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第十一話

 ――新納は、女しか生まれぬ一族であった。女しか生まれぬゆえ、婿を入れ、細々と一族は続いてきた。

 ある時代に、新納に男が生まれた。待望の男児である。しかし、その男児は同じ一族の女を異様に慕い、その者の下に就くことを強く願った。一族は女を隔離し、男を長にしようとしたが、男がその女を解放し、さらには長にしなければ、自分は自害するといい、長にすることは叶わなかった。

 しかし、男が言うとおりその女を長にした瞬間、新納の一族に今までにないほどの繁栄が訪れた。それ以降、新納に男が生まれる度、その男は主を欲しがった。与えられる主でなく、自ら主を見つけ出し仕える度、その者に繁栄をもたらしていった。伴侶としての女だけでなく相棒として男も主とし、新納の男たちは繁栄を陰ながら支えてきた。

 金持ちの間に噂が広がり、新納に男が生まれて瞬間、我が物にしようとするものが増え、誘拐が増えた。新納に無理矢理仕えさせようとするが、新納の男が望まぬまま主ができると、新納の男はあっという間に命を落とし、仮初めの主だけでなくその周りの一族すべてを破滅へと追いやっていった。

 新納の男は、生まれたときから自分だけの主を見つけることだけに執着をし、主を見つけることを最大の幸せとする。見つけなかったものはいない。見つけれないものはいた。その者は気が狂い、死んでいった。新納の男は、血には逆らえない。――


「そう、教えられ、ました…」

 現代社会において、疑問を持たざるを得ないような話をされた。しかし、彼の目は本当である。また、本気である。そして、例えばと新納の男が主として仕えていった人の名をあげていったが、その名は現在にまで続く大企業や政権を牛耳ってきたような人たちの名前であった。

「俺たちは、主の、ために、主が、喜ぶままに、生きる…」

 犬の顔を見ていた私は、決心をするしかないようだった。

「お前はっ…」

 喉が絞まるよな感覚がした。しかし、首を振り、自分の頬を少し叩いた。

「お前は、私がマスターでいいのか」

 声が少し震えた。

「はい、マスター」

 即答か。

 少し苦笑する。

「お前も相当憐れだな」

 新納の顔を下から見上げ、グリーンの目をじっと見つめる。グリーンの目はとても澄んでいて、なにも知らないようなほど純粋な目だった。きっと彼は、主だけを求め、実際なにも知らないのだろう。

「そんなこと、ないです…マスターに、会えた、から…」

 おどおどと言葉を紡ぐ。そして、一人照れていた。

「だからこそ、憐れなんだ」

 敷かれたレールを自分の力で壊せる橘くんと違い、血に逆らえない新納の男である犬。

「本当に憐れだ」

 そしてそれが運命だと思ってしまえるお前の血が、意志が、お前をお前でなくしていることに気付かないのだから。

「ついて来い犬」

 私はお前を愛そう。憐れみをもって愛そう。

「マスター…!」

「ついてくるということは、死ぬまでお前は私のものだ。逆らうことは許さない。いいか」

「マスター…!」

 犬は何度も何度と首を縦に振る。泣いているのか、グリーンの目がキラキラと反射していた。

「愛しているぞ、犬」

「ますたぁー…」

 うっとりした顔をし、足をガクガクと震わせ、立っていられなくなった犬は膝をついた。

「私は、傲慢な人間だ」

 うっとりとしたままの犬は、はぁはぁと息を荒くしながら、私の足元に顔を近づけていく。

「お前が逆らえないことを知っていて利用しているんだ」

「ますたぁー…ますたぁー」

 はぁはぁとした息遣いが足に辺り、犬の興奮を直に感じた。恐らく犬には、もう言葉は届いていない。

「だからこそ、お前が幸せを感じれるように」

 私が選ばれたマスターとして、お前を愛そう。

「ますたぁ…」

 ぴちゃぴちゃと音がなるほど、私の靴を舐め回している犬の髪の毛を掴み、顔を無理矢理あげさせる。

「いっ…」

「いいか、よく聞け」

「はいっ…、ん、ぁ、ますたぁ…」

 頬を紅潮させ、息荒く、目を潤ませている。どうやら、下半身も反応しているようだ。

「この駄犬め」

「ご、ごめんな、さいっ…ぁっ…」

「一生離れるなよ」

 ギリリと髪をつかむ手を強くすると痛みだけでなく、快感に顔を歪ませていた。

「も、ちろ、んっ…ん、」

「愛しているぞ、琲禰」

「ああっ…!ますたぁ…!!」

 大きく体を震わせ、琲禰は高みに上り詰めた。

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