ガラスの仮面
登場する人物名は、全て架空の人物です。
−−−−−−−−−−−−一緒だよ。
ずっと
3月9日 優、祥子
−−−−−−−−−−−−学校の校舎に刻まれた文字、これは二人の未来、二人の夢である。
キーンコーンカーンコーン。
終業のチャイムが鳴る。
クラスの中はざわめきが残るまま、帰宅の用意をする学生が大半だ。
その中に、マイペースにしている二人、速水優と金谷祥子がいた。
速水優は、成績優秀、運動神経良しの誰からも好かれる人物だった。
そして、その優よりも、抜きんでた才能を持つ、金谷祥子は、いつもマイペースに行動していた。終業と同時に、予習を始めたかと思えば、ものの3分で読書をするといった、どこか天然を思わせるような人物だった。
そして今日も、予習をしたかと思えば、鞄をあさり、パンを食べ始めたのだ。周りから見たら、帰ってからご飯を食べれば良いのにと思われるような行動だ。
「祥子、今日も行くんだろ?いつもの喫茶店に」
そして、話し掛けてきたのは、速水優だった。
「うん!もちろん!あそこのカフェオレ大好きだもん」
この二人は、放課後になると、いつも喫茶店に寄っていたのだ。
「よし、じゃ行くぞ。」
そして、他愛無い話をしながら喫茶店に向かう途中、偶然ネコが通りかかった。
「あっ、ネコ!可愛いなぁ、私もネコみたいってよく言われるし、前世はネコだったのかなぁ。」
「まぁ、マイペースな部分はネコだったんじゃないか?」
「でも、ネコってマイペースって言われてるけど、ネコのペースと人間のペースって比べられないと思う。」
「まぁ、そりゃあな。あ、着いたぞ。」
珈琲の香が漂ってくることに気付くと、二人は足早に喫茶店へと向かった。
「こんにちは〜。」
「いらっしゃ…
なんだお前たちか。お客様かと思ったぜ」
「俺たちだって一応客だよ。」
「あー、いつもので良いのか?」
「うん!カフェオレとコーヒーね!」
「はいよ、ちょっと待っててな。」
常連客となっていた、優と祥子は、カウンター席に座り、マスターの作業を見ていた。
「ふぅ〜。やっぱりここが一番落ち着くなぁ。」
「優もそう思う?私も落ち着くなって思うんだ〜。」
珈琲豆の芳醇な香りがする所は、二人にとって落ち着く場所になっていたのである。
「そういえば祥子に相談したいことあるんだけど、聞いてくれる?」
「ん?なになに?恋バナってヤツ?」
「…。祥子にだけは恋の相談しないよ。。。だって、いつも俺のタイプじゃないやつ紹介するしさ。就職をどうするかって相談だよ。」
「なぁんだ。つまんないの。でも、優の就職って内定取れたんでしょ?」
「まぁね。でも、正直俺がやっていけるかどうか、不安なんだ。」
「不安っていっても、優が就職したいって決めた所に決まったんでしょ?何が不安なの?」
「あぁ、自分が本当にやりたいことって別にあったんじゃないか、仮に内定取れたとこがやりたいことだったとしても、自分を作ってしまってるから、そのままいったら、本当の自分を見失うんじゃないかって思うんだ。」
「ふむふむ、要するに、自分のやりたいことがはっきりしてないんだね。でもさ、やる前から分かんないでしょ?本当にやりたいのか、やりたくないのかなんて事は、実際に働いてから考えることじゃない?」
その時、マスターがカウンター席に座る二人の前に、いつものカフェオレとコーヒーを置いた。
「なんだ?仕事の悩みか?」
「そうなの。内定取れたとこがやりたいことかどうか不安なんだって。」
「ふん、やる前から何弱気になってるんだか。やるんならやれ。やりたくないなら、やりたいことを考えろ。俺に言えるのはそれくらいだ。」
そう言い残して、マスターは洗い残した食器を洗いに奥に行ったのだった。
「そうそう、マスターの言う通りだよ。」
「まぁそうだな。やる前から判断しても仕方ないもんな。やってみてからどうなるか考えることにするよ、ありがとう。祥子、マスター。」
「どういたしまして、それに、約束したじゃない。。。」
消え入りそうな声で祥子は俯きながらそう言った。
「ん?どうした?」
「ううん、美味しいなって、このカフェオレ。」
「あぁ、いつもと変わらない味だけど、それがすごいんだよな。」
「うん。冷めてても美味しい〜」
「あぁ。
って、結構長居しちゃったな。相談も出来たし、そろそろ帰ろうか。」
「ん、そうだね。じゃマスター、お会計お願いしま〜す。」
「おぉ、もう帰るのか、どうせ明日も来るんだろ?今日はサービスだ、百円にしてやるよ。」
「えっ、良いのマスター?」
「常連客だからな。たまには良いだろ?」
「やったぁ、どうせだから甘えちゃおうよ、ね?」
「そうだな。ありがとう、マスター!」
二人は、マスターにお礼を言って、店の外に出た。
外は日が沈み、夜の風と共に、闇が迫ってきていた。
「そろそろ暗くなってきたなぁ、今日は遅いから送るよ。」
「ありがとう。今日は寄りたい所あるんだけど、いい?」
「あぁ、行くよ。」
そして、了解を得た祥子は、待ちきれなかったのか、駅の方へ歩きだしていた。それを追うように、優も後からついていった。
電車に乗り込んだ二人は、喫茶店での余韻を思い出しつつ、目的の駅に向かっていた。
「何を見ても驚かない?」
「まぁ、大抵のものならな。」
その事を確認すると、安心したような笑みを浮かべ、それからは一言も発しなかった。
目的の駅の手前で、祥子は立ち上がり、優を促した。
「そろそろよ。」
「え?ここは…。」
駅に到着した電車は、二人だけを降ろし、また次の駅に向かった。
「そう、今日はここに来たかったの。覚えてる?」
「あ、えっと…。約束が…。」
「そう、約束よ。ここは私達の約束の場所よ」
そこは、学校。
二人が通っていた、高等学校だった。
その校舎の二人だけの秘密、そして、そこに刻まれた文字、刻まれた未来を。
「…そうだ。。。ここは俺たちの約束の場所−−。」
「そうよ、優が言いだしたのよ?二人でここに未来を、夢を刻もうって。思い出した?」
そう、そこに刻まれていた文字、それは、二人が描いた未来、夢だったのだ。
「あぁ、全てを思い出したよ。何で俺は忘れてたんだ。」
「忘れていたんじゃないわ。ただ私がそうさせただけ。高校までは、優の方が成績良かったのよ?それが、今は、私の方が成績は上。それで、優は勉強をしたのよ。大事な約束を忘れるくらい必死になってね」
「あぁ、そうだ。俺は祥子より成績が上だった。だけど、高校卒業の日に俺たちは−−。」
「そうよ、名前と性別、姿形全てを交換したのよ。」
「そして、その期限が、今日、3月9日って訳だ。」
「…。私たちは、四年間お互いにお互いを知った。」
「体を交換してまでな。」
「だけど、それも、今日の七時でおしまい。全て元通りよ。」
「あぁ、分かっている、あと1分だな。」
「えぇ。今までありがとう。そして、さようなら。四年間楽しかったわ。」
「そうだな。そろそろだ。ありがとう。俺も楽しかったよ。」
キーンコーンカーンコーン
不意にチャイムが鳴った。
二人は、二人だけの秘密を四年間、この場所に刻むことで未来を、生きていた。そして、二人は、刻まれていた文字−−−。未来になっていた。
−−−−−−−−−−−−いつまでも一緒だよ。
ずっと気持ちは変わらないよ。
大好きです。
3月9日 優、祥子 −−−−−−−−−−−−