第十四話
「ふぅ。どうしたものか」
部屋に戻り、真莉亜ちゃんのピアノがどれほどうまいのかを調べてみた。意外や意外、数々のコンクールで入賞を果たしていることが分かった。ただ、突出してうまいわけではなく、海外のコンクールでは無名に近い。国内ではそれなりの成績を残しているようだが、これで〇×大学に行けるのであろうか?いや、おそらく無理だ。この程度の実力では、3名の枠に滑り込むことはできないだろう。なにより素行がよくないし、成績も悪い。そうなれば、私の実力というか勉学で別に大学を受けるほうがよいだろう。頭は私だが、体は真莉亜ちゃんのままだ。きっと私がやりたい、できると思ったことでも彼女には向ていないことであるかもしれない。この際、私のやりたいことに重点は起きつつ、私にはできない向いていないと思ったことを逆に模索してみたほうがいいのかもしれない。
「しかし、彼女のことがわからん」
彼女の得手不得手はわからない。友達はいないし、幼馴染も切り捨てたため過去を知る人がいない。両親に聞くのも憚られる。
「そういえば…」
日記に“しゅうすけ”という名前があったな…。千鶴君とは違ってあまり話題には出てこなかったけれど、遺書の中には名前が出てきていた。それなりに親しい中だったのかもしれない。
真莉亜ちゃんのスマホをなんとか操作し、名前を検索する。
「しゅうすけ、しゅうすけ…あった」
宗佑、という文字の後ろにはキラキラマークの絵文字が入っている。きっと仲が悪いわけではないだろう。(千鶴君の名前にはちづる(怒りマーク)だったから。)
「連絡するか」
SNSを開いて彼のトークを探す。人のプライベートを除いているようで少しドギマギする。
「え、意外…」
真莉亜ちゃんは彼との連絡はかなり穏やかに、しかも定期的に取っていたようだ。
「ええと、いつもの言い方は…っと」
ごきげんよう。しゅうすけ、お変わりなくって?
えらい堅苦しい文面。慣れるまで時間かかりそ。いやいや、私になったんだから徐々に口調を変えていけばいいか。
アラサーがワタワタしながら5分ほどかけて売ったにもかかわらず、すぐに既読のアイコンが付き返信が来た。
『変わりないよ。まりあはどう?元気?』
ポンポンと子気味のいい音を立てて次々と文字が浮かび上がってくる。
「ええっと、す、こ、し…げ、ん、き、が…」
喋りながらじゃないと打てないってところが年を感じる。こういうところも直さないとな。真莉亜ちゃんの美貌が活かせなくなるし。
『元気ないの?今週末予定ある?』
『ないよ。どうして?』
『うちに帰ってきなよ』
ってことは。
「宗佑君は弟か」
なんてできた弟なんだ。真莉亜ちゃんと違って優しそうだし、頭がよさそうだ。
いや、しかし。まだご家族に会うのは無理だ。
『ううん、それはちょっと…』
『どうして?父さんも母さんも会いたがってるよ?』
『もうすぐ夏休みだし、その時にたくさん会えるわ。今は帰る元気もないの』
『それなら、俺が行くよ』
『え?』
『学園から出て、気分転換しようよ。俺、帰国するから』
「帰国って…」
宗佑君日本にいないの?留学中なの?
『わざわざ帰国しなくても大丈夫だよ』
『心配だから。大丈夫。もうリチャードに金曜、飛行機飛ばしてくれるようお願いしたから』
お願いしたからって…もしやプライベートジェット?!
「ひぇ~…さすが金持ちだ…」
それよりもだ。弟君にバレないだろうか?真莉亜ちゃんと幼少期を過ごしてきた彼はこんなにも変わってしまった真莉亜ちゃんを不審に思うだろう。
「いやでも、中身が変わってるなんて思わないよな」
私でも思わない。人が変わった?!と思っても入れ替わったなんて考えるはずもない。
ただ、こんなにも心に引っかかるのは…真莉亜ちゃんを心の底から心配してくれているであろう弟に対して、私は偽物であるということだ。真莉亜ちゃんの皮をかぶった別人。本気で心配してくれているのに申し訳なさでいっぱいだ。
「とりあえず、土曜日は宗佑君と会うことにして、琲禰とは日曜日に会うか」
琲禰に連絡を入れると、間髪を入れずに返信がきて非常にびっくりした。
きっと彼は携帯を片時も離さず、私からの連絡を待っていたのであろう。
「なんともいじらしい忠犬だこと…」
私は携帯の電源を落とし、今日一日で疲れた頭と体を休めることにした。




