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日間ランキング4位になりました。(投稿時現在)
ありがとうございます。
ものすごく今更になるかもしれませんが、この物語はフィクションです。ある特定の団体や人物、ゲームやゲームメーカーとは一切かかわりがありません。
RPG大好きなんですよ、本当に。
私がかましたセッキョーをどんな思いで聞いていたのか知りませんが、勇者一行は仲間内で一言二言話して、今後の方針を決めたようです。さほど時間はかからなかったのは、魔法使いをどうするかをとりあえず棚上げしたからみたいですね。
「真実を知った今、もう魔王城の結界をどうこうするつもりも、魔王に危害を加えるつもりもありません。色々と申し訳ありませんでした」
代表として謝罪したのは僧侶です。魔法陣を解除していないので、体は動かせないままですが……なんとなく謝罪馴れしているように感じるのは気のせいでしょうか。先ほどまでとは違って、丁寧な口調に変わっていますし。
「謝罪をしていただいても、貴方達がしようとした事を鑑みると、とてもそれだけでは信用できません」
他(勇者)も怪しいですが、魔法使いへの心証は真っ黒です。なまじ記憶と知識があるだけに、また何かやらかすかもしれません。
「どうすれば?」
「貴方達に、暗示を掛けさせてもらいます」
掛けさせて下さいではありません。命令形です。
「私と魔王と時の神に関わる全ての事柄事象に、殺意や憎しみ、不満の意を覚えたら心臓が破裂するように」
「そっそれはさすがに困ります。行動はともかく、心の中は歯止めが利きません。うっかりということもあります」
「そうですね……」
私は考えたフリをしました。
「では、『私と魔王と時の神に関わる全ての事象に、殺意や憎しみ、不満の意を覚え、それを行動に表したら、心臓が破裂する』にしましょう」
「え、えーと、心臓が破裂するのは勘弁してもらえないでしょうか。ほ、ほら、そこまでの暗示は、贄が必要になるでしょう?」
人を殺す暗示は、呪詛……禁呪の類になるのでそう言ったみたいですけど。
「レベルに差があるので、必要ありません。私は現在レベル263ですから」
「…………………」
なんですか、その絶望的な目は。
「……仕方ありませんね。『私と魔王と時の神に関わる全ての事象に、殺意や憎しみ、不満の意を覚え、それを行動に表したら、一切の能力が使えなくなる』にしましょう。具体的に言うとレベルが1に戻り、そこから上がらなくなります。これ以上ダダを捏ねるようでしたら、今すぐそうして差し上げますが」
「そ、それで結構です。……魔法陣を解除しないのは、逃げられないようにだったんですね……」
後半、泣きの入った呟きに、何をそんなに分かりきったことをと思わなくもなかったです。
暗示をかけた後、魔法陣を解除しました。体が全く動かせないというのは案外つらかったようで、全員ストレッチするように体を動かしています。魔法使用不可はそのままなので、魔法使いもとりあえず暴れたりする様子は見えません。
「これはお願いですが、仲間内で魔法使いの処遇を決めていただくのは構いませんが、仲間から放逐して終了にはしないで下さい」
「……え?」
私がそれを望むとばかり思っていたらしい一行は、虚を付かれたような顔をしました。
「そうしてしまうと、彼は何の枷もなく野に放たれることになります。暗示とはいえ抜け道はありますから、仲間内で不用意なことをしないように見張っていただきたいのです」
「わかりました」
「あともう一つ。『魔王が悪』だという考えを持つ者がいたら、なるべく認識を違えるように持っていってください」
根本的な認識の差が今回の引き金であることは間違いがありません。これは時間がかかるのは分かっていますし、既にいくつかの手は打っていますが、保険はいくら掛けてもいいでしょう。
「出来る限りやってみましょう。ただ……魔物と戦わないという選択はできないのですが、それは……」
「かまわねえよ。その方が荒れる前に大地に力が還る。これからも積極的に魔物は退治してくれ」
返事をしたのはイスラです。普段彼がやっているのは、魔物のバランス調整なのですよ。
魔物は、その地方に住む人たちなら十分倒せる程度の強さですが、問題は洞窟や山深くに潜む魔物です。人が来ない場所は動植物と魔物に魔力が回るので、どうしても過剰供給になってしまうんです。結果、フィールドエンカウントモンスターよりも、ダンジョンとか、過疎地のモンスターの方が強くなって、稀に統率者が発生するようになっちゃうんですよ。
人の来ない場所に生息する植物は効果が高くなるし、素材も質が良くなるので全く人が来ない訳でもない。でも、そういう希少種や変異種は人の手に負えなくなっている場合が多いので、放置しておくのも危ない。
で、イスラが定期的に見回っているんです。
魔物はイスラを襲いません。生み出した存在に近い波動を放っているかららしいですが、だからといって無抵抗な相手を嬲り殺すのは幾らなんでも抵抗があります。それに強くなってくれば知恵と意思を持つ魔物が生まれてきますので、そういった中から将来光と闇の神が生まれてこないとも限らないのです。
イスラ曰く、一度変異した個体は更に上の種に変わりやすいので、見込みはあるそうですが……。
私なんて「色違い上位モンスターは、そうやって生まれたんだー」と単純に思っちゃいましたけど。
ボスがいなくなればとりあえずその地域は安定しますし、接触してみて有望そうな個体を魔王城へ転移させ、封印や結界の見回りをやらせているのだそうです。
魔王だからなのか、意思を持った固体はイスラフェルに絶対服従。
ついでに私も存在が似ているのか、イスラが魔王になってからは襲われたことがありません。
用がなくなったのなら宿泊させるのは意味がないと、とっとと出て行ってもらうことにしました。一つ所に居るには安らげない相手ですしね、お互いに。
「害意があった以上、今度はレベル1だろうとなんだろうと私も反撃しますから、よく考えてから行動してくださいね」
出て行くときに微笑みと共に付け加えたら一行は蒼白になっていましたが、貴方達が何もしなければ、私も何もしませんよ、ええ。
遠く小さくなっていく勇者一行を見ながら、私は小さな安堵の溜息を付きました。
これで今回の死亡フラグは折れたかな?死亡フラグっていうか、滅亡フラグ。
第二第三の勇者が現れないとも限らないので、常に不安はありますが、つかの間の安心を手に入れたと思っていいでしょう。