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第一話

「げほっ…げほっげほっ…うぐぅ…!!」

 喉が痛い。なんでだ。

 薄っすら目を開くと豪華な浴室に私はいた。バスタブに上半身を乗せ、バスタブの中に頭を突っ込んでいる状態でいた。

 あれ。さっき私死に掛けてなかった?

「え…?」

 体を起こそうと手を持ち上げると、右手に血に濡れた鋭利なナイフを持っていた。

「…なんだこれ」

 とりあえず背を起こして浴室を見てみると、浴室は血塗れだった。なんと激しいスプラッタ。血が平気でよかった。

「…つーか、声変」

 いつもの声の数倍は高いし綺麗。なにこれ怖い。

 ふと、浴室の壁に血文字を発見した。


『もう一度、チャンスをあげよう』


「どっからどう見てもホラー…」

 チャンスをくれている気がしないじゃないか。なにこの血文字。だが、チャンスをくれると言うことは…私はあのまま交通事故で死んだけれど、こうしてまた肉体を授かっていることから推測すると、第二の人生を歩めと。なるほど。ありがたい。

 いつまでもこうして血塗れの浴室に座ってもいられない。色々と勘違いされかねん。右手に持っていたナイフをどうしようか迷ったが一応持っていこう。というか、まずお風呂…。全身血塗れっていう状態に今後なることはなさそうだし、貴重な体験だったと思うべきか。…思えるか。

 シャワーを浴びていて気がついた。この体、ナイスバディー過ぎる。そして若い。そう、若いに尽きる。髪の細くてキレイな栗毛色。毛先が波打っているのはパーマか?

「おおう…」

 シャワーを浴び、浴室の血を一通り流してから脱衣所へ出ると、洗面所の鏡の前に美少女が映っていた。ガチの美少女。

「若いな…やっぱり」

 目の前の少女は綺麗と言うよりも可愛らしい容姿をしていた。将来は綺麗に進化するのではないだろうか。

「さて。まずは彼女の情報を集めなければ」

 おばさんは貴女の人生を奪うことには躊躇いはないからね。

  ・

  ・

  ・

「なるほど」

 彼女の部屋に入り、情報を捜し求めた。ここは私立□□学園の寮らしい。パンフレットを見つけたんだ。ほかに…ほかには何かないか。

「あ」

 机の上にやけに主張をしている日記を見つけた。これで彼女の人となりがわかるだろう。彼女が彼女でいられた最後の日にはなんと書き綴っていたのだろうか。少し…否、かなり興味がある。

 ペラリ、と最後であるページを開いてみた。


  もうだめ…!もう生きていけないわ!

  どうして!どうしてなの!

  たちばな様はどうして…!どうして、わたくしのことを、あんなっ…!

  たちばな様にみはなされたら、私はなにを目標に生きていけばいいのかしら!!

  あなたと結婚することを目標としてきた私はっ…!

  お父さま、お母さま、しゅうすけ……あと、ちづる…私をおゆるしください…!


「先立つ不幸を…ってふざけんな、このあまぁああ!!」

 橘(もしかしたら立花なのかもしれない)とかいう奴に振られたから(?)って自殺ぅうう?!じゃあさっきのナイフで自分を刺したor切ったってことか?!なんつう女だ!許さん!この女、私の大嫌いな種類じゃないか!

「体を乗っ取った事にちょっとだけ罪悪感感じてたけど…もう微塵も感じねぇ…」

 神様…かどうかは知らんが、奴もいいことしてくれるよ、まったく。私は彼女の体を使って、第二の人生を歩もう。この美貌を活かせそうだし。くっそ、今度は絶対にいい人生を送ってやる。

「でもまずは…こいつの情報が必要だな…」

 この日記だけでわかるだろう…たぶん。

 一番最初のページに戻って、どんだけ腹が立ってもどんだけむず痒くなってもどんだけ気分が悪くなっても全部読みきろう。それで彼女の情報が手に入るならば。それで私が第二の人生を歩むための糧となるならば。

  ・

  ・

  ・

 最初に言おう。なんとも有益な日記だった。有益であった分、この疲労感と苛立ちは然るべきものだと思って我慢することとなった。

 端的に言おう。彼女は馬鹿だった。かなり馬鹿だった。おつむが弱いのかなぁ?なんてからかえるレベルじゃない。頭を抱えるレベルだった。常識なんて持っていない。勉強なんか出来る訳がない。友達だっていない。あるのは美貌とエベレスト級に高いプライドだけだった。その必要性の感じられないプライドを如何に発揮しているかを日記は示してくれていた。そして、橘(どうやらこの漢字であっているようだった)と言う少年が恋人なのかと思いきや、ただの片思い。もう開いた口が塞がらないよね。盲目的に彼のカリスマ性と美貌と知性に憧れ、恋焦がれ…。彼が彼女を鬱陶しく思っていたらしく、彼の友達が彼女(彼女は金城真莉亜(かねしろまりあ)というらしい。はいはい、お嬢様お嬢様)のことをどう思っているかと聞いたところ、彼、橘君は「ウザイ」と華麗なる一言を言い放っていたらしい。それを物陰で聞いていた彼女は(彼女は無自覚にストーカーなのだ)、部屋に逃げ帰り、泣き明かした挙句この凶行に至ったらしい。

「はぁ…」

 なんとも簡単に人生を無駄にする少女だ。それに対して、私は脱力せざるを得ない。これから私は私のままでいこうと思っているのだが、いきなり“お嬢様口調”だった彼女が普通に喋るのはどうなのだろうか…高圧的に喋ればいいか。元々私自身も高圧的であったし、その点は余り不安に感じていない。勉強も、最初は思い出すことに苦戦するだろうし、この馬鹿な彼女がいきなり頭よくなったら不自然だけどなんとかなるだろう。常識も年齢とともに言えば、なんとかなるなる。ってことにしてください。お願いします。それ以外に私には思いつかないんです。

 誰かが何かを疑ってきたら、いつもの高圧的発言でどうにかしよう。彼女、日記を見ている分に、口だけは達者なのである。人間って不思議だ。あ、彼女にも褒められてことはもう一つあった。貞操観念はしっかりしてらっしゃる。まぁ、しっかりって言っても橘君に捧げることしか脳内にないだけなんだけれども。

 ♪~

 あと、まだ解決していない問題が一つ。

「またか…」

 先ほどから何度も掛かってくる着信。『千鶴』と表示されているところを見ると、彼は日記に何度も出てくる、彼女の唯一の知り合い。分類で言うと幼馴染だ。

「どうしたものか…」

 彼女は何故か日記には事細かにその日あったことを書いてくれている。例えば、千鶴君なんかの場合、


  今日はまたちづるにバカにされた!しんじらんない!

  「お前の頭ってほんとうにようじなみ。いや、むしろようじにしつれい」

  とかいうのよ!なんなのよ、ばぁか!


 お前が馬鹿だこの野郎。もっと漢字を使って日記書け。

 彼女は彼にけちょんけちょんにされているが、困ったときは頼っているらしい。そして、騙され貶され泣かされようが、その次の日記では一緒に行動しているのである。一日寝れば忘れると言う言葉は実在したのだ。恐るべし!

「…出るか」

 ずっと鳴らしておくのも忍びない。そう思い、仕方なく携帯を手に取った。

「もしも「おせぇ」……」

 落ち着け私。クソガキに本気でキレるなんていい大人がするもんじゃない。Be cool!あれ、Calm down!だったかな?

「真莉亜のくせに俺の着信を5回も無視するとか何様だよテメェ。俺の着信は3コールに以内にでろっつったろ?あー、お前鳥頭だったな。そうだよな、すぐ記憶なんて飛ぶよな。馬鹿だから」

 …彼女はよくこれだけ暴言を吐かれても一緒にいれたよ。私だったら確実に殴ってる。まぁ、彼女は鳥頭とか意味を理解できていないだろうし、貶されている事に気付いていないだけなのかもしれないが。

「…で、何の用?」

「はぁ?馬鹿じゃねぇの?あ、馬鹿だったわ。俺が用なくてテメェなんかに電話するかよ。高慢ちきで友達いねぇ真莉亜ちゃんなんかによぉ」

「…で?」

「…は?」

 千鶴君よ、彼女の口癖は覚えているかい?

「はぁー、もう…」

「は?ふざけんなよ、てめぇ。何様だよ」

 真莉亜様だよ。わかってんのか、あぁ?

「飽きた」

「あぁ?」

「だから、あんたに飽きた」

 同じことしか言えないなんて毎回聞いてて呆れるのよね。そろそろあんたと遊んでる時間ももったいないかなって思って。

 ちょっとお嬢様口調がんばってみたんだけど、どうかな?

「なっ、何言ってんだ!お前、誰に言ってるのかっ…!!」

「ほら、やっぱり同じようなことしか言えないし?そっちがわたし…わたくしを見下してるのも知ってたけど、それで満足感や優越感を得られてる男って正直ないのよ。マジで引く。だからさぁ、そろそろ飽きたのよね。わたくしが飽き性だってあなたが一番知ってるでしょう?」

 私が私の人生を歩むために、君はどう考えたって邪魔だ。だったら、幼馴染だろうがなんだろうが、君に一切の情が湧かない私はあっさり切り捨てさせてもらうよ。

「……テメェ、俺がいなくなって、泣いて縋ってきたからって、もう助けてやんねぇからな」

「あら、そんなことしないわよ。あなたに縋るくらいなら、他の生徒に縋るわ」

 それじゃあ、千鶴。さようなら。

「今までありがとう」

 君は私の人生のレールには存在しないのだよ。

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