第二十話
昨日と同じようにタクシーでショッピングモールへ向かうと、入り口がやけに騒がしかった。なぜか入り口には人だかりができている。こんな入り口でなにしてるんだ?と、怪訝に思って輪の間から中心部をのぞき込むと、スラっと伸びた無駄に長い脚と均等についたうっとりするほどの筋肉を晒し、黒い髪と緑色の瞳は太陽の光を浴びてキラキラと反射して、まるで石像と見間違えるほどの男・琲禰が佇んでいた。
「なにあの石像…」
周りの視線には目もくれず、ジッと前を見据えていた。
こんな周りの注目を浴びている中で出ていくのはかなりの勇気がいる。前の私だったら絶対に他人のふりしていたが、今の見た目は美少女・真莉亜ちゃん。おそらく端から見たらお似合いの美男美女カップルであろう。ええい、勇気を振り絞るんだ私!
「行くか…」
一歩踏み出そうとしたその時、琲禰が私の存在に気付いた。
パァッ
「「「きゃああ!!」」」
私を見つけて蕩けるような笑みを見せた琲禰に観衆が黄色い悲鳴を上げる。琲禰の視線の先にいる私を見て、観衆もうっとりしている。感動の再会とでも言わんばかりの反応だ。
「真莉亜さん」
そっと両手で私の両手を掴んだ琲禰は、スルリと方向転換し、手を繋いで歩きだした。周りの人たちには目もくれず、ニコニコと笑みを浮かべたままゆっくりと私の歩幅に合わせて歩いていく。
「今日は一段と嬉しそうだな」
ショッピングモールに入っても人々の注目を浴び続けているが、ついてくるものはいない。自然と手を繋いだままだが、別に不快ではないため繋いだままにする。きっと離せば琲禰は地獄に落とされたかのような顔をするに違いない。
「だって、今日は二人きりであなたと会えるんです」
これ以上の幸せはありません。
「そ、そうか…」
あまりの喜びようについていけない。
歴代の新納の男たちもこんな感じだったのだろうか?この溺愛っぷりを目の当たりにした女性はイチコロなんじゃないだろうか。
「真莉亜さん、どこに行かれる予定ですか?」
「あ?あぁ、そうだった」
こっちに来てくれ。
琲禰の腕をひき、行きたい場所へ連れていく。
「ここだよ」
「ここですか…?」
ジュエリーショップの前で琲禰は不思議そうな顔をする。
「ここで待っててくれるか?」
「え?」
「待ってるんだ」
寂しそうな顔をする琲禰を入り口に残し、一人で入店する。
「いらっしゃいませ」
「すいません、これ頂けますか?」
・
・
・
「待たせたな」
15分ほど経ち、店から出ると、ギュッと琲禰に手を繋がれた。
「寂しかったです」
右手でスルリと頬をなぞり、そのまま私の長い髪を耳にかけた。
近くで見ていた人たちは琲禰のセリフと仕草に顔を赤くして固まっていた。
こんな男がこんな歯が浮くようなセリフを言ったら、誰でも硬直するわな。実際わたしも背中からゾワゾワとしたなんとも言えぬものがせりあがってきていた。
「なんでもいいが、これ」
やるよ。
「え?俺に…?」
「そうだ。証が欲しいといっただろ?」
琲禰は震える手で袋を受け取り、震えたまま中身を取り出した。
「開けてみろ」
「は、い…」
小さな箱の中には、琲禰の深い緑の瞳と同じ色のエメラルドでできたピアスが入っていた。
「ますたぁ…!」
ブルブルと震え出し、琲禰の瞳には溢れんばかりの涙が輝いていた。
「愛してます…!!」
「うぉ!?」
タックルかの如く突っ込んできた琲禰は、私をきつくきつく抱き締めた。
「ぅえっ…っく…っく…」
大粒の涙を流しながら嗚咽を漏らす琲禰の腕をポンポンと叩く。
「泣くな」
新納として血の運命を生きてきた彼は、いつも自分の主を探して飢えていたのだろう。自分の片割れを探して生きる、見つからない焦燥感や不安がずっと付き纏っていたに違いない。
「私はここにいる」
「っ…ますたぁ…すき、だいすきっ…あいしてる…あいしてる…」
覆いかぶさっている琲禰で周りはよく見えないが、きっと注目の的であろう。
「私はお前の主だ。お前がお前でいる限り、私はお前を愛そう」
「ああっ…!」
私の人生、真莉亜の人生、琲禰の人生、三つが交差する。なんとも奇妙な物語の始まりだ。




