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世の中には転生者が溢れている  作者: ごおるど
パラレル番外編
20/22

異世界召喚のセオリー 4

 


 その後、駆け落ちとか何とか、相変わらず腐っているんじゃないの、その頭?な事を言う王子を宥めすかし、べたべたと触れてくる手をかわしながら海を渡って帰ってきました。


 魔王ですか?王子の下僕なので、とりあえず回復魔法をかけて城に置いてきましたよ。王子を連れて帰ると言ったら、男泣きに泣いていました。


 港に到着すれば行き同様、凱旋パレードになるのは必定なので、これまた王子を宥めすかせて金髪碧眼にする魔法をかけて女装させます。大々的に壮行会をやったので、対外的にも王女がちゃんと戻ってきたことを示しておかないといけないのですが、ここでまた王子がダダを捏ねやがりました。

 女装させるまでにもひと悶着あったのですが……。まあ、ここに女は一人しかいないので、王子は私を王女に仕立て、自分が全身鎧を着ようとしたのですが──魔王から王女を取り戻し、ラブラブな二人、と言うのをやりたかったらしいです。とりあえず殴っておきました──私の身長体格その他諸々が違いすぎて無理……っていうか、平凡顔を金髪にしても平凡なんです。絶対ばれるからと固辞して、全身鎧の騎士さんはムキムキなので論外、残る王子に女装して下さいと言ったら、一緒に馬車に乗ってくれないと嫌だ、と。子供ですか?


 最終的に私はオルド村の娘を側付きとして連れてきたという設定で、一緒に馬車に乗る羽目になりましたが、ずーっとずうーーーーっと、手を握って撫でまわしているんですよ。うっすらと微笑みながら。

 寒気と言うか怖気というか、背筋が寒くて寒くて堪りませんでした。


 で、心に決めました。王宮に着いたら王子を引き取ってもらって、すぐに褒美を貰おう、と。

 貰うものはもちろん「今すぐ家に帰せ」です。王様と王女様のどちらが言い出しっぺなのかは知りませんが、立案の責任を取っていただいて、王子の説得を任せる。私の取るべき最善の手はそれのみ。

 これ以上王子の傍に居たら、いわゆる貞操の危機というやつですので、大事にとっておいた訳ではありませんが、変態にくれてやるつもりもありません。



 王宮に着いたら、王子を無理やり着替えに行かせて、私も着替えるふりをして時間を作ると、出迎えてくれた王と王女二人に直談判です。


 王女は金髪碧眼の美女でしたが、こうして見ると全く王子とは似ても似つかないですね。理知的というか、男装男役のトップスターみたいな凛とした印象です。女装した王子は、その辺の美女なんぞ鼻にもひっかけない鳥ハダものの絶世の美女でしたけど。

 因みに、喉仏を隠せる襟足の高いドレスと、厳つい肩をごまかせるデザインのドレスを着用しておりました。



 王子のことは全く知らないのに、一方的に恋人のような扱いをされているので大変に困惑している、この上は一刻も早く元の世界に戻してほしいと私がお願いすると、二人とも真っ青になってしまいました。


「すまない。私は二人が相思相愛の仲であったのを、生木を引き裂かれる思いで二つの世界に残される羽目になったのだと思っていた……」

「儂もだ。だから、強引に二人を会わせてしまえばなんとでもなると……」

 家族として、また国を背負う義務を持つものとして、王子が出奔など許せるもではなかった。ましてや王子の能力を知ってしまえば、尚更放逐する訳にはいかなかったのだ。今まで不遇の立場から救ってやれなかったのだから……。

 そう王様は言いましたが、王子が自ら廃嫡狙っていたことを知らなかったんでしょうか。


 王女も謝罪と共に他国の王子との縁談は寝耳に水であったこと、既に国内の有力貴族の次男と婚約寸前であったことを教えてくれました。

「家臣の独断だったのだ。異世界出身のことは公にしていなかったが、出奔されてその力が他国へ奪われる事を考えればどれほどの損失になるか」


 悲壮な顔で謝られましたが、あの王子(ヘンタイ)は分かっていてそういう言い方をしたんだと思いますよ。だからそれに関しては、お互い被害者だと思います。


「事実を知ったからには、元に居た世界に帰してやりたいのは山々なのだが……」

 王女は表情を曇らせたまま言いました。

「あれだけ執着しているそなたを、アレが手放すはずがない。知られぬように人員を集めてやれないことはないが、例え無事帰れたとしても、恐らくまたすぐ召喚されるだろう」


 召喚の魔法陣を今まで使用しなかった理由はいくつかある。

 最低でも魔術師が二人必要なのは前述の通りだが、王子自身に、自分の能力を明かすつもりも、王位を継ぐつもりもなかったこと。


「今はもはやアレの力を疑う者はおらん。周知された以上、アレを止められるものはない。命令されれば、家臣たちも従わざるを得ないだろう。そうして再び召喚されたら……」

「されたら?」

「帰った事を怒り狂って、もう二度と自由に外を歩くことすらままならなくなるのではないか?……その、監禁とか」


 指摘された事に、一気に血の気が引いていくのが分かりました。ものすごくあり得そうです。


「少なくともアレの了承を得ずに事を起こすことは、避けた方が良いのではないかと忠告する」

「……でも、このまま行くと寝所に引きずり込まれそうで、怖いんです」

 魔王の城からの帰り道、喰われると何度思ったことか。騎士さんを盾にして何とか乗り切ってきたのに。


「では、こうしよう。今日は疲れたであろうから、ゆっくりと休むが良い。部屋の入り口に見張りを立てるし、侵入者をはじく結界を作る。送り返すにも準備がいるから、すべては明日だ」


 王様にそう言われて、埃まみれの体や精神的疲労とか気疲れとかでくたくただったので(大事なことなので二度言いました)素直に客間に案内してもらうことにしました。

 後にこの時の判断を深く悔やむことになるのですが、後悔先に立たずの言葉通りに、私はお風呂を使わせてもらってから早々に寝床に入りました。




 寝過ごした次の日。


 私が起きた時には、王子が婚約したこと、相手は桂木美和という名前の令嬢であること、三か月後に結婚式が行われる事が大々的に広められていたのでした……。






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