表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/22

第十三話

何年振りでしょうか…。

また細々と再開、していけたら、な…なんて。

 いやいや、落ち着け。落ち着くんだ私。NIRに入りたいと思っているが、まずは地に足をつけてから就職を考えるんだ。そもそも、真莉亜ちゃんの内申がいい訳ないから、まず新卒で入るのはほぼ無理だろう。真莉亜ちゃんが望んでいる○×大学にとりあえず入って、経験を積んでからそちらに移行も悪くない。音楽センスはあるようだし、ピアノで名を轟かせてNIRとコラボという手もある。

「就職にこだわる必要はないか…」

 犬は黙りこくって考え始めたわたしを不思議そうに見つめてくる。

 問題はこいつか。

「犬、お前は将来どうするつもりなんだ?」

「将来…?マスターと、一緒に、いるよ…?」

「そうじゃない。進学や就職だ」

「??俺、マスターが、いるところに、行く」

「…四六時中一緒にいるのか?」

「はい」

 出会いがなくなるじゃねーか、それ。

「私はお前に自分のことも考えて欲しい。そうある犬でいてほしいんだ」

「ど、ゆこと…?」

「わたしのそばにいていい。いることを許可したが、なにも考えない、働かない犬はいらないということだよ」

 君も自分の人生だ。少しは新納の血に縛られずに過ごしてほしいものだ。

「稼げばいい…?役に立てば、マスターと、一緒に、いれる?」

「あー、まぁ、そういうことだ」

 役に立てと言っているわけではないが、彼が主体的に動いてくれるならそれでいい。

「さて、犬。うーん、犬ではダメだな。人格を問われる」

「マスター、犬で、いいよ」

「いやダメだ。マスターも、ダメだ」

 犬はしょげたように肩をすくめる。

「琲禰、と呼ぶ。お前はわたしのことを…」

 うーん、なんて呼ぶ?真莉亜?真莉亜って呼ばれるのはなぁ…なんか嫌だな。金城さんも変だし…。真莉亜さまとか言い出したら、前のイメージのままだし…。ええい、仕方ない。

「真莉亜さんって呼びなさい」

「はい、真莉亜、さん」

 なんだか、背筋がゾワゾワするが仕方がない。

「あと、そのどもりながら喋るのやめろ」

「はい、マスター」

「違う」

 ゴスと脛を蹴ると、すかさず彼は訂正した。

「まぁいい。慣れろ。あと、極力学校では話しかけてくるな。わたしはわたしの生活がある。お前はお前で生活しろ」

「いつ、会えば…?」

「はぁ?」

 琲禰はウルウルとした瞳でこちらをじっと見つめていた。

「新納の、男は、主と一定期間、会えないと…壊れます…」

 はぁー。なんてややこしい血なんだ。だからか、夫婦が多いのは。男を主人にしたら、お嫁さんが大変だ。訳の分からん男が自分の夫を主と慕って頻繁に会うなんて。いや、会社の部下とか側近、秘書にしたら頻繁に会えてるし問題ないのか。

「うーん、そうだな。1週間に一度、外に行くときについてこい」

「街へ…?」

「そうだ。街の様子を知りたい。ここは特殊な空間だからな。ここが普通にならないようにしたいんだ」

「わかりました。毎週末、街へ共に…」

「時間や日付は前日までに連絡するようにする。あ、連絡先教えてくれるか」

「はい、真莉亜さん」

 琲禰は真新しい携帯をスッと胸ポケットから取り出した。

「? やけに新しいな?」

「はい。昨日買いました」

「持ってなかったのか?」

「いえ、真莉亜さん専用です」

 絶句。真莉亜ちゃんのストーカーっぷりが可愛く思えてくるほどの気持ち悪さだな、これは。

「…まぁ、なんでもいいけど、わたしがマスターだということは伏せろ」

「はい、マスター」

「マスター言うな。ところで、知っているのは誰だ?」

「新納の、この血の定めを知っているものだけです。ばあ様や母さま、父さまなど近しいものばかりです」

「そうか、仕方ないな」

 尚更、NIRに入りづらくなってしまったものだ。

「じゃあ琲禰。私は戻る。騒ぎは起こすなよ。連絡するまで待て、だ」

「はい、真莉亜さん。待ってます。ずっと」

 本当に連絡が来るまで永遠に待っていそうな雰囲気がある。

「真莉亜さん」

「ん、なんだ?」

 立ち上がって立ち去ろうとする私に、琲禰は声をかけた。

「あなたの証が欲しい」

「は?」

 俺が貴女の犬である証、貴女と一生一緒だという証が欲しい。

 彼の目は真剣そのものだった。

「そう、だな…」

 なにが一番証として相応しいのだろうか。

「次、会う時までに用意しておく。待ってろ」

 そういうと琲禰は今まで見たことのないようなほどの笑顔を見せ、頷いた。

  ・

  ・

  ・

 教室に戻ると案の定、みんなが一斉にこちらを見た。廊下に並んだ生徒たちが口々に噂を話し合う。話題に事欠かない真莉亜ちゃんだよ、本当。

 廊下を一歩一歩進んでいく。進むにつれ、生徒たちは口を閉じ、わたしの一挙一動に目を凝らしていた。

「あら、いやだ」

 私の一言に、生徒たちが息を飲む。

「みなさん、授業はどうされましたの?」

 もう始まりますわ?

 にっこり、と悪意のない笑みを見せると、生徒たちはバツ悪そうに顔を見合わせ、そそくさと自分たちの教室は帰っていった。

 自分の教室に戻るが、教室内も同じような目を向けられ、静まり返っていた。

 みんな興味津々だねぇ。私の何が気になるのだろうか。

「みなさん、次の授業はなにかしら?」

 笑顔を見せ、教室をぐるりと見回す。誰一人目を合わそうとはせず、慌てた様子で日常を繰り広げていた。

 弱い奴ら。集団でないと、なにもできないのだから。

 ニコニコと愛想を振りまきながら、自分の席へ向かう。

 あぁ、私もなんともない日常を過ごしてみたいとのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ