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その4

主人公、流され気味。ちょっと不完全燃焼です。


 私、藤峰ふじみねさくらは現在ストーカーされている。正直信じられない。

 だって、相手は恐ろしくモテる神永かみなが蕾和らいかだ。それもどうやら小さい頃に会っているらしい。


「はあぁ…」


 大きな溜め息が出る。

 神永蕾和がストーカーかもしれないと、得体の知れない恐怖に苛まれた時、取り敢えず私は逃げた。逃走フラグが立ったが、逃げ切りフラグは強制回収も出来ず(いくら引っこ抜こうとしても抜けない。その分凄く柔く折れやすかった)それでも避けていた時、神永蕾和の親友の牧野まきの陽太ようたに呼び出された。


 結論から述べよう。私は絆された。神永蕾和に、私に、どこまでも誠実な牧野陽太に。


 いや、だってさ、あんな言い方されたら断れないよ。

 恩着せがましいとか脅迫混じりとかではない。ともすればそう聞こえても仕方ない内容なのに、牧野陽太はただ心から私を気遣い、神永蕾和を心配し、真摯に話した。それに、私は胸を打たれた。

 もうね、ずるいよね。牧野陽太によれば、彼は神永蕾和の親友であり主従関係でもあるらしい。だと言うのに、本当に嫌なら逃げていいって言うんだ。協力もするって。牧野陽太の立場なら、どんな手段を使っても神永蕾和を選ぶよう私に脅しを掛けて然るべきだろうに、私に気を使ってるんだ。


 断れないじゃん。打算のない訴えを断るほど、私は強くない。まだ脅されて渋々って方がマシだよ。

 てかね、あんな良い人な牧野陽太がずっと一緒にいる、信頼されている神永蕾和に興味が沸いた。牧野陽太に肯定もされたし神永蕾和は私のストーカーだ。でも、ただの気持ち悪いストーカーを、牧野陽太は主だと親友だと言う。…興味沸かない訳が、ないじゃないか。

 ぶっちゃけね、牧野陽太の真剣な表情に胸が高鳴りました。カッコイイ、と思いました。慕われる神永蕾和に嫉妬に似た思いも沸きました。…惚れ掛けました。

 でもそれ以上に、神永蕾和への、あの言い知れない恐怖感と気持ち悪さが、緩和された。自分でもびっくりだ。牧野陽太、恐るべし…っ! 出来れば、牧野陽太とだけ知り合いたかっ……うっ、ぞくってした!



 と、まあ。色々あって、避けるのは止めました。最近は更に暑くなってきて、夏休みも目前。夏休みに入ってしまえば、会う事も少なくなるだろうし、まあいいかなと。…あ、今何かのフラグ立った。

 そして現在、私は何故か神永蕾和と牧野陽太、それからりっちょんの四人でお昼を食べてます。

 ……どうしてこうなった。

 神永蕾和は私を無表情で真剣に凝視している。私は目を逸らしりっちょんと牧野陽太に助けを求める。二人は私達に背を向け知らんぷりで食べている。しどいっ!

 つーか牧野陽太あああっ! 助けるって言ったじゃん! それが今だよ助けて! あれでもあれは神永蕾和をふ、振った後の話だっけ? ならしょうがな――い訳ないだろこんちくしょう!

 てかね、いきなりお昼ご飯一緒はハードル高いよ! 最初は朝の挨拶くらいからにして欲しかった! 神永蕾和のハーレムがめっさ怖かったんだからねえええっ!


 現在私達は、何故か視聴覚室を貸し切っている。ハーレムもいない。多分扉の向こう側にいるのかもだけど、今は私達四人だけ。人目を集めないだけマシだが、神永蕾和の焼き切られそうな熱視線も同じくらい精神がガリガリ削られるので、結局どっちもどっちだ。

 牧野陽太に、明日はお詫びにお昼奢るよ、と昨日言われた時に疑えば良かった……あの時のフラグを叩き折れば良かった……今更言っても仕方ないが、後悔せずにはいられない。

「桜、あーん」


 ……いやあのマジすんません勘弁してください。あの、お昼一緒とかハードル高いなんてもう言わないので、あーんは勘弁してくださいっ!

 神永蕾和が持ってきたお弁当は、とっても美味しそうだ。色鮮やかで、私の母の冷凍食品オンパレード弁当と違い、全て手作りだろう。プロの仕業としか思えないそれは重箱で、私と神永蕾和の分らしい。

 りっちょんに助けを求めた。最初は神永蕾和がストーカーだと信じなかったが、神永蕾和の所業(神出鬼没な待ち伏せや個人情報の把握など)を話すと、まず一番に私を心配し(鬼の形相で)、次いで神永蕾和に敵愾心を燃やし(鼻息荒く)、神永蕾和に蔑みの目を向けながら逃避に協力してくれた我が親友様なら……ッ!

 バッと見る。バッと逸らす。そ〜ッと見る。……あかん、あかんでえりっちょん。おにゃのこがそないな顔したら、あかん!

 思わず何の関係もない関西弁が飛び出すくらい、りっちょんの表情……いや形相は、それはそれは凄まじかった。隣で牧野陽太が青い顔でお腹を押さえている。胃痛か…苦労人め。親近感が沸く姿にちょっぴり癒された。


「りっちょん…」

「……神永蕾和あんた桜に何してんのよ何でいきなりあーんなのくそがッ! つーかストーカー野郎が調子乗ってんじゃねえよてめえなんか×××が××になって××を×××ちまえばいいんだよ! 寧ろヤってくれるオネーサマの巣窟に放り込んでやろうか、ああん?」


 きぃやああああああっ!! 止めてええええっ! 伏せ字ばっかだよ放送禁止用語だよ女の子がそんな事言っちゃらめええええっ!!

 私も牧野陽太も、胃を押さえて耐える。突っ込んじゃダメだ突っ込んじゃダメだ突っ込んじゃダメだ。りっちょんは私のために怒ってくれてるんだから。


 遠い目で、未だどこで息継ぎしてるのか分からない呪詛…いや文句をブツブツ垂れ流すりっちょんを見た。それから青い顔の牧野陽太を見て……神永蕾和を、見上げた。

 甘い微笑みと柔らかい口調で、美味しそうな料理を差し出す神永蕾和は、りっちょんの呪詛なんて聞いちゃいない。…でもね、不思議なんだけど、ずっと反応せずにいると、熱っぽいとろりと甘い瞳に、少しずつ涙の膜が張って、ぷるぷるし出してね。それが、何だか可愛くて。


「……あむ」

「…! 桜っ…!」

「いやあああっ、桜が毒牙にいいぃっ!」

「うわわっ、落ち着いてちょっと静かに…!」


 ぱくりと食べれば、ぱああっと分かりやすく顔を輝かせる神永蕾和が、凄く微笑まし………って何してんだ私いいいいいっ!!

 ヤバかった! あの美貌と反応のギャップに絆されそうになった! 正気を保て私! 絆されればそこで人生終了だぞ私! 流されるな、頑張れ桜っ!

 ひいいい、とヤバい事になっているりっちょんは牧野陽太に押さえられている。ごめんりっちょん、私頑張るよ!


 と言うかですね、いくら相手が苦手な危険人物とは言え、身内以外とあーんした事ない私は、ほっぺたが熱くなった。恥ずかしい…。

 気を紛らわせるためもぐもぐと咀嚼し――…その美味しさに驚き固まった。うっま…! ふおぅ、すげえ何これこんなの初めて食べた!


「ど、どう? 美味いか?」

「んっ……美味いよ! すっごい美味しい…!」

「そっか、良かった」


 きらきらと目を輝かせてコクコク頷きながら言うと、何故か神永蕾和がホッとしたように笑った。何故?

 ……え、まさか…。


「こ、これ、まさか神永くんが…?」

「ん、ああ…。桜に食べて貰いたくて、俺が作った。桜の笑顔が見れて満足」


 またあーんと差し出され反射的にぱくり……だああからあああああっ。

 ……何だろう、いや、もう凄すぎて何も言えねえ。確かに私は食べるの専門で、料理は出来ないけどさ。料理する訳じゃない私すら打ちのめすって、どうよ……料理好き女子が食べたら、料理しなくなるんじゃないの? つーか、確実に私より女子力高いよね?

 何だか恥ずかしい。穴があったら埋まりたい。何ですか、チミはプロでも目指してるんですか? なら安心しろ、今すぐ名乗れるから。


「うう、おいひぃ…」

「可愛い桜。次どれ食べたい?」

「…お肉」


 ……ハッ! …くっ、神永蕾和めっ。この美味しいごはんで私を篭絡するつもりだな!? う、ううっ、そうはいかないんだからね! わ、私負けないっ! お、美味しい食べ物に魅了されたりしないんだからねえええっ!


「――ンの神永蕾和! あんた桜が色気より食い気のアホの子だって知ってやってるわね!? い、いくら桜が美味しい物に弱いからって、うううー……っ、桜も正気に戻らんかいッ! つーか何か変な物入れてないでしょうねええええ!?」

「あわわわわ、落ち着いて七瀬さん! 確かに桜ちゃんが美味しい物に弱いのは知ってるけど、変な物は入ってないよ! 髪の毛も血も皮膚も唾液もせッ……、兎に角何にも入れてないよ! 俺ちゃんと見張ってたから安心してえええっ!」

「安心出来るかぼけえっ!」


 ……うん、りっちょんが暴れたからか正気に戻りました。荒れてんなあ……理由は分かってるが、ちょっと荒れすぎじゃない? 私のためだと思うと、きゅんきゅんしちゃうけども。

 つーかな、見張らなきゃ何入れるか分からないとか心配でしょうがないんだけども。神永蕾和怖いよう…。(ぷるぷる)

 りっちょんだが、実は最近彼氏と別れたのだ。たった一ヶ月で、相手が浮気した。りっちょんに修羅場フラグが立ってるのをつい言ってしまい……まあ、結局フラグは回収されたらしい。

 聞いた話によると、向こうはりっちょんが、つまりその、ヤらせてくれないのが不満だったらしい。いやいや、付き合って一ヶ月でとか早すぎだろ。りっちょんはそいつが初めての恋人だったから、そういう経験も当然ない訳で。りっちょんは一見派手な美人だから誤解されがちだが身持ちが固いから、そのくらい当然なのだ。まあキスもまだと言うのはちょっと驚いた。りっちょんは思っていた以上に奥手で乙女でかわゆかった。

 りっちょんは悪びれる様子もなく、りっちょんを詰り自分を正当化しようとする男に冷めたらしい。で、そりゃもうキレた。

 この(暴れて牧野陽太に羽交い締めにされている)様子を見て分かるように、りっちょんは普段は見た目に反し穏やかで意外と地味だが、感情が高まると暴れる凶暴になる。意外と短気で暴力的だ。何より、情に厚い。だから、ボッコボコにしたらしい。

 りっちょんは、何でも空手と合気道を小さい頃から親戚に習っていたらしく、滅茶苦茶強い。あ、黒帯とかじゃないから法律違反じゃないよ。確か、黒帯の人の拳は凶器扱いなんだよね? 詳しくは知らんが。

 因みに、浮気相手が中学時代、派手な顔立ちだからって突っ掛かってきたギャルだったのも原因だろう。そりゃもうボッコボコ、フルボッコだったってさ。ざまあみろ、りっちょんを裏切るからだ!


 若干現実逃避。あーんは勘弁してと言ったら、牧野陽太がすかさず割り箸を差し出してくれた。出来る奥さん……! でもあるなら最初から出して欲しかった。

 お弁当は頂きます。だって美味しいもん。お腹空いたし。神永蕾和の外付け常識、牧野陽太が大丈夫ってんだから大丈夫っしょ。…大丈夫だよね?


 で、まあ。私は見事餌付けされ、明日も一緒にごはん食べる約束をしちゃったじぇ…。ううっ、美味しいごはんがいけにゃいんだいっ!

 後でりっちょんに、食べ物に釣られるなとしこたま怒られた。




 私だって、バカじゃない。ストーカーと普通に接する事が出来るほど、図太くは……な、ない。ないったらない!

 ごほん。まあですね、私は昔からフラグが見えて、友達も出来なかった。初めての友達は、天使だった。天使みたいに可愛い女の子で当時は本気で天使だと思っていた。彼女とは少しの間遊んだだけだったけど、彼女にフラグについては誰にも言わないようにした方がいいと言われ、それからは友達も出来たし変な子扱いもなくなっていった。

 でも、それでもフラグは見えていて。フラグは一種の未来予知にも似た物だと気付いた時には、何より恐怖した。


 フラグは未来への分岐点だ。折るか回収するか現状維持かで未来が変わる。そして私は、それが視えて干渉出来る。だから、他人のフラグに手を出すのは好きじゃない。

 でもさ、中には犯罪系フラグもある。危ないフラグを見たのは、小学生の時に一つ上の学年で事故に遭った子と、中学の時のアレだ。アレを折っておけば、あの人達は平穏に暮らしていたのだと思うと、後悔する。どんなフラグか分からなかったのだから仕方ないかもしれないが、それでも足掻きたかった。

 でも、気付いたんだ。私如きが未来を変えようなど烏滸がましいと。フラグはあくまでも可能性であり、折るも回収するも本人次第で…――まあ、そこまで深くは考えていないのだが、フラグとは基本有り得る未来を提示する。

 私は、自分を守るための詭弁かもしれないが、フラグに無理矢理逆らうつもりはない。勿論、分かる範囲、出来る範囲で時に折り時に回収するけどさ。基本はフラグが立ったらそれを想定し………ある意味、諦め癖がついているといってもいいかもしれない。


 しかも今回、私は回避不可能らしい恋愛フラグを神永蕾和に立てた。もう一度言う。回避不可能の、フラグだ。ぶっちゃけ諦めた。


 ふふふ……なんか妙に仰々しい事言い出して、最終的にはそれかと怒られそうだが、私が言いたかったのは神永蕾和から逃げるのを諦めた、と言う事だ。

 考えても見て欲しい。仮に逃げたとして、絶対のフラグ(通常のフラグには絶対なんてない。神永蕾和恐るべし…ッ)がある限り、私達は結ばれるだろう。それが、私の意思かどうかは兎も角。相手はストーカーだ、どんな手段を取るかなんて、分からない。

 保身に走ったのかコノヤロウ、と罵ってくれて構わない。だって事実だもん。監禁はやだもん! そんな、エロゲーまっしぐらな展開だけは回避したいもん!

 ならば、意思を無視しめくるめくエロゲ展開になるくらいなら、自分から近付き人柄(ストーカーな時点で粘着質そうだが、それ以外は知らないので)を見極めて、重箱の隅をつつくように良いところを見付け(良いところがないとすでに決め付けている)意思を伴ってくっつく方がまだマシだ。

 フラグが視えない人……と言うか端から見たらただのバカだが、私には私の事情があるのだ。りっちょんにも話し、渋々納得して貰った。


 うん、で。私が思ったのは、人外ってくらい顔が良すぎる奴はずるいねって事と、調子が狂うって事だ。

 ぶっちゃけ、牧野陽太レベル(それでも相当な美形)だったら「顔が良いからって何でも赦されると思うなよこんちくしょう!」って足蹴にして、まず三メートル以上は距離を取るが。あのレベルだと、大量殺人起こしてもちょっと泣いて謝って満面の笑みでも見せれば赦されそうだ。私は、頭に旗と言うシュールな姿に見えるのでそこまでではないが、あまり怒りが沸かないのです。

 ストーカーがいつからかは分からないし知りたくもないが(薮蛇はごめんだ)、多少・・個人情報が流出したくらいならいいかなと思ってしまう。正気に戻れ桜ああっ! と自分をぶん殴りたい。

 その上、この美貌で子犬みたいな反応は反則だ。無視されると涙目でぷるぷるして、構われると嬉しそうに笑って。自分のストーカーなはずなのに、微笑ましくて………調子、狂う。

 なんつーか、不思議と無下に出来ないのだ。あの異常な魅力にやられたのか、頭の奥で鳴り響く警鐘がそうさせるのは分からないが。


 まあ簡単に纏めると、私は自分が神永蕾和に絆されてストーカーを止めさせて好きになるまで、一緒にいるしか道はない。監禁は嫌だが、好きにならねばと思いながらストーカーと一緒にいる、と言うのは自分で選んどいて何だが、結構精神にクるなあ…。

 せめて恋愛フラグがメタリックでなければ、清々しくへし折って粉砕出来たのに…。

 あ、突っ込みは不要でござる。私だって突っ込みたい! でもですね、フラグが立って回避不可能なら、覚悟せにゃならんのです。本来なら拒絶して避けて逃げるわいっ! 取り敢えず、あの顔は卑怯である。




 一緒に帰ろうと言われたのは丁重に断り、一人帰る。思いの外あーんのダメージが大きく、もうちょっと食傷気味である。

 牧野陽太曰く、神永蕾和はストーカーの自覚がないらしい。何でも、本人は私が心身共に健やかに暮らせるよう見守っていただけのつもりらしい。四六時中。それをストーカーと言うのだが、彼はばかなのだろうか?

 ストーカー行為は止めてくれと訴え、見守らなくていいと抗議し、胃を押さえながら頷くのを見届けた。まあさ、イタ電迷惑メールもないし、ドラマや小説にあるような盗撮写真を送り付けてきたりとかもないから、まあ、実害はないと言えるし、止めて貰えるなら、まだ赦せる。ちょっとだけ。逆上して襲ってくるとかもなさそうだし、目に見える形ではないし、まあいいかなと。(知らないって幸せだよね!)

 あ、牧野陽太には胃薬貰いました。これよく効くよ、と虚ろな目をした笑顔で錠剤が半分くらい入った瓶をね。…愛飲、してるらしいよ。不憫過ぎて泣ける。


 その帰り道、夕暮れの土手であの不良っぷるを見掛けた。たくさんの不良を相手に喧嘩していて、赤髪を金髪が護るようにしていた。だが多勢に無勢、ボロボロで、もう殆ど負けて――…、んぬぁにッ!?


「――俺は、こいつのためにも、負ける訳には行かないんだああ───っ!!」


 叫んだ金髪! 頭にはぴこんときんきらきんのフラグ………かかか覚醒フラグが、立ったああああっ!?


 覚醒フラグ……まあ分かりやすい。主人公がピンチに陥るとよくなるアレである。私が前に見たのは、兄が受験の時、志望校の合格判定がなかなかAを取れず、俺を舐めるな聞いて驚け俺は後二回変身するぞヒャッハー負け組だとなんだそれはまさか俺の事かあああ、となって覚醒フラグが立っていた。受験疲れかな、色々ヤバくなってて、家族みんなで頑張って慰めた。他人事なら笑えたが、あの狂人と同じ屋根の下にいなくちゃならない私達には辛かった。


 ぼんやりと思い出していると、フラグを回収し見事勝利した金髪は、ボロボロの赤髪に近付き、ぎゅうっと抱き締め――…ふおっ、ここ告白フラグが立った、だと…?


「――れは、お前が好きだよ。性別なんて関係ない、ただお前って言う一人の人間が、好きなんだ…」

「……っ」


 横を通りすぎた時、聞こえたそれ。左下でイベントやってる彼等に、少し癒された。二人は今抱き合い、多分結ばれたのだろう。フラグが回収されていた。


「告白、か…」


 もう見えなくなってから、呟いた。私は彼等が羨ましい。私とは違い、普通の愛情を少しずつ自然に育んでいったんだろうから。私は、学校一のモテ男にストーカーされていて、恋愛フラグ立っちゃって、しかも回避不可能で。


「…私も、普通に告白されて、普通のお付き合いが、したかったな」


 私だっておにゃのこだもん。夢くらいあるよ? 今まで恋愛とは縁遠かったのもあってか、少し夢見がちなのだって自覚している。流石に白馬の王子様が迎えに来るとかは思ってないけどさ、愛の告白から始まる恋愛を夢想したって、いいじゃない? ストーカーの告白じゃなくて。告白の意味違うからねこれ。

 ………あれ、私って実は結構不憫なのではないか?(今更)


「……そういや、好きって言われた事ないや」


 あれ、神永蕾和ってほんとに私を好きなのか? ……ふぬん、神永蕾和なんて、顔を取ったら何も残らないぞ。ただの優秀な変態ストーカーじゃないか。いや、恋愛フラグがあるなら好きなんだろうが、神永蕾和は私に幻想を抱いているんじゃないだろうか。

 私は多分神永蕾和と小さい頃会っている。で、神永蕾和にとって小さい頃の私は初恋で、その約束を律儀に守っていたから、高校で偶然再会し昔の記憶が甦ったのではないか? ならば、神永蕾和は今の私を……まあストーカーするくらいだから多少は知っておろうが、今と昔じゃ全然違うって、見て見ぬふりしてるんじゃないだろうか? それならば、早々に諦めて欲しい。(…知らぬは仏。ストーカー歴なんて知らない方が幸せです)


「ふう……帰ろ」


 いつの間にか止まっていた足を再び動かし、私は家に帰った。もうめんどいので、今の思考は全部地平線の彼方へぽーいしよう。ぽーい。





 次の日、朝家を出て真ん前に顔を真っ赤にしガチガチに身体を強張らせた神永蕾和が、頭にピンクがかったきんきらきんのフラグを立てて私を待っていて。


「ふっ、藤峰桜さん! ず、ずっとすす好きでした! けけ、結婚を前提にお付き合いしてください!!」


 真っ赤な顔で、緊張も露にそう告げがばりと頭を下げ手を差し出した神永蕾和に、私は驚き――…そして、ぷっと噴き出した。

 ……うん、私神永蕾和は実は人間じゃないと思ってたけど、なんか今の姿は凄く親近感が沸いた。

 ガチガチに緊張して、美声は若干裏返って、かみかみで、恋愛での覚醒フラグを立てて、いきなり結婚を前提になんて言い出して、告白してきたこのばかな男に、私は。


「――ゆっくりと、互いに知る事からお願いします」


 ――…不覚にも、きゅんとしちゃった訳です。




騙されてる、騙されてるよ桜…!恋愛で覚醒とか怖いよこいつの場合特に!家の前とかヤバいお!


ちょっと補足

恋愛の覚醒フラグですが、一応普通の恋愛への覚醒です。但し今までの気持ち悪い愛情も健在。寧ろパワーアップしてる。

この後、母と兄とご近所さんに目撃されフィーバー。藤峰さん家の桜ちゃんにイケメン彼氏がいや婚約者がいやいや学生結婚だと騒がれる。父の耳に入り、父卒倒。頑張れ父。

ライカは桜母公認。兄はからかうどころか、妹に先越された上とんでもないの捕まえてきたのに最早笑うしかない。父はライカのオーラにびくびく圧倒されながらも、きききしゃまのようなゃやちゅに娘はやりゃん!とか言ってる。かみかみ。


補足ってこんなんでいいんですかね?

一応これで完結です。ネタはあるので肉付け出来たらアップします。いつになるかは不明ですが。

では、こんな駄文を読んでいただき、ありがとうございました!

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