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気が付いたら日間ランキング9位にランクインしていました。(投稿時現在)

読んで下さった皆様、ありがとうございます。




 しゅるりと魔法陣から抜け出したのは、黒髪黒目、身につけているものも黒まみれの青年です。


 魔法陣に緊急用の符号を入れたせいか、何かしていたところを放置して来てくれたみたいで……。黒い服って、誰でも格好よく見える色ではありますが、実は屋外の活動には向いていないと思うんですよね。全体的に薄汚れて、埃がものすごい目立ちます。


「なんだ、このクソ忙しい時に……」

 超絶美形の魔王様のくせに本当に口が悪い。長々と文句を言おうとした途中で勇者一行がいることに気付いたのか、警戒をあらわにしました。


「誰、こいつ等」

「自称、勇者一行。世界を滅ぼそうとしてる魔王を倒すために、私に協力して欲しいんですって。具体的には、魔王城の結界の解除」

「───へえ」

 様々な感情が込められた一言がイスラフェルの口から漏れた瞬間、こっそり呪文を唱えていた魔法使いの攻撃魔法が発動……しそうになった光が急速に消えていきます。

 ここは魔法を使うことの出来ない場所(エリア)だから、多分「魔法がかき消された。ここでは魔法が使えないようだ」とアナウンスが入っていることでしょう。




「何で俺がいきなり攻撃されないといけねぇ訳?」

 完全にオクターブ下がった声になったイスラフェルに、魔法使いは悲鳴のような叫びを上げました。

「だって、お前、魔王だろう!」

 一斉に殺気立って戦闘態勢を取る勇者一行ですが、私も仕掛けを動かしたので無問題です。


 居間の床全体を覆うように施してある魔法陣が光を放つと、居間にいた勇者一行とイスラフェルの体が凍りついたように動かなくなりました。不動の魔法陣、対侵入者用の罠です。しゃべれるようにしてあるのは、尋問用の仕様なんですよ。

 因みに、両親は最初から魔法陣の外、私は発動者なので自由に動けます。

「ここは魔王だろうと誰だろうと魔法が使えません。それに、イスラは私の身内も同然です。同じ神の眠りを守る同志ですから。証拠をと言われたので彼を呼びましたけど、ここでの戦闘は許しません」

「俺は!」

 巻き込まれたイスラフェルが吼えますが、そんなもの。


「あなたの身の潔白を証明するためなんだから、お姉ちゃんに協力して。でも、巻き込んでごめんね。何もしようとしなければ、痛みも何もないでしょ?」



「───は?」



 動けないままに、魔法使い以外の勇者一行は驚愕の声を上げました。


「ああ、この子は我が家で育ったので、弟同然なんですよ。小さな頃はかわいかったのに、今ではすっかり生意気になってしまって……」


 拾った時は、外見年齢も精神年齢も五歳児くらいでした。身寄りの無い子供の保護も、うちの村では村長の役目です。

 いくら私がゲームを知っているからと言って、まるきり女の子みたいな美少年が魔王だなんて思いもせずに弟ができたと普通にかわいがっていたら、何年か経ったある日、いきなり二十歳くらいの青年に変化して……その時、初めてイベントだったのかと理解したんですよ。

 いや、ゲーム内の回想シーンは細切れの上に全部屋外だったので、まさか同居してた弟が魔王なんて思わないでしょう?


 多分、蓄積した魔力が一定以上に達したんで体が大きくなったんでしょう。

 大きくなった時、魔力が膨張、破裂した衝撃で、私は本当は怪我をする筈だったんでしょう。

 この時、私は十二歳。既にレベル200を超えていました。

 だから、ちょっと突風にあおられたくらいだったんですよね、体感的には。


 で、ある程度両親には洗脳……じゃなくて事情を説明しておいたのですが、青年イスラを連れて改めて事情を説明。イスラ自身も、激しく中二病的ですが覚醒したので、役目を果たすために魔王城へお引越し。

 別に隔絶したわけじゃないので、今でも普通に行き来しています。




「かわいかった……」

「生意気……。魔王が生意気……」

「神子は十四~五歳に見えるけど、二十歳過ぎの男が弟……」

「うるせえぞ、ザコ共」

 イスラが顔を赤くして叫んでいますが、このあたりは昔と同じなんですけどね~。




 私は改めて魔法使いのほうへ向き直りました。

「それにしても、貴方はイスラが名乗りもしないうちに魔王だと断じた。……何故ですか?」

 この顔も黒コスチュームも、ゲームの魔王そっくりですけど、外見の特徴は完全に人間と同じです。普通ならあのタイミングで攻撃を仕掛けることは出来ないんですけど。

 語るに落ちるというやつですね。

「それは……」

「勝手に筋書きを変えるなんて、とおっしゃったのも貴方でしたね。もしや私と同じような能力を持っているのでしょうか?」


 返事をしない魔法使いに、勇者が話し掛けます。

「……確かに、お前は迷った時に的確な情報や手がかりをくれた。群れの統率者を倒す時だって、特殊攻撃の情報を知っていたり、未鑑定品の道具の使い道を正確に知っていたりした。お前はただのカンって言ったけど、不思議だったんだ。どうしてそんなことが分かるのかって。今回の件はカンだけじゃ説明が出来ない。理由を教えてくれ」

「……………」

「どうして黙ってるんだ。」

 まあ、なかなか言えませんよね。前世の記憶がありまーすなんて。


「私も、先を知っているのなら、どうしてここまで来たのか教えていただきたいですね」

 私は魔法使いを睥睨しながら言います。

「筋書きと言うからには、あなたもこれから起こる事が分かっていたのでしょう?世界が滅ぶと分かっていて……自分も仲間も全員死ぬと分かっていて、どうしてその道を邁進できたんですか?」


 ゲームだから、二週目があるから、自分はプレイヤーだったから。きっとそんなことでしょうが。





 二週目に入ると、プレイヤーはまたスタート地点の村で目が覚めます。世界が崩壊したのは夢だったのかと訝しみながらも、全く同じようにオープニングイベントが進み、その途中で分かるんです。


 世界を壊した時の神が、自らの力を振り絞って時間を巻き戻したのだと。


 この世界を創ったのは、光の神、闇の神。三人で仲良く暮らせれば良かった時の神は、世界の創造に参加しませんでした。……結果、二柱の神は、神として存在できないほどに存在が弱まり、世界に溶けてしまいます。

 二柱の神の力しか受けなかった世界もまた、とても不安定かつ脆弱で、時の神が存在するだけで崩れ落ちる脆い世界でした。


 でも、この世界のどこかに光の神と、闇の神が居る。彼らが戻るまでは何としてでも世界を存続させないといけない。



 そう決めて時の神は、自ら眠りにつきました。


 魔王と神子に封印を託して。



 ところが眠っていたある日、愚かにも人間が魔王を殺してしまい、目覚めた時の神は世界を意図せず滅ぼしてしまいます。神とはいえ、自分の力では完全に元には戻せなかった。

 時の神独自の力で何とか時を巻き戻しますが、脆かった世界は崩壊へと向かい始めます。


 自分(プレイヤー)のせいで滅びに向かう世界を救う。それが二週目以降の物語。


 BEST ENDのルートも、もちろんありますが……。

「世界の滅びのその後まで見えていたとしても、ここまでの道筋は貴方が知る通りのものではなかったでしょう。世の中に『絶対』はない。それなのに、魔王を倒して世界が滅びた後、貴方の予測通りに動くとどうして確信できるんですか?」

 正常性バイアスでしたか、どんな災害や事故があったとしても「自分だけは大丈夫」って思ってしまう心理のことって。



 そんなもの、本当に!何の根拠もありませんから。人間、死ぬ時は本当に死にますからね。





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