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第六話

 あれから毎日のように戸塚君に勉強を教えてもらっている。毎日はさすがに遠慮したのだが、戸塚君に火が点いたらしく熱心に毎日教えてくれることとなったのだ。しかも、数学だけでなく英語や生物まで。私は生物選択ではなかったため、かなりありがたい。遺伝とか楽しいけど難しい。ショウジョウバエがマジむかつく。なんでこいつ、遺伝子捻ってんの?

「今日で、最後だね」

 明日からテスト本番。今日で彼との勉強会もお仕舞いである。

「今まで本当にありがとうね!帰り、どこかに寄っていかない?お礼に奢るわ!あ、彼女さんが問題なかったら、でいいの」

 こうも毎日一緒にいても噂が立たないのが不思議で、一度戸塚君になんでかと聞いてみた。彼の回答は実に簡潔だった。家柄と財力だと。意味がわからず聞き返すと、苦笑しながら自分で言うのもなんだけど僕の家がお金持ちだからだよと言った。その時はイマイチわからなかったのだが、彼の家は世界的に有名な電機メーカーだった。つまり、一般の生徒は彼を敵に回したくないということらしかった。それが例え噂の的である私、金城真莉亜と一緒にいたとしてもだ。

「いいよいいよ、大丈夫だよ。僕の自己満足でもあるし」

「いやいやいやいや。ここは奢られて?」

「…仕方ないなぁ」

「どうしよう?どこか行きたい所はあるかしら?」

「え、今日行くの?テスト終わってからじゃないの?」

「だって、テスト終わってから会う機会なんてないじゃない」

 午後6時頃の静まり返った廊下を他愛もない会話をしながら二人で歩く。この時間は最近のお気に入りである。落ち着いた緩やかな時間がとても好きだ。

「まぁそうだね…これから会うことは………なさそうだ」

「でしょう?」

 ここで連絡を取り合わないのがいい。この偶然生まれた出会いがいい。戸塚君も積極的に私と絡みたい訳ではないため、連絡を取り合う必要性が感じられなかったのだろう。それでいい、それが一番いいのだ。高校生活の間に、濃い人間関係を築きたくない。いつ私がボロを出してしまうかわからないし、まだ真莉亜ちゃんでの生活に慣れきっていないから。

「―――だろっ!」

「―――なっ!」

 結局、コーヒー一本でいいと言った戸塚君と教室から一番近い自動販売機にやって来ると、なにやら騒がしい声が聞こえてきた。ちなみに自動販売機の位置は2階で、裏庭に面した廊下にある。今の音源はどうやら裏庭らしい。

「…裏庭が大盛況みたいね」

「テスト期間に熱心だ」

「本当に」

 私の台詞に戸塚君は顔色一つ変えずにそう言った。よくあることなのか、興味がないだけか。彼は両方な気もするが、正直私もだ。

「助けに行かないの?」

「え、私が?」

 自分の分のコーヒーを買っていると、そんな言葉を投げ掛けられた。驚いて、コーヒーを取り落としそうになった。

「なんでまた、そんなことを私が?」

「冗談だよ」

「性質が悪いわね」

 コーヒーのプルタブを開け、一口飲むと戸塚君に笑われた。どうやら、私は豆から挽いたコーヒーしか飲まないイメージがあったそうな。ま、真莉亜ちゃんはそうだった気もするけどね。でも、私からするとこれが一番慣れ親しんだ味なのだ。

「ここは騒がしいし、もう帰ろうか」

「そうね。そろそろ家に帰って明日に向けて追い込みをしないと」

 昇降口へ向かう時に何気なしに見たイジメ現場は、よくある感じだった。もっさりとしたお坊ちゃんヘアーでメガネを掛けた長身の男の子が、幾分か明るい髪をした少年たちに暴行を加えられていた。しかも、まさかの無抵抗。てか、防御を一切していない。少し驚いてジッと見つめていると、戸塚君が声を掛けてきた。

「気になるの?」

「え…いや、自己防衛していないのに驚いて…」

 そう言うと、戸塚君は私の前に首を伸ばして窓の外を見つめた。そして、あぁと納得した声を上げた。

「新納君はいつもあぁだよ」

 ニイロ…どこかで聞いたような…?なんだっけ?

「彼、ずっといじめられているの?」

「うん、まぁ……初等部の頃からずっとだと思うよ」

 長いな。そんなんだったら、転校すりゃいいのに。まぁ、そんなことしたくて出来るもんじゃないか。

「それにしてもどうして無抵抗なのかしら?」

「さぁ?それは知らないけど。でも、殴る蹴るに慣れたとかじゃないのかな」

「殴る蹴るだけなの?お金持ちだからお金とか取っていきそうなのに」

 そう言うと戸塚君がコーヒーを噴き出しそうになって、咽ていた。咳き込む音に裏庭を見ていた視線を戸塚君に強制的に合わせられた。

「ちょ、何事っ…大丈夫?」

「げほっ、ごほっ…ごめんごめん。いや、だって、金城さんが面白いこと言うから」

「面白いこと?」

「金城さんを含めて、ここの学園にいる子はみんなお金持ちだよ」

「へ?」

「つまり、あのいじめっ子達も裕福な家庭出身なんだよ」

 だから…ね?

「ってことは、お金なんていらないってこと?」

「必要ないしね」

「へぇ~」

 なんだか新しい発見をした気がする。

 納得して頷く私を、戸塚君は変な顔をして見ていた。

 おっとおっと、やばいやばい。ばれる。

「ストレス発散のサンドバックみたいなもんだと思うよ」

「ふぅん」

「あとは、自分の家より格上の新納君を虐げているという優越感じゃないかな」

「新納君のお家はそんなに凄いの?」

「え、知らないの?」

 まただ。この戸塚君の顔。

 私が何か質問するたびに驚きで染まる。心臓に悪いからやめてくれ、冷や冷やする。いざとなったら、橘様以外アウトオブ眼中でしたはぁとって言えばいいか。…出来る限りやりたくないけど。

「新納君の家はNIRだよ。NIRっていうブランドあるでしょ。ファッションのことなら、金城さんのほうが知ってるんじゃないかな」


間。


「えぇええええええええ!!」

「え、え、なに?」

 私の大声に戸塚君が若干びびった。

 待て待て、私のほうがびびったわ!え、ホントですか!今の情報間違いじゃないよね!

「本当に?!」

「え、あ、うん。え、どうしたの?」

 新納君、君に決めた。

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