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最終回です。


乙女ゲームに言及している箇所がありますが、あくまでも主人公の主観と偏見に満ちた見方ですので、ご気分の悪くなった方がいらっしゃったら申し訳ありません。

 この世界、顔の整っている人しかいないんですよ。確かにゲームだとモブでも不細工なのは登場しないですが、ただのむさいおっさんだっていたっていいのに、イケメンか美女しかいないのはなぜでしょう。美形しかいない世界って、おかしいですよね??

 それともあれですか?不細工な遺伝子は、美形優性遺伝子に駆逐されたとでもいうのでしょうか。


 美形筆頭はイスラですが、勇者一行だって主人公とその仲間補正なのか、勇者はとびぬけて、その他もそこそこイケメンでしたし、村人達はおろか父と母も美男美女のカップルなんです。その娘である私だけ、本当になぜか前世と同じ平凡顔なのが不思議なんですが。


 結婚フラグが避けられないのなら、まだましな選択肢で妥協しなければならないのは分かっています。イスラは性格も分かっているから、気安いのも確かです。

 でもどんだけ高い上から目線だと、何様のつもりだと思われても仕方がありませんが、これだけは言っておかなければなりません。


「顔が好みじゃない」


「好みって言うのは多少融通が利くものだと思う」

「多少じゃないでしょ、その顔鏡に映して出直して来なさいよ」

 言っておきますが、意味は正反対です。


「……イスラと結婚したら『うわー、すごく綺麗な人がいる……けど、隣の人って奥さんかな?すっごい不釣合いなんだけど』とか、『えー?ありえないでしょ、あの程度で。私があの()だったら恥ずかしくて死ねるレベル』とかぜっっったい言われるじゃないぃぃぃっ」

 泣きました。本気で泣きました。


 だって、前世で言われたことがあるんですよ。「奥さん」じゃなくて「彼氏」でしたが、そうやって聞こえるように言われたことがあったんです。

 付き合い始めたばっかりの相手でしたけど。なんで私なんかに告白してきたか分かりませんでしたけど。その場で別れ話をしたい衝動に駆られるくらいには腹立たしかったし、情けなかったです。立つ瀬がないじゃないですか、女として。

 たしかに鑑賞物としては特上な部類で、恋愛対象では範疇外ではあった相手でした。なんでこんなところで前世の二の舞をしなければいけないのか分かりません。


「えーと、ごめん」

 慰めるようにイスラが抱きしめてきましたが、全く何の役にも立ちません。

 仕返しに、涙以外のものも付けてやる勢いで思いっきり胸に抱き着いてやりましたけど、微妙にうれしそうな気配が伝わってきたので、鳩尾あたりを小突くに変更しました。


「いてっ、マジで痛いから」

「痛くしてるんだから当たり前。……だいたいイスラはいつから私のことが好きだったの?そんな素振り全然なかったから、信じられない」

「今回の件で視野狭窄だったってことを差し引いても、ツェーリアは鈍感もいいところだからな。先に父さんと母さんにバレて、助言やら忠告やらしてもらったって言ったら分かるか?……笑顔がむちゃくちゃ可愛いって思ったのがきっかけだった。思い起こせば、最初に会った時からだな」

「やっぱり小児性愛者か」

 外見年齢七歳。小学校低学年ですよ。中身がいくつか知りませんが成人男性が、笑顔で恋情を(いだ)くとは、変態以外なにものでもないでしょう。


「だから違うって。……家族と思われていても、男と思われていないのは分かってる。今更馬の骨に攫われたら、自殺するしかない。ゆっくり口説くし、俺にしておいてくれ」

いや、それ普通に心中するって意味でしょう。


 ゆっくりと手が顔に伸びてきて、視線が重なるように仰向けられました。

「俺、ツェーリアの顔、好きだよ。優しくて安心する」

 そんなこと熱の篭った眼差しで言われたら、一発で恋に落ちるところなんでしょうけど、鑑賞物として綺麗って思うだけなんですよ、私。

「超絶美形の分際にそんなこと言われたって、全く信用出来ない」

 ほんと、鑑賞に耐える顔です。見れば見るほど腹立たしい。ゲームの神子は清楚な美人だったのに、同じなのは髪色だけ!この、濃紺というか濃紫というか微妙な色合いの髪は結構気に入っているんですけど。



 イスラはしばらく黙った後、こう言いました。

「じゃあ、一度想像してみろよ。自分が俺みたいな容姿だとして」

 自分の容姿が魔王女版みたいだったらと想像して?


「さらに、乙女ゲームったっけ?あれの主人公みたくなったと思ってみればいい」


 乙女ゲームですか?私がやるのはRPGかシミュレーションばかりだったので詳しくは分かりませんが、どんなものかは知っています。主人公の女の子が複数の男性を誑かすために手を変え品を変え、相手に迫る話ですよね。

 勇者と同じく主人公補正が入って、運動も勉強もそこそこできて、美人もしくはかわいくて性格よしって感じでしたか。現実にはあまり居ないタイプです。


「攻略対象となるのは大体片手くらいの人数のことが多いが、現実の世界に則して考えると、そればかりで済むと思うか?異性からは纏わりつかれて、同性からはやっかみの視線と嫌がらせを日常的にうけるようになる。俺は男だからまだいい。女だったら……」

 考えただけでうっとうしい上に、うまく立ち回らないとストーカー大発生するんじゃないかなと推察します。


「そんな生活がずーっと続くとしたら、どうする?」


「うん、普通にイヤ」


 イスラは得たりとばかりに微笑みました。

「だろう?俺も薬草売りに行く時は結構ウザい目に遭うから、良いことばかりじゃない。外観(みてくれ)で好きな相手の気を惹ければいいが、マイナスだしな」

 えー。そこは趣味嗜好の問題なので、如何(いかん)ともし難いのですが……うん、反省はしました。

 超絶美形だろうと、イスラはイスラだもの。顔で判断してはいけませんよね。再び言っておきますが、逆の意味です。


「……急激な改善は無理だけど……努力はします。イスラが相棒なのは変わらないしね」


 驚いたように目を見開いたイスラが、花が咲いたように笑いました。『美貌自慢の女でも太刀打ちできんわ、けっ』とか思ってしまう私を許してください。


「ずっと隣に居てくれるの?」

「………?私は神子で、イスラは魔王。今の段階で一蓮托生でしょう」

「そうだよな!じゃあ、そういうことで父さん、母さん。結婚式はツェーリアの誕生日にするから」



「────え?」



 ええええ??今のは、ずーっと相棒よと言っただけで、結婚の同意などではないのですが??


 いつの間にか父と母が帰ってきていました。すっかりお茶は冷め切っていますが、居間で寛ごうとしたのが悪かったのでしょう。玄関から居間は丸見えなのです。

 そして私は背を向けていたので、二人が帰ってきたのに全く気が付いていませんでした。


 父も母も満面の笑みを浮かべて「おめでとう」「がんばったわね」とか言っています。───イスラに。


「十六歳になったら相手が誰だろうとツェーリアを結婚させるから、選ばれたかったら努力しろって発破かけた甲斐があったもんだ」


「な、なんで?なんでそんな約束を?大体、私が知らないのはおかしい……」

「あなたには選択の余地がないからよ」


 すっぱり言い切られて茫然としている私に、母が近づいてきて囁きました。

「イスラを断るなら、そうね。三人くらいなら候補者を出せるかしら」

 上げられた名前は、村に住む青年達。もちろん会った事があるし話したこともありますが……なんでイケメンばっかり?


「イスラにするか、その三人のうちの誰かにするか。もちろん結婚しないという選択はありません」


「さあ、どうなの?」

 嫣然と微笑む悪魔(母)の囁き。



 同じように微笑むイスラが当然のように、私の腰を抱き寄せました。




「あと三カ月、ゆっくり口説き落とすから、覚悟しておいて。……今度は幸せになろうね」



 

 ええええええ?

 だ、誰か。フラグを折りたいんですが、なんとかして下さい。本当に、泣きたいですぅぅ!











ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました。

思いがけず沢山の方たちの目に止まったようで、嬉しい半面、日間ランキングにランクインする様な作品は特別だと思っていましたから、怖い感じがしました。

 最終回投稿前の段階で、トータル300,000アクセス、54,000ユニークを突破しました。改めてお礼申し上げます。


毎日更新してきましたが、かなりキツかったです。多分最初で最後ですね。


予告していました通り、明日0時におまけの「とある日の神子と魔王の会話 -紳士達の行く末-」を投稿しますが、会話のみの100%ネタです。ご了承の上、お楽しみ下さい。



あと、主人公はだれが見ても普通にかわいいくらいの容姿です。ただ、比較対象が悪すぎる(笑)


あとイスラは確信犯で嘘をついていたり、黙っていたりしたことがあります。

おまけの後に、時間を開けて魔王視点のお話を書こうと思っていますが、いちゃいちゃな話しになるかどうかは怪しいです(笑)

 リクエストなどがありましたら、お寄せください。完璧に応えることはできませんが、考慮させていただきます。


完結しないままにしてあります。よろしくお願いします。

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