その5
書き方忘れた…ので、ちょっと雰囲気違うかも?
運命に逆らいたい女子高生、藤峰桜です。
のっけからすいません。でもですね、聞いてください。どうにも出来ない回避不可能のフラグは、最早運命ではないのかと友達に言われたのだ。あ、りっちょんじゃないよ? こないだ再会した中学時代の友達で、変なフラグ立ててる子なんだ。で、ひょんな切っ掛けから互いに秘密を暴露。彼女、選択肢が見えて現在は宇宙人と交流してるらしい。えすえふ〜。
変な能力仲間が出来て、ちょっと浮かれ気味につい相談したら、あのカミメン(神懸かったイケメン略してカミメン)神永蕾和との恋愛フラグは運命じゃないかと、どこかうっとりした顔で言われた。因みに彼女は現在、宇宙人に求婚されてるらしい。どっちもどっちだな。
運命……そう言われればそうかもだけどさ、でも運命なら逆らえると思うんだ。ほら、決められた運命なんて覆してやる! とか、未来は自分達で切り開くものだ! とか、よく言うでしょ。少年漫画の主人公とか。私だって、もしかしたら少しは干渉出来るかもしれないじゃないか!
と、意気込んだのはいいけれど。私の場合努力する場所が違うみたいなんだよね。回収は免れなさそうだから、なら中身はよくしようと出来るだけ好きになる努力はしてるんだけど、結ばれないようには努力してないの。うん、諦めてるだけさ。存分に罵ってくれて構わない。
だからね、私はあの朝から公開告白の時、互いを知ろうと、友達からと言う意味で手を取ったのだ。
なのに、何故婚約者!?
私がおかしいのだろうか。確かに前向きな返事は返したけどさ、あんなん政治家が「善処します」とか「前向きに検討してみます」とか言ってるようなもんだったじゃん。恋人になるとは返事してねーんですよ。なのにさ、何でイロイロすっ飛ばして婚約者なのさっ!
あの告白から三日。いい加減我慢の限界である。堪え性がないとか言わないで欲しい。授業中以外は、家を出てから家に入るまで日が出てる内はずっと神永蕾和と一緒。しかもほぼずっと手を繋いでる。所謂恋人繋ぎって奴です。あの告白が広まり、ご近所さん達からも学生結婚おめでとうだの祝福されたのだ。学校ではひそひそ話されて、ハーレム要員の美少女達からは人も殺せそうなほど鋭い目で睨まれ、結局りっちょん以外の友達はすっぱりいなくなった。
限界迎えたって、よくね?
そんな私は、お昼に神永蕾和にそれとなく抗議しようとしたのだが、教室から出る前に美少女達に囲まれた。うむ、眼福。鬼の形相でなければだが。
神永蕾和のお向かいさんで、よく遊んだらしい幼馴染み。小学生時代交換留学生で来た神永蕾和の隣の席だったらしいお嬢様。学級委員長。ツンデレ。剣道部の武士っ娘。生徒会長の先輩。ロリっ娘先輩。文学少女な才女の先輩。元気っ娘後輩。ヤンデレ後輩。無口無表情後輩。確かこれであってるはずだ。注意しろと、りっちょんに教わりました! 名前は忘れましたごめんなさい!
先輩と後輩はいつ来たんだろうとか、カミメン神永蕾和に加え、美少女が十一人って、この学校すげえなとか、言いたい事はあるが結局現実逃避にしかならんので口にはしない。あ、神永蕾和の義姉妹は近くのお嬢様学校に通ってるらしいよ。
「藤峰桜さん。ちょっとお話があるんだけどいいかしら?」
先程までのこあい顔は見事に隠し、綺麗な笑みを浮かべる美女がそう言った。多分生徒会長だ。全校集会とかで見た事あるし。
恋する女の子は好きだよ。可愛いもん。でも、今の彼女達を可愛いとは思えない。だって当事者だから! やべえ、修羅場か! ……ん?
あれ、と気付く。何で修羅場フラグ立たないんだろ? 毎日死亡フラグポキポキ折ってたから? いや、今は朝の日課は関係ないか。じゃあ、何でだろ?
美少女達を見て考えていると、突然肩を抱き寄せられ、ぽすんと何かに頬が当たった。そのままぎゅっと――…、あれ?
「俺以外をそんなに見ないで」
ぎゃああああああああっ!!
耳元で低く甘ったるく囁かれた。うああ、息がっ、息がふって! ふうって当たったよおおおうっ! つーか人って、囁きだけで腰砕けるんだぜ…? 前は失神してたから、神永蕾和は大分抑えてくれてるみたいだけどさあ…。自覚してないエロボは凶器です。
砕けた腰は神永蕾和が支えてくれた。私も座り込まないようしがみつき……って、これ端から見たら抱き合ってるようにしか……。
美少女達の方を見ようとしたら、その前に神永蕾和に阻止される。そっと大きな手に頬を包まれ、間近でそのお綺麗な顔を見つめさせられた。ぎゃあっ、待ってニキビがあるから見んな! くそうっ、男のクセになんちゅー美肌だこんちくしょう!!
「俺だけ見て…」
「ぅあ…」
「そんな赤くなって、潤んだ瞳で他人見ないで。――桜は、俺だけを見て、俺だけをその目に映していればいい」
どんどん顔が近付いてきた。ちょっと待って待って止めてええええっ! ふぁーすとちっすはもっとロマンチックがいいの! …じゃなくて、君まだ友達だからしちゃらめええええっ!!
顔を逸らそうにも、いつの間にか頬を触ってた手が後頭部をがっちり押さえていて、動かない。足は元々使いもんにならないし……りっちょん助けてええええっ!!
願いが届いたのか、顔がくっつく前にぐいっと腰を抱えられくるんと回った。同時に、女の子の奇声が後ろから……って奇声!?
「あああああああッ!! 何で何で何でそんな女に触ってるのライカ先輩は私の物なの目も手も唇も吐息も微笑みも全部私の物なの! 何で何であんたみたいなブスがライカ先輩に触ってるの抱き締められてるのキスしようとするの!? ライカ先輩ライカ先輩、先輩先輩先輩。キスしたいなら私にしてください私先輩にならなにされてもいいよ体も心も好きにしていいですだからそんな女に触らないで先輩が穢れちゃうから、ぁ、ああアああアアあああ」
ヤンデレ後輩だった。カッターを手に、私に突っ込んできたのを神永蕾和が避けて、彼女は神永蕾和の右腕の牧野陽太に拘束されていた。
あ、あれー? さっきまでやたら甘いような恥ずかしいような怖いような雰囲気だったよね? 何か今はすげえ怖いんすけど。具体的には神永蕾和が怖いお! 神永蕾和の顔見れないお!
血走った目で睨んでくる彼女に、真っ青になった。が、すぐに別の意味で顔が引き攣った。
しっ、死亡フラグが立ったあああああっ!?
私にではない。繰り返す、私にではない! ぴこんと立ったのはヤンデレ後輩の頭にで、黒いけど……えっと、何だろ、普通の死亡フラグじゃなくて、それより色が若干薄いような…? でも死亡フラグには変わりないよな? え、ぶっといんですけど。
やべえよどうする? と焦っていると、ぎゅうううっと神永蕾和に絞め……いや、抱き締められた。
「ぐえっ」
「桜、桜桜桜…! 無事だよな、怪我はないよな」
「な、…なひっ」
「苦しいのか? …そうだよな、あんな意味の分からない事ばかり知らない奴から言われれば怖かったな。苦しかったな。もう大丈夫だからな、桜…」
いや、苦しいのはあーたのせいです。腕が! 背中に! めり込んでりゅのおおおっ! おまいは私をオトす気かあああッ!?
そろそろ天に召されそうな真っ青の私。ほっぺちゅーとかでこちゅーとか、初めてを奪われ二回目三回目も奪われ、やっと解放された。唇はされてないよ! 泣きそうな顔で固まる私の頭を、甘い微笑みを浮かべながら優しく撫でた神永蕾和は、ヤンデレ後輩の方に顔を向けた。途端に無機質な眼差しと無表情になった神永蕾和。なまじ顔が良いだけに、より冷たく見える。びくんと肩が震えた私を強く、でもさっきより苦しくないよう抱き締めた。震えた原因はお宅ですぜ。
「俺の桜にそんな暴挙をしでかし、地獄を見るだけ《・・》で済むと思うな」
「…ッ! ライカ先ぱっ、」
「――誰だ、貴様。初対面の相手に名前で呼ばれる筋合いはない」
「―――」
場が固まった。え、彼女君のハーレム要員でしょ? 初対面ってどゆこと? 彼女も他の美少女達も目を見開いて固まってしまった。
「それと、先程貴様は桜に暴言を吐いたが、いくら桜が愛らしいからとあんな言葉は許容出来ない。桜がブスだったら、貴様は何だ? 人とすら認識出来ない存在となるじゃないか」
「なっ…!」
「ああ、それに体も心も好きにしていいと言ったな。ならそうしよう。……ヨータ」
「はいはい」
さもそれが世界の真理と言うように言い切った神永蕾和にぽかーん。すらすらと淡々と言い、牧野陽太はそれに答えずるずると彼女を引き摺っていった。認識すらされていなかったショックからか、彼女は茫然自失としながらされるがままに引っ張られていった。
何だか変な空気になった。え、あんな濃いキャラを認識すらしてないとか……まさか、他のハーレム要員も?
目をついっと向けると、真っ青で今にも倒れそうな彼女達が。……え、まじで?
やべえこの空気どうすんのさ、と内心テンパっていると、突然バランスが崩れ宙に浮いた。
「わひゃっ?」
しんとした中に、私の気の抜けた声が響いた。は、恥ずかちいいいいっ。
神永蕾和が、私を抱き上げたのだ。所謂お姫様抱っこって奴ですね! 乙女の夢ですね! 何で今やった!
「ちょっ、何を…!」
「桜、飯食いに行こう。今日は桜が好きなタルタルたっぷり持ってきたよ」
えっ、ほんと!? やったー! ……じゃにゃい! 噛んだ!
え、何あーた空気読めないの? それとも敢えて読まないの? てか相変わらず言った覚えないのに私の事知ってるよね。
下ろして貰おうと足をバタバタさせるが、全く外れない。寧ろ楽しそうに笑っている。ちくしょうっ。
「ちょっ、ほんと下ろして……その、重いから!」
注目浴びるから! 今更だけど、これ以上はいーやーだーっ!
至近距離の顔を、ちろりと上目がちに見ながら訴える。あれだね、目とか合わせらんないね。
「可愛い…そんな顔して……ああ、重くはない」
「ちょっ、顔近いっ。……う、か、軽くもないんでしょ? なら早く下ろしてよお」
ダメだからね。ちうはまだダメです! ……あれ、まだ…? くっ、顔に絆されるな私! 気をしっかり持つのだ私!
むうっ、と睨みながら言えば、神永蕾和は不思議そうに首を傾げ、うっとりするくらい綺麗な笑みを浮かべた。ぐはあっ、ダメージでかい! 背後でもバタバタ倒れる音がした。
「寧ろもっと重くなって」
「は、はあ?」
「この腕に掛かる重みは、幸せの重さだから。出来るなら毎日三食俺の作った食事を食べさせたい」
「なっ」
「俺を好きになって。もっと幸せの重さを感じさせて。俺を幸せで押し潰して。桜も、俺が幸せで包み込んで雁字搦めにしてあげる。―――二人で、幸せになろう」
ちゅっと、頬に音を立てて口付けた神永蕾和。冷静に聞けば結構失礼な言葉であったが、まあ、うん。最後はプロポーズみたいになって、極上の笑みで、誤魔化されました。私も乙女なのだよ!
湯気が出そうなほど真っ赤な顔を、神永蕾和の首筋に埋めた。赤い顔を見られたくなかったから。その時、神永蕾和も耳まで真っ赤にして幸せそうにはにかんでいたらしいとは、りっちょんに後で聞いた。
妙にあまあまな雰囲気を出した(不可抗力だよほんとだよ!)私達を、周りは口をつぐみただ見ていた。これで、婚約者説は確定って話が流れてしまい……。へへっ、笑えよ。自分で自分の首絞めて追い込んじゃった私を、笑えよおおぉ……っ! はっはっは………ぐすっ。
神永蕾和の首に腕を回し、諦めた表情でそのまま運ばれた私、りっちょんに目が死んでると言われた。そうかな……。
ふと、窓の外を見た。そこには、赤と青が。ああ、私の癒し……って、ん? 青?
窓の下では、青髪が赤髪を壁に追い詰めていた。おおっ、壁ドンだ! 壁と両腕で囲んで正面から迫るアレね。うーむ、あれも一種の乙女の夢だよね。って違う違う。あれ、何で青?
何話してるか分からないが、三角関係フラグが立ってる。おおふ、青髪はライバルか! やべえ何その滾る展開! くそう登場を見逃すとは、不覚!
その時、金髪が校舎の角から現れた。赤髪が手を伸ばすが、青髪が抱き締め金髪を挑発する。金髪は怒鳴りながら、青髪を睨む。おふう、何て素敵な展開…!
が、しかし。神永蕾和は普通に歩いてるので、それも壁で遮られ見えなくなった。ああっ、今いいとこなのに!
ぐっと抱き付いて密着するようにし、首を伸ばす。出歯亀上等、野次馬根性丸出しで何が悪い! あの不良っぷるに波乱が訪れたんだよ気にならないはずないじゃないか!
「さ、桜……胸、当たってる…」
「っげ! ちょっとあんた何反応させてんのよこの変態ッ!」
「可愛い愛しの桜に抱き付かれて反応しない男がいる訳ないだろ。俺は正常だ」
「死ね変態ストーカー!」
親友と友達以上恋人未満の睨み合いは華麗にスルーし、私は癒しを求めるも断念。うう、くそう……あの三角関係どうなるんだ。
こうして、修羅場にすらなれなかったハーレム要員達との邂逅は終わった。次の日、ヤンデレ後輩が急に転校したと聞いた時はぞっとしたが、何も言わなかった。……二の舞になるのは嫌なのです。卑怯な私を赦してください。
恋人ではなく私達は友達だって釘は刺したけどな!
色々流されっぱなしの桜さんです。ツッコミはセルフです。