいご飯を食べるという家族イベントを繰り返してきた俺達佐久間家一同は、今年は俺の実家がある茨城県に集まっていた。

 いつもは父ちゃんや父ちゃんの兄弟達の実家である広島県に集まるのだが、今年は俺が他所の県の大学に入り、妹は高校受験を迎え、姉ちゃんも大学3年生という厳しいお家事情の為に80代に入ろうという爺ちゃん婆ちゃんに無理をしてもらってまで集まったのだ。

 爺ちゃん婆ちゃんもそうだが、社会人になった従兄弟は殺人的な仕事の忙しさのせいでこれるかどうか不安な状況。俺も大学一年目にして最大量の課題を出されてしまいファミリー全員が集まれるかどうか不安な所だったのだが、俺も従兄弟も死ぬ気でやるべきことをやった上で何とか年末休みの猶予を勝ち取ったのである。

 夏休みに里帰りしていた俺にとっては懐かしい帰郷という感じは無かったが、家が増えたり、前まであった店が潰れてたり他のジャンルの店になってたり、馴染みの街の風景が少しばかり変わっていることに若干しみじみとしたものを覚えたものだ。

 多少のバラつきはあったものの無事メンバー全員が集まった時は、俺達大学生から社会人組は兎も角、中学にもなってない若年層組はビックリするくらい大きくなっていて驚いた。

 恐らく自分が成長期の時も周りはこんな気分だったのだな何て不意に考えた時にはただでさえオッサン臭い自分のことが余計に年寄りのように思えた。



 俺が生まれる少し前から、かれこれ18、9年は続いている集まりは恒例化しているが故に新鮮さにこそ欠けるが、年越しまで飲んで騒いで盛り上がるのは変わらず楽しいものだと思う。因みに俺はまだ19歳なので飲んでいたのはコーラだった。

 大きなテーブルの上に並べられていた御馳走は粗方食べ尽され、爺ちゃん特製の絶品うどんも、欠片一つ残さず皆の胃袋に収まった。

 笑い話のネタも尽きて正に祭りの後のような空気が部屋の中を支配した。

 そこからは今年の紅白についてお喋りする者もいれば片づけに動き出す者も、酒臭くなった身体を洗い流す為に風呂場に向かう者もいて、先程までとはまた違った喧騒が巻き起こる。




「亮。こっちのお皿も食洗機入れといて」


「はいよ」




母ちゃんから頼まれた通りに乗っていたものを食べ尽されたお皿を軽く洗った後、引き出しみたいになっている食洗機の中に並べていき、洗剤を入れて電源スイッチを押す。

 この一連の動作だけは一人暮らしを始める前からちょくちょくやってたから今でもちゃんと覚えている。寧ろ今になってもやり方が分からないという姉ちゃんと妹を心配したくらいだ。

 当の本人達に視線をやれば、ガールズトークの真っ最中。楽しいお喋りも良いがそろそろ家事の一つも出来るようにならないと後が辛いよ?




「何だよ亮?何か調子乗ったこと考えてそうな顔じゃん」


「してないよ。何でもかんでも調子乗ってることにしないでよ」




 文面にすると薄ら寒い会話だけど冗談と空かいがふんだんに織り交ぜられているので悪しからず。

 そんなこんなで、サラッと小さな嘘をつきつつ姉ちゃんのお仕置き…もといじゃれ付きを回避する。

 余談だが佐久間家はどういう訳か女のヒエラルキーが異様に高い。姉御系とか強気系とか腹黒系とかがいるせいなんだろうが矢鱈と女がパワフルなのだ。

 更にそこへ佐久間家特有のバイオレンスな愛情表現も加わって男は…というか俺は完全に家の中では弄られキャラが定着している。

 特に姉ちゃんと父ちゃんにその傾向が強く、この年末も色々と酷い目に会った。本人達に悪意が無いのは分かってるんだが、明確な痛みを伴う奴は勘弁してくれ。

 割と魂の叫び的な面がある愚痴を内心抱え込みつつ、何の前触れも無く脇腹にくすぐり攻撃をかましてきた父親から距離を取る。




「年変わって早々止めてってば。つうか今リアルでダメージ受けると食べた物リバースしちゃいそうだからホント勘弁して」


「そんなモン気合で我慢するんだよ!腹一杯の状態だろうが家族からの愛の鞭を進んで受けるってのが長男の役目だろうがよぉ~」


「マジでわけ分からん理屈だなソレ。要は何でもありに長男の役目を被せてるだけじゃん」


「甘いな亮。これからの人生じゃ、こんな風に無茶苦茶な言い分で大変な目に会うことだって一杯あんだろうし、今の内に慣れとけって!」


「無茶苦茶言ってる自覚はあるのな。その一点だけは安心したわ。だからってこの場で弄られることが将来の役に立つわけあるかって」


「厄には立つよ?」


「字が違う!!」




 ニヤニヤしながらどのようにして俺を物理的に弄り倒すのか思案しているのであろう眼前の眼鏡掛けた天然パーマを睨み付けるが全く相手は動じない。

 しかも他の家族は面白そうに見てるだけだし救援は望めなさそうだ。端っから期待しちゃいないけどね。

だけどね?写メったりすんのはどうなのかなぁ?見世物じゃないんだからそういうの止めようよ。つうか期待しちゃいないけど誰か助けてください!!

あ、そういえば言い忘れてたけど、こんなでも家族の仲は良い方だから誤解しないでね?



 何はともあれ、ひとしきり騒いだ佐久間家一同は、やることはやったと言わんばかりに各々寝る準備に入る。

 年越しの為に真夜中まで起きていた面々には例外無く睡魔が襲い掛かっていた。

 しかも成人組には夜の7時頃から飲み始めていた人までいるのだ……まぁ俺の母ちゃんなんだが。

 もう良いお歳の爺ちゃん婆ちゃんもそうだし、小学生組もこんな夜遅くまで起きているのは楽じゃなかろう。年末のささやかな宴は呆気無く御開きとなった。

 俺も眠気で視界を白黒させながら、俺が一人暮らしを始めてからは無人となった部屋に転がり込む。

 元々物が少なくてこじんまりとしている所か生活感が大幅に欠如していた俺の部屋は勉強机が撤去されたことで不気味なまでに綺麗さっぱりな状態になっていた。

 あるのは俺が持って来た荷物と、床に敷いてある布団一枚くらいのもので、来年からはとうとう我が家の物置と化すらしい。何だか物悲しさを覚えたのは秘密だ。



 意識が段々と眠りの世界に落ちていくのを自覚しながら、俺はふと今年一年間の事を思い返した。

 高校と違って自由度も自己責任性も段違いな新しい環境に戸惑いつつも、それなりにやってきた方だと思う。

 それなりに勉強を頑張ってそれなりに友達を作ってそれなりに遊んだ。何というかそれだけだ。

 別段そこまで衝撃的な事件も無かった。彼女が出来たわけでもなければ大学で嘘みたいな成績をぶち上げたわけでもない。ただそれなりに、辛くない程度には頑張って来た。

 もしかすると普通ならビッグニュースと感じられるような経験もしていたかもしれないけど、多分そんなモノがあったのだとしても、少なくとも俺にとっては大したことじゃなかったんだろう。

 我ながら淡白な性格してると思うが実際何をするにしてもそれなりに上手くいって何とかなってしまっていたのだから仕方がないだろう。というか何とかならない事態が続いた時点で俺はきっと挫けてる筈だ。

 軟弱なのは自覚してるが、そういう性分なのだ。やる前から無理だ出来っこないとは言わないで、何事にもとりあえずチャレンジしてみるが、やって駄目だったのならその時点でお手上げ。再挑戦何て出来っこないのが俺という人間なのだ。

 そういう意味では、俺にしては上手くやった方だろう。大体の問題は、事前に考えすぎと言えるくらいの対策を練りこそしていたが一発で解決して来た。

 大凡失敗や損害というものを問題が浮上した時の一回こっきりを除いて回避して来た。お蔭で、それなりに安定した日々をそれなりに楽しくそれなりに過ごせた。

 そう。“それなりに”

 さっきまでもそれなりに騒いでそれなりに楽しめたし、それなりに満足のいく年越しになった自覚はある。

 けど、それだけなのか?本当に“それなり”で済ませてしまうのか?

 こうして親戚が大勢集まること自体最近の家族では結構稀なケースだろう。俺たちだってもう何度全員で集まれるのかも分からないだろう。恒例化していようが楽しいじかんだったんだろう。なのに、それなりにしか感じられないのか?

 大学での一年だってそうだ。お世辞にも家庭スキルを満足に備えているわけでもないのに一人暮らし何て始めて、しかも一月かそこらで大体の事が出来るようになったんだ。それはそれで少しは自慢できることだろう。

 勉強の事もそう。知らない土地での友達作りもそう。サークル活動だってそう。バイトだってそう。

 少しでも充実感や達成感を味わえるようなことはこの一年間だけでも沢山あった筈なのに、結局何とも思わないのか?ならば俺は果たしてこの一年間何をしていたのか?

 何事にもストイックに生活していたと言えば、確かにそれは聞こえは良い。一定の生活バランスを保ち続けていたと言えば、なるほどそれは素晴らしい。

 しかし、それは同時に一年間が揺らぎの無い、淡々としたものであることも意味しているのではないのか?




「………だから何だっての」




 そうさ。だから何だ?それなりにでも満足できてるのならそれで良いじゃないか。無理してまで変える必要なんて何処にある?第一それなりに生きる事の何が悪いんだ?現代人何て皆そんなモンだろ。

 毎日毎日を全力全開フルパワーで生きてる年中マキシマムな人間なんてドラマやアニメの中だけで十分。俺がそうならなきゃならない理由なんて無い。

 今回の集まりだってそうだ。全く楽しまなかったんじゃないし、何も感じなかったんじゃない。少なくとも今この時がそれなりに大事な一時なんだと思える程度には噛み締めたつもりだ。

 だから何の問題も無い。俺は間違いを犯してなんかいないし失敗もしていない。だから俺が責められなきゃならない理由なんて一切無いんだ。

 つうか何で年越して早々こんなことで深みに嵌ってなきゃならんのだ。寝惚けてるせいでテンションがおかしな方に傾いているにしたって良い気分にはならない。だからこんな思考はとっととカットするに限る。そうすれば辛くはないから。

 何だか情けなくなってくる結論を残して、俺は泥に沈むように眠りについた。

せめて目覚める時には、この不毛で無駄に憂鬱になるような自問自答で生まれたつっかえが無くなっているよう願いながら――――――――――――――――



































 翌朝の目覚めは意外と晴れやかだった。願いが通じたのか、寝る間際に考えていたことなど頭の片隅にも残ってない。半分寝惚けていたのも幸いしたようだ。

 そして、早速だが年明け早々高速バスの往復チケットの指定日がやって来た俺は他のメンバーよりも一足早く大学の方の家に戻る事になった。余談だが、ここで“帰る”ではなく“戻る”と表現するのは俺の拘りだ。

 往復バスの駅は東京にあり、そこまでは電車で乗り継ぎになるから時間は掛かるが新幹線何て使うよりもよっぽど安上がりだから高速バスって本当に便利である。




「それじゃ気をつけてね。大学頑張ってよ」


「はいはい」


「適当に勉強してよく遊んで、そんでもって早く彼女の一人でも作っておいて」


「最後のが余計だってば」




 車で最寄りの駅まで送ってくれた母ちゃんの言葉に苦笑交じりで答えつつ、俺は駅のホームに向かった。

 『またね~』と手を振っている母ちゃんに手を振り返すのも忘れない。ちょっと恥ずかしいけども。



 こうして実家を後にした俺は元来た道を遡って行った末に高速バスに乗り込む。

 運転手にチケットを見せて指定席に腰掛ける。電車でそれなりに長い距離をやって来たから地味に疲れていた。お土産とか向こうで買った物とかで重たさが増した荷物を引っ提げてたのも一助となったのだろう。

 疲れた体に一時の休息を与えるべく俺は潰れるようにして背もたれに体重を預けた。

 幸いなことに隣の席は空席だ。狭苦しさを感じることも無く俺は股を広げて寛ぐ姿勢に入った。

 道中コンビニで買った簡単な菓子を食べたり、パーキングエリアで買った御当地?の食べ物を食べたり予め買っておいた昼ご飯を食べたりって……食ってばっかりやん。

 それは兎も角、自分でも呆れるほどの寛ぎっぷりで戻りの旅を満喫していた。そんな時だった。



 丁度帰路の中間に差し掛かった辺り。日も少し傾き始めて空の色も陰り始めていた。

 もうそんな時間なのかと腕時計に目を落とす。渋滞にも結構捕まったし仕方が無いとは言え帰りは少し遅くなりそうだ。

 晩御飯は適当な所で済ませよう。そんなことを考えながら視線を窓の外に向けると、俺は時間が止まったような錯覚に襲われた。




――――――ここは高速道路だ――――――


――――――皆真っ直ぐ進んでる筈だ――――――




 一瞬の内に目の前の状況を分析理解するという驚くべき回転の速さを見せた頭に驚くことも無く、俺は全身の血液がサッと引いて行くような嫌な感覚を覚えた。




――――――なのに何であの車は――――――




 心臓の鼓動がまるでデカい太鼓でも耳元で叩いてるんじゃないかと思うくらいに煩い。




――――――真横からこっちに向かって来てるんだ――――――




 『危ない!!』そう叫ぼうとした時には既に



 バスは横っ腹に突撃を喰らっていた。




























「……あ………うぁ……?」




 寝坊した後のような呆けた声を上げながら俺の意識は覚醒した。

 何が一体どうなった?状況が上手く整理できず、頭の中に靄がかかったような感覚に陥る。



――――――そうだ、確か俺はバスに乗ってて――――――



 ぼうっとする頭を何とか働かせて意識をハッキリさせようとする。どうやら俺はうつ伏せに倒れているようだ。どうして?



――――――時計を見て、窓の外を見たら――――――



――――――すぐそこまで車が――――――



 そこで俺は何が起きたのかを把握し、飛び起きようとして……身動きが取れなかった。




「へ?」




 間抜けな声が漏れる。けれど、本当に何が起きたのか分からなかった。

 手を地面について膝を曲げて上体を起こそうとしたのに、俺の手足はどういう訳か全然言うことを聞いてくれない。

 本格的に混乱して来て、手足の状態を確認しようとした俺の視界にソレは映っていた。

 それは見覚えのあるズボンを、見覚えのある靴を履いていた。

 普段鏡とかに写った時とかに見ることは結構ある筈なのに、それはまるで他人のモノの様で、精巧な作り物の様だった。

 そして、その見覚えのあるズボンと靴を履いているであろう自分の脚がある筈の方に視線を向けたが、そこに思った通りの姿を見出すことは出来なかった。



――――――何で?どうして?――――――



 何が起こったのか、段々頭が理解する。けどそれは最も認めたくない事実で……

 だが、僅かでも理解が及んだからなのだろうか、俺に現実突きつけるような激痛が、高熱が、太腿から先を喪った右脚を駆け巡った。




「~~~っ!!!?―――――ッ!!!!!!!」




 声にならない悲鳴が漏れる。しかし傷口を抱えて悶えることも出来なかった。

 何故なら、まだ繋がっている手足も妙な方に折れ曲がっていたり何かの破片が突き刺さっていたりして使い物にならなくなっていたのだから。

 俺に辺りを見渡す余裕など在りはしなかったが、その時の俺の周囲には正に地獄としか形容出来ない光景が広がっていた。

 俺の乗っていたバスは猛スピードのトラックに横っ腹から激突され、一発でコントロールを失った後に派手に横転。しかも100km近い運動エネルギーそのままにゴロゴロと回転して社内をシェイクした。

 更に後続の車が突然の事態に対応出来ず、道を塞ぐバスに正面から突っ込み、更に後ろの車も同様の運命を辿る。

そうして辺り一面はスクラップになった車が散乱し、所々から火の手が上がっている状態だ。

 俺は一連の流れで粉々になった窓の外に放り出された挙句、後続車に右半身を撥ねられて今に至る。

 シートベルトをしていなかったのが災いした。最もつけていたらつけていたで数十メートル先で大炎上している車内に閉じ込められる羽目になっていただろうが。



 まぁ、そんなこんなで俺は不幸にもこんな様で生き残ってしまったというわけだ。

 手足は見ての通りグチャグチャで内臓も多分お釈迦になっているだろう。十中八九死ぬ一歩手前。というより何で生きているのか不思議な状態だ。

 息をするだけで全身に激痛が走る。感覚が戻ってきてしまったせいで一秒一秒が正に拷問である。

 なのに、どういうわけか俺の頭は酷く落ち着いていた。ただ冷静に、淡々と、死に行く今の状況を認識していた。

 体中から血を吹き出しまくってるせいで頭に昇ってく分が足りてないからなのか、それとも死ぬって時にまで結局俺は“それなりに”しか思ってないのか。どっちにしたって結果は同じか。




『死』




 ただそこにある無慈悲な現実。

もうすぐ訪れる無残な結末。

抗う術など在りはしない。

一切の矛盾も例外も無い。



 それなりに生きて来た俺の人生はそれなりに衝撃的な形で終わるんだ。

 味気ない人生だったが、こんな最期を迎えるとは流石に予想外だった。予想出来たら逆に怖いよ。

 年明け早々こんな目に会うとは、厄年何て次元じゃねえぞオイ。そりゃぁ事故何て何処でも起きるものだけどよりにもよってここで起きるかね?

 あーあ。こんな死に方したら家族の皆悲しむかなぁ~?

母ちゃんは間違いなく大泣きするだろう。俺が家出した時も号泣してたもん。

姉ちゃんも泣くだろう。あの人って腹黒だけど辛い事あったら隠す事無く泣いちゃうから。

妹は……どうだろ?いつもヘラヘラしてるか騒いでるか生意気な態度取ってるせいでよく分からんけど流石に悲しむだろ。

父ちゃんは多分泣かない、少なくとも人前では。

あの人ってとにかく捻くれてて弱みを見せるのが大っ嫌いだから人に涙を見せることは無いと断言出来る。

多分俺の墓でも出来たらその前で思いつく限りの罵声を履きながら静かに涙を流しているのだろう。容易に想像出来るんだから間違い無い。

従兄弟も伯父さんも伯母さんも爺ちゃんも婆ちゃんも皆悲しませる羽目になるんだろう。佐久間家って何だかんだで家族観での結束固いから。



 これだけでも俺が死ぬことで結構な人が泣くことになるであろうことが分かった。そう考えると、なんだか胸にほんわかとした何かが込みあがって来る。




俺の為に泣いてくれそうなくらいの愛を注がれていた

それくらいの事なら俺も自覚出来ていたんだ

何も感じてないのかと思ったけど案外そうでもなかったんだ

ちょっとのんびりし過ぎてて軽くボケてたんだ

俺の人生はきっと

俺の思っている以上に

充実していたんだ




















 何てポエムみたいな呟き残しちゃってるけどまだ終わんないから。『我が生涯に一片の悔いなし!』とかそんなことにはならないから。思いっきり未練タラタラだっつうの。

 そりゃあ自分の人生が意外と捨てたモンじゃないってのは分かったけど家族の顔思い浮かべて走馬灯始まってぽっくり逝くなんて結末願い下げだ。

 捨てたモンじゃないと分かったからこそこんな所で死ぬなんて絶対に嫌だ。俺が死ぬのは今から70年後のベネズエラだと決まっているのだ。何でベネズエラなんだよってツッコミは無しでお願い、適当に言っただけだから。

 味気なくてもそれなりでも良いから生きていたい。自分なりに生きていたい。生きる意味がやっと分かりかけて来たってのにスタート地点からバットエンド直行とか何のイジメだよ。イジメはイジメでも佐久間家のような笑いに満ちた方にしてくれよ……愛情表現(物理)も嫌と言えば嫌なんだが、この際我慢するぞ。




「あぁ………死にたくねぇ……死にたくねぇよコンチクショー……………」




 全身から命が流れ落ちていく感覚を味わいながらうわ言のように呟き続けた。

 力無く、今にも消え入りそうなソレは俺にとっては死ぬ間際の全力を振り絞った心からの叫びだった。

 しかし、返って来るのは事故現場に響く悲鳴とか車の音とかだけだ。誰も俺の声に答えてなんかくれやしない。

 これは何だ?日頃の行いが悪かったからなんだろうか?全力で生きようとしなかったことに対する罰か何かなのだろうか?だとすれば何て生き辛い世の中なのか。少なくとも俺が俺らしく生きていくことはまず認められないんだろうな。




「ホン………ト……ふ…ざけん…なよ」




 最期はそんな恨み言で締め括られた。

 その日。俺こと佐久間亮という人間はこの世界から消えた。


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