第十八話
「入って」
ようやく車が止まり、降りた先は小綺麗な屋敷。一般の家よりも大きいし綺麗だが、学園で見てきたような豪華絢爛さはない。
「真莉亜が作らせた別荘だよ」
「作らせたの?」
驚いて顔を上げると、宗佑君は優しく微笑みながら、真莉亜ちゃんの面影を見つめていた。
「そう。真莉亜は俺をあの学園に入れたくなくて、あの手この手で留学させてくれたんだけど、俺が帰りたくなったり、会いたくなったりしたときのために、学園の近くに作ってくれたんだ」
よく二人でここで過ごしたよ。
胸が締め付けられるようだ。乗っ取った時は罪悪感なんてこれっぽっちもなかったけれど、今宗佑君の姿を見ると私がこの体に入ってしまったことが間違いだったように感じる。
「座って。インスタントしか出せないけど、いい?」
「ありがとう」
二人の秘密基地には使用人はおらず、いつも宗佑君が料理を作ったりしていたようだ。きっと真莉亜ちゃんはできなくて、というかしなくてさせていたんだろうな。
向かい合わせのソファの片側に腰を掛け、リビングを見回す。
「真莉亜のことで変わったものとか、こととかなかった?」
マグカップを持って帰ってきた宗佑君は、わたしの向かい側に腰を掛けた。
「ありがと。うぅん…日記しか真莉亜ちゃんのことを知る手がかりはなくて…」
「橘秀隆にフラれたからって真莉亜は死なないよ。むしろ逆上するくらいだと思うんだ」
はは、弟君は真莉亜ちゃんの性格よく知ってら。
「うーん、どうやって調べようかな」
「真莉亜ちゃん、友達いなかったから、周りにも聞けないんだよね~」
「んー、あ、千鶴は?あいつ、よく真莉亜の周りでうろちょろしてるだろ?本当目障りなくらい」
「あー、千鶴君?ごめん、切り捨てちゃった」
「切り捨てた?」
「ちょっと、鬱陶しくって…」
「ははっ、いいんじゃない?俺も好きじゃなかったし」
でも、学園にいる真莉亜を一番よく知ってるのって、千鶴だと思うんだよなぁ…。
そう言って宗佑君はコーヒーの入ったマグカップを置き、両手を広げてソファにもたれかかった。
「行き詰ったなぁ」
「金城家の力で探したりできないの?」
「そうなると、親とかにバレちゃうでしょ?」
できる限りあんたのことは伏せておきたいの。親が真莉亜に会いたいって言った時だけ
会ってくれればそれでいいから。真莉亜は社交界とかそういうのには一切出ないしね。
「…ごめん」
「うーん、探索に強い会社の友達にいたかなぁ?」
そう言ってスマホを取り出し、連絡先を見て友達を探しているようだ。
「探索に強い会社ってなんだろ?探偵?」
「それ、会社?個人じゃない?…あとは警察とか?」
「警察は…難しいんじゃない?大掛かりになっちゃうもんね」
「あーあ」
検索していたスマホを放り投げ、天を仰ぐ。
「いっそのこと警察犬にでも、真莉亜の足取り調べてほしいもんだよ」
「ははっ、いくら警察犬だからって、そんな前のことわかる、わ…け、ない…」
「どうしたの?」
警察犬、いるじゃん。警察じゃないけど、個人的な犬。
「ちょっと、いいこと思いついた!!!」
「えええ?」
「人呼んでいい?!」
「は?!」
「犬、呼ぶから!!!」
「それ人じゃないじゃん!!」
てやんでい、説明は後だ!電話をかけて、コールもなしに出た犬にドン引きしながらも、今すぐここに来いと命じた。
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ものの10分で奴は現れた。
「マスター」
ぬっという表現がぴったりなほど、音もなく部屋の中に立っていた。
「誰?!」
「うわ!!勝手に入るなよ!!」
クリソツな二人がビックリして飛び上がっているのを不思議そうな顔をして琲禰は見ていた。
「マスター二人…?」
「マスターって呼ぶなって言っただろ」
「ごめんなさい」
しゅんとする大男に驚いたままの宗佑君に琲禰を紹介する。
「あー、こちら新納琲禰くん。クラスメイト」
琲禰はなにも言わず突っ立ているだけ。
「こら!挨拶くらいしろ!!」
「新納琲禰。真莉亜さんの犬です」
「誤解を生む表現やめろ!!!」
ええい、ややこしい。
「コホン。こちらわたしの弟、宗佑です。これからも顔を合わすことになるから、しっかり覚えるんだ」
「はい」
ドン引きしたままの宗佑君は、きっと私のことを変態だと思っているであろう。
「宗佑君」
「…なに。え、なんかのプレイに巻き込まれてるの、俺」
「違うから!琲禰がきっと探してくれる」
「なにを根拠に?」
「琲禰が新納だから」
「はぁ?」
まぁ、わたしも新納の力を過信しすぎてる節はあるけれど。
「琲禰。わたしの役に立ってくれるかい」
「もちろんです、真莉亜さん」
そう言うと琲禰は頭を垂れて、その場で膝をついた。
「わたしが…1週間より以前のわたしがどんな行動をしていたか調べてくれ」
「はい」
「できるか?」
「もちろんです。貴女の役に立つためならば、なんでもします」
あなたの期待に応えて見せます。
そう言うと、琲禰はわたしの足を取り、そっとつま先にキスを落とした。
「ええええ…ちょっと…いくら真莉亜でもそんなことしないから…」
「いや、わたしもこんな趣味ないから!」
何はともあれ、時間はかかるけれども琲禰が調べてくれることとなった。これで少しは前進できたかな?




