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聖剣イグローズ
アーサー王の剣と同じ様に持ち主を選び、勇者しか鞘から抜けない。抜き身のまま地面に突き刺したら、勇者以外持ち上げることも出来ない。
勇者の剣がなぜ抜けたのか?
種明かしをすると、装備に職業とレベル制限があったのが見えたからなんですよ。
聖剣イグローズ
物理攻撃 +200
魔法攻撃 +180
速度 +20
勇者かレベル50以上の者のみ装備可。
装備者のレベルに合わせて攻撃力が上がる。
聖なる光で魔物を寄せ付け難い。
なぜレベル50以上で装備可能なのか?というと、このゲーム、一週目はプレイヤーのレベルが最大50までしか上がらないことに第一の理由があります。
元になったゲームは、最初から周回プレイありきで造られたRPGだったんですよ。二週目に入ると「強くてニューゲーム」モードが開放されて、ゲーム進行上必要なキーアイテム以外の装備品と所持品が全部持ち越しになります。さらに、装備品の使用者制限とレベル制限が解除されて、レベルも最大99まで上がるようになります。
勇者以外のパーティメンバーにした一行の中から主人公を選べるようになって、クリアまでにこなしたイベントによってエンディングが変わる、マルチエンディングにシステムが変更されるから、皆レベル50まで上げる前に魔王を倒してとっとと二週目に入っちゃうんですよね。
製作側も、何度もプレイしてほしいからなのか、一週目はレベル50までしか上がりませんってわざわざ告知していましたし、難易度をわざと低く設定しているところもあったみたいです。
転生前の私は、プレイスタイルはゆっくりのんびり石橋を叩いて渡るタイプだった上に、一周目に隠しイベントも全部こなして、手に入れられる装備品も全部手に入れるまで二週目に入らなかったんで、魔王を倒す前にレベル50になっちゃったんですよ。
勇者以外でも聖剣が装備できるって気付いたのは、装備品整理しているときに間違えて僧侶に装備させたら出来たから。
だから、第二の理由は「バグだから」じゃないかな?って思うんです。
本当はレベル51以上ってしなきゃいけないところの、バグ。
その辺のシステムまで同じかなと心配だったんですけど、剣を目にしたらちゃんと見えたんで確信を持てました。よかった、一か八かの勝負にならなくて。
「ばかな……ありえない。勝手に筋書きを変えるなんて!」
叫んだのは勇者ではなくて、魔法使いの男でした。
ああ、そうですか。勇者が転生者かと思っていましたが、勇者は単なる顔だけ脳筋で、あなたでしたか。
今まさに貴方が言った通り、筋書きを変えるのって普通は出来ません。
だから、どこまでがシステムか、確認するところから始めたんですよね。
要は、逸脱可能な範囲の確認です。
確認の前に、もう一つ不思議に思ったことがあったんですよ。
主人公を中心に世界が回っているとしても、現実である限りそこで暮らす人達は生きて生活しています。ものすっごい山の中とか、河を遡った小さな空き地とかに町や村があるのはゲームの仕様上ですが、そこに住む人はどうやって生活を立てているのか?ってこと。
次の町までとんでもなく遠い場合が多いので、おそらくは自給自足の生活です。農業や牧畜、狩りをしないと食料が確保できないですよね。村の周りで食べられる草や木の実を採る?そうかもしれません。
でもね、スタート地点の村から遠ければ遠いほど、エンカウントする敵はどんどん強くなるんですよ。村人はそんな中で、村を放棄したり、移住したりもしないで、ちゃんとそこで生活しているじゃないですか。家の中に閉じこもらないで平気でいる。
村人は、どうやって身を守っているのか?
そこでイベントが発生する限り、村人全員がモブとはいえ、絶対死んではいけないモブです。特に私の住む村なんて、最後に登場する休憩所。魔王を倒すまで、村としての機能を果たさないといけない。
どうしてそれが可能なのか?
私が「神の目」を使えるようになったのは、五歳の時。一緒に暮らす村人達のレベルが、とんでもなく高いのがうっすらと見えて、びっくりしたのが切っ掛けです。
後々になって分かったというか、「千里眼」を使って確認したんですけどね。
勇者の出身であるイオニ村……別名初心者の村と、私の父が治めるオルド村……別名最後の村では、大気に満ちる魔力が桁違いなんですよ。魔力が強ければ成長が早くなる。村人のレベルでいうと、イオニ村が平均レベル2~3って所でしょうけど、ウチの村は平均レベル85~95です。レベル50を超えているのは、二週目以降にもそのまま対応するからなんでしょうね、多分。
だから平気なんだーって目からウロコが三枚くらい落ちた気がしましたよ。
繰り返しになりますけど、この辺に生息する獣もやたら強いから、こっちも強くないと直ぐに死んじゃうんです。村の周りを散策すれば、嫌でも強くなるんですよ。
村周辺の敵レベルは30~35位かな?勇者達はザコモンスターとしてスライムからスタートしたのかもしれないけど、この村の周りだと、同じスライムだとキングスライムとか。その証拠に、勇者達がここに来るルート上、倒してきたはずのイベントボス、ホーンデビルは、うちの村に住む猟師だったら単独撃破可能な、いわゆるエンカウントモンスターなんですからね。
で、思いました。
じゃあ、私は?
私はモブZ。勇者を魔王城に連れて行くまでは、絶対に死んではいけないモブなのは村の人と同じです。
レベルが高いから死なないのか、システム上、絶対死なないのか。
五歳にして、私のレベルは既に20を超えていました。決して高レベルではない。もしかして、レベルが上がれば、死ななくて済む?
そう思った私は、その日から猛烈にレベルを上げ始めました。
でもね。忘れていたんですけど、スキルで即死攻撃とか、即死魔法とかあるじゃないですか。私は結界は張れても、即死攻撃の耐性が全くないからやっぱり死亡フラグからは逃れられない。
勇者が来る前から話を変えないとだめだ。でも、保険としてレベルは上げられるだけ上げよう。
そう思い直して、積極的に体を鍛えてきました。
幸いにして、大陸を守る結界を張るのも、魔王城に結界を張るのも、村の周りにも結界を張っていますけど、どれも経験値換算されるらしくて。
現在私のレベルは263です。
おかしいですよね、レベルカンストは99の筈なんですけど、それよりも上がるなんて。ゲームの世界と言っても現実だからなんでしょうか。
だからといってはなんですが、自分のレベルが99を越えた時、思ったよりもシステムの縛りが少ないのではないか?と思ったんです。