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余裕を見て10話以内で終了するなと思っていたら、怪しくなって来ました(泣)
あと感想で、「あの設定は」「あのゲームは」「あの敵は」といったゲームの内容に関するご指摘をいただきましたが、「特定のゲームやゲームメーカーとは一切かかわりがありません(笑)」ので、よろしくお願いします。
私は自分が転生者だとか、この世界がゲームだとかは身内には一切口にしたことがありません。うまくいかなかったら死んじゃうんだし、私が知っているのはあくまでゲームの中で分かったことだけ。「神の目」を持っていても、過信することなく打てる手は可能な限り打ってきました。いえ「神の目」を持っているから、端から見れば常軌を逸するようなことも、それで理由付けが出来ていました。
勇者がやってきて神子を連れて行く。その先で神子は死ぬ。
その流れを知っているのは、前世持ちのプレイヤーのみ。
まさか、イスラもそうなの?
驚きで言葉にならないまま抱きしめられていると、返事をする前にイスラが続けました。
「俺さあ、ツェーリアに大きくなったら結婚してって言ったことがあるんだけど、覚えてるか?」
「え?」
えええー???転生してから苦節十五年。いえ、最初の頃は前世を覚えていないから十年ですね。ひたすら死亡フラグを折る為に精進してきた私に、そんな乙女チックイベントありました?
「俺は今でもはっきり覚えてるけど、ツェーリアは『私が十六歳になった時、イスラの気が変わっていなかったらもう一度同じことを言って。言えるものなら』ってすげえ無表情で答えたんだよ」
時期としては多分、イスラがまだ魔王と分かる前。生きていられるかどうか分からなかったから、未来のはっきりしない私が、子供だろうといいかげんな答えはできなかったのだと思います。十六になっていれば、一番懸念のフラグが折れたということですからね。
なんで伝聞調なのかと言えば、かけらも覚えていないからです。すみません。多分、死亡フラグ回避に腐心して、他のことを考える余裕も無かったからでしょう。って、完全に他人事ですが。
「何で十六?って不思議だった。形相も普通じゃなかったし、結婚ってもっと早くできるだろ?じゃあ、十六歳までになんかあるって『視た』のかって思って」
あ、ああ、そういうことですか。なるほど。
子供の頃に身近な女性に好意を寄せるのはよくあること。それが、母ではなくて私だったと。単純に好意を返していれば、そんなに印象にも残らなかったのでしょう。
家族の様子がおかしければ、身近な人間は気付くものです。心配してくれていた。ありがたい。
「とりあえず一山越えたというところかな?十六歳の誕生日は、このままいけば迎えられそう」
因みに、誕生日はあと三ヶ月ほど先になります。イスラフェル死亡=即滅亡は不変なので、警戒態勢を解除するわけではありませんが、『目』で見える不安は今はありません。
はぁぁーっと安堵の溜息が耳にかかりました。
だから、くすぐったいです。そろそろ解放しませんか。
「俺、すごく怖かったんだ。俺が知ってるイベント以外の『何か』がまだあるんじゃないかって」
「───は?イベント??」
「そう、イベント。覚醒の時にツェーリアを殺しちゃうんじゃないかって心配だったし、その後追い出される流れだったろ?イベントだと。でもゲームとは違って、ツェーリアは俺を受け入れてくれたし、おまけに優しくていい匂いだし、柔らかくてちっちゃいし、ずっと抱きしめていたくなる」
え?なんか途中から違いませんか、イスラ。……っていうか。
「お前もかー!」
強制的に腕をはずして振り返ると、すごく不思議そうに首を傾げられました。
「気が付いてなかったのか、俺も転生者のプレイヤーってこと」
「神の目」は、今言ったことが嘘かどうかは分かりますが、心の中まで読めるわけじゃないですし、そんなに頭の悪い子を見るような目をされても。
「え?だって」
「出合った時に、『イスラ』って名乗っただろ?だから、その時は分からなくても、途中で気が付いたと思ってた」
イスラはイスラフェルの愛称ですが……それが一体何だって───あっ!
「そうか!魔王覚醒イベント前に、自分の名前が分かっているのはおかしいのか」
ぽん、と思わず手を打ってしまいました。
ゲーム中で明かされる回想シーンでは、十歳くらいの少年と少し年上に見える少女が一緒に遊んでいるところが2パターンくらい、その他には二人が目を交わして笑っているところなど、親密さは分かるものの名前を呼び交わしている個所はありませんでした。
覚醒したときのシーンで、
「我が名はイスラフェル。───魔王イスラフェル」
って名乗って……なんで魔王は黒コスチュームで、体温低そうな無表情の美形で細マッチョが多いんだろう?って思ったのを覚えています。そうか、あれが名前が分かる最初だったんですね。
「後は、二週目以降限定の隠しダンジョンを魔物等に掘り起こさせて、中のお宝を根こそぎにした時とか。あそこの武器や防具を持った奴等が敵に回ったら、脅威になるってわかってたから、提案したのは俺だったんだけど」
万が一、二週目に入ってたとしても使われないように、私も取りに行こうって思っていたので、どちらが言い出したのかは全く覚えていません。なんだろう、自分で自分の記憶力が心配になってきました。
隠しダンジョンは本当は地殻変動で入り口が見えるようになる、地下に埋まった神殿のことです。1フロアの広さは大したことないのですが、100フロアある上に、10フロアごとにボスを倒さないと先に進めないようになっています。フロアに置いてある宝箱のほか、ボスが落すアイテムがなかなか強力なんですよ。
100フロアまでのボスと倒すと、勇者の剣とは勝るとも劣らない神の名を戴く武器防具、使用制限なしのアイテムやアクセサリが勢ぞろいするんです。「神ノ嘆キ」「神ノ憂イ」「神ノ怒リ」「神ノ慈悲」なんて感じの。
この時、イスラは危ないからと言って私を連れて行ってはくれませんでしたけど、ボスは「そこを通してくれ、あと持ってるアイテムはくれ」とクレクレ君をしてクリアしたそうです。さすが魔王です。
「……最初の頃のイスラって、ほんとに中身も五歳児位に思ったけど、あの時点で記憶があったの?」
「……あったけど、ゲームにそっくりな世界だとまでは知らなかった。死んですぐに気が付いたらもう初めて会ったあの時だったし、体が小さい上にここの常識分かんねぇから、子供の振りはした。正直、あそこで拾ってもらわなかったらどうなっていたことやら」
「え?じゃあ、どうしてイスラって名乗ったの?偶然?」
イスラはちょっと……だいぶ?言い難そうにしたあと、ふっと視線を逸らしました。
「……名前は教えてもらったんだよ。───時の神に」
いらないかもしれない設定
ゲーム中の神子と魔王の接触期間は、長くても数カ月程度です。互いに互いのことを知りませんでした。出会ったのは、偶然で同居もしていません。
あと、入らなかったエピソードを公開します。
↓
魔王「勇者達に掛けた暗示を了承させた手口って、詐欺師が良くやる手口だろう?」
謝りたい?じゃあ慰謝料代わりに私のお店から果物買っていってよ。売り物で一番高い、高級メロン1個10万円。高すぎるっていうの?じゃあ、こっち。高級マンゴー1個5万円。これも高い?もう、本当に謝る気があるのかしら。これが最後、絶対買ってね。はい、高級りんご、1個3万円。
男は3万円を払いました。でも、りんごって1個3万円なんてしないよね?
神子「村の中の被害を知ってたら、あの程度で済まさなかったのに~。まあ、後でどうするかよく考えて計画を立てるわ」
おまけとして「とある日の神子と魔王の会話 ─紳士達の行く末─」 という話を書きました。本編終了後に公開予定です。よろしくお願いします。